昨年の11月頃だったか、急転直下で娘の日本移住が決定された時のこと
受け入れ先の姉から調べてもらったところ、日本の学校システムでは日本人親に親権がない場合は学校側からある種の線引きがなされるという話だった。
なんの線引きかというと、その子供に与えられるのは正式な入学許可というよりも、ある意味お客さん扱いになるというのだ。
日本人は日本人にちがいない。
いったい何の話か理解できずに考えあぐねるに、数年前に日本国が加盟したという「ハーグ条約」が頭をよぎった。
姉の説明ではそのまま通学は可能、しかし何かイベントや不都合があるたびに普通の生徒と同等のサービスは受けられないというので、やはり「在日外国人」という扱いになってしまうのだろうと理解した。
思い返せば7年前、子供の親権がなければタイ国での事業継続もままならぬといわれて、つまり子供とは事実上のお別れになると脅されて、仕方なく親権裁判を行うべく県庁から紹介してもらったのが通称ダムダム弁護士である。
その時は意味も解らずに息子1人分の親権を授与されて、またタイ国での在住権利と事業継続の権利を与えられ今に至るのである。
私の担当窓口がダムダム弁護士ということで、彼の自撮りばかり並ぶFBのページから電話番号を探しだし、いやいやながら連絡を入れた。
7年前に担当してもらったのは親権のみだ。
なぜなら元嫁サイドの謀略により、財産に関しては明らかにされず行われた裁判である。
それを確かめもせずに親権裁判だけを行ったダムダム弁護士には恨みこそあれ感謝の気持ちなどあるはずがない。
彼のヌケた姿勢のおかげで、その後に銀行預金がスッカラカン寸前になるという窮地に陥ったのであり、(自分の無知さ加減はさて置き)私の中ではダメダメ弁護士という位置付けになっていた。
まず近くの珈琲店で待ち合わせをして、娘の日本移住は母親の意向でもあることを説明した。
なによりも双方の合意により親権移動を行なう旨を強調して伝えた。
すると彼はデポジットとしてまず5千バーツ要求、書類を作成後に追加5千バーツ、出来上がりの日に5千バーツ、合計1.5万バーツの手数料で受け持つという。
何か問題が勃発した場合は、別途2万5千バーツを要求するという条件を付けくわえて提示された。
何か問題がだって?
元嫁の希望により日本国へ送り込むのだし「問題など起こりようがあるのか?」
そう思うが、タイ国では火のない処から火事になる事も多く、油断は禁物だと気を引き締めた。
「今、払うんですよ」そう付き添いのLHからデポジットを促されて、何とも腑に落ちない気持ちはあったが5千バーツを彼に手渡すと、隣で子供と遊んでいる奥さんにホレと無造作に投げ渡した。
「領収は手元にないので後で持って行きます」と言い放って、「ジャっ!」と手を上げて、そそくさと帰って行くし、あの深く考えない適当さは以前のままのようだ。
それからダムダム弁護士からの連絡はなく、もちろん領収書も送られてこない。
娘のフライト12月24日が近づきつつあるし、どうやら親権手続きが来年に切れ込みそうだと思い、姉の方から日本の役所や学校へと相談してもらったところ、それならばと次の書類を用意するように命令が下った。
書類とは親権移動を了承する母親の意思表示、つまり「念書」だ。
それも「母親のサインは日本の戸籍謄本に記載されてあるカタカナで」と命令されたそうで、それには面食らって仰け反った。
「まったくバカなこと言うな!、日本の役所は~・・・」そう口に出してみるが、娘のためには無視するわけにもいかず、おバカな伝書鳩を演じて母親にお願いするしかない。
予想どおり母親の反応は「カタカナなんて書けないよ!」と、ケンモホロロに一蹴されて、仕方なくタイ語でのサインと住所表記のみを書いてもらい、カタカナは息子から書いてもらう事にした。
そうこうするうちにダムダム弁護士から出頭日の決定が知らされて、同時に手数料追加5千バーツの請求が来た。
前回の領収書はまだ手渡されていないが、今回も無し。
これも地域の慣習ってやつだろうか、何が何の費用かも明らかにされることは稀、妙に切りの良い数字で請求するのが普通
自分の売り上げは税務申告したくないのだろと解釈した。
そして、どうやら両親が揃って書類にサインしさえすればOKっていう、親権移動はそんな簡単なもんではない事を知った。
そういうことで、久しぶりに行ってきました家庭裁判所
学校を早退させて二人の子供を連れてきた7年前の空気が甦る
二人の子は、わけも分からず広々とした中を走り回って遊んでいた
駐車場からは階段を上らないといけない造り
一階にある入り口は、お城勤め(侍)の人のみ通行可能w
農民や工人や商人は徒歩で階段を登るのか、或いはココまで馬車や牛車や自動車で登るのか
それでも、更に階段を登らねばならない仕組みww
侍のお城もそうだって?
中はガラーンと吹き抜け、上階の左右に大小の裁判室があります
彼がダムダム弁護士だ!
南方の出身だそうで、ダムダム(黒黒)ポリネシア系の容姿
待ち合わせ時間は9時だったが、順調にタイ人たちは30分遅刻
それから11時半まで待たされるのだが、その間は話し相手が元嫁しかいなくて往生する
トイレついでに辺りをぶらぶらしていると、一番奥の部屋でダムダム弁護士が誰かと話しているのが目に入った。
入り口には三人の警察がガードしていて写真も撮れない雰囲気、そこが重要人物の部屋であるのは明確だった。
遠目に眺めていると、大きなデスクに座る重要人物らしき男がふんぞり返って身振り手振り、一方的に話している。
手前の椅子に座るダムダム弁護士といえば、相槌打ってはペコペコ頷いているだけ、まるで説教を浴びているように見えた。
その状態が約45分程続いていたと思うが、ずっと見ているわけにもいかず、元嫁と不毛会話などして時間をつぶした。
元嫁とは子供の未来について少し前向きな話ができたのは進展だったが、だんだん商売や金の話に置き換わってくるのはお約束、それでも喧嘩するよりはマシだと思って話に付き合った。
「アナタ、コージョーの場所(仕事場不動産)、値段は上がったの?」などと禁断の話題に触れてきた。
おっと、いきなりど真ん中のストライクか?とは思うが、こちらは心を殺すのみ
「いや~、税金が同じ金額だから現状維持だと思うよ」なんていって、差し障りのない返答に始終した。
すると元嫁、待ってましたとばかりに話を継いでゆく
「私のバショ―(農地16ライ)だけど…」
{私の場所だと!!?(; ・`д・´)コノヤロー・・}と思うが、怒りは禁物だ
「今では3千5百万バーツに値上げだよ~♪、でも売らないよ、まだ上がるヨ♪」
そういって満身の笑顔を私に向け、そして眉毛をヒョイと上げた。
{サンゼンゴヒャクマン? (ノД`)・゜・。}おっと、感情の動きを覚られないように
この微笑みは、私の感情を刺激して真実を聞き出そうとしてる時のものに他ならない
その値段がホントかどうか話半分だが、本当ならば約3倍近く値上げしたことになる
チェンマイ新空港がサンカンペン地区へ移動すると決定されてからは近隣不動産が爆上げなんてニュースもあるし、あながち根拠がないわけではない、そんな事を考えながら
「そうなの?、そりゃ良かったね~、もう働かなくていいんじゃない?」などと答えて見ると
それが意外な反応だったのか、「んん?」と不可解な表情の元嫁
「でも、死んじゃうともったいなから長生きしないとね」そう笑顔で言葉を継いでみた
それで勝利を確信したのか、満足そうな表情になった元嫁は「はははは~…」と高らかに笑った。
「どう。ワタシの先見性、スゴイ?、何か文句があるのなら言ってみなさい? 法律的には勝負がついているのよ」
高笑いがそう告げているように聞こえた。
ま、子供を売って金銭を稼ぐなんて話はタイ国では普通に浸透するビジネスだ。
実際に子供を売るわけでもなし、後で取り返すことだって可能なわけで、全方位的にか人生で勝利したと考えていても不思議ではない
私にとって彼女の生き様や発想なんてのは、どこまでも真実のない行き止まり。
全ての接触が虚偽だからして 今回の私もバカを演じるのみである。
「こいつ やっぱりバカだな」そう思わせて、安心させておくのが最善策だ。
反吐が出るような時間を過ごし、ひたすら時間が過ぎる事だけを願った。
だが3千5百万バーツなんて数字が耳に入っても、大して自分の心が波立つこともなく、
それだけが少し嬉しかった。
今願うのは、娘の親権のみ、それだけでいい
これが法廷(裁判室)だ!!
7年前は西側の大きな部屋だったが、今回二人だけの裁判なので東側の小部屋
秘書官とダムダム弁護士と合わせて四人、裁判官の登場を待つ間に元嫁とフレンドリーな会話をして、ことさら笑い声を立てて秘書への印象を良くする事にした。
15分程待っていただろうか、裁判官が向かいの窓の光の中から颯爽と現れたかと思うと
「一同起立!!」という怒号、そう言われて一人だけ座っている程の根性はない。
「一同のモノ、オモテを上げい!!!」
そんな声が聞こえたような気がして、目線を上げると驚くことに
「き、金さん!!!」
ではなく、先程ダムダ弁護士に説教をかましていた人物が目の前にいるではないか
「どういうことだ?」
考える暇もなく、金さん様は弁護士と元嫁にチョコチョコと言葉をかけて、ものの2分で颯爽と去って行った。
これにて一件落着? 2時間半も待って2分で終わり?
「この書類にサインしてね」ダムダムから促されて一枚の書類にサインすると即解散
「これで終わりじゃないそうよ」そう言うや否や元嫁は振り返えもせずにスタスタと出て行った。
彼女とて日本国側の要求に従って裁判に臨んだわけで、でなければ私との同席など苦痛以外の何ものでもなかろう。
それにしても裁判の事前に弁護士と裁判官とがミーティングするとは
7年前の親権裁判でも落しどころを先に設定してから裁判しているように感じていたが
やはり予定調和って事なのだろうか… 外国人フゼイが抗えるはずもなし。
後日、電話連絡によりダムダム弁護士から手数料1万バーツの値上げ要求がされた。
後出しジャンケンもいい加減にしろと思い、連絡取次のLHに向かって「10バーツの水を注文して、飲んだ途端に20バーツを要求する商売がどこにある?」と愚痴をこぼしてしまう。
もし左衛門の尉様辺りから「余への貢物がないではないか?」と言われたのならば、それに従うのがマイルド封建社会に生きる身分の低い庶民の役処かもしれず
なにせ、明治維新や占領軍統治というパラダイムシフトを経験することなく現代にいたる国家
あらゆる局面で昔の風習と直面し、戸惑い、自分のメモリーやCPUを最適化するのか、或いは拒絶するのかの判断を迫られるのであった。