日本からタイ国へ戻って一か月が経過した
16日間連続で新たな感染者ゼロ更新を続けているチェンマイ県とはいえ、渡航のために加入した2千万円保障の医療保険が終了してしまい、いささか不安な気持ちにはなっている。
もし感染してしまった場合、バンコクにある外国人向け総合病院で入院となると、軽傷であれば10万~20万バーツの治療費、ICUに入るほどの重症となると200万~400万バーツが必要になるという
(日本円にして(軽傷33万円~66万円、重症660万円~1330万円)
こうなったら意地でも感染しないよう気を付けるしかない。
昼ごろ、バイクで市内を走るとソーシャルディスタンスを無視した人の行列に出くわすのだが、何かと思えば無料食をもらうための配給行列だった。
かなり目が血走ってるというか、前後にピッタリとくっついて並んでいる。
隙間なしに並ぶ理由は割り込みする人間がいるからだろう、うちのLHは怖いから行きたくないと身震いした。
ちょうど一か月前には渡航禁止、それからほぼ鎖国状態となり、更に県境を越えての移動が禁止され、生活必需品以外の商売も禁止されてしまい、がんじがらめのタイ国民。
飲食業は持ち帰りかデリバリーのみ営業、それでも営業できるだけマシ
散髪やマッサージ、教育産業といった濃厚接触となりえる業種は軒並み閉鎖されていて、収入が途絶えてしまった人が多いという。
窃盗や置き引きといった犯罪ニュースが連日のように掲載され、中には絶望感から自殺したという痛ましいニュースもある。
うちのショボい商売に目を移せば、万年人材不足でヒーコラしているのだが
ここにきて追い風が吹いたように入社希望が相次いだ。
「そんな雇えないよ~」と嬉しい悲鳴が漏れるくらいに電話が鳴る。
これぞ災い転じて吉となす
やっとこさ幸運に恵まれたか?と浮足立つのであるが
問題は、仕事がなくて操業停止目前であること
セントラルフェスティバル内のフードデリバリー 上階は真っ暗
そんなとき、2月途中に忽然と失踪した元社員、Daaが現れた
知る限りでは最高の腕を持つ職人のDaa
将来的にはLHの片腕として事業の根幹を担う存在になるだろうと大いに期待したが、突然に消えてしまった後の落胆は激しかった。
そんなDaaであるが、了解も得ずにズンズンと事務室に入りこんでくるではないか。
山の民にありがちな訛りのあるタイ語でフニャフニャ訴えていて、その意味はわからないが了見は知っている
二月末で未払いのままである日当賃金の要求だろう
時計の針を戻して2月の後半、LHが血相変えて怒鳴り込んできた
何かと思えばDaaへの愚痴だ
「私の事を無視して、LLちゃんとしかミーティングしません!!」
「コミュニケーションが取れないと仕事に支障をきたします」
あっけにとられた私を尻目にDaaを呼びつけて、何やら恨み節のような話をギャーギャーまくし立てるLH
「Daaちゃん、Daaちゃん、LHの言ってること理解できる?」
「もし仕事で分かんないとこがあれば、遠慮なくLHに質問した方がいいよ」
「LHは悪い人ではないんだよ、ちゃんと答えてくれるよ」
そう訳のわからないまま説明して、不満顔の二人を元の配置に戻した。
その数日後にDaaは無断欠勤となり、そのまま消えてしまったのだった。
3月になり、日本へ飛んでタイへ戻ったと同時に14日間の外出自粛となったが
その時のこと、誰から聞いたのだろうか、なぜか私の電話番号を知っていたDaaから着信、一方的に「ふにゃふにゃ」しゃべりだして困った。
内容が聞き取れないので「まずLHと話してくれ」というしかない。
しかし何度も何度も電話してくるので、鬱陶しくてしかたがない
着信拒否しても別の電話でかけてくるし、そもそも礼儀なんていう教育は受けていないはずの山の民
教育は受けていないはずだが、電源を切っているとSメールで長文を送ってきたりするので驚いた
内容をネット翻訳してみたが、何やらポエムっぽいキモさを感じる
だんだん気持ち悪くなってLHに読ませてみた。
すると「きゃーーーーー!!」と大きな奇声を上げたLH
作業場に雪崩れ込んでいって、ギャーギャー向こうで盛り上がっていた
(文章はDaaの名誉のために非公開)
閉鎖中のセントラルエアポート内
時間を元に戻そう
つまりどう考えても今回の事務所襲撃は2月での未払い請求に他ならない
この一週間分の日当賃金は封筒に入れてキープしてあるが、その封筒を手渡すのに条件を付けていた
①まず直属の上司であるLHから手渡すこと
②その時に「お願いします」と「ゴメンナサイ」を言わせること
それをクリアーすようにLHに伝えてあった。
でなければ従来の秩序のない組織は継続となる。
唯でさえ人望のない上司、誰もがLHに対して遠慮せずに失礼の連発が可能
そんな従来の文化を変革するために新人を増やしたのである。
「LHなんか無視してもどーてこたない」という文化を新人たちへ継続させるわけにはいかないので、ここは無理してLHの持つ権力?を皆に知ら示す必要がある。
それにしても、職場には非接触型の体温計を買い与えて外来者全員に体温チェックするよう言い渡している。
体温が37.5度以内に限り、アルコールジェルで手を消毒してから入るように話してあるが、そんなの無視してガンガン入ってきたDaaを止めるものはいない。
当然事務所は狭いので濃厚接触となる
「おい、誰が入っていいといった?」
「外に出て、外に出て、はい外に出てちょうだい」とお願いするも
「フニャンふにゃ、フニャフニャ、フニャフニャ…」 私の注意なんて無視して、どんどん近づいてくるDaa
「おーーーーーい! LHさんよーーコッチ来てーーー!」
大声で呼びつけるが、誰もやってこない
5回ほど大声で呼びつけただろうか、やっとこさ現れたLHはメンドクサそうな態度で直ぐに消えた。
クソ!と思って、目と鼻の先ににある作業場へ行ってみると、誰もがデスクに噛り付いてコッチを見もしない
しょうがないから
「Daa----! コッチ来て、はい、LHにゴメンナサイを言いましょう」
すると目線鋭くLHを睨んだDaaは、なにやら喧嘩腰
「あんたが先に、どーたらこーたら」
「よく言うよ、あんたが先にどーたらこーたら」
同目線で応戦するLHと喧嘩が始まった
「またか…(~_~;)」
たかが4か月しか働いていない部下と口喧嘩だなんて…
恥ずかしながら日本国民にもマウントとりたがりで、全力で勝ちたがるミットもない人間がいるので笑えた義理ではないが、ここは会社なので上下がはっきりしているはず
言い合いに埒が明かないので、グルッと大回りで事務所へ逃げ込むことにした
事務所の鍵を閉めようとして、グイッと引いたところ
ドアが途中で動かなくなった
なんとDaaのブットい指が4本 反対側からハミ出しているではないか
「ひーーーーー!(;´Д`)」
こいつ!!と思って、ドアをぐいぐいやるが、そのつど指を挟んで痛いはずのDaaは絶対に指を外さない
本気で引っ張ってDaaの指を折るわけにもいかず、ちょいと目線を上にずらすと、
ドアで見え隠れするDaaの顔、その据えた目がこちらを凝視していた
「ひーーーーー!(;´Д`)」
「これ、マジや」
そう思った私は、観念してドアを開けるしかない
「なぜ私を拒絶する!…」 みたいな内容を訴えている
さっきからしきりに電話して誰かに報告しているが、山のグループを呼ばれて拉致されても厄介だと思った。
「LH!!!、LHHHHHHHHH~~!!」
クソっという表情で再登場したLHの顔は外を向いたまま
「ひとこと謝れば済むんだから、ね、ね、 謝りましょうよ」
すると、観念したのか「LHに謝るくらないならお金はいらない」
そう言って、Daaは去っていった
「ふー、なってこったい…すんごいプライドだなぁ…」
呆然と呟く私を見て、作業員の皆さんがゲラゲラ笑い始めた
何を笑ってんだコイツらと思って
「君たち、なんで僕を助けないの? 僕よりはタイ語が上手じゃないの?」
「ひとりでもいい、困っている僕を助けてくれてもいいんじゃない?」
そう言わねばならぬ情けなさ。
ニタニタ笑っているLHが一言 「ムガはサノーレーン」
サノーレーンって、なんや?
เสน่ห์แรง 直訳では「強い魅力」???
なんのスラングか良くわからないが
今回の場合、人物よりかは「マネー」に魅力があるのは確かで
つまり「歩くATM」だと言っているのだろう
コロナマンからATMマンへ進化www
→
しばらくして戻ってきたDaa
ピンクの封筒を握りしめて帰っていた
謝ってはいないが、面倒だから手渡したというLH
「はじめからそうやってればいいんだよ」とばかりに
してやったり顔だwww
そんな理由で私の電話番号を知らせたのだろうが
要すれば「自分の責任にされても困る」ということだろう
私からすれば、「LHの権力を新人に伝える」という目的を達成できたはずなので、
それで良しとしよう
福岡では幼い子供二人を人質にして、包丁を握って飲食店に立てこもった男がいるが、突然の解雇に腹を立てて犯行に及んだという
その犯人の目を見ると、ドアを掴むDaaと重なる
これから更に景気が落ち込むとなると、このような事件が多発するかもしれない
迂闊な態度に出るのは危険である