ノアの小窓から

日々の思いを祈りとともに語りたい

パリの思い出3

2014年09月13日 | 思い出




       北駅に降り立ったのは、ロンドンから列車に乗り、
       ドーバーを渡り、カレーでまた列車に乗り換えてやってきたからです。

       パリは中継点で5泊ほど逗留して、スイスへ、さらにスペインに入る予定でした。

       スイスとスペインでは「友達」に連絡できるはずでしたが、パリには知人はひとりもいません。

       そのこと自体はあまり心配していませんでした。異国の一人旅なんて、
       それだけで旅情をかき立てられる!というわけです。


                  ★★  ★★  ★★


       その時の日誌のノートがどうしても見つかりません。ですから、固有名詞が思い出せません。
       駅から10分ほどのところにある小さなホテルをどうして見つけたのかも、今となってはお答えできないのです。

       ホテルは悪くなかったのです。
       部屋は狭苦しくて小さな窓は開かなくて、明かりは暗くてまるで穴倉みたいだった。
       廊下も階段も狭くて、曲がりくねっていてどこにいくつくらいの部屋があるのか見当もつかない。
       大きな茶色い犬がいつも玄関の床に伏していて、ドアが開くたびにものすごい声で吠えていた・・・。
       フランス映画に出てくるような、ちょっと場末の雰囲気が面白い。

       
       マダムは、笑顔に陽気さがにじみ出ていて、まだ小粋なパリジェンヌだった面影を残している・・。
       歌うような響きのフランス語、気取った身のこなしで朝ごはんを出してくれる。、
       カフェ・オ・レとクロワッサン。

       こじんまりしたダイニングルームでは、
       フランス人らしい男性が二人ばかり、マダムとおしゃべりしている。
       かたわらのカバンをもって立ち上がり、
       さりげなくマダムの頬にキスする。
       「行って来るよ」「素敵な一日を!」くらいな言葉を交わしているらしい。常連客!?
       いいな、と思ったのです。


                  ★★  ★★  ★★

       

       ある朝、目の前を黒いストレートヘア女の子が横切った。
      「こんにちわ。はじめましてえ。今から出かけますが、またねえ」
       相手がだれであれ、日本人がいるとわかると、ちょっと胸に電燈が灯る。


        翌朝、朝食を食べていると、彼女が突然前の椅子に坐った。
       「あの、じつは、聞いていただきたいことがあるのです」
        最初に見た感じよりは年上だろうけれど、甘えるような風情が幼げだ。
       「ええ。なに?」
        私は、年上の女の余裕を見せたつもり。
       「あたしはね。こんなこと決していうような人ではないんです。あたしはね。人にお願いしたり、
        頼んだりするような人ではないんです」
        私は、ただうなずく。何を言わんとしているのかしらと思うけれど、笑っている。
       「私はね。いつもはぜったいに、、人から物を借りたり、いただいたりすることはないんです」
        うん。うん。
       「とっても言いにくいんですけど」
        もじもじとうつむいて、間を取って、
       「実は、お金を貸していただきたいのです。必ずお返しします」
        ギュッとこぶしを握りしめたかどうか、でも、私は当然警戒した。
       「○○円、いえ、○○円でも…、とにかく全然お金がないんです」
       「どういうこと?」

        あたしは友達と二人で最初イギリスに行って…、と身の上話が始まった。
        イギリスのどこかの町で白人の男性と知り合い、三人で旅行をしていたのだけれど、
        彼女の友人とその男性は、どこかへ消えてしまった。
        三人は次にパリに行く予定だったので、彼女は、はぐれたと思ってやってきたけれど、
        お金はないし、困っている・・・。
        「そんなことなら、すぐ帰国すればどう。連絡がとれないならしようがないじゃない」
         私は言った。
        「帰りのエアチケットもないんです。チケットを買うお金もない」
        「だったら、日本に電話して、親にお金を送ってもらいなさい」
        「親には内緒で来ているんです。電話なんかできません」
        「気の毒だと思うけど、私はこれから長い旅行をしなければならないの。お貸しするお金はないわ」
        「○○円でもいいです」
         まるで、チケット代に届かない額を言う。
        「ごめんなさいね。ほとんどトラベラーズチェックだし。家に電話して、送ってもらいなさい」
        「わかりました。もう、いいです」
         彼女は立ち上がって、出て行った。


         あぶない、あぶないと思った。
         あんな調子で、もし男性に頼めばどうなるのだろう。
         やっぱり貸してあげるべきだったかしら。

         それにしても、帰りのチケットも持たず、お金もなく、家族にも知らせず来るなんて、
         なんと無謀な・・・。でも、あの話、ほんとうかしら。

         それきり彼女を見かけなかったけれど、
         今ごろ、案外いいお母さんになっていて、娘と「この秋はパリに行こうか」なんて、話しているかも。







         


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4 コメント

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なんという・・・ (荒野人)
2014-09-14 17:41:28
勇気ある一人旅。
若さの所産、ですね。
そして、こうして語る事のできるまさこさんの財産ですね。
野人も一人旅しましたが、気心の知れた国ばかり。
危険を感じた国も在りますが、それは言わぬが花。

今では、楽しい記憶ばかりです。

一人旅
部屋の暗さの
秋深し

部屋の薄暗ささえ、ときめくのです。
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さとうまさこ様へ (小野田楽)
2014-09-14 23:33:26
パリのお話、興味深く拝読しています。
私はパリに行ったこともありませんが、拝読している
うちに、何となくシャンソンが聴きたくなりました。
と言ってもフランス語がまるで分からないため、
岩谷時子さんに訳して頂いたものでなくては
なりませんが・・・。

これまでさとうさんが綴ってこられた聖書エッセイの
数々、少しずつ拝読して、学ばせて頂くつもりです。
いたりませんが、信仰の友としても、
よろしくお願いいたします。
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荒野人さまへ (さとうまさこ)
2014-09-15 18:36:48
訪問して下さってありがとうございます。勇気があったのかどうか、すでにバックパック旅行をしている人はたくさんいてパイオニアでもなんでもないです。一人旅行はハプニングがいいですね。短い期間に予定通りスケジュールをこなすならツアーかも知れません。
その時期にしかできないことを試したのは、楽しい思い出です。さて、いまは?何をしましょう・・・です。
返信する
小野田楽さまへ (さとうまさこ)
2014-09-15 18:41:07
小野田さんはまだ、20歳そこそこなのですから、なんでもこれから体験できます。人生を楽しんでください。
ただ遊んだだけの旅行のようでしたが、キリスト教を知りたいと思った端緒だったような気がします。
私の聖書エッセイも読んで下さるとか。感謝です。
ともに聖書を読み、祈りあって行きましょう。

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