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騙し合い

2007-08-24 11:22:27 | インド旅行記
男の人一人がやっと入れるくらいの狭い入り口を通り、階段を5段のぼったつきあたり、壁が剥がれかかった小さな部屋に、わたしたちは通された。

えらく恰幅のいい、40前後の男。幅1mほどの小さな机の前に座っていた彼のにこやかな愛想笑いが、余計にわたしたちを不安にさせた。
肌の色は日本人に近く、この辺りのリクシャーワーラーを取り仕切る者だろうという直感が脳裏を走った。

連れてきた男は、二言三言ヒンディー語らしき言葉を交わすと、すぐに席を外した。


「さて・・・・・ね・・・。」

沈黙はすぐに破られた。こわばったわたしたちを前に、できるだけリラックスさせようとしているらしかったが、その笑顔にわたしたちはますます表情を固くした。

「君たちの、今日のプランは?」

ない、と言ったら最後、相手の思うつぼであることは明らかだった。


「・・・ニューデリー駅にいって、コンノートプレイスでショッピング。それから・・・」

「ツイてないな。8月15日はインドの独立記念日だ。三日前から店は全部閉まってる。遺跡も見たいんだろう?」


驚きを必死で隠し、わたしたちは沈黙を守った。


「・・・・・・遺跡だって、今日はほとんど見られない。どうするんだ?」

どうにかして、わたしたちの口から依頼の言葉を引き出したいようだった。
絶対、怪しい。まだ口調は穏やかだ、外に出よう。ホテルに戻ったほうが安全だ。


「・・・・・・ホテルに戻るよ。」

男の顔が僅かに曇った。


「・・・いや、いいプランがあるんだ。」

表情には、まだ余裕がみえた。

「いいかい、女二人旅で初めてのインド、危険だ。絶対、危ない目に遭う。」

もう、既に遭っている。

「・・・みんな、それで失敗するんだ。ガイドをつけて、車で移動するのがベストだ。まずここから一番近いジャマー・マスジットに向かう。ここなら開いてるし、わたしの顔が利く。それから・・・。」

まずは、ここをどう切り抜けるかだ。

「・・・だいたい、半日ちょっと、料金は・・・。」

・・・・・・冗談じゃない!!

「これだ。安い。グッドプライスだよ。」

「・・・・・・!!!」


熱くなりそうになったあたしを止めたのは、一緒にいた彼女だった。