置かれた場所で咲く

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最後の夜

2007-08-31 23:41:26 | インド旅行記
「・・・・・・わかった。」

彼は頷いた。今までにない、重い表情だった。
疲れた青いシャツは、ホテルの明かりに照らされて少し泣いているように見えた。


明日の約束も、自分たちで行きます、と断った。

また、無言で、彼は頷いた。


引き止めることはなかった。
わたしはきっと、彼を・・・傷つけてしまったんだ。



インドのどこよりも印象的で、大好きだった街、バラナスィー。

そんな街での最後の夜は、離れ離れになる恋人同士の甘い夜とはかけ離れた、暗示された別れを待つ二人のような、ココロ不安定な夜だった。

また逢いたい。そんな想いを、抱くことができるのだろうか・・・。
頭の中では、無意味な思考がとどまることなく駆け巡っていた。



告白

2007-08-31 22:24:57 | インド旅行記
「サー、さっきの話なんだけど。」

唐突に話を始めたわたしの表情に、おっちゃんは軽く驚いたようだった。


「日本ですごく有名で出回ってるガイドブックに、こんなことがかいてあるの。

“日本語の手紙を持つリクシャーワーラーには要注意。本当かどうかわからない。”って・・・。
わたしはあなたのことを信頼しているし、今日も一日とっても楽しかった。
わたしが手紙を書くことは簡単だけど、それであなたの信頼が失われるのは嫌だ。ガイドブックにはこう書いてあるって、多くの日本人は文字を信じるの。

だから・・・手紙は書けません。ごめんなさい。」



頭の中で必死で組み立てた文章を、苦手な言葉でゆっくり伝えた。

彼は、黙ったままだった。


友達が、少し補足してくれた。

ようやく、おっちゃんは重い口を開いた。



決心

2007-08-31 19:35:33 | インド旅行記
入ってきたのは、先刻説明をした若い男だった。

ヒンディー語で早くしろ、と促された女は、しぶしぶわたしを解放した。
次の客は、既に座っていた。夫婦らしい日本人二人だった。



ホテルに向かう途中、意を決して彼女に話をした。

彼に、手紙を書いてほしいとお願いされた。
おっちゃんに、書けない真意を伝えようと思う。


彼女は口数少なく、それでも受け入れてくれた。



ホテルに着き、明日は何時に・・・と話を切り出してきたおっちゃんに、わたしはゆっくりと向き合った。