PRESIDENT 2016年11月14日号 掲載
国の年金財政の状況を考えれば、定年退職後も、稼げる副業や仕事を持っていることが非常にに重要だ。目標は「月10万円」の副収入。60代、70代になっても働ける人はどこが違うのか。シニアの再就職に詳しい専門家が、そのポイントを教える――。■仕事が見つかる人、見つからない人の違い
定年になれば退職金も入るし、しばらくは妻と旅行したりゴルフをしたりして休もう。仕事のことはそれからだ――。そう思っている人もいるでしょう。しかしそれは大間違い。今の再就職事情を考えれば、職歴に空白をつくると「現役感がない」「社会と断絶している」と見なされて、「使いものにならない人」という烙印を押されてしまう。再就職先はまず見つかりません。
だからこそ、定年後の再就職のことは早めに考えておく必要があります。再就職の準備は、定年の10年以上前から始めておくといいでしょう。定年間際になって探し始めてもなかなか仕事は見つからないし、ましてや定年後のブランクがある人は、前述したように手遅れになってしまいます。
今どきの60代は皆さん、元気ですから、まだまだ働けます。私は73歳で年金をもらう身ですが、週3日は再就職支援の仕事をしていますし、それ以外にもテレビに出演したり、新聞や雑誌に頻繁にコメントを出したり、講演だってやっています。社会とつながっていたほうが元気でいられるし、稼いでいれば、孫に何か買ってあげていい顔ができるし、女房に粗大ゴミ扱いされることもありませんから。
定年後はどのくらい稼げばいいのか。年金生活者になれば、現役時代と同じペースであくせく働く必要はありません。サラリーマン生活を送ってきた人なら、夫婦で受け取れる年金額は約20万円。そこに月10万円の副収入が加わって、月に約30万円あれば、夫婦2人で余裕のある暮らしができます。
再就職を考えるにあたって、最初に、皆さんが持っている常識を変える必要があります。多くの人は、転職や再就職の際はハローワークや求人サイトの求人票で仕事を探すものだと思っています。
ところが定年後に安定した仕事に就く人のほとんどが、今いる会社からの誘いか、知人の紹介なのです。「〇〇さんには定年してもこの職場にいてほしい」と今の部下が上司にかけ合ってくれるか、他部署から「定年になったらうちの部署を手伝ってほしい」とお声がかかる。あるいは「辞めるなら、うちの会社に力を貸してほしい」と営業先や取引先から声がかかることで再就職先が決まっています。だから私はよく「自分の周りが求人票」だと言っているのです。
■「上司と飲むより部下や若い人たちと飲め」
実際、ハローワークや転職サイトには、65歳以上の募集はほとんどありません。そして、わずかな求人に多数の希望者が殺到している状況です。それを勝ち抜くのは、よほどの経歴の持ち主だけ。高倍率の無謀な戦いに挑むより、現役時代に周囲の信頼を得ていれば、すんなりと次の仕事が決まるというわけです。つまり、再就職は人脈が命。会社の看板を外して、個人として付き合える知人を今のうちからたくさんつくっておけば、定年後の仕事に困ることもないのです。
特に大事にしてほしいのは、若い人たちとの関係です。「上司と飲むより部下や若い人たちと飲め」と人にはよくアドバイスしています。上司なんて自分より先に会社を出ていきますから、皆さんの再就職の力にはなってくれない。ところが部下や若い人たちは、皆さんが定年になるころに会社で偉くなります。
ではどういう若者が将来出世するのか。皆さんの職場にも「小気味いい」のがいるでしょう。会話がハキハキ、行動がテキパキしていて、よく気が利く人。そういう若者が出世する。普段からそういう優秀な人の相談に乗ったり、困ったときに力を貸したりしておけば、定年になったときに「もうちょっとうちで頑張ってください」と言ってもらえるのです。
幸せな再就職をするための絶対条件4
(1)社内で部下や若い人と仲良くしておく
(2)取引先や営業先の人たちと関係づくりをする
(3)資格を取る。社会保険労務士、行政書士などがお勧め
(4)自分の特技をアピールできるようにしておく
■再就職に直結する資格は何か
再就職では資格も大事です。資格さえあれば仕事が決まるというわけではありませんが、高齢者の再就職での資格の有無は、現役時代より重視される傾向があります。これから何か資格を取りたいと思っている人に勧めたいのは、「中小企業診断士」「社会保険労務士」「行政書士」の3つ。これらは比較的取得しやすくて再就職に直結します。
中小企業診断士は、経営コンサルタントとして独立できますが、市役所などの公的機関で企業支援事業のアドバイザーとして働くこともできます。アドバイザーになれれば、週2〜3日の勤務で1日2万〜5万円というのが相場ですから、余裕で月10万円以上稼げます。
社会保険労務士は、一般に企業の総務部や人事部などで採用されやすい。嘱託社員の口もあります。「行政書士」も同様です。これらの仕事は嘱託で許認可等の申請書類の作成を引き受ける場合、1件2万〜3万円。月に4〜5件も受ければ月10万円はクリアできます。
■若いうちに資格をとっておく
最近では「キャリアコンサルタント」の資格も人気です。今年から国家試験になりましたから、取得すれば教育機関やハローワークなどの公的就職支援機関などで、アドバイザーとして働き口が確保できます。ハローワークの研修会の講師などを務めれば、1回1万円程度の謝礼がもらえます。1日に2回で月5日間も務めれば10万円になる。さらに研修会社の依頼なら1回5万円程度になったりしますから、月2回壇上に立てば10万円です。これなら理想的なペースで稼ぐことができます。
ただし、60歳を過ぎたら頭も固くなって、勉強もなかなか身に付きません。まだ若いうちに学校に通うなり通信講座を受けるなりして、これらの資格を取っておけば、定年後の生活の大きなアドバンテージになるのです。
60代以降の働き方を考えると、会社員、特技や趣味を生かした仕事、コモディティー(働き手に付加価値がない)な仕事の3タイプに大きく分かれます。
まず、定年後も会社員として働きたいという人は、今の会社で雇用を継続するか、別の会社に再就職するかに分かれます。正直どちらも簡単ではないですが、前述したように、今から資格を取ったり専門スキルを磨いたりするのと同時に、周囲との人間関係を深めておけば、働き口は見つかると思います。
会社員の求人の中でも、60代を対象にした募集が多いのは「不動産・オフィス」「リフォーム」「ビルメンテナンス」の営業です。こういう仕事は営業経験があるのがベストですが、たとえ未経験だとしても、人脈さえ豊富なら採用されます。企業としては、マンションの売買やリフォームを考えている知人を紹介してほしいのです。つまり、人脈はこういうところでも役に立つわけです。
他にも石材(墓石)とか葬儀関連の営業・接客などは、お客さんから見ても年配の人のほうが相談しやすいので、60代や70代の高齢者が採用されやすい。
ところで、フルタイムは体力的に無理だけど、サラリーマンとして勤めたいという人は、主に政府・行政からの求人、例えば「ハローワークの相談員」「公営プールの監視員」「図書館のパソコン指導員」などが狙い目です。こういう仕事は、週4日程度の勤務で、月15万円程度の収入が見込めます。高齢者雇用推進のための行政の求人は常にあります。ただ1年とか2年などの期限付きがほとんどですから、常に次の働き口を探す必要があります。
■人事や経理の職歴も特技としてアピール
次に、趣味や特技を生かして働くという手もあります。例えば、インテリアが好きな人は、リフォームのアドバイザーという職種もあります。1日5000〜1万円程度になりますから、週に2〜3日働けば月10万円程度は稼げます。日曜大工が趣味の人は、DIYの講師としてカルチャースクールなどで指導すれば2時間で5000〜1万円程度にはなります。自分にはどんな特技があるのか、1度じっくり考えてみてください。
「私には何の特技もない」と言う人はよくいますが、現役時代に長く担当した仕事があればそれは立派な特技です。私の知人で元システムエンジニアの60代の人は、図書館のパソコン指導員なんていう仕事に就いています。
大企業で人事や経理の仕事をしていた人なら、その経験が特技として生かせます。中小企業やベンチャーでは、人材採用の仕組みや教育制度、評価制度などが整っていませんし、経理の専門家も不足しています。人脈さえつくっておけば、60代でもそういう会社に潜り込むことは、難しいことではありません。そんなふうにいろいろと見渡してみれば、現役時代の経験を特技として生かせる仕事は周りにたくさんあります。
最後は、いわゆるシルバー人材センターなどが斡旋するコモディティーな仕事。例えば「駐輪場の管理人」「清掃員」「工事現場の警備員」「芝刈り」などの、いわばガテン系の肉体労働が中心です。こういう仕事は1日で7000円程度ですから、自分の体力と相談ですが、2週間も働けば月10万円を稼ぐことができます。
再就職を果たしたら、1番気を付けるのは、先輩ヅラをしないこと。再就職ともなれば上司を含め職場にいるほとんどの人が年下です。媚びる必要はありませんが、対等な関係を築くことを心がけてください。私は相手が年下でも「〜くん」ではなく「〜さん」と必ずさん付けで呼んでいます。
一方で、若い人が困っていたら積極的に知恵を出したり、クレームがきたときは代わりに対応したりと、若い人のフォローをしています。そうやって普段から力になっていれば、こちらがコンピュータの操作に困ったときなどは彼らが率先して教えてくれます。現役社員とは持ちつ持たれつの関係をつくる。それが、高齢者が長く働くコツです。
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菅野宏三(かんの・こうぞう)
人事コンサルタント。1942年生まれ。日本テキサス・インスツルメンツを経て、伊藤忠商事グループの人材紹介会社キャプランで部長コンサルタントとして人材紹介業務に携わる。その後独立。著書に『50代からの転職・再就職』『転職で成功する人、失敗する人』ほか。
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(人事コンサルタント 菅野 宏三 構成=大島七々三 撮影=大沢尚芳 写真=Getty Images)
ブラック業界と言われる運送の仕事に転職して半年。
やっぱり人手不足なのか、大型トラック初心者のオレにも、すでに他社からの誘いがあるんだよねぇ。
65歳の定年を迎えての転職を考えると、早めに次の仕事へ移れたのは幸いなのかとも思う。
いつまで今の仕事を続けられるか分からないけど、実質の定年はないみたいだしねぇ。
実際の話、会社員が定年を迎えての転職はどれだけの困難があるんだろう。
それを考えると、不安になるよなぁ。