「半分、青い。」賛否も朝ドラ史に刻む挑戦が結実 “新しい朝ドラ”の誕生 最終回でロスの声も
最終回は2011年7月、「そよ風ファン」の発売決定記念パーティーが「つくし食堂」で行われることに。晴(松雪泰子)らが総出で準備を進める中、鈴愛(永野)はある人の言葉にヒントを得て「マザー」という扇風機の名前を思いつく。律(佐藤健)と津曲(有田哲平)は早速、商品名を変更するために動き始める。夕方になり、つくし食堂には顔なじみが勢揃い。パーティーには東京から律も駆けつけ、鈴愛と律はマザーに込めた思いを語り始める…という展開。
鈴愛と律は1971年(昭46)7月7日、七夕に同じ病院で生まれた“運命”の幼なじみ。10代最後の七夕の別れ、5年後の夏虫駅のプロポーズ、お互いの結婚・離婚…。紆余曲折の末に、2人は会社「スパロウリズム」を立ち上げ「そよ風の扇風機」を開発した。40年に及ぶ歩みがフィナーレを迎え、SNS上には「早くも鈴愛ロス」「終わってまった。律ロスすぎて泣ける」「毎日(主題歌の星野)源さんロスだわ〜」「梟会でスピンオフとかないのなー?」「終わってしまった…。2人の幸せな笑顔。私まで幸せな気分。じわっとあふれる涙。芽郁ちゃん、健くん、北川先生、キャストやスタッフのみなさま 素敵な半年間をありがとうございました」「このドラマは2人の大恋愛物語だったんだな。紆余曲折して一番大切な人に気づく。40年かけて結ばれた。律はいつも鈴愛の右側でささやく。律の優しさが好きだ。律ロスになりそう」などと放送終了を惜しむロスの声も多く見られた。
一方、北川氏は「スライス・オブ・ライフ」の手法(フランスの劇作家ジャン・ジュリアンが提唱。日常の1場面を切り取るという手法)を採ったと説明したが、目まぐるしい展開にはインターネット上などで一部、批判の声が上がった。朝の情報番組「あさイチ」(月〜金曜前8・15)の2代目キャスターを務めるお笑いコンビ「博多華丸・大吉」の博多華丸(48)が“朝ドラ受け”で「早いっ!カレンダーめくるの、早いっ!頂戴、紆余曲折」とツッコミを入れた第104話(7月31日)など、急展開があったことは否めない。
ちなみに、第104話は映画監督のオファーを断った涼次(間宮祥太朗)が「鈴愛ちゃんとカンちゃん(花野)は僕が守る」と光江(キムラ緑子)に宣言。花野はおたふく風邪の後遺症もなく、無事に1歳の誕生日会が開かれた。そして時は流れ、07年12月23日、花野5歳の誕生日。鈴愛はケーキ作りの手を止め「え?今、何て?」と聞き返す。涼次は意を決し「別れて…ほしい」――。「僕が守る」から「別れて…ほしい」まで、オンエア上の時間は9分だった。
また、第105話(8月1日)、映画監督デビューが決まり、夢をあきらめ切れない涼次から「家族は邪魔になる」と離婚を切り出された鈴愛が言い放った朝ドラらしからぬセリフ「死んでくれ。死んでくれ、涼ちゃん。そしたら、許してあげるよ。別れてあげるよ」や終盤の東日本大震災の描写についてもSNS上で賛否や議論を巻き起こした。
とはいえ、豊川悦司(56)が怪演した秋風羽織のキャラクター造形や名台詞、朝日に照らされながら鈴愛と律がキスをした朝ドラらしからぬも美しいシーン(第147話、9月19日)など、個性的な登場人物と名場面の数々は視聴者を魅了した。そこには「朝ドラって、精神的拷問。3日に1本のつらさは尋常じゃなく、自分の才能がどこまであるのか毎日試されているんだと思いました」と苦しみながらも1年半、3日で1話分の脚本を書き上げ、そして「15分をどう見せ切るか」と毎話アイデアを盛り込んだ北川氏の挑戦があった。
今作は、朝ドラ史上初となる“ヒロインの胎児時代”からスタート。第17話(4月20日)の冒頭、鈴愛と新聞部員・小林(森優作)の“微妙”な出会いを描き「これは出会いなのでしょうか?どうなのでしょうか?鈴愛的にアリなのでしょうか?ナシなのでしょうか?逆に新聞部には鈴愛はアリなのでしょうか?えっ、もう?もう?イントロ始まる?星野源が歌い始める?」のナレーション(風吹ジュン)から主題歌(星野源「アイデア」)へ。第65話(6月15日)には、北川氏の代表作の1つ「ロングバケーション」(96年、フジテレビ)が脳裏によみがえるパロディー風の劇中ドラマ「Long Version(ロングバーション)」が登場。鈴愛の幼なじみ・ブッチャー役の矢本悠馬(28)と菜生役の奈緒(23)が“2役目”として今も語り継がれる、本家「ロンバケ」で木村拓哉(45)と山口智子(53)が演じた“スーパーボールの名場面”を“完コピ”するなど、さまざまな仕掛けがあった。
そもそも、北川氏が自身の左耳失聴を基に企画した今作を、朝ドラとしてNHKに持ち込んだことも珍しい。近年多かった朝ドラ王道パターン「偉業を成し遂げる女性の一代記」とは一線を画し、鈴愛は自分に漫画家の才能がないことに絶望した。それでも前を向いて生きる――。難病(炎症性腸疾患、聴神経腫瘍)と闘いながら執筆を続けてきた北川氏のメッセージだった。
第155話(9月28日)、鈴愛と律に届いた秋風の手紙に象徴されている。
「スズメ、律くん、元気だろうか?短い手紙を書きます。人生は希望と絶望の繰り返しです。私なんか、そんなひどい人生でも、大した人生でもないのに、そう思います。でも、人には想像力があります。夢見る力があります。生きる力があります。明日を、これからを、どんなにひどい今日からだって、夢見ることはできます。希望を持つかは、その人の自由です。もう、ダメだと思うか、いや、行ける、先はきっと明るいと思うかは、その人次第です。律くんとスズメには、その強さがあると信じています」
今月16日に放送されたNHK FM「岡田惠和 今宵、ロックバーで〜ドラマな人々の音楽談議〜」(隔週日曜後6・00)。ホストを務める脚本家の岡田惠和氏(59)と北川氏の対談も興味深かった。
岡田氏は「ちゅらさん」(01年前期)「おひさま」(11年前期)「ひよっこ」(17年前期)と3作の朝ドラを生んだ名手。鈴愛が心身ともにボロボロになり、漫画家を辞めるストーリー展開と描写に「モノづくりをする人と才能の関係、その描き方が一番、朝ドラとして珍しいと思いました。それは(胸に)刺さったというか『うわー』ってなりました(笑)。朝ドラで、こんな気持ちにさせられるんだ」と同じクリエイターとして心をかき乱されたと告白。北川氏は「申し訳ないような気持ちもあります。朝ドラという枠を結構、度外視して書いてしまったかもしれません」と応じた。
岡田氏は「とはいえ、朝ドラという実態はあってないようなもの。何となく成功作のフォーマットがあって、今回はそれとは違うけれど、それはもう毎回、作り手が更新していかないといけないと思います。じゃないと、みんなが同じ穴を掘っていても厳しい。そうやって(朝ドラの歴史が)アップデートされていくんだと思います」と北川氏がチャレンジした“異色作”を評した。当の岡田氏も「ひよっこ」は「ある職業を目指すヒロイン」「偉業を成し遂げる女性の一代記」とは異なり、派手さはなくとも普通の女の子(みね子、有村架純)の日常を丹念に描き、朝ドラ史に新風を吹き込んだ。
NHK木田幸紀放送総局長も今月19日の定例会見で「半分、青い。」について「今まで見たことのない朝ドラ」と評し「その新しさが(従来の朝ドラ視聴者層より若い)20〜40代の女性の視聴者を増やしてくれました」。新しさの中にも「底辺には親と子であったり、律と鈴愛であったり、いろいろな形の愛情を、しっかりドラマとして形作っていこうという北川さんの思いは書き込まれていたと思います。非常に素晴らしいセリフがいくつもありましたが、そこに表れていたんじゃないでしょうか」と分析した。
「もちろん『展開が早すぎるんじゃないか』といった、いろいろなご意見はあるとは思います」としながらも「それでも描きたかった“愛情の交流”みたいなものがあり、その北川さんの思いを出演者の皆さん、スタッフがしっかり受け止め、今回のような『半分、青い。』に結実したんだと思いました」と総括した。
視聴率は指標の1つに過ぎないが、週平均(ビデオリサーチ調べのデータを基に算出、関東地区)は第7週(5月14〜19日)以降、19週連続の大台20%超え。全話を通じた期間平均は16年後期「べっぴんさん」の20・3%、17年前期「ひよっこ」の20・4%、17年後期「わろてんか」の20・1%を上回ることが見込まれている。