2016年3月26日、北海道新幹線が開業し東京から新函館北斗が4時間2分(最短)で結ばれた。前評判としては、「函館に直通しない」とか「青函トンネル内は減速する」など、ネガティブな点が強調されていた一方で、JR北海道に関しては多くの不祥事が明るみに出るなど、この開業へ向けての環境は決して平坦なものではなかった。
そんな中、スムーズな運行でスタートを切ったことに対して、まずは安堵を感じたのが正直なところである。個人的には、青函トンネル区間における「新幹線と貨物の共用技術」に関して、ここ数年追いかけ続けていただけに、「新幹線の営業車両が青函を通った」ことへの感慨は格別なものがある。
今回は、開業初日の「第一便」である「はやぶさ1号」(東京6時32分発)の24分後に設定された臨時便の「はやぶさ47号」(東京6時56分発)で新函館北斗まで乗車することができた。そこで、気になるトンネル区間を中心に、新規開業区間の乗車経験について述べておくことにする。
変わらない車両、だが…
始発便の見送りに集まった鉄道ファンや、報道陣で賑やかなホームから、車内に乗り込むと、新青森までは何度も経験している「東北新幹線のはやぶさ」そのものだった。車両もピンクの帯のE5、座席前ポケットにはJR東日本の広報誌『トランヴェール』、車内放送も自動放送中心ということで、そこには「日常」の時間が流れていた。
だが、八甲田トンネルを出て津軽平野に入り、最後の細越トンネルを出ると、「いつもと違う」感覚があった。青森の市街地が右手に現れると「新青森」で降車する準備を始めるのがクセになっていたのだが、今回は違うからだ。落ち着いて青森市街の風景を見ているうちに、この列車はそのまま津軽半島を直進して青函に向かうのだという実感が湧いてくる。
新青森では約4分停車、ここでJR北海道のクルーに交代する。発車後はスムーズに加速。新規開業区間に入って、すぐに線路に設置されていた「散水消雪システム」が消えてなくなる。ここから先は「温水で融雪しても凍ってしまう寒冷の地」ということだ。津軽半島を滑るように進む新幹線からの風景は素晴らしい。山々はまだ雪景色だが、陸奥湾は早春の光に満ちており、今後四季折々の風景が楽しめる区間と思われた。
青函トンネルに進入した瞬間の「はやぶさ47号」車内の表示
手元のGPS速度計アプリでは時速240キロの表示が続くが、やがて山間部に入ると共に減速がかかると、両側から在来線が上ってきて合流、ここから「新幹線の標準軌」と「貨物用の狭軌」が共用する「三線軌条区間」となる。
ほぼ時速120キロで慎重に走行する中、奥津軽いまべつ駅を通過。やがて7つの短いトンネルを通過すると、右手にチラッと海峡の海が光ったのを合図に青函トンネルに進入する。
貨物列車とのすれ違いは?
在来線時代は、新青森から青森でのスイッチバックを経て、単線の海峡線をゆっくり進んで青函トンネルに達するまでは「一苦労」だったが、新幹線はこの区間をほんとうに瞬時に走り去ってしまう。
トンネルに進入すると、予想通り車窓は瞬時に曇った。冬の寒気に冷やされた車体が、年間を通じて約20度に保たれているトンネル内の湿気に包まれての結露である。この点だけは、「スーパー白鳥」など過去の在来線列車と全く変わらない。
だが、乗り心地は全く異次元だ。厳密に保線された新幹線の標準軌スーパーロングレールをE5は極めてスムースに進んでいく。最深部へと向かう下り坂を速度を保って粛々と進む姿勢には、北陸新幹線の「碓氷峠の下り」同様にデジタルATCの効果を感じる。
竜飛定点に差し掛かる時点で、最初の貨物列車とすれ違った。風切音も少なく、振動は皆無で、懸念された「新幹線と貨物のすれ違い」の第一印象は安全そのものだった。最深部に到達、ここでは恐らく時速120キロ程度まで落として慎重に通過しているようだったが、やがて上り坂に転じると、ノッチが入って加速していく。トンネル内の時速140キロの速度規制というのは、「遅い」と問題になっているが、体感するスピードとしては、この「登り」には十分な疾走感はあった。
吉岡定点付近で貨物と2度目のすれ違いとなる。今回は、前回の列車と比べると編成長が3倍ぐらいある長大列車だが、相変わらずすれ違いによる衝撃や振動等は皆無。ただすれ違いの轟音は前回と比べて顕著であり、もしかすると複雑な微気圧波が起きているのかもしれず、この「すれ違い問題」は一筋縄ではいかないことを感じる。
この頃までには車両は温まって、窓の曇りもいつの間にか消えていた。すれ違い減速のせいか、28分ほどを要したトンネル通過を経て、車窓には北海道の風景が突然広がる。3月26日のこの日も、晴天の下ではあるが一面の雪景色。線路の両側には、まだ蓄雪の名残りがあり、改めて寒冷地の環境の厳しさを実感する。
厳重な防雪シェルターに保護された三線分岐器を通過し、やがて在来線が両側に分かれていくと木古内駅に停車。この間、線路の両側には地元の人々が出て、あちらこちらで歓迎の手を振っている。木古内からは新幹線専用軌道に戻るが、トンネル区間も多いために「どこを走っているのだろう?」という不思議な感覚がある。
やがて明かり区間に出て景色が開けると、少し先には上磯のセメント工場、その向こうには函館山の全景が浮かび上がり、その両者を遠近感として函館と北斗の都市圏全容が浮かび上がる。
多くの乗客は、ここでようやく「北海道に来た」という感慨を抱くのではないだろうか。と思うまもなく、アナウンスが入り大きく左カーブをしながら車両基地を右手に車両は新函館北斗の駅に滑りこんだ。
函館アクセス列車は大混雑
開業日とあって大混雑の新函館北斗駅
開業初日、しかも初便と第2便の到着直後とあって、新函館北斗駅も「函館ライナー」も大混雑、いや混乱状態といってよい喧騒の中にあった。
この「函館アクセス」問題、そして、肝心の集客効果や経済波及効果については、5月の連休が一つのメドとなるだろう。開業と同時に明らかとなった問題点は修正しながら、ゴールデンウィークでは多くの観光客に満足感を持ってもらうように心がけて欲しいものだ。
大成功と言われる北陸新幹線も、その成功は決して保証されていたものではなく、開業後の「口コミ効果」が大きかったからだ。
函館への普通列車の車窓からは珍しい光景を目にすることとなった。函館運輸所には北斗星塗装のDD51形ディーゼル機関車5台、緑の旧「スーパー白鳥(789系)」が7編成並んで留置されていた。それぞれ、青函トンネルの花形から退役し、一時の休息をしているわけだが、その姿は青函トンネルに新しい歴史が始まったことを表していた。
とっても興味がある三線軌条。
体験はしてみたいけど…。