〈ライフスタイル〉 知ってほしい「繊細さん」のこと
2020年7月31日 聖教新聞
■2018年発刊の著書(書影参照)は、今も売れ続けているそうですね。
それだけ「生きづらい」と悩んでいた方が多いのかなと思います。HSP(Highly Sensitive Person)は「とても敏感な人」を意味しますが、発達障害や病気ではありません。1996年にアメリカの心理学者、エレイン・アーロン氏が提唱した概念で、全人口の約5人に1人がHSPだといわれています。
■具体的には、物事の小さな変化に気付く、周囲のわずかな音や光を感じ取る、場の空気を読む……など、“感じる力が強い気質”ですが、武田さんは親しみを込めて「繊細さん」と呼んでいます。
「敏感すぎる人」という表現は、気持ちいいものではないですよね。生まれ持った気質をプラスに生かす、との思いから、そう呼んでいます。
ここでは、繊細さんが抱えやすい悩みを四つ(別枠)挙げましたが、他にも屋外の自動販売機の音が気になるとか、事件や事故のニュースを見ると落ち込むとか、感じ方は多岐にわたります。
■HSPの70%が内向的、30%が外交的とか。一見、そうではなく見える人もいます。
繊細さには個人差や濃淡がありますが、アーロン氏は、HSPには次の四つの性質が必ず存在すると言います。①深く考える②過剰に刺激を受けやすい③感情反応が強く共感力が高い④ささいな刺激を察知する。
生まれつき物事をたくさん感じ取って、深く考えるんですね。ただ、繊細さんが全員生きづらいわけではなく、そうなってしまう要因の一つが育った環境です。「皆が気付いてないところによく気が付くね」「作業が丁寧だね」など、「あなたはあなたでOK」という家庭や学校で育てば、繊細であっても元気に過ごせます。ですが、例えば親から「神経質を直しなさい」「気にし過ぎ」と言われ続けるなど否定されて育つと、自分はダメなんだ、どこかおかしいんだ、と思ってしまい、生きづらさにつながります。
よく繊細さは神経質と混同されますが、神経質とHSP気質は別物です。非繊細さんでも神経質な人はいます。神経質の背景には不安がありますが、HSP気質の背景にあるのは右記の四つの性質です。
HSPとは、Highly Sensitive Personの略で、生まれつき繊細な人、とても敏感な人を意味します。
□周りに機嫌が悪い人がいるだけで緊張する
□相手が気を悪くすると思うと断れない
□疲れやすく、ストレスが体調に出やすい
□細かいところまで気が付いてしまい、仕事に時間がかかる……etc.
●詳細な診断テストは、アーロン氏のホームページ(日本語版)をご参照ください。
http://hspjk.life.coocan.jp/selftest-hsp.html
■武田さんも、以前は仕事で悩んでいたそうですね。
商品開発担当で、忙しく、タフさを求められました。皆は手早く実験するのに、私は器具の設定を正確にそろえ、なぜこの実験をするのか考えてから始めるので、開始まで時間がかかる。新たな実験方法を提案し評価されても、自分は仕事が遅いと、ずっと自信を持てずにいました。
やがて長時間労働からストレスがたまり、休職することに。その時にアーロン氏の本を読み、私はHSPなんだ、と気が付きました。他の人とは、感じていたストレス量が全然違っていたんです。
その後、忙し過ぎる環境では自分を生かせないと退職。HSPについての考察を発信し、繊細さんたちから主に仕事の相談を受けるようになりました。当時はHSPの情報がほとんどなかったので、当事者研究のような形で悩みへの対処法を探り、繊細さんが元気に生きるノウハウを蓄積していきました。この本はそれをまとめたものです。
■相談者は、どのような悩みを?
例えば、職場で意見を求められたとき、状況を何パターンも考えるので、すぐに言えないとか、何かするときに多くのことに気が付くため行動になかなか移せないとか。周囲からは何もしていないように見えても、繊細さんの頭の中はものすごい情報量でベストな状況を考えています。
繊細さんは生まれつきそうなので、周りの人も自分と同じような思考だと思っていますが、感じ方も考える量も、全く違います。繊細さんの感覚は、周囲からはなかなか理解してもらいにくい。時に「完璧主義だ」と誤解されることも。本人は普通にやっているだけなのに、細やかだからそう見えるんです。
そういうときは「ベストはさておき“取りあえず”やってしまう」のが一番。取りあえず聞かれたことだけ答えるとか。仕事以外でも“取りあえず”を入れると、物事がスムーズに進みます。
■職場で相手の感情を敏感に察知して、疲れてしまう人も多いとか。
日頃から「仕事が遅い」など負い目に感じることがあると、上司や同僚の不機嫌さを「私のせい?」と思ってしまうんですね。でも、相手の感情は察知できても、なぜそうなっているかは推測。外れていることも多いですから、「分かるのは感情まで」と、認識しておくことが大事です。
見ようとしなくても自然と気付いてしまうので、環境から受ける影響は多大です。合わない人間関係の中にいると消耗してしまうので、自分に合う環境に身を置くことが大切。今の職場が合わない場合は、我慢し過ぎず、転職も視野に入れてほしいです。
今、何かつらさを感じていたら、「自分が弱いからいけないんだ」などと我慢せず、嫌だとか、つらいと思っていいんです。本音を受け止めていくと、本当はどういう環境に行きたいか見えてきます。
■「こうあらねば」ではなく、自分の“本音”を知っていこう、と。
日常の小さなことから、自分の本音を大事にする練習はできます。例えば、朝コーヒーを飲む時に「今は白いカップの気分」と、気持ちを把握したり、「散歩に行こうかな」という、ふとした気持ちを実行したり。
日常の中で本音をつかみ、大切にすることは、転職など大きな決断をする際にも役立ちます。どんなふうに生きていきたいかが分かることで、仕事に対する考えもクリアになってくるからです。
他にも、幼い頃の自分をイメージして、その子に「今の仕事続けたい?」と聞いてみる方法もあります。その時に湧いたイメージは、自分の本心です。
■武田さんが考える“繊細さんの生き方”とは?
私もHSPについて知る前は、自分が感じたことに振り回され疲労困憊していましたが、長所として生かし始めると人間関係が楽になり、伸び伸び働くことができ、人生が大きく変わりました。
繊細さは、克服すべき課題ではありません。確かに人より多くのことに気付くので大変な面もありますが、見方を変えると「毎日のちょっとした幸せにも気付ける」ということ。自分のままで、仕事もプライベートも、人生をより深く味わうことができると思います。
たけだ・ゆき HSP専門カウンセラー。九州大学工学部卒。大手メーカーでの研究開発を経て、カウンセラーとして独立。HSP気質を大切にしたカウンセリングと適職診断が評判。最新刊『今日も明日も「いいこと」がみつかる「繊細さん」の幸せリスト』(ダイヤモンド社)。
【編集】加藤瑞子 【写真】武田友紀さん提供 【イラスト】福田玲子 【レイアウト】豊泉健太
ご感想をお寄せください life@seikyo-np.jp
オレ、HSPかも。
それを知ったら、何か心がホッとしたんだけど…。