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うー、孫に癒されたい…😔
2018年12月14日 聖教新聞
一昨年までの内閣府・引きこもり調査の対象は、15歳から39歳。6割以上が男性という結果でした。しかし、この調査には「家事手伝い」とされた無職の女性や主婦は含まれていません。女性の引きこもりは見落とされてきたのです。今回は、自身もかつて引きこもりを経験し、現在は一般社団法人「ひきこもりUX会議」の代表理事として活躍する、林恭子さんの登場です。
※UXとはUnique eXperience(独自の体験)
私は幼い頃から真面目なタイプで、何の疑いも無く良い大学、良い会社を目指していたのに、高校を中退、大検を受け合格した大学も1カ月で中退。足元が崩れ落ち、底が見えないような混乱と不安に襲われました。
直接的なきっかけはありませんが、私には小学生の頃から学校に違和感がありました。体罰をする教師、理由も分からず強いられる理不尽な校則、偏狭な同調圧力。でも自分がおかしいのかなと、誰にも言えませんでした。思春期になり、いろんなことが自分の中で処理しきれなくなったのだと思います。
■その後、昼夜逆転生活に……。
約20年続きました。大学に行かないなら働くよう言われ、お小遣いを得るため午後2時から8時まで近所でアルバイトを始めましたが、当時は半日外出しては3日寝込むような状態で、はうように職場に行き、調子を悪くし、病院で薬をもらう――の繰り返し。
その中で、私はとても厳しい母の管理下で、操り人形のように育ってきたと気付いたんです。母の言う通り生きる“自分”がない空っぽな人間だと思いました。子どもの頃から母にされてきた理不尽な言動や、厳しい態度の記憶がよみがえるのですが「あなたの被害妄想」と一切聞き入れてくれません。母とバトルしては疲弊する毎日でした。
27歳の頃、玄関で立ち上がれなくなり、そこから丸2年完全に引きこもりました。「底付き体験」という言い方をしますが、どん底まで行き、初めて「もう生きていくのは無理」と思いました。
誰にも理解してもらえないことです。孤独ではなく、孤立していくので、本当にしんどかった。
当事者の多くは「自分はダメな人。この世で最下位の人間」と思っています。周囲から責められているように感じ、起きている間は自分でも責めるので、苦しさしかない。普通の人が活動する日中はいたたまれず、皆が寝静まった夜中「暗闇の片隅なら存在しててもいいですか」という気持ちで、昼夜逆転していくんですね。
私はその苦しさから逃げるため、「寝逃げ」といいますが、毎日13時間くらい眠っていました。寝ても悪夢を見てしまう人や、ネットやゲームに走る人も。そうしないと自分を責める声から逃げられない。でも「寝てればいいや」と思ったことは一度もなく、毎晩「明日こそ起きなきゃ」と思っていました。なのに起きられず、挫折感からまた自分を責めるんです。
親御さんから「どうやって昼夜逆転を直せばいいか」と聞かれることがありますが「直さないでください」と答えます。「ネットをやめさせたい」という方には「人とつながる一歩なので与えてください」とアドバイスする専門家もいます。
■状況を打開したきっかけは?
8人目で初めて相性が良い精神科の医師に出会えたことと、引きこもりに関心を持つ人が集まる場で、同じ経験を持つ仲間と出会えたことです。心の中を整理する作業と社会との接点。私には両方必要でした。
先生は私の違和感を肯定してくださり、「日本語が通じる人に初めて会った!」と思いました。仲間たちとも共感でき「一人じゃない」と思えたのは大きな出来事です。
引きこもった人は、元の世界に戻ろうとします。親も支援者も、矯正し“あるべき社会人”に戻そうとする。
苦しさは人それぞれですが、一番大きいのは「あるべき姿」と「現実の自分」とのギャップです。その距離を埋められないから苦しい。
でも先生は「戻る必要はない」と。私が本当にその意味を理解するまでかなり年月がかかりましたが、今の自分を「これでいいんだ」と受け入れた時から楽になりました。今は、自分らしく伸び伸び生きています(笑い)。
先生とのやり取りは、崩れた足元のがれきを一つずつ集めて、もう一度自分が立つ土台を新しくつくる作業でした。空っぽと思っていた私の中にも「本当はこう思う」があって、それを先生が対話の中で引っ張り出してくれました。やがてエネルギーが出てきて、36歳の頃、午前中に起きられるようになり、実家を出ました。
男性が怖いとか苦手な人も多いため、女性限定です。プレッシャーにならないよう予約は必要なく、遅刻や途中退席OK。内容は体験談とテーマ別グループトークで、去年、今年と全国キャラバンを行いました。
私たちの実態調査では、引きこもりのうち4人に1人は主婦という結果が出ました。年代も10代から60代までと幅広く(グラフ参照)、セクシャル・マイノリティの当事者や、生きづらさを抱えた人も参加されています。
この女子会は、立ち直りや変化は求めません。リアルに死を考えている人に、就労をゴールとする支援である「履歴書の書き方」や「面接の練習」は届かない。もっと手前の「生きてていいよ、ここにいていいよ」と伝えることが大切です。仲間と共感でき、「一人じゃない」と安心していられる場を提供できればと思っています。「久しぶりに人と話した」「4回目の参加で初めて最後までいられた」など、外出や人の中にいる練習に使ってもらった結果、動きだす人が多く、感動しています。
■最後にメッセージを。
多くの当事者は、甘えとか怠けとは程遠い、生真面目で、優しくて、自分より人のことを考えて引いてしまうような人たちばかりです。だから周囲の人には「大切な作業をしている人」と、ポジティブなまなざしで見ていただければと思います。後にこの生きづらさを話すことで誰かが救われたり勇気づけられたりする。引きこもりは財産です。この強みを生かしていける社会をつくっていけたらと思います。
また、決して焦らないでほしいです。突然の出来事に見えても、実は長い年月をかけてそうなった。私も16年かけて不登校になったと思っています。当然、抜け出すには同じくらいの時間がかかります。
そう言うと親御さんはガッカリされますが、今は「さなぎ」です。さなぎは外から無理やり開けたら死んでしまう。自力で出るまで見守ってください。
私たちの活動から、全国で自助グループ立ち上げや自治体との協力体制など、活動が広がりつつありますが、当事者の居場所も親御さんへの支援も、まだまだ足りません。
来年は支援者のためのイベントも行います。私たちの団体メンバーを含め、今は自身の体験を語ることのできる当事者がいます。全国に行きますので、どんどん呼んでください。当事者の声をお届けします!
〇12月25日(火)午後1時30分~4時「ひきこもりUX女子会in表参道」(東京・渋谷)
○2019年2月26日(火)/27日(水)、支援者を対象に「人が集まる居場所の作り方」講座(東京・渋谷)
【編集】加藤瑞子 【写真】林恭子さん提供 【レイアウト】小谷光一 【イラスト】PIXTA
中高年の引きこもりが多いというニュースに接し、オレもギリギリにいるとの感がぬぐえない。
興味深く読んだコラムだから、ぜひとも多くの人にも分かってほしい。