何だか間延びした年末になってしまったのでサラッとレビュー。
買って最初に見るのが巻末の四コマで、今回のあるあるネタには苦笑い。
将来を嘱望されてきた逸材との一戦。2セット目も5-6のがけっぷち。主人公は意識して“非論理的”プレイを試みる。普通自分らしくないプレイをするとミスが増えがちなものだが、この場合相手に対する揺さぶり効果の方が勝ったようで6-6のタイブレークへ。
この状況で主人公はあくまで最終的なゴール、「優勝」を見据えた思考を続ける相変わらずのメンタル・モンスターである。
この試合…準決勝…決勝と勝ち抜くにはやっぱり球威が大事
全てのポイントとはいかないまでも全国トップレベルの球威で勝負していかないと…
チェンジ オブ ペースの中で撹乱しつつ要所で球威のある球を使う
この試合の中でどこまでジャンプショットを自分のものにできるかが重要なんだ
一方相手の緒方はタイブレークのセオリーである攻撃的姿勢で先行。押されて失点を重ねる主人公の鼓動はますます速く強くなる。
タイブレイクに入って緒方君はあからさまに強気の戦略できてる
重要なポイントほどいい球を打ってくる
こういう勝つか負けるかが懸かる時ほど…
全国トップレベルの選手はみんなそうだ…
「気持ちだけは負けない」主人公はこの1-4の場面でセカンドサーブをセンターにノータッチエース。緒方はこの場面でここを狙うかと驚くが、どうだろう。どれくらい回転を「かけていないか」が画からは読み取れないが、これは結構セオリーな気がする。一番ネットが低く、距離も短いセンターを2本続けて打つので安全性も結構高いのだ。レベルはさておき、少しだけ縦回転をかけて「このパターン」を僕も使う。そういえばテニスマガジン2012年3月号の特集で、プレッシャーがかかった状況のアドサイドでは、フェデラーがセンターへのサービスに頼りがちなのをライバル達は知っていて狙っている、とパット・キャッシュが指摘していた。
サービスキープして1ミニブレーク差から更にリターンダッシュの奇策でミスを誘い実質イーブン。ここで雨が降り出すが不利になるレシーブ側の緒方も審判の様子をうかがうだけで続行、主人公はサービスエースで5-5イーブン、実質先行に成功する。
中断中のシーンでは緒方のガールフレンドが良いメンター振りを見せるのとは対照的に、意図的に主人公の内面は描かれていない。というか、中断中も延々データ分析している主人公の体力はやはり超人的である(笑)
試合再開直後のポイント、「絶対後悔しない戦い方」をテーマに徹底的に検討したプランを主人公は実行する。「センターへの速いスピン」サービスでポイント。相手の強力なサービスを考慮すると、6-5で先行セットポイントであっても実質イーブン(次の相手のサービス2ポイント取られても6-7でまだ生き残れる)と主人公は考えたわけだ。
次のポイント、緒方がノータッチエースをやり返して6-6。想定内。次も予想外のサービス&ネットを決められ、やはり想定どおり「セーフティネット」にはひっかかったが、マッチポイントの崖っぷち。これで王手だ、という緒方の表情に対し、
まだだ…
マッチポイントを握られた時のシミュレーションだってある
この巻のクライマックスがきた。
人生が懸かったマッチポイント…
この一球で終わるかもしれない…
青井さんも言ってたけど…
こういう時結果を全て神様に託せるなら…
確かに羨ましいかもしれない…
だったら俺は全てを情報(データ)に託したい
ずっと頼りにしてきた自分の情報(データ)に
ここで主人公はクイックサービスで相手を崩し、ジャンプショットで決めてみせる。土壇場で新しい手を見せてきた懐の深い相手に、緒方は的を絞れなくなり後手に回る。すかさず主人公が得点、セットポイント。次は精度不足のドロップ&ネットだったが、ボレーヤーの動きを観てギリギリでパスのコースを変えられる緒方に対し、主人公は己の反応速度に賭けてやはりギリギリまで動かないチキンゲームを挑み、緒方のミスを引き出した。
ファイナルセット、勢いを利してファーストゲームを主人公キープ。緒方は攻めて得点パターンをつくるのではなく、主人公が攻めたくなるが攻めきれない微妙な配球をすることで得点のきっかけをつくりだす戦略をとる。そして最終セットも6-6に。
主人公はここでサービスゲームの最初のポイント、再びクイックサービスでポイント。緒方は底知れない主人公に発想の転換を迫られる。
基礎的な能力は大体わかったつもりだけど配球パターンが多すぎてペースが掴めない
普通は終盤にもなれば相手のペースは掴めてくるものなのに…
いつまでたっても初対戦の相手と最初のゲームを戦ってるような違和感が抜けない
これを全て戦略的にコントロールしてきてると考えたら…本当に…本当にすごい…
そこで緒方は的を絞りきれない相手の手を無理に読もうとすることを止め、恵まれたフィジカルを生かして対応力を上げることにフォーカスする。
親和性が確立できない…予測できないんだとしたら
あえて予測しないのはどうか
ゲームは取れなかったものの、デュースまでいき好感触を得た緒方。サービスゲームはキープしたものの、緒方の変化に危機感を募らせる主人公。なにしろこの試合相手のサービスゲームをブレークできていないのだ。最終セットはサービスブレークが無い限り絶対に勝てない。
ここでまた雨。怪我から復帰して間もない緒方は集中力を欠きいきなり0-30。しかし転倒したことで吹っ切れる。
プロになって雨のたびに怪我を怖がってるようじゃ勝ち続けられない
そんな僕はテニスに必要とされない…
もし 今 僕がテニスに必要とされてるなら…
こんな所で怪我をするはずがない…
緒方一本挽回で15-30。王手かイーブンかが決まる次のビッグポイント、緒方はフィジカル(スピードとパワー)に、主人公は反応速度に賭ける。緒方のクロスショットに素早く反応し時間を稼いだ主人公はジャンプショットをダウンザラインに決めるが、アウトのコール。30-30。次のポイントでは緒方がネットに出て2ndセットの最終ポイントとは逆の立場になった。そして主人公はダブルバックハンドが得意とするギリギリでのコース変更。緒方は辛うじて返球するが主人公はしっかりパスを決めてマッチポイント。
という、読者に非常に気を揉ませる越年を強要する巻となった(笑)。試合後の「アレ」もあるし、表紙がどうなるかもついでに楽しみな次巻。
ささいなことだが、このマンガでは主人公が「このスコアではいつくポイントを取っておかないとまずい」など解説的に考える場面が時々出てくるが、これはコーチに言わせたほうがいい気がする。プレー中の表情も大げさになってきていて、相手の緒方のそれがリアルに近いだけ余計に不自然な印象がある。こうしないと(従来のスポーツマンガの作法により忠実でないと)売上げが伸びないという指摘があったのかな。ちょっと残念。