ちょっと前に
シャラポワ、なぜセリーナに勝てない? “天敵”にまたも惨敗で通算2勝18敗。 という記事を見かけたが、確かにこの比率はNo.1になりたいシャラポワにとっては「きつい」数字だ。
上記の記事ではセリーナの姉、ヴィーナスのプレイスタイルがシャラポワのそれに近いので、慣れられているのでは、という分析が紹介されていたが、僕の見方はそれに近いがちょっと違う。
こんなに差がついた大きな原因は、本人同士、つまりセリーナとシャラポワのプレイスタイルがかなり似ているからだ。
具体的には、両者とも最初に打つショット、つまりサービスもしくはリターンから極力攻撃を行い、主導権を奪ったままベースラインから速いテンポでフィニッシュまで持ってゆく。さらにサービスはさておきストロークで打ってくる球の特性も似たようなものだ。そしてゲームにおけるメンタル的には、二人は多分女子テニス史上有数の闘争心と根性を持っている。こうなると、はっきり言ってショットの品質の差で勝負が決まってしまう。
サービスは、ファーストサービスの球速以上に、精度、そしてセカンドサービスの威力はじめ、シャラポワがセリーナに勝っている要素は多分、ない。さらにリターンでは、男子テニスにおける2m級のプレイヤー達の弱点になっていることがそのまま適用されているように思う。で、ラリーに持ち込んでも、2次元的な配球でバンバン打ち合うため、やはりサービスとリターンの差を埋めることが難しくなっている。こうなるとメンタル的にも追い詰められやすくなり、ミスも増えるのは試合を見れば一目瞭然いつものパターンだ。
ではどうすればよいのか?という話より先に、セリーナというプレイヤーの「特異性」について書きたい。彼女は「女性版サンプラス」である。セリーナもサンプラスも、徹底的に自分のプレイで攻めて、結果も自分の出来次第、そうして長い間世界のトップにいる(/いた)、そんないわば夢のような、漫画のようなテニスライフ(笑)を送っている(/いた)のだ。そして特に年を重ねるにつれ、パワーと技術で最初から主導権を取ってしまうプレイスタイルを純化・強化するため、二人とも若いころより筋肉の量が明らかに増えている(/いた)。これはもちろん、どうあがいてもフットワークやスタミナはピークからどんどん落ちてしまうのを補うためでもあり、他のスポーツでも同様の傾向が見られる。
シャラポワの悲劇は、まずそんなセリーナと時代的に「うまく」被り過ぎてしまったこと、その裏には、はっきり言って、テニス用のフィジカルと闘争心で殴り合うスタイルのプレイヤーが上位に来やすい今の女子テニスの工夫のなさ、ちょっと酷い言い方になるが「底の浅さ」がある。だからシャラポワは他のプレイヤーにはなかなか負けない(が、単調なので歯車がずれると…)。
そしてこれまた漫画でもなさそうなシャラポワの上背とプロポーション。体幹などかなり強化はされているようだが、セリーナを見てしまうと、やはり手足を持て余し気味に見えてしまう。特にリターン時の反応でその差は顕著だ。これはもう物理法則の世界で、「シャラポワもガンガン筋肉つけりゃいいじゃん」で済む話ではない。美的問題を除けてもだ。(逆に上背のないプレイヤーほど、パワーで負けないための、そして体の小ささを有利に使うための筋肉は必要だ。)ヴィーナスの成績が落ちてきた理由もこれだ。
ということで「対策」だが、話を引っ張っておいて何だが、月並みなアイデアしか出てこない。具体的に言うと、「スピードよりもボールの高低とコースでセリーナの攻めのテンポを落とし、フィニッシュまでの時間を延ばす」。
サービスふくめ、セリーナが強打しやすい位置で打たせないことに注力する。そのために高く弾むトップスピンと球威を犠牲にしても低く流れてゆくスライスを上手く混ぜ、同時にセリーナをどんどんコートから遠ざけることを狙う(セリーナを沢山動かし続ける)。この戦い方の「裏の利点」は、このやり方ではシャラポワの方がセリーナより上手くやってのけられる可能性が高いことだ。つまり上背がある方がやりやすい戦い方なのだ(特にトップスピンサーブ)。予測しづらい配球とそれを可能にするショットの精度の高さが重要だ。
とにかく真正面からバンバン打ち合っている限り、セリーナがまた故障するか引退するのを待つしかない。