先に書いてしまうと、この映画一番の見どころはやはり夜間の戦闘シーンです。できるだけ大きな画面、大きな音の方が没入できてより楽しめるだろうし、それに堪える劇場作品らしい映像・音響の品質だと思います。僕は後ろの席で観ましたが、普通のシネコンなら前寄りで観た方がよかったかも知れません。
ということで、梅雨明け間近の気圧変動が体に堪える今日この頃ですが、そろそろ空いてのんびり鑑賞できそうなので久しぶりの映画館に行ってきました。ぶり返しているパンデミックの懸念もあるのですが、個人的にアニメの映画というのは同時に鑑賞される方々と相性が悪いというか時々愉快でない経験をするので余計避けていたのです。
が、この作品『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』は、個人的には満足できる"締めくくりの作品"だった『逆襲のシャア』の評価の高い後日談(小説)の映像化ということで、(正直富野印作品は数十年前に卒業のつもりだったのですが)ちょっと興味がありました。
ただ、ストリーミングで配信されていたのをナイトキャップ代わりに観ていた正統な宇宙世紀後継作品?であるUCとNTが物語としてあまりの出来だったので、約2,000円分のチケットと所要時間の投資対効果に不安が…
それでも行く気になったのは、作品そのものというよりサンライズという会社がどういう位置づけでこの作品をつくるのか非常に興味があったからです。なぜなら、「機動戦士ガンダム(アムロとシャアの物語)」をきちんと乗り越えた、今の時代の、素晴らしい作品が、ガンダムシリーズのひとつとして既にテレビで2期にわたって放送されていたからです。ただ、最近になってストリーミングで僕が初めて観たその作品に対する(ネットで取得できる)世間の評価は理不尽にも結構残念なもので、(恐らくガンダムや富野作品のファンコミュニティに属するもしくは利害関係のある)「"卒業"したくない」「痛いところを突かれたくない」(所謂プロを含む)方々の的外れな批評と黙殺、そして怨嗟の声が目立ったものでした。ガイドブック的なものを取り寄せてみたのですが、寧ろ演じた声優の方々の方がきちんとした理解・評価を作品に対してしているのが驚きでした。それでも「サイレントマジョリティ」から十分愛されている様子もあるのですが…
そんなコンテクストがあって、果たして「最後の富野ガンダム」(と敢えて書きます)の映像化はブーストされたゾンビ化になるのか、それとも明確に「古き良き幻想の時代」に今度こそきっちり引導を渡せるのか?これはすぐ前に某エヴァンゲリオンシリーズのようやく本当の終わりを宣言する作品が公開されて話題を呼んだこと、伝え聞くその内容と反応がまあ予想通りだったことから、余計興味と期待を高めます。
で、長々と書いてきた前振り後の全体的な感想というか印象ですが、「富野臭の過剰な部分を上手く消したうえで、UC/NT時代の技術で「リメイク」する」という、予想され、制作側も狙っただろうコンセプトに合致した作品、という身もふたもないものでした。(まあそれはそうですよね。)
画はUN/NT同様とても綺麗です。鮮やかに艶やかに見せるコツを知り抜いているという印象です。CGをふんだんに使った風景部分は時には精密さが過剰というか、二次元アニメ映画というより実写や豪華な地図に見えてしまう程です。年を追う毎にデコレーションが進み、お神輿どころか神社仏閣そのものの様になってしまったモビルスーツのデザインには苦笑させられますが、夜間が多い戦闘シーンでも緊迫感に貢献する存在感と動きです。ただ、オープニングテーマ?が流れる部分では、そこだけ超合金のCM(笑)と錯覚するような質感になってしまっているのが残念でした。攻殻機動隊のSAC(1)のオープニングCGに感じた違和感に近いかな。
それでも夜間戦闘の部分では、夜間であることを上手く利用した魅せ方が印象的です。欲を言えば爆発や発砲時にもっと瞬間的な明暗の差が強烈だとリアリティ(と恐怖感?)が増すと思いますが、これは鑑賞者の健康に配慮しているのかもしれません。
人物については、やはり綺麗ですが、動きにガンダムシリーズ伝統の?ユラユラしたものがある一方、「タメ」と「解放」の部分で速度が同じになってしまっている場面など、静止画として綺麗な分目についてしまう所もありました。
科学考証や軍事考証については、そもそも巨大ロボットアニメという話は勿論さておき、例えば導入部でグラスの構造に凝って見せる一方で、重力や振動の扱いはどうなの?とか、テロ組織や対する軍の「らしさ」について、そこらへんは話を進めるうえで最低限必要なお馴染みの「富野作品らしさ」をやむなく優先しているのかなと感じる部分はありました。それでもケネス・スレッグ大佐の言動はじめ、21世紀に入って大分過ぎた現在ではなかなか原作の古さを隠し切れない部分があるのも確かです。現実世界の「進み方」はますます急速になっているので、これは今後より「難しい」ものになってゆくかも知れません。
音響・音楽については、最初に書いた通り、もっと過剰なくらい大きな音で「確認」したかったですね。まあ音楽は安定の澤野弘之氏だし、何年か後にストリーミングで観られたらその時改めて。ただ、声の演技については、僕は巷で評判が高かったヒロイン?のギギ・アンダルシアについて、正直違和感の方が大きかった。あの設定からあの喋り方はちょっと想像しづらいかな。
さて、「肝心の」物語の部分についてですが、結局まるまる「導入編」なのでこれからですね、としか言いようがない。アクションがある割にやけにスッキリした脚本・演出だし、結局主要な要素がほぼニュートラルなまま終わってしまいました。人物描写もややUC/NTに近く、表現は多いがちょっとまとまりがない印象です(奥行きやしっかりしたフックをつくる事につながっていない)。でも、近年の風潮を見ると、少なくとも最初はこうしないとアニメのファンが辛くなってついてこれないことを見越しているのかも知れませんね。