発達障がい・こころのやまい

専門外ながら相談を受けることがあり、その際に読んだ本や集めた情報を書き留めました(本棚9)。

小児および青年期の重度な精神疾患発症率と薬理学的治療

2018-02-22 06:48:30 | 精神科医療
 社会不安障害(≒対人恐怖)の治療は大切です。
 これがよくならないと、社会生活ができなくなります。

 小児〜青年期の精神疾患薬物治療のノルウェーの現状報告を紹介します;

■ 小児および青年期の重度な精神疾患発症率と薬理学的治療
ケアネット:2018/02/22
 小児および青年に対する抗精神病薬の使用は増加しており、適応外の使用および副作用についての関心が高まっている。ノルウェー・Oslo University HospitalのRagnar Nesvag氏らは、ノルウェーの小児および青年における重度の精神疾患の発症率、精神医学的合併症および薬理学的治療について調査を行った。European psychiatry誌オンライン版2018年1月20日号の報告。
 2009~11年のノルウェー患者レジストリより、初めて統合失調症様疾患(ICD10コード:F20~F29)、双極性障害(同F30~31)、精神症状を伴う重度のうつ病エピソード(同F32.3/33.3)と診断された患者(0~18歳)の精神疾患に関するデータを抽出した。向精神薬の調剤データは、ノルウェー処方データベースより抽出した。
 主な結果は以下のとおり。

・2009~11年に初めて重度の精神疾患と診断された小児および青年は884例(10万人当たり25.1人)であった。その内訳は、統合失調症様疾患(10万人当たり12.6人)、双極性障害(10万人当たり9.2人)、精神症状を伴う重度のうつ病エピソード(10万人当たり3.3人)であった。
・最も一般的な精神医学的合併症は、抑うつ(38.1%)、不安症(31.2%)であった。
・抗精神病薬が処方されていた患者は62.4%であった。疾患別にみると、統合失調症様疾患患者(72.0%)、双極性障害患者(51.7%)、精神病性うつ病患者(55.4%)であった。
・最も処方されていた薬剤は、クエチアピン(29.5%)であり、次いでアリピプラゾール(19.6%)、オランザピン(17.3%)、リスペリドン(16.6%)であった。

★ 抗精神病薬の一般名と商品名;
クエチアピン:セロクエル®
アリピプラゾール:エビリファイ®
オランザピン:ジプレキサ®
リスペリドン:リスパダール®


 著者らは「小児や青年が重度の精神疾患と診断された場合の多くで、抗精神病薬が処方されていた。初期精神疾患患者では、抑うつや不安症の合併率が高いことを、臨床医は認識しておかなければならない」としている。


<原著論文>
Nesvag R, et al. Eur Psychiatry. 2018 Jan 20.
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精神障害の苦悩「勇気をもって語る」

2018-02-13 06:48:17 | 精神科医療
 偏見・差別を避けるために隠すのが当たり前だった精神疾患。
 変化の兆しが見えてきました。

■ 精神障害の苦悩「勇気をもって語る」 静岡でセミナー
2018年02月12日:朝日新聞
 「勇気をもって語ります」
 そんなタイトルの市民公開セミナーが、静岡県藤枝市茶町1丁目の市生涯学習センターであった。語ったのは精神障害の当事者だ。
 「私は統合失調症です」。同市の黒田成基さん(44)はとつとつと語り始めた。発症は社会人3年目のころ。長時間勤務の疲れと、かつてネズミ講に関わった罪悪感から「警察に追い回されている」という妄想にとりつかれた。
 「株主総会の時、警備に訪れた私服警官と会社の同僚が一緒になって自分を追いかけてきた。……あ、妄想です」。時々、自分で断りを入れながら、幻覚の苦しさを吐露する。
 「死のう」と富士の樹海に行った帰り、対向車のトラックが全て敵意を持ってパッシング(ヘッドライトの点滅)してきた、と見えた。発作的に焼津の歩道橋から身を投げた。両足と右ひじを骨折、頭蓋骨(ずがいこつ)も陥没する大けがを負った。
 定期的に通院するようになり、「パトカーの登場も減ってきた」。2年前に結婚して、市内の公営住宅に住む。「病者だけど全力で生きてきた」と語った。
 村沢龍一さん(34)はアルコール依存症と、うつ病に苦しんだ。先天性心疾患で幼少期に受けた手術跡があり、小学校でいじめられた。「中学でぐれ、お酒とたばこに手を出した」。絵を描く特技をいかした仕事についたが、上司とうまくいかずに酒量が増えた。会社を辞め、飲食店の店長になった。「自分の精神のゆがみを直視しないために、ひたすら飲み続けた」
 2度の入院。妻と2人の子は去っていった。断酒して3年。「酒のせいで頭の中は中学生で止まったまま。実年齢と差が開きすぎて苦しい」
 半年前から3度、脳梗塞(こうそく)で倒れた。幸い、まひは軽度ですんだ。「生きなさい」と言われたのだろう、と今回、体験を話すことにした、という。「だんだんと顔を上げて生きていきたい。マイペースで歩んでいきたい」
 セミナーは先月開かれ、主催したのは「精神保健福祉ネットワーク会議」。2002年に精神障害者と医療者、市が対等に話し合う場として発足した。当事者による公開セミナーは5年前に始まり、これまでに14人が市民を前に人生を語ってきた。
 心のクリニック(同市)の中江清員医師は「実名で地元で語るというのは、本当にすごいこと」。ケースワーカーの藁科ひろ子さんは「当事者の大変な歩みを聞くことで、身近な人に精神障害への理解や、助けたい、という気持ちが生まれる」。
 会場で聞いていた女性は「私も携帯ゲームにはまったり、買い物に逃げたりする。誰でも小さな依存症がある。2人の正直な言葉は、心に響きました」と話した。

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「不安障害」で適切な治療を受けているのは患者10人中1人に過ぎない

2018-02-04 07:32:37 | 精神科医療
 「不安障害」は一般に世間では「あがり症」や「赤面症」「対人恐怖症」とよばれており、その人の性格(極端な心配性)と捉えられがちで、“治療が必要な病気”として認識されていない傾向があります。
 では、どんな方が治療対象となるのでしょうか?
 単純に「社会生活に支障がある」場合です。
 具体例を「元住吉こころみクリニックHP」から引用;

・立場上避けられないシーンで常に恐怖があって精神的苦痛が大きい
・苦手なシーンに向かうためにお酒の力が必要になっている
・苦手なシーンのことを考えるだけで心身に不調を感じる
・会食を避けるために対人関係に支障がでている
・結婚を望んでいるのに異性との交流の場を避けてしまう

 「治療が必要な患者さんが治療を受けていない」という内容の記事を紹介します;

■ 不安障害:適切な治療を受けているのは患者10人中1人に過ぎない
Univadis Medical News2018.01.26
 治療を受ける患者は高所得国でも3分の1に過ぎないことが新しい数字から示唆される。
 世界保健機関(WHO)が委託した新しい研究から、不安を抱えており、その治療を受けている人は28%以下、「恐らく適切な」治療を受けているのは10%以下であることが分かった。
 21ヵ国51,500人以上を対象とした研究から、対象者の9.8%が不安障害のDSM-IV診断基準を満たすことが分かった。頻度は各国ごとに違っていたが、アフリカ諸国集団では5.3%、欧州諸国コホートでは10.4%であった。治療の必要性を認識していたのはそのうち41.3%に過ぎなかった。不安を他の障害と組み合わせず、単独で検討した場合は、この割合が26.3%に低下した。
 治療を受けた患者は27.6%に過ぎず、「恐らく適切な治療」を受けた患者は10%以下であった。治療を受けた患者は高所得国でも3分の1に過ぎなかった。
 『 Depression and Anxiety 』に結果を発表するように著者らは、結果は不安障害に対する認識と治療を改善する必要性を示唆するものである、と述べている。
 「不安障害に関しては、臨床ガイドラインを守るよう医療提供者に働きかけ、治療の質を改善することが重要です。」と筆頭著者のJordi Alonso氏は述べた。

<原著>
・Alonso J, Liu Z, Evans-Lacko S, Sadikova E, Sampson N, Chatterji S, Abdulmalik J, Aguilar-Gaxiola S, Al-Hamzawi A, Andrade LH, Bruffaerts R, Cardoso G, Cia A, Florescu S, de Girolamo G, Gureje O, Haro JM, He Y, de Jonge P, Karam EG, Kawakami N, Kovess-Masfety V, Lee S, Levinson D, Medina-Mora ME, Navarro-Mateu F, Pennell BE, Piazza M, Posada-Villa J, Ten Have M, Zarkov Z, Kessler RC, Thornicroft G; WHO World Mental Health Survey Collaborators. Treatment gap for anxiety disorders is global: Results of the World Mental Health Surveys in 21 countries. Depress Anxiety. 2018 Jan 22. doi: 10.1002/da.22711. PMID: 29356216.


<参考>
□ 全般性不安障害とは?不安が制御できない症状と年齢ごとの特徴、本人・周囲の対処法は?(LITALICO
日本不安症学会HP
□ 「社交不安障害(社交不安症)の認知行動療法マニュアル」(厚生労働省作成
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摂食障害に対するオランザピン治療の試み

2017-12-10 21:45:58 | 精神科医療
 薬の副作用を逆手にとって作用として使用した例をたまに見かけます。
 バイアグラも元々は副作用ですし、鼻水止め(抗ヒスタミン薬)の副作用としての眠気を逆手にとり睡眠導入薬として販売されているドリエル®もしかり。
 非定型抗精神病薬であるオランザピン(ジプレキサ®)は肥満の副作用で有名ですが、それを逆手にとって摂食障害の治療に応用したという研究報告を紹介します。

■ 摂食障害プログラム、オランザピンの使用は
ケアネット:2017/11/21
 顕著な障害や発育への影響に関連する摂食障害である回避性・制限性食物摂取症(ARFID)に対する薬理学的治療についての情報はほとんどない。米国・サウスカロライナ医科大学のTimothy D. Brewerton氏らは、ARFIDに対する薬物療法に関して臨床報告を行った。Journal of child and adolescent psychopharmacology誌オンライン版2017年10月25日号の報告。
 オランザピンの補助的投与と摂食障害(ED)プログラム(在宅、部分的入院、集中外来ケア)で治療されたARFID患者9例について、レトロスペクティブチャートレビューを行った。
 主な結果は以下のとおり。

・オランザピン平均初回投与量は0.9+0.63mg/日、オランザピン平均最終投与量は2.8+1.47mg/日であった。
・オランザピン投与前後の体重増加(3.3±7.3lb対13.1±7.9lb[2.99±6.62lb SI対11.88±7.17lb SI])に、有意な差が認められた(対応t検定:p<0.04、t=-2.48)。
・オランザピンの補助的投与は、体重増加だけでなく、不安、抑うつ、認知機能の改善に有用であった。
・オランザピンの補助的投与を行った患者では、臨床全般印象評価尺度(CGI)スコアの改善が認められた。

 著者らは「ARFID患者に対する低用量オランザピン補助的投与は、食生活の改善や体重増加、および不安、抑うつ、認知機能の改善が期待できる。将来、ARFID患者を対象とした無作為化プラセボ対照試験が望まれる」としている。
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双極性障害における混合状態の急性期および長期治療に関するWFSBPガイドライン2017

2017-12-05 08:22:37 | 精神科医療
 世界的なガイドライン作成に使用したデータベースの調査報告を紹介します。
 あまり目新しい情報は無いような・・・。

■ 双極性障害における混合状態の急性期および長期治療に関するWFSBPガイドライン
ケアネット:2017/12/05
 最近のガイドラインでは、双極性混合状態の認知や治療は、臨床的に関連性が高いものの、十分に評価されていない。WFSBP(生物学的精神医学会世界連合)ガイドラインでは、成人の双極性混合状態の急性期および長期治療に関するすべての科学的エビデンスのシステマティックレビューが行われた。本検討に関して、英国・ニューカッスル大学のHeinz Grunze氏らが報告を行った。The world journal of biological psychiatry誌オンライン版2017年11月3日号の報告。
 ガイドラインに使用した資料は、さまざまなデータベースを用いてシステマティックに文献検索を行い、抽出した。エビデンスは6つのレベル(A~F)に分類され、実行可能性を保証するため異なる推奨グレードが割り当てられた。著者らは、双極性混合状態患者における躁症状およびうつ症状の急性期治療に関するデータ、躁症状またはうつ症状エピソード後の混合エピソード再発予防に関するデータ、混合エピソード後の躁症状またはうつ症状の再発に関するデータを調査した。
 主な結果は以下のとおり。

・双極性混合状態における躁症状は、いくつかの非定型抗精神病薬による治療に反応しており、オランザピンによる治療において最も良いエビデンスが認められた。
・うつ症状では、通常治療にziprasidoneを追加することが有用であると考えられる。しかし、躁症状の治療よりも限定されたエビデンスしか存在しなかった。
・オランザピン、クエチアピンに加え、バルプロ酸、リチウムも再発予防のために考慮すべきである。

 本研究の限界として、混合状態の概念は時とともに変化しており、最近のDSM-5では包括的に扱われている。結果として、双極性混合状態患者における研究は、若干異なる双極性亜集団を対象としている。さらに、近年では急性期および維持治療の試験デザインが進歩している。
 著者らは「現在推奨されている双極性混合状態への治療は、限られたエビデンスに基づいており、混合機能コンセプトを用いたDSM-5に準じた研究が求められる」としている。
(鷹野 敦夫)


<原著論文>
Grunze H, et al. World J Biol Psychiatry. 2017 Nov 3.

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