<修論番外編(草稿より)>
(◆~◇部分は引用)
第2章 JICAの制度と体制
~ 企業は安心して社員を派遣できるか ~
1.1. 協力隊員の人物像
2011年(平成23年)1月末現在、8分野、世界5地域 、76カ国で活動している平均年齢約28歳、2725名の青年海外協力隊隊員たち は、どのような人材だろうか。
協力隊員に求められている人物像を概観するために、募集要項に記載されている応募にあたっての心構え、隊員に配布されるガイドに記載されている隊員適性、そして、協力隊事業創設の際に提示された協力隊員の人物像という3つの資料を見ておく。
まず、青年海外協力隊の募集要項の記載である。協力隊に参加するための心構えとして応募の前に考えるよう、次のように示されている。
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◆ 青年海外協力隊に参加した多くの方々が高い充実感を味わって帰国されます。しかしその充実感は現地で漫然と生活しているだけでは決して得ることはできません。次に掲げる2つの重要な心構えを自分自身の中で理解し、覚悟・納得し、青年海外協力隊員としての自覚と覚悟を持ち、自立的に行動できる方々に応募していただきたいと思います。
(青年海外協力隊、日系社会青年ボランティア 平成23年度秋募集 募集要項)◇
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2つの重要な心構えとは、「現地の人々と共に」「チャレンジ精神」としている。日本の高い技術力に対し途上国からの協力隊員派遣の要請があるが、その技術を活かすには、開発途上国の現場で、現地の人々の生活や考え方、行動様式を学び、現地の人々と同じ目線に立って活動し、信頼関係を築くことが必要であり、その上で本当に価値ある活動を始めることができる。また、現地での活動は日本と全く条件が違い、予想できない問題が次々に現れ、日本の常識も一切通用しないと考えておいたほうがよいような環境の下で、自ら発想し、行動を起こし、困難に立ち向かう勇気と忍耐力、強いチャレンジ精神が求められている、とも記載されている。
訓練所に入所してから配布される隊員ガイド(ハンドブック)の中で、隊員の適性は次のように示されている。
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◆ 現地で現地の人々の間に入っていき活動する「民衆指向」「草の根(グラス・ルーツ)指向」の隊員として、
●持続する情熱: 協力活動の途中で種々の困難に遭ったとしても、最後までやりぬく情熱を持続させること
●健康管理: 日本とは異なる自然・生活条件の下でも健康を維持する自己管理能力を持つこと
●文化的素養: 異民族社会における人間集団の中で行動様式を観察し、理解しようとする態度
●柔軟な思考力: その中にあって様々な手法を考えることのできる思考の柔軟性
●表現力・説得力: 事実を説明し自己の考え方を理解させうる表現力・説得力
(JICAボランティア・ハンドブック【長期派遣】2007年(平成19年)10月, p9, 「1-3-1 隊員とは?」)◇
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そして、昭和40年、協力隊の創設時にさかのぼると、協力隊員の「あるべき人間像」は次のように示されている。
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◆
①私利私欲を超越して日本青年海外協力隊計画を推進するに必要な、ときにはいやな仕事、愉快でない仕事にもすすんでたずさわる人。
②生活の不便は勿論、孤独感におそわれ、身近に危険を感じるような状況下でも、適切な判断のもとに終始仕事に従事する情熱を持っている人。
③自分とともに仕事をする相手国の人達を理解し、融和し、他の隊員とも仲よく働くことの出来る人
④肉体的に過重な労働を必要とする、またその活動分野を広く応用し、判断を誤らず積極的に関心を以て行動できる人。
⑤宗教、文化、民族的に異なった背景をもつ国の人たちの見解、偏見に対処する態度、また、それらの国々の直面する問題の理解につとめようとする、豊かな人であること。
⑥わが国をよく理解し、わが国の正しい理解を他の国の人々にすすめていける人。
(青年海外協力隊20世紀の軌跡, p7, 「協力隊の人間像」)◇
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これらから浮かび上がってくる自発性、民衆志向、バイタリティーと謙虚さ、基礎知識と経験、心身の健康、周囲の理解等 といった人物像は、青年海外協力隊隊員にだけ特別に要求される適性だろうか。自ら考え創意工夫し、あるものを活用し、相手を理解しようと努め、時には困難な過程を乗り越えて信頼関係を築き、協働して事業目標、業務目標を達成していくことは、民間企業で日々行われている事業活動の中で求められている人物像も同じではないだろうか。協力隊の活動先が途上国であるという違いはあり、生活環境として途上国のほうが厳しいかもしれないが、企業での業務には生活環境とは違ったストレスもあるであろうし、昨今、企業もグローバル化の波の中で勤務地が日本とは限らない。BOPビジネス の積極的な展開を計画する企業等もあり、強く、たくましく、精神的にも肉体的にも知的にもタフで柔軟な人材であることを求められる協力隊の隊員像は、企業人のそれとかわらない。このように見てくると、人材について、隊員像と社員像に顕著な齟齬はなく、自社社内で鍛える2年と、協力隊活動の2年の間で期待できる、あるいは要求される隊員、社員の人間的な成長については、どちらで過ごしても遜色ないと考えられる。
隊員が活動を実行するにあたって必要な能力として、堀江新子によれば(注:堀江新子, 平成20年9月, 『青年海外協力隊の国際協力活動に関する研究』p50)、「隊員自身の現場における洞察力、調整力、想像力」「周囲の人々を巻き込む熱意」「これらの能力を発揮するための、言語運用能力」「周囲の人を納得させる技術力、教養」が挙げられている 。
それでは、隊員たちはすべてがこの隊員像を満たす人材なのだろうか。ここで、隊員の選考について把握しておきたい。
青年海外協力隊の隊員は、原則公募制であり、一次試験、二次試験を受けて合格した志望者が隊員候補生となって訓練所への入所資格を得、派遣前訓練を修了して合意書を提出して協力隊員となる。一次試験、二次試験を通じて人物と技術レベルが測られる。
青年海外協力隊の応募の要件は、応募期間の最終日の満年齢が20歳以上39歳の日本国籍を持つ青年である。募集は年2回で、4~5月に行われる春募集と10~11月に行われる秋募集で募集される。活動任期は2年、派遣は年4回あり、それぞれの派遣時期にあわせて派遣前訓練が実施される。派遣時期については要請ごとに記載されている。協力隊参加希望者は、この募集期間に応募書類を提出する。応募書類は全員が提出必要な書類として応募者調書、応募用紙、健康診断書があり 、該当者のみ提出する書類として職種別試験解答用紙、語学力申告台紙がある。応募者調書は履歴書に該当し、応募職種に加え、希望要請を記入する欄もある。応募用紙で応募の動機や応募職種の選択理由、どのような活動が可能か、などを記述する。
直近の平成23年度秋募集の応募用紙の質問項目の内容は次の通りで、これらの質問がA4サイズの応募用紙表裏に印刷されており、応募者は記述式で記入する。
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◆
・ ボランティア活動に参加する動機、抱負
・ 応募者の考えるボランティア活動の意義、目的
・ 応募する職種や要請の選択理由、経験や技術適合性、セールスポイント、弱点
・ 自己PR、応募する職種に関係する経験以外で特筆すべき経験
・ 実際に派遣された場合、活動内容、日常生活も含めどのようなボランティア活動を行うか
・ 帰国後、参加経験をどのように生かしたいか ◇
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質問の内容と記入欄の量から、青年海外協力隊への参加を考え、質問に対する自分なりの思考をまとめて記述することができれば、一次試験は合格できるだろう。この一次試験の応募用紙で応募の動機や職種選択理由、経験等曖昧な点があれば、二次試験の面接で問われる。民間企業の社員は技術系といえども業務の中で社内文書や報告書等を書くことは必須であり、論理一貫性や説得性、簡潔にまとめて理解しやすく提示することなど日々協力隊試験の訓練をしているようなものであるから、応募書類の記入にはさほど困ることはないと考えられるが、それでも合格できるとは限らない。協力隊の試験は、落とすための試験ではないと言われているが、合格者は苛酷な途上国での活動に耐えうるであろう初志と動機と体力を持ち、それを論理的に説明できる志望者であり、国家事業として派遣されるに適格な人材であると言える。
(◆~◇部分は引用)
第2章 JICAの制度と体制
~ 企業は安心して社員を派遣できるか ~
1.1. 協力隊員の人物像
2011年(平成23年)1月末現在、8分野、世界5地域 、76カ国で活動している平均年齢約28歳、2725名の青年海外協力隊隊員たち は、どのような人材だろうか。
協力隊員に求められている人物像を概観するために、募集要項に記載されている応募にあたっての心構え、隊員に配布されるガイドに記載されている隊員適性、そして、協力隊事業創設の際に提示された協力隊員の人物像という3つの資料を見ておく。
まず、青年海外協力隊の募集要項の記載である。協力隊に参加するための心構えとして応募の前に考えるよう、次のように示されている。
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◆ 青年海外協力隊に参加した多くの方々が高い充実感を味わって帰国されます。しかしその充実感は現地で漫然と生活しているだけでは決して得ることはできません。次に掲げる2つの重要な心構えを自分自身の中で理解し、覚悟・納得し、青年海外協力隊員としての自覚と覚悟を持ち、自立的に行動できる方々に応募していただきたいと思います。
(青年海外協力隊、日系社会青年ボランティア 平成23年度秋募集 募集要項)◇
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2つの重要な心構えとは、「現地の人々と共に」「チャレンジ精神」としている。日本の高い技術力に対し途上国からの協力隊員派遣の要請があるが、その技術を活かすには、開発途上国の現場で、現地の人々の生活や考え方、行動様式を学び、現地の人々と同じ目線に立って活動し、信頼関係を築くことが必要であり、その上で本当に価値ある活動を始めることができる。また、現地での活動は日本と全く条件が違い、予想できない問題が次々に現れ、日本の常識も一切通用しないと考えておいたほうがよいような環境の下で、自ら発想し、行動を起こし、困難に立ち向かう勇気と忍耐力、強いチャレンジ精神が求められている、とも記載されている。
訓練所に入所してから配布される隊員ガイド(ハンドブック)の中で、隊員の適性は次のように示されている。
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◆ 現地で現地の人々の間に入っていき活動する「民衆指向」「草の根(グラス・ルーツ)指向」の隊員として、
●持続する情熱: 協力活動の途中で種々の困難に遭ったとしても、最後までやりぬく情熱を持続させること
●健康管理: 日本とは異なる自然・生活条件の下でも健康を維持する自己管理能力を持つこと
●文化的素養: 異民族社会における人間集団の中で行動様式を観察し、理解しようとする態度
●柔軟な思考力: その中にあって様々な手法を考えることのできる思考の柔軟性
●表現力・説得力: 事実を説明し自己の考え方を理解させうる表現力・説得力
(JICAボランティア・ハンドブック【長期派遣】2007年(平成19年)10月, p9, 「1-3-1 隊員とは?」)◇
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そして、昭和40年、協力隊の創設時にさかのぼると、協力隊員の「あるべき人間像」は次のように示されている。
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◆
①私利私欲を超越して日本青年海外協力隊計画を推進するに必要な、ときにはいやな仕事、愉快でない仕事にもすすんでたずさわる人。
②生活の不便は勿論、孤独感におそわれ、身近に危険を感じるような状況下でも、適切な判断のもとに終始仕事に従事する情熱を持っている人。
③自分とともに仕事をする相手国の人達を理解し、融和し、他の隊員とも仲よく働くことの出来る人
④肉体的に過重な労働を必要とする、またその活動分野を広く応用し、判断を誤らず積極的に関心を以て行動できる人。
⑤宗教、文化、民族的に異なった背景をもつ国の人たちの見解、偏見に対処する態度、また、それらの国々の直面する問題の理解につとめようとする、豊かな人であること。
⑥わが国をよく理解し、わが国の正しい理解を他の国の人々にすすめていける人。
(青年海外協力隊20世紀の軌跡, p7, 「協力隊の人間像」)◇
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これらから浮かび上がってくる自発性、民衆志向、バイタリティーと謙虚さ、基礎知識と経験、心身の健康、周囲の理解等 といった人物像は、青年海外協力隊隊員にだけ特別に要求される適性だろうか。自ら考え創意工夫し、あるものを活用し、相手を理解しようと努め、時には困難な過程を乗り越えて信頼関係を築き、協働して事業目標、業務目標を達成していくことは、民間企業で日々行われている事業活動の中で求められている人物像も同じではないだろうか。協力隊の活動先が途上国であるという違いはあり、生活環境として途上国のほうが厳しいかもしれないが、企業での業務には生活環境とは違ったストレスもあるであろうし、昨今、企業もグローバル化の波の中で勤務地が日本とは限らない。BOPビジネス の積極的な展開を計画する企業等もあり、強く、たくましく、精神的にも肉体的にも知的にもタフで柔軟な人材であることを求められる協力隊の隊員像は、企業人のそれとかわらない。このように見てくると、人材について、隊員像と社員像に顕著な齟齬はなく、自社社内で鍛える2年と、協力隊活動の2年の間で期待できる、あるいは要求される隊員、社員の人間的な成長については、どちらで過ごしても遜色ないと考えられる。
隊員が活動を実行するにあたって必要な能力として、堀江新子によれば(注:堀江新子, 平成20年9月, 『青年海外協力隊の国際協力活動に関する研究』p50)、「隊員自身の現場における洞察力、調整力、想像力」「周囲の人々を巻き込む熱意」「これらの能力を発揮するための、言語運用能力」「周囲の人を納得させる技術力、教養」が挙げられている 。
それでは、隊員たちはすべてがこの隊員像を満たす人材なのだろうか。ここで、隊員の選考について把握しておきたい。
青年海外協力隊の隊員は、原則公募制であり、一次試験、二次試験を受けて合格した志望者が隊員候補生となって訓練所への入所資格を得、派遣前訓練を修了して合意書を提出して協力隊員となる。一次試験、二次試験を通じて人物と技術レベルが測られる。
青年海外協力隊の応募の要件は、応募期間の最終日の満年齢が20歳以上39歳の日本国籍を持つ青年である。募集は年2回で、4~5月に行われる春募集と10~11月に行われる秋募集で募集される。活動任期は2年、派遣は年4回あり、それぞれの派遣時期にあわせて派遣前訓練が実施される。派遣時期については要請ごとに記載されている。協力隊参加希望者は、この募集期間に応募書類を提出する。応募書類は全員が提出必要な書類として応募者調書、応募用紙、健康診断書があり 、該当者のみ提出する書類として職種別試験解答用紙、語学力申告台紙がある。応募者調書は履歴書に該当し、応募職種に加え、希望要請を記入する欄もある。応募用紙で応募の動機や応募職種の選択理由、どのような活動が可能か、などを記述する。
直近の平成23年度秋募集の応募用紙の質問項目の内容は次の通りで、これらの質問がA4サイズの応募用紙表裏に印刷されており、応募者は記述式で記入する。
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◆
・ ボランティア活動に参加する動機、抱負
・ 応募者の考えるボランティア活動の意義、目的
・ 応募する職種や要請の選択理由、経験や技術適合性、セールスポイント、弱点
・ 自己PR、応募する職種に関係する経験以外で特筆すべき経験
・ 実際に派遣された場合、活動内容、日常生活も含めどのようなボランティア活動を行うか
・ 帰国後、参加経験をどのように生かしたいか ◇
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質問の内容と記入欄の量から、青年海外協力隊への参加を考え、質問に対する自分なりの思考をまとめて記述することができれば、一次試験は合格できるだろう。この一次試験の応募用紙で応募の動機や職種選択理由、経験等曖昧な点があれば、二次試験の面接で問われる。民間企業の社員は技術系といえども業務の中で社内文書や報告書等を書くことは必須であり、論理一貫性や説得性、簡潔にまとめて理解しやすく提示することなど日々協力隊試験の訓練をしているようなものであるから、応募書類の記入にはさほど困ることはないと考えられるが、それでも合格できるとは限らない。協力隊の試験は、落とすための試験ではないと言われているが、合格者は苛酷な途上国での活動に耐えうるであろう初志と動機と体力を持ち、それを論理的に説明できる志望者であり、国家事業として派遣されるに適格な人材であると言える。