【修士論文「民間企業の青年海外協力隊現職参加について-希望する社員への対応に関する一考察」(Copyright: 吉備国際大学大学院(通信制)連合国際協力研究科 国際協力専攻 学生番号:M931003 All rights reserved.)】
第2章 企業が支援する理由
- 企業の社会的責任からの考察 -
2. 企業の捉え方
(略)
◆ 訓練から派遣まで
青年海外協力隊の試験に合格した隊員は、派遣前に65日間の合宿訓練を受ける。この派遣前訓練は、隊員に提供される非常に貴重な経験のひとつである。この訓練は、独立行政法人国際協力機構法に基づいて実施される 。訓練も選考の一過程と位置付けられており、隊員になるためには訓練修了が要件となる。いっしょに訓練した隊員候補生は、いわば同期隊員で、訓練後約2週間後を目処に任国へ出発する。訓練は年に4回、主に長野県にある駒ヶ根訓練所と福島県にある二本松訓練所で行われている。4月に訓練が開始される隊次は1次隊、7月開始は2次隊、10月開始は3次隊、1月開始は4次隊と呼ばれる。この両訓練所でそれぞれ100名から250名程度の候補生が同時に訓練を受ける。訓練所は派遣国によって指定されるため、各々の訓練所には、隊員の職種8分野、さまざまな職種の隊員候補生がいる。平成19年度3次隊からはそれまで別々に実施されていた青年海外協力隊とシニア海外ボランティアの合同訓練が開始されたため、年齢的にも20歳から70歳前後までの隊員候補生がいっしょに訓練を受けている。
訓練所での隊員の構成は、平成19年度3次隊二本松訓練所の例では職種は7分野、58職種、男性62名、女性69名、計131名であった。内、青年海外協力隊隊員候補生は男性39名、女性62名、計101名、それ以外がシニア海外ボランティアである。候補生全員の平均年齢は男性40.6歳、女性30.4歳、総平均年齢35.2歳、このうち青年海外協力隊隊員候補生は男性28.3歳、女性27.7歳、総平均27.9歳であった。派遣予定国は3地域28ヵ国であった。
民間企業の実施する異業種交流会や各種セミナーでも、これほどバラエティに富んだ職種や年齢層が集まる交流会は見あたらないだろう。そこに参集している隊員候補生は、途上国での技術移転を志向して試験を受け合格した専門家たちである。訓練所を出たあとは、単独で見知らぬ途上国での活動がはじまるという緊張感のもと、同期の隊員候補生たちと65日間、寝食を共にし、語学と技術、知識に最後の磨きをかけ、派遣に備える。民間企業の社員もこの訓練所で同期の人材には大きな刺激を受ける。企業の中で大切に育てられ、企業名に守られてきた社員は、自分と同世代にこれほど多様な職種の専門家がおり、すべてが途上国での技術協力を志向したボランティアであることを目の当たりにし、それまで経験したことのない広い世界を垣間見ることになるのである。
語学修得もまた、隊員候補生となった社員に提供されるメニューのひとつである。派遣前訓練のメインは語学修得である。全387時間の講座の中で、語学が258時間、総時間の約2/3を占める。平成19年度3次隊二本松訓練所では英語を含めて13ヶ国語の訓練が実施された 。訓練所を出ると通常約2週間後にはその言葉しか通じない可能性のある国へ1人、もしくは多くても数名で赴くことになる。訓練が始まって1ヶ月になる頃から同じ語学クラスの隊員候補生とは現地語で話すように指示され、65日間の訓練を終えるころには、ある程度日常会話はできるようになる。現地へ行って相手の言うことがわからない可能性はあるが、こちらの伝えたいことは、少ない語彙でも初歩の文法を駆使すれば言える程度になる。
派遣前訓練では、語学のほかに、国際協力、ボランティア事業、安全管理・健康管理等の各種講座が提供され、隊員候補生が受講する。平成19年3次隊の訓練は目的別に6つの分野で構成されていた。語学講座、ボランティア講座、任国事情・異文化適応講座、安全管理講座、自主企画、その他行事やオリエンテーション等である。日本から国の事業として派遣されるボランティアとして必要最低限の知識は網羅されている。ボランティア講座の内容は、民間企業では企業側から提供されることはまずない内容であり、企業のグローバル化もすすむ中、最低限の国際関係、国際協力の知識は、企業人としても知っておいたほうがよい内容である。「国際関係と日本の国際協力」「人間の安全保障」のほか、JICAの事業内容や処遇、制度に関する講座、「青年海外協力隊事業の理念」といった講座が必修であった。異文化適応についての講座についても、「コミュニケーション手法」「異文化の理解と適応」「異文化体験シミュレーション」といった異文化に関する必修講座に加え、「生活技法講座」「イスラム教とは何か」「日本の近・現代史」といった講座も提供された。安全管理講座は派遣先が途上国であるという特徴を表し、感染症や狂犬病、交通安全に関する知識や初歩の救急法を習得する内容となっている 。
このほか、訓練所では隊員による自主活動として時間外に各分野の専門家たちが、途上国に行ったときにすぐに役立つ知識などを提供しあう。例えば日本語教師による超初級用日本語ワンポイントレッスンの仕方講座などがあった。また、特別行事として皇室接見もあった。予防接種は毎週火曜、講堂で該当感染症やそのワクチンについての副作用等を含めた説明を受けた後、A型肝炎2回、B型肝炎2回、狂犬病3回、破傷風1回のワクチン接種が行われた 。
(中略)
訓練所の最終日には修了式と壮行会が行われる。家族が迎えに来る隊員もいて会は盛り上がる。どこかにこれから任地で一人で活動することへの緊張感を持ちながら、65日間をいっしょにすごした候補生たちと交わす旅発ちの言葉は「ありがとう」と「生きて帰ってこようね」である。平成19年度3次隊二本松訓練所で訓練を受けた隊員たちは訓練修了数週間後、自治体の表敬訪問を経てそれぞれの任地、28カ国へ向かった。
◆ (中略)
平均年齢27~28歳、入社3年~10年目、民間企業の貴重な戦力であり、企業人としても育ち盛りである社員を2年余りもの間、青年海外協力隊活動に参加させるのであるから、企業としては、社員自身が自己実現のために企業を休職してボランティア活動に参加するとはいえ、自社でその社員にその2年余りで提供できるものと、少なくとも同等か、できればそれ以上の価値のある経験を得てきてほしいと考える。企業の勤務の中では出会えない人と出会い、社員の人生を豊かにするような活動ができることを望みながら派遣する。他人の釜の飯を食べ、たくましくなって戻ってこい、という、いわば武者修行に出すような心持であろう。海外協力隊事業は、企業のこの思いに応えることが可能な事業である。
第2章 企業が支援する理由
- 企業の社会的責任からの考察 -
2. 企業の捉え方
(略)
◆ 訓練から派遣まで
青年海外協力隊の試験に合格した隊員は、派遣前に65日間の合宿訓練を受ける。この派遣前訓練は、隊員に提供される非常に貴重な経験のひとつである。この訓練は、独立行政法人国際協力機構法に基づいて実施される 。訓練も選考の一過程と位置付けられており、隊員になるためには訓練修了が要件となる。いっしょに訓練した隊員候補生は、いわば同期隊員で、訓練後約2週間後を目処に任国へ出発する。訓練は年に4回、主に長野県にある駒ヶ根訓練所と福島県にある二本松訓練所で行われている。4月に訓練が開始される隊次は1次隊、7月開始は2次隊、10月開始は3次隊、1月開始は4次隊と呼ばれる。この両訓練所でそれぞれ100名から250名程度の候補生が同時に訓練を受ける。訓練所は派遣国によって指定されるため、各々の訓練所には、隊員の職種8分野、さまざまな職種の隊員候補生がいる。平成19年度3次隊からはそれまで別々に実施されていた青年海外協力隊とシニア海外ボランティアの合同訓練が開始されたため、年齢的にも20歳から70歳前後までの隊員候補生がいっしょに訓練を受けている。
訓練所での隊員の構成は、平成19年度3次隊二本松訓練所の例では職種は7分野、58職種、男性62名、女性69名、計131名であった。内、青年海外協力隊隊員候補生は男性39名、女性62名、計101名、それ以外がシニア海外ボランティアである。候補生全員の平均年齢は男性40.6歳、女性30.4歳、総平均年齢35.2歳、このうち青年海外協力隊隊員候補生は男性28.3歳、女性27.7歳、総平均27.9歳であった。派遣予定国は3地域28ヵ国であった。
民間企業の実施する異業種交流会や各種セミナーでも、これほどバラエティに富んだ職種や年齢層が集まる交流会は見あたらないだろう。そこに参集している隊員候補生は、途上国での技術移転を志向して試験を受け合格した専門家たちである。訓練所を出たあとは、単独で見知らぬ途上国での活動がはじまるという緊張感のもと、同期の隊員候補生たちと65日間、寝食を共にし、語学と技術、知識に最後の磨きをかけ、派遣に備える。民間企業の社員もこの訓練所で同期の人材には大きな刺激を受ける。企業の中で大切に育てられ、企業名に守られてきた社員は、自分と同世代にこれほど多様な職種の専門家がおり、すべてが途上国での技術協力を志向したボランティアであることを目の当たりにし、それまで経験したことのない広い世界を垣間見ることになるのである。
語学修得もまた、隊員候補生となった社員に提供されるメニューのひとつである。派遣前訓練のメインは語学修得である。全387時間の講座の中で、語学が258時間、総時間の約2/3を占める。平成19年度3次隊二本松訓練所では英語を含めて13ヶ国語の訓練が実施された 。訓練所を出ると通常約2週間後にはその言葉しか通じない可能性のある国へ1人、もしくは多くても数名で赴くことになる。訓練が始まって1ヶ月になる頃から同じ語学クラスの隊員候補生とは現地語で話すように指示され、65日間の訓練を終えるころには、ある程度日常会話はできるようになる。現地へ行って相手の言うことがわからない可能性はあるが、こちらの伝えたいことは、少ない語彙でも初歩の文法を駆使すれば言える程度になる。
派遣前訓練では、語学のほかに、国際協力、ボランティア事業、安全管理・健康管理等の各種講座が提供され、隊員候補生が受講する。平成19年3次隊の訓練は目的別に6つの分野で構成されていた。語学講座、ボランティア講座、任国事情・異文化適応講座、安全管理講座、自主企画、その他行事やオリエンテーション等である。日本から国の事業として派遣されるボランティアとして必要最低限の知識は網羅されている。ボランティア講座の内容は、民間企業では企業側から提供されることはまずない内容であり、企業のグローバル化もすすむ中、最低限の国際関係、国際協力の知識は、企業人としても知っておいたほうがよい内容である。「国際関係と日本の国際協力」「人間の安全保障」のほか、JICAの事業内容や処遇、制度に関する講座、「青年海外協力隊事業の理念」といった講座が必修であった。異文化適応についての講座についても、「コミュニケーション手法」「異文化の理解と適応」「異文化体験シミュレーション」といった異文化に関する必修講座に加え、「生活技法講座」「イスラム教とは何か」「日本の近・現代史」といった講座も提供された。安全管理講座は派遣先が途上国であるという特徴を表し、感染症や狂犬病、交通安全に関する知識や初歩の救急法を習得する内容となっている 。
このほか、訓練所では隊員による自主活動として時間外に各分野の専門家たちが、途上国に行ったときにすぐに役立つ知識などを提供しあう。例えば日本語教師による超初級用日本語ワンポイントレッスンの仕方講座などがあった。また、特別行事として皇室接見もあった。予防接種は毎週火曜、講堂で該当感染症やそのワクチンについての副作用等を含めた説明を受けた後、A型肝炎2回、B型肝炎2回、狂犬病3回、破傷風1回のワクチン接種が行われた 。
(中略)
訓練所の最終日には修了式と壮行会が行われる。家族が迎えに来る隊員もいて会は盛り上がる。どこかにこれから任地で一人で活動することへの緊張感を持ちながら、65日間をいっしょにすごした候補生たちと交わす旅発ちの言葉は「ありがとう」と「生きて帰ってこようね」である。平成19年度3次隊二本松訓練所で訓練を受けた隊員たちは訓練修了数週間後、自治体の表敬訪問を経てそれぞれの任地、28カ国へ向かった。
◆ (中略)
平均年齢27~28歳、入社3年~10年目、民間企業の貴重な戦力であり、企業人としても育ち盛りである社員を2年余りもの間、青年海外協力隊活動に参加させるのであるから、企業としては、社員自身が自己実現のために企業を休職してボランティア活動に参加するとはいえ、自社でその社員にその2年余りで提供できるものと、少なくとも同等か、できればそれ以上の価値のある経験を得てきてほしいと考える。企業の勤務の中では出会えない人と出会い、社員の人生を豊かにするような活動ができることを望みながら派遣する。他人の釜の飯を食べ、たくましくなって戻ってこい、という、いわば武者修行に出すような心持であろう。海外協力隊事業は、企業のこの思いに応えることが可能な事業である。