<修論番外編(草稿より)>
(◆~◇部分は引用)
第4章 結論
これまで、第1章から第3章まで、民間企業からの青年海外協力隊への社員の現職参加への支援について検証と確認を行ってきた。第1章ではその論理的根拠、社会的要請、実効性の検証により、企業がそれを支援することについての適格性を確認した。第2章では、JICAの制度や体制を含め、民間企業がこの事業を支援するにあたっての安全性を確認した。そして第3章では、民間企業がどのように対応してきたか、しているか、対応できていない部分は何か、その理由を確認した。
結論としては、民間企業からの青年海外協力隊への社員の現職参加への支援には法律に基づいた国家事業であるという論理的根拠があり、CSRといった社会的要請の背景もある。事業の効果についても調査による裏づけもあり、企業が支援するにあたり支障はなく、事業目的に対する効果も上がっている。民間企業からの現職参加にあたり、社員には民間企業では提供できない訓練、講座や行事等のプログラムも用意され、派遣中の安全についても企業が社員を委ねられる内容となっている。派遣する社員への給与については補てん制度も整えられ、不在期間中の社会保険料等や事務作業経費の補てんもされる。民間企業は社員を派遣することにより、CSRを果たすことができ、また、社員の成長という形での還元を受けることもある。それでも尚、現職参加を認められない企業があり、認めたとしても無給休職という企業例が継続している。
つまり、青年海外協力隊事業への社員の現職参加は、民間企業にとって容易な支援ではない、という結論に達せざるを得ない。
既述のとおり、社員に支払う所得が補てんされ、社会保険料や事務作業経費まで税金からの還元を受けても、その社員がいない間にほかの人を雇う部分は補てんされない。2年でその社員は戻ってくる。その場所も用意しなくてはならない。その社員が不在の2年間、協力隊に参加せずその企業いた場合にもたらされるかもしれなかった利益や波及効果は全くなくなる。戻ってきた社員の技術が向上している可能性はほとんどなく、人間的な成長は期待できるであろう、という予想ができるのみで、企業には何一つ確実なリターンは約束されていない。どんなに制度が整っていようと、社員がボランティアで参加すると同様に、企業が社員の現職参加を支援することは、企業にとっても痛みを伴うボランティアなのである。
では、なぜ現職参加を認める企業があるかについては、3つの場合がある。1つは、研修として利用できる場合、つまり、途上国への国際協力が事業内容に直結する場合である。例えば途上国専門の国際協力コンサルタントなど。一般の民間企業の中でも、本業に直結した職種での参加なら認める、という企業もある。このような企業は、戦略的に青年海外協力隊事業に社員を送りこんでいる。2つ目は、CSR上拒否できない場合である。「拒否できない」は、物理的、金銭的などの理由でできない場合だけでなく、支援しないことに対する広報的リスクが大きいと判断する場合、企業の姿勢としてできない場合など、目に見えない理由、精神論的な理由も含む。3つ目は、社員支援の裨益効果が支援しないときの効果よりも高いと企業が認められる場合である。例えば、社員の成長が将来の企業に還元されることをほぼ確実視している場合がこれに当たる。また、企業の姿勢として、青年海外協力隊参加を支援しているというCSRの実践をアピールする材料とする場合である。
これらのケースの中で一般的なものは2つ目であろう。3つ目も考えられるが企業として論拠にするには不確実性が高すぎる。企業にとって、社員一人が完全に社外業務専任となってしまう2年は痛みを伴うものであるが、第1章で確認した国家事業でありそれがその事業目的に対する実効性を上げていることから、支援せざるを得ないと判断したり支援するべきだと覚悟を決めたりする。その決断の一助となるのが第2章で確認した制度や体制による支援と安全性であり、社員自身に提供される、企業では提供し得ない経験である。3つ目のケースもここに該当する。
次は、JICAの資料からの抜粋である。
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◆退職参加を予定している方へ
帰国後の進路について
(略)・・・自分の希望に沿った就職先を確保するのは非常に困難なのが現状であることを十分に心得ておいて下さい。また、単に2年間の活動期間を終了しただけでは、帰国後自分を売り込むものがなく、自分を取り巻く客観的状況はボランティア事業参加前より悪くなっている場合すらあります。
(平成19年7月 協力隊事務局 「身分措置関連資料」より)◇
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隊員候補生に、厳しい現実に対する心構えをしておくよう注意喚起をする目的があるとはいえ、「単に2年間の活動期間を終了しただけ」では「帰国後自分を売り込むものがない」と言い切っている。帰国後の就職支援が、JICAにとっては大きな課題のひとつである。前述のとおり全国に進路相談カウンセラーが配置され、就職情報の提供や進路開拓のアドバイスを行っていても、なかなか再就職先が見つからないのが現実である。厳しい現実についての事例は数え切れないほど紹介されている。JICAの隊員向情報誌「クロスロード」では帰国後の進路が毎回シリーズとなっている。
また、次のような記述も見られる。
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◆ しかし、協力隊に対する世間の眼は冷たい。帰国後の就職で2年間の経験が評価されることはまれだ。既に応募時に就職していて協力隊に合格すると、ほとんどの企業では休職を認めず退職を勧告する。それゆえ帰国してから就職先を探すのが悩みの種となる。米国の平和部隊(Peace Corps)が同国で高い評価を受けているのと対照的である。とはいえ、日本社会では、30歳にも満たない青年(隊員の平均は27歳)を2年間の海外経験があるからといって、それをキャリアとして評価するのは難しい。日本の企業で働いていれば、27歳前後の青年時代は企業内の研修でノウハウをたたき込まれ、企業に役立つ人間に育って行く重要な時期である。そのような大事な時期に2年も企業を去り、世界の辺境ともいえる地域で経験を積んだからといって、先進国である日本の仕事に直接有用なものはほとんど得られないだろう。
(川勝 平太 調査研究「21世紀のJICAボランティア事業のあり方」に寄せて )◇
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直近2011(平成23)年8月のJICAボランティア事業実施のあり方検討委員会の報告書「世界と日本の未来を創るボランティア――JICAボランティア事業実施の方向性」でもJICAボランティアの帰国後の就職が長年の課題であるとの言及があり、「グローバルな視点を持った人材」の企業界での需要の高まりを企業がJICAボランティアの価値を再評価する機会としている。「これまで企業経営者や人事担当者に対して、JICAボランティアが企業にとって有力なリソースであることが十分伝えられていないのが現状」であり、「この機会を生かしてその価値を如何に普及・浸透していくかが課題」とされている。2002年から9年たっても、現状に変化はほとんどないと言える。現職参加は帰国後の就職の心配はないが、現職参加する社員はある覚悟をしておく必要がある。それは、社員の青年海外協力隊事業への現職参加は、社員としては規格外品であるという自覚と覚悟である。社員を協力隊活動に現職参加させるということは、一般企業にとっては、大きな痛みを伴うものであり、できれば避けたいものである。それを押してボランティアで参加するのであるから、社外業務に専任する2年は、企業内のキャリアでは空白となってもしかたがないものであり、レールをはずれるのも止むを得ない。企業は、血を流しながら社員の自己実現を支援するのである。社員は、いつまでもその負い目を背負うことになる。企業人として生涯を企業に捧げようという社員は、協力隊に参加しないですむなら参加しないほうがよい。
次のような課題もある。協力隊、あるいは帰国隊員に対する評価は低い。
『21世紀のJICAボランティア事業のあり方報告書』(2002)p112で、研究会のメンバーであった田中章義(歌人・国連WAFUNIF親善大使)が書いている。
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◆ 帰国隊員のアンケート調査でOBやOGに対する国内評価が「評価されていない」と答えた人が78.1%、協力隊の理解促進広報の必要性を語った人が、とても必要(50.9%)とまあ必要(38.6%)を合わせて89.5%もいるという事実に、私たちは真摯に着目する必要があるだろう。◇
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<中略>
『海外ボランティア・専門家経験者アンケート調査』(2002年報告)によるOB・OGに対する国内での評価についてのOB・OG自身が受けていると感じる評価は、次のとおり。
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◆(p71)
とても高い・・・・・・・青年2.0%・シニア9.2%
まあ高い・・・・・・・・青年17.1%・シニア38.0%
あまり評価されていない・青年62.1%・シニア41.7%
全く評価されていない・・青年16.0%・シニア9.2%
無回答・・・・・・・・・青年2.7%・シニア1.8% ◇
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(つづく)
(◆~◇部分は引用)
第4章 結論
これまで、第1章から第3章まで、民間企業からの青年海外協力隊への社員の現職参加への支援について検証と確認を行ってきた。第1章ではその論理的根拠、社会的要請、実効性の検証により、企業がそれを支援することについての適格性を確認した。第2章では、JICAの制度や体制を含め、民間企業がこの事業を支援するにあたっての安全性を確認した。そして第3章では、民間企業がどのように対応してきたか、しているか、対応できていない部分は何か、その理由を確認した。
結論としては、民間企業からの青年海外協力隊への社員の現職参加への支援には法律に基づいた国家事業であるという論理的根拠があり、CSRといった社会的要請の背景もある。事業の効果についても調査による裏づけもあり、企業が支援するにあたり支障はなく、事業目的に対する効果も上がっている。民間企業からの現職参加にあたり、社員には民間企業では提供できない訓練、講座や行事等のプログラムも用意され、派遣中の安全についても企業が社員を委ねられる内容となっている。派遣する社員への給与については補てん制度も整えられ、不在期間中の社会保険料等や事務作業経費の補てんもされる。民間企業は社員を派遣することにより、CSRを果たすことができ、また、社員の成長という形での還元を受けることもある。それでも尚、現職参加を認められない企業があり、認めたとしても無給休職という企業例が継続している。
つまり、青年海外協力隊事業への社員の現職参加は、民間企業にとって容易な支援ではない、という結論に達せざるを得ない。
既述のとおり、社員に支払う所得が補てんされ、社会保険料や事務作業経費まで税金からの還元を受けても、その社員がいない間にほかの人を雇う部分は補てんされない。2年でその社員は戻ってくる。その場所も用意しなくてはならない。その社員が不在の2年間、協力隊に参加せずその企業いた場合にもたらされるかもしれなかった利益や波及効果は全くなくなる。戻ってきた社員の技術が向上している可能性はほとんどなく、人間的な成長は期待できるであろう、という予想ができるのみで、企業には何一つ確実なリターンは約束されていない。どんなに制度が整っていようと、社員がボランティアで参加すると同様に、企業が社員の現職参加を支援することは、企業にとっても痛みを伴うボランティアなのである。
では、なぜ現職参加を認める企業があるかについては、3つの場合がある。1つは、研修として利用できる場合、つまり、途上国への国際協力が事業内容に直結する場合である。例えば途上国専門の国際協力コンサルタントなど。一般の民間企業の中でも、本業に直結した職種での参加なら認める、という企業もある。このような企業は、戦略的に青年海外協力隊事業に社員を送りこんでいる。2つ目は、CSR上拒否できない場合である。「拒否できない」は、物理的、金銭的などの理由でできない場合だけでなく、支援しないことに対する広報的リスクが大きいと判断する場合、企業の姿勢としてできない場合など、目に見えない理由、精神論的な理由も含む。3つ目は、社員支援の裨益効果が支援しないときの効果よりも高いと企業が認められる場合である。例えば、社員の成長が将来の企業に還元されることをほぼ確実視している場合がこれに当たる。また、企業の姿勢として、青年海外協力隊参加を支援しているというCSRの実践をアピールする材料とする場合である。
これらのケースの中で一般的なものは2つ目であろう。3つ目も考えられるが企業として論拠にするには不確実性が高すぎる。企業にとって、社員一人が完全に社外業務専任となってしまう2年は痛みを伴うものであるが、第1章で確認した国家事業でありそれがその事業目的に対する実効性を上げていることから、支援せざるを得ないと判断したり支援するべきだと覚悟を決めたりする。その決断の一助となるのが第2章で確認した制度や体制による支援と安全性であり、社員自身に提供される、企業では提供し得ない経験である。3つ目のケースもここに該当する。
次は、JICAの資料からの抜粋である。
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◆退職参加を予定している方へ
帰国後の進路について
(略)・・・自分の希望に沿った就職先を確保するのは非常に困難なのが現状であることを十分に心得ておいて下さい。また、単に2年間の活動期間を終了しただけでは、帰国後自分を売り込むものがなく、自分を取り巻く客観的状況はボランティア事業参加前より悪くなっている場合すらあります。
(平成19年7月 協力隊事務局 「身分措置関連資料」より)◇
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隊員候補生に、厳しい現実に対する心構えをしておくよう注意喚起をする目的があるとはいえ、「単に2年間の活動期間を終了しただけ」では「帰国後自分を売り込むものがない」と言い切っている。帰国後の就職支援が、JICAにとっては大きな課題のひとつである。前述のとおり全国に進路相談カウンセラーが配置され、就職情報の提供や進路開拓のアドバイスを行っていても、なかなか再就職先が見つからないのが現実である。厳しい現実についての事例は数え切れないほど紹介されている。JICAの隊員向情報誌「クロスロード」では帰国後の進路が毎回シリーズとなっている。
また、次のような記述も見られる。
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◆ しかし、協力隊に対する世間の眼は冷たい。帰国後の就職で2年間の経験が評価されることはまれだ。既に応募時に就職していて協力隊に合格すると、ほとんどの企業では休職を認めず退職を勧告する。それゆえ帰国してから就職先を探すのが悩みの種となる。米国の平和部隊(Peace Corps)が同国で高い評価を受けているのと対照的である。とはいえ、日本社会では、30歳にも満たない青年(隊員の平均は27歳)を2年間の海外経験があるからといって、それをキャリアとして評価するのは難しい。日本の企業で働いていれば、27歳前後の青年時代は企業内の研修でノウハウをたたき込まれ、企業に役立つ人間に育って行く重要な時期である。そのような大事な時期に2年も企業を去り、世界の辺境ともいえる地域で経験を積んだからといって、先進国である日本の仕事に直接有用なものはほとんど得られないだろう。
(川勝 平太 調査研究「21世紀のJICAボランティア事業のあり方」に寄せて )◇
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直近2011(平成23)年8月のJICAボランティア事業実施のあり方検討委員会の報告書「世界と日本の未来を創るボランティア――JICAボランティア事業実施の方向性」でもJICAボランティアの帰国後の就職が長年の課題であるとの言及があり、「グローバルな視点を持った人材」の企業界での需要の高まりを企業がJICAボランティアの価値を再評価する機会としている。「これまで企業経営者や人事担当者に対して、JICAボランティアが企業にとって有力なリソースであることが十分伝えられていないのが現状」であり、「この機会を生かしてその価値を如何に普及・浸透していくかが課題」とされている。2002年から9年たっても、現状に変化はほとんどないと言える。現職参加は帰国後の就職の心配はないが、現職参加する社員はある覚悟をしておく必要がある。それは、社員の青年海外協力隊事業への現職参加は、社員としては規格外品であるという自覚と覚悟である。社員を協力隊活動に現職参加させるということは、一般企業にとっては、大きな痛みを伴うものであり、できれば避けたいものである。それを押してボランティアで参加するのであるから、社外業務に専任する2年は、企業内のキャリアでは空白となってもしかたがないものであり、レールをはずれるのも止むを得ない。企業は、血を流しながら社員の自己実現を支援するのである。社員は、いつまでもその負い目を背負うことになる。企業人として生涯を企業に捧げようという社員は、協力隊に参加しないですむなら参加しないほうがよい。
次のような課題もある。協力隊、あるいは帰国隊員に対する評価は低い。
『21世紀のJICAボランティア事業のあり方報告書』(2002)p112で、研究会のメンバーであった田中章義(歌人・国連WAFUNIF親善大使)が書いている。
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◆ 帰国隊員のアンケート調査でOBやOGに対する国内評価が「評価されていない」と答えた人が78.1%、協力隊の理解促進広報の必要性を語った人が、とても必要(50.9%)とまあ必要(38.6%)を合わせて89.5%もいるという事実に、私たちは真摯に着目する必要があるだろう。◇
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<中略>
『海外ボランティア・専門家経験者アンケート調査』(2002年報告)によるOB・OGに対する国内での評価についてのOB・OG自身が受けていると感じる評価は、次のとおり。
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◆(p71)
とても高い・・・・・・・青年2.0%・シニア9.2%
まあ高い・・・・・・・・青年17.1%・シニア38.0%
あまり評価されていない・青年62.1%・シニア41.7%
全く評価されていない・・青年16.0%・シニア9.2%
無回答・・・・・・・・・青年2.7%・シニア1.8% ◇
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(つづく)