「ねぇ、今夜は何食べたい?」
「ねぇねぇ、〇〇ちゃんがおじちゃんにって、ミカンを持ってきてくれたわよ!」
「いよいよ秋本番、神社の大ケヤキがちょっと赤くなってきたね」
「おはよう、今日も頑張ろう」から「おやすみ、また明日ね」まで、1日にいったい何回話かけているだろう。
声に出さない問いかけを入れたら、何回も何十回も何百回も話しかけているのに、夫からの返事は1度だってない。
8月22日、退院したその夜、夫は旅立った。
息子たちや孫たちとの夕食時、器の音や孫娘たちのかわいらしい笑い声、そして1日中忙しく立ち働いていた私がようやく食卓につき、カレーライスを口にした大賑わいの中で、静かに……。
そして2ヵ月。
最後に聴いた夫の声「ただいま!」を糧に、やらねばならないことをするだけのことに身体を動かしている。