お雛様。
小さな、ちいちゃな、お雛様。
綿棒より小さなお顔。
手のひらの上に、二つ並んでしまう。
東京に住む無二の友人K子ちゃんと夫と3人で行った、5泊6日の九州旅行。
あれから何年経ったのかな?
その折、故郷である大分の日田にUターンした、東京時代の友達Sさんを訪ねた。
有名な「天領日田おひなまつり」はとうに終わっていたが、知り合いのお店に連れて行ってもらっての見学の帰り、「荷物にならないように!」と、この小さなちいちゃなお雛様をお土産にもらった。
5日間いても九州1周はとうてい無理で、半周がせいぜい。
帰路、羽田空港でK子ちゃんと「あと半周も3人で行こう、そんなに間をおかないで」と約束して別れた。
その後、夫が病気になり、独身のK子ちゃんは故郷の北海道に帰り、間もなく癌が発覚し、新型コロナウイルス禍へと突入した。
K子ちゃんからは夫の病気と私の心配、私からはK子ちゃんの病気の心配と励ましが行ったり来たり。そして「残りの九州半周旅行」の約束を果たさないまま、昨年、二人は私一人を置いてけぼりにして旅立ってしまった。
それでも私、この小さなちいちゃなお雛様を今年も出した。
自分の座るソファーの向かい側に、娘が折った紙の花を背にして飾っている。
そして九州旅行のあれこれを、静かに脳裏で反芻している。
いやいや、静かにじゃない、「二人とも許さないからね」と息巻きながら…。
小さなちいちゃなお雛様は、そんな私を“静かに”見つめている。