果物の絵
セザンヌが描いた
林檎とおなじ林檎は
もう ない
似たものがスーパーの売り場で
捨てられたようによこたわっている
ミキサーにかけて
ジュースにしたら
もう形のない林檎の幽霊を
ごくりと飲んでいるわけだ
小さなカンバスにむかって
セザンヌの真似ごとをしても
死んだ林檎しか描けない
静かな動作で
なだれおちながら とどまる
静止と行動が山のようにかさなっている
原動力のコントロールの妙
を
感嘆してながめる
あきらめて
スーパーの果物売り場へ
すると
風のように
林檎の香りが鼻をつく
ああ
絵なんか描くのをやめようと
立ち尽くす
釈林檎様
セザンヌの
薄っぺらなプリントの絵から
それでも
林檎を積んだ
蒸気機関車の音がする