リルケ
大家族で食事する
ヨーロッパの風習
日本にもその昔あった
最初はオドオドしていたリルケ(*)
彼等は伯爵家だ
ぼくの家は大家族といっても
せいぜいが
六人
小家族で無爵だから
そのうえ古い家で
冬などは隙間風がまかりとおる
食事中に
壁からす-っと白衣の貴婦人が出てきて
またす-っと壁のなかに消えるあいだの
スリルを味わうリルケにはなれない
しかも毎日そんな食事風景はない
お正月だけそろって新年を祝う
白衣を着た餅を
黒塗りの各自の猫足のお膳にのっている
これまた黒塗りのお椀のなかの
白味噌のお汁のなかから掬いあげる
六人
そのお膳 今は押入れのような
物置棚の奥深く紙につつまれて
積み上げられて
そして再びの
出番はない
(*)マルテの手記・リルケ作・望月市恵訳より