重文・鼻曲り土面。蒔前(まくまえ)遺跡出土。御所野縄文博物館。岩手県一戸町岩舘字御所野。
2022年10月4日(火)。
「鼻曲り土面」は、青森県八戸市是川遺跡とともに馬淵川(まべちがわ)流域の縄文時代晩期・亀ケ岡式文化を代表する一戸町蒔前遺跡から出土した遺物として広く知られている。
長さは18㎝で、頭部と口が一部欠けている。額に朱が残っており、もともとは赤く塗られていたものと思われる。
眉・両目・口を左上がりに表現し、鼻を強く左に曲げる。鼻を曲げる特異な顔面表現は、他にも数例存在するが本例は遺存状態がよく、見る角度によって様々な雰囲気を醸し出し、縄文時代に仮面を被る儀式が広く存在したことを示している。
縁片部の左右には紐孔の表現もあるが、片方は貫通していない。また内面には箆状の工具による成形痕が荒々しく残る。
本遺品は、亀ケ岡文化と精神生活を解明する上で重要な資料である。
重文・土面。小形、皿状に全体を作り、遮光器土偶と共通した顔面表現を施す。
蒔前遺跡は、二戸郡一戸町のほぼ中央、馬淵川が形成した山間の盆地に広がる段丘上に位置し、標高は約140mを測る。遺跡の発見は古く江戸時代にまでさかのぼり、菅江真澄(1754-1829)の著書『新古祝甕之図』中に、蒔前遺跡出土と思われる注口土器の紹介がある。その後、明治年間にも遺跡の存在に注意した研究者があったが、昭和5年、この地に蚕糸試験場が建設されることになり、整地工事に際して多量の遺物が出土した。本件の大半は、この際の採集遺物である。
遺物のうち、重要文化財に指定されたものはいずれも一戸町で所有している深鉢形・鉢形・注口・壺形・香炉形等の土器類158点、土面2点、土偶残欠共15点、亀形土製品3点、蛇紋岩大珠1点のほか、磨製石斧等の石器類54点、石剣・円盤状石製品等の石製品類20点の合計253点で構成される。
これらは、いずれも縄文時代晩期前半(大洞B~C1式期)の所産で、その内容は、河口域に所在する八戸市是川遺跡とともに馬淵川流域の亀ケ岡文化を代表する遺跡の一つとなっている。