【若紫 第二段落 本文】
⑰尼君、「いで、あなをさなや。⑱言ふかひなうものし給ふかな。⑲おのが、かく今日明日におぼゆる命をば、何ともおぼしたらで、雀慕ひ給ふほどよ。⑳罪得ることぞと、常に聞こゆるを、心憂く。」とて、㉑「こちや。」と言へば、㉒ついゐたり。㉓つらつきいとらうたげにて、まゆのわたりうちけぶり、いはけなくかいやりたる額つき、髪ざし、いみじううつくし。㉔ねびゆかむさまゆかしき人かなと、目とまり給ふ。㉕さるは、限りなう心を尽くし聞こゆる人に、いとよう似奉れるが、まもらるるなりけりと、思ふにも涙ぞ落つる。
【口語訳 第二段落】
⑰尼君が、「なんと、ああ幼いなあ。⑱あなた(若紫)はたよりなくていらっしゃいますなあ。⑲私が、このように今日明日に思われる命を、あなたは何ともお思いにならないで、雀をお慕いになられていることだよ。⑳(雀をとじこめることは)生き物をいじめる仏教上の罪を得ることだよと、常に私(尼君)があなた(若紫)に申し上げているのに、情けない」といって、㉑尼君が若紫に、「こっちへ(いらっしゃい)」というと、㉒若紫は膝をついて座った。㉓顔つきはとてもかわいらしく、(成人していないので剃っていない)眉のあたりがほんのりとして、幼い手つきでかき上げた額のきわ、髪の生え具合は、とてもかわいらしい。
㉔成人したような様子を見たい人だなあと、光源氏は目が釘付けになっていらっしゃる。
㉕というのは、光源氏が限りなくお慕い申し上げている人【藤壺の宮をさす】に、若紫が似申し上げているのが、自然と見つめられるのだなあと、思うにも(感動のあまり)涙が落ちる。
【第二段落 語句説明】
⑰・いで・・・呼びかけ なんと あな~や・・なんと~なあ
⑱・主語は若紫 「給ふ」という尊敬語を尼君は使い、若紫への敬意をあらわす。
・言ふかふなう・・「言ふかひなく」のウ音便 意味は「たよりない」
・ものし・・いる ・かな・・詠嘆
⑲・おの・・私 ・かく・・このように ・おぼゆる・・思われる
・おぼし・・尊敬語 お思いになる 主語は若紫 「慕ひ給ふ」の主語も紫の上 ともに尼
君から若紫へ敬意。
・で・・打消 ・ほどよ・・ことだよ
⑳・罪・・生き物を苦しめるのは、仏教上の罪。 ・ぞ・・終助詞 念押し だよ
・聞こゆる 謙譲語 (尼君が若紫に)申し上げる 尼君から若紫に敬意
・心憂く・・情けない
※尼君が若紫の幼さに愚痴を言うのは、尼君が高齢で病気がちであり、その尼君が亡くなると、若紫を守る者がいなくなる不安を抱えているため。
㉑・こちや・・こっちへ(いらっしゃい)。
「こち」は「こちら」。「や」はよびかけ、「だよ」。 尼君が若紫に話しかけている。
確定条件助詞「ば」を境に、主語が変化する。
㉒・主語は若紫。 ・ついゐ・・膝をついて座る
㉓・つらつき・・顔つき 現代語でも「つら」を「顔」の意味で使っていますよね。
・らうたげに・・形容動詞「らうたげなり」連用形 意味「かわいらしい」
形容詞「らうたし」も同じ意味。
・まゆのわたり・・眉のあたり
・うちけぶり・・黒い 若紫は眉毛がある。平安時代、成人後女性は眉毛を剃り、まゆずみで眉を描いていた。若紫が成人していないことを表す。
・いはけなく・・形容詞「いはけなし」意味は「幼い」
かいやり・・四段動詞「かいやる」意味は「かき上げる」
・額つき、髪ざし・・額のきわ、髪の生え具合。髪は平安時代の女性美の基準。光源氏
視線もそこに向くようだ。
・いみじう・・とても ・うつくし・・かわいらしい
㉓・ねびゆかむさま・・「ねびゆか」は「成人する」。「む」は婉曲助動詞(名詞接続のため)。
「さま」は「有様」
・ゆかしき・・形容詞「ゆかし」意味は「見たい」 ・かな・・詠嘆 「なあ」
・目とまり給ふ・・・主語は光源氏。尊敬語「給ふ」を使う。
㉕・さるは・・というのは
・限りなう心を尽くし聞こゆる人・・「聞こゆる」は謙譲語「申し上げる」
意味は「光源氏が限りなくお慕い申し上げる人」。「藤壺の宮」をさす。藤壺の宮は父帝の妃。源氏の母亡き桐壺更衣にそっくりなので、帝は再婚する。そう聞かされた源氏は藤壺の宮を慕うが、後に恋愛感情を持つようになり苦しむ。また、後に判明するが、若紫は藤壺の宮の姪にあたる。憧れの藤壺の宮につながる女性たちを「紫のゆかり」と呼び、『源氏物語』では重要な役割を演ずる。
・いとやう似奉れる・・「奉れ」は謙譲語、「申し上げる」。
若紫が藤壺の宮にとてもよく似申し上げる
・まもらるるなりけり・・「まもら」は「見つめる」。「るる」は自発助動詞「る」。
「なり」は断定助動詞。「けり」は詠嘆助動詞
「自然に見つめてしまうのだなあ」
⑰尼君、「いで、あなをさなや。⑱言ふかひなうものし給ふかな。⑲おのが、かく今日明日におぼゆる命をば、何ともおぼしたらで、雀慕ひ給ふほどよ。⑳罪得ることぞと、常に聞こゆるを、心憂く。」とて、㉑「こちや。」と言へば、㉒ついゐたり。㉓つらつきいとらうたげにて、まゆのわたりうちけぶり、いはけなくかいやりたる額つき、髪ざし、いみじううつくし。㉔ねびゆかむさまゆかしき人かなと、目とまり給ふ。㉕さるは、限りなう心を尽くし聞こゆる人に、いとよう似奉れるが、まもらるるなりけりと、思ふにも涙ぞ落つる。
【口語訳 第二段落】
⑰尼君が、「なんと、ああ幼いなあ。⑱あなた(若紫)はたよりなくていらっしゃいますなあ。⑲私が、このように今日明日に思われる命を、あなたは何ともお思いにならないで、雀をお慕いになられていることだよ。⑳(雀をとじこめることは)生き物をいじめる仏教上の罪を得ることだよと、常に私(尼君)があなた(若紫)に申し上げているのに、情けない」といって、㉑尼君が若紫に、「こっちへ(いらっしゃい)」というと、㉒若紫は膝をついて座った。㉓顔つきはとてもかわいらしく、(成人していないので剃っていない)眉のあたりがほんのりとして、幼い手つきでかき上げた額のきわ、髪の生え具合は、とてもかわいらしい。
㉔成人したような様子を見たい人だなあと、光源氏は目が釘付けになっていらっしゃる。
㉕というのは、光源氏が限りなくお慕い申し上げている人【藤壺の宮をさす】に、若紫が似申し上げているのが、自然と見つめられるのだなあと、思うにも(感動のあまり)涙が落ちる。
【第二段落 語句説明】
⑰・いで・・・呼びかけ なんと あな~や・・なんと~なあ
⑱・主語は若紫 「給ふ」という尊敬語を尼君は使い、若紫への敬意をあらわす。
・言ふかふなう・・「言ふかひなく」のウ音便 意味は「たよりない」
・ものし・・いる ・かな・・詠嘆
⑲・おの・・私 ・かく・・このように ・おぼゆる・・思われる
・おぼし・・尊敬語 お思いになる 主語は若紫 「慕ひ給ふ」の主語も紫の上 ともに尼
君から若紫へ敬意。
・で・・打消 ・ほどよ・・ことだよ
⑳・罪・・生き物を苦しめるのは、仏教上の罪。 ・ぞ・・終助詞 念押し だよ
・聞こゆる 謙譲語 (尼君が若紫に)申し上げる 尼君から若紫に敬意
・心憂く・・情けない
※尼君が若紫の幼さに愚痴を言うのは、尼君が高齢で病気がちであり、その尼君が亡くなると、若紫を守る者がいなくなる不安を抱えているため。
㉑・こちや・・こっちへ(いらっしゃい)。
「こち」は「こちら」。「や」はよびかけ、「だよ」。 尼君が若紫に話しかけている。
確定条件助詞「ば」を境に、主語が変化する。
㉒・主語は若紫。 ・ついゐ・・膝をついて座る
㉓・つらつき・・顔つき 現代語でも「つら」を「顔」の意味で使っていますよね。
・らうたげに・・形容動詞「らうたげなり」連用形 意味「かわいらしい」
形容詞「らうたし」も同じ意味。
・まゆのわたり・・眉のあたり
・うちけぶり・・黒い 若紫は眉毛がある。平安時代、成人後女性は眉毛を剃り、まゆずみで眉を描いていた。若紫が成人していないことを表す。
・いはけなく・・形容詞「いはけなし」意味は「幼い」
かいやり・・四段動詞「かいやる」意味は「かき上げる」
・額つき、髪ざし・・額のきわ、髪の生え具合。髪は平安時代の女性美の基準。光源氏
視線もそこに向くようだ。
・いみじう・・とても ・うつくし・・かわいらしい
㉓・ねびゆかむさま・・「ねびゆか」は「成人する」。「む」は婉曲助動詞(名詞接続のため)。
「さま」は「有様」
・ゆかしき・・形容詞「ゆかし」意味は「見たい」 ・かな・・詠嘆 「なあ」
・目とまり給ふ・・・主語は光源氏。尊敬語「給ふ」を使う。
㉕・さるは・・というのは
・限りなう心を尽くし聞こゆる人・・「聞こゆる」は謙譲語「申し上げる」
意味は「光源氏が限りなくお慕い申し上げる人」。「藤壺の宮」をさす。藤壺の宮は父帝の妃。源氏の母亡き桐壺更衣にそっくりなので、帝は再婚する。そう聞かされた源氏は藤壺の宮を慕うが、後に恋愛感情を持つようになり苦しむ。また、後に判明するが、若紫は藤壺の宮の姪にあたる。憧れの藤壺の宮につながる女性たちを「紫のゆかり」と呼び、『源氏物語』では重要な役割を演ずる。
・いとやう似奉れる・・「奉れ」は謙譲語、「申し上げる」。
若紫が藤壺の宮にとてもよく似申し上げる
・まもらるるなりけり・・「まもら」は「見つめる」。「るる」は自発助動詞「る」。
「なり」は断定助動詞。「けり」は詠嘆助動詞
「自然に見つめてしまうのだなあ」