徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

捨て犬ラックの物語…エピローグ

2007-11-11 16:53:16 | 捨て犬ラックの話
 ラック(仮名)の物語にお付き合い頂いた皆さまに御礼を申し上げます…。
プロローグを書いたからには…エピローグで最後を…と思い…後日…実際にあった不思議な話をひとつ…。
それで…終わりと致しましょう…。



 ラックが逝ってしまってから何年経ったか…オカンは防犯の鬼と化し…家中の鍵を変え…何重にも施錠をするようになった…。
何しろ…ラックが居なくなるとすぐに…お隣に空き巣が入ってしまったのだ…。

 もともと火の元と戸締りには神経を使うオカンだが…この厳重な施錠具合を見れば…ラックが如何に実家と両隣の警護役として活躍していたかが窺える…。
それだけでもラックは十分に家族としての役目を果たして逝った…。

 或る日…オカンは窓を閉め切ったまま風呂の掃除をしていた…。
いつものように…洗剤をかけてゴシゴシやっていたのだが…急に具合が悪くなってきた…。
呼吸が困難で胸が苦しくなり…風呂場を離れて…寝室の方でのびてしまった…。
どうやら洗剤による中毒症状らしいが…その時のオカンにはそんなことを考える余裕もなく…ただひとり…伏していた…。

 オカンは夢を見た…。
それこそ…よく言われているお花畑と三途の川の夢…である…。
その場面の詳しい場景は分からないが…どうやら…オカンも川の向こうへ行こうとしたらしい…。

 すると…突然…鼻黒とラックの2匹が現われて…オカンを行かせまいと邪魔をした…。
オカンの足に纏わりついたり…服をくわえて引っ張ったり…。
オカンは鼻黒とラックに…そんなことしたら行かれないがね…というような文句を言ったそうなのだが…2匹は懸命に邪魔をしたという…。

 先に亡くなったオカンの母親…つまりdoveの祖母が居て…あんたまだこんなところへ来ちゃだめじゃないの…などということを言われたらしい…。
それで戻ってきて目が覚めた…。

 何日か…しばらくは胸や喉の調子がおかしかったというが…何とか自力で回復した…。
後からそれを聞いた弟たちやdoveは…オカンが窓を閉め切って風呂掃除をしていたことに呆れたが…それと同時に鼻黒やラックに感謝した…。
もし…2匹が邪魔をしてくれなかったら…それこそオカンはあの世行きだったかもしれない…。

 単なる夢に過ぎない…と言えばそれまでだが…単なる夢だとしても彼等の記憶がオカンの脳に刺激を与えてくれたことだけは確かなのだ…。
齢が齢だから…目が覚めることなくのびていたら…それだけでもどうなっていたか分からない…。

現実的な話ではないので…本編では書かなかったけれど…これも彼等の思い出として…家族の記憶の中に残っている…。

 動物を飼うのは…こちらが思う以上に労力も経済力も時間も必要で…それも長期間に亘り…かなり大変ではある…。
それでも彼等は…それに値する以上のものを与えてくれるとdoveは思う…。

 この話のように…死んだペットが命を救うとか救わないとか非現実的なことは別としても…彼等の与えてくれる喜びや癒しはとても大きい…。
何より…彼等の命の温かさは…作り物では到底得られない…尊いものである…。


ラックたちはdoveに感謝しているだろう…と皆さんから温かいコメを頂いてとても嬉しかったが…本当に感謝しているのは…実はdoveの方なのである…。




合掌…。







この物語を読んでくださる方が…捨て犬や捨てネコについて少しだけ…興味を持ってくだされば幸いです…。


この物語を書く決心をさせてくれた記事です。

http://blog.goo.ne.jp/wildboar_36/e/a86629d45b6e4487bf2eecdc41ab92b0

捨て犬ラックの物語…第十二話 「ラックを捨てたあなたへ…。」

2007-11-09 13:48:31 | 捨て犬ラックの話
 それはまったくの偶然だった…。
家を出てから四年目ぐらいになるだろうか…ほとんど実家に帰れなかったdoveだが…その夏には…久々に何日かを実家で過ごす機会ができた…。

 ラックは病気と老齢とで…最早…大好きな散歩にも行けなくなっていた…。
ビーグル種の寿命は約12年…拾われた時が1歳をとうに越していたのだから…ラックはすでに13~14歳…。
あれほど食通りが良かったのに…食欲もない…。
静かに寝て過ごしていた…。

 このところ毎朝…雨戸を開けた時にラックが生きているかどうかを確認するのが…オカンの日課になっていた…。
ラックが動くのを見ると…少しほっとした…。
発病したのはdoveが家を出る前のことだから…いつかは…という想いはずっとあった…。

 或る夜…オカンは夢を見た…。
目の前に観音様の御姿が現れる夢だった…。

 その朝…雨戸を開けると…ラックが死んでいた…。
奇しくもdoveが実家に戻っている…その間に…ラックは旅立った…。
居合わせたお蔭で…doveはラックと最後のお別れをすることができた…。

ラック…お疲れさま…家の警備のお仕事偉かったね…。

 動物も供養してくれるというお寺から…お迎えが来て…ラックの遺骸を運んでいく…。
玄関先で手を合わせ…居合わせた家族だけで送り出した…。

 鼻黒の時は家族で地域の火葬場まで運んだのだが、動物はまとめて焼却処分されるらしく供養らしい供養をしてやれなかったので、ラックの場合はちゃんと供養してくれるというお寺を選んでオカンが連絡した…。

 過去に一度も行ったこともないお寺で…どんなところかも知らない状態だったのだが…驚いたことには…オカンの夢に出てきたのと同じ観音様が…そのお寺にあった…。
そんな不思議な現象に出会ったせいか…観音様の夢を見た時刻が…ラックの死んだ時間だったのではないかと…オカンは今でも考えている…。

後日…家族でお寺に行って…ラックと鼻黒の供養をした…。
随分昔のことで…記憶も薄れてはいるが…なかなか綺麗なお寺であったことを覚えている…。

 生後一年余りで捨てられて…飢えと寒さで死にかけたところを救われ…押し掛け犬でありながら…家族に怪我を負わすほど噛み付き…それでも大事に可愛がられて生きてきた歳月を…ラックはどう感じていたのだろう…?

 もっと散歩がしたかったとか…もっと美味しいものが喰いたかったとか…そんな不満もあったろうか…?
それでも…dove家としてはラックにしてやれるだけの精一杯のことはしてきたと思う…。

ラックは家族だった…。
ちゃんとお役目も果たしていた…。

 たった一年余で失われるはずだった捨て犬ラックの命…けれど…その後の12年半を存えて…家族に話題と笑顔と安心を与えてくれた…。
噛み付きはしたけれど…それはおそらく…過去に何らかの原因があるのであって…彼のせいではない…。



 動物は飼い主を選べない…。
ラックを捨てて行ったあなたは…捨てたことを後悔しただろうか…?
それともいい厄介払いができたと喜んだだろうか…?

ラックにも人間以上に純粋な感情があることを知っていただろうか…?
置き去りにしたあなたをずっと忘れなかったことをご存知だろうか…?

ラックが…自分を捨てたあなたを想って…毎朝…御飯も食べずに鳴いたことをどうか忘れないで頂きたい…。
あの凍えるような寒さの中で…飢えながら…穴を掘って存えて…あなたをずっと待っていたことを知って頂きたい…。

あなたが食べさせてくれたコンニャクやカレーの味を覚えていたことを心に留め置いて頂きたい…。
ラックは心底…あなたを愛していたのだ…。
たとえ死の間際に…あなたと再会したとしても…ラックはあなたを覚えているだろう…。

 動物を飼う…ということは…買う…のではなく…その命を預かる…ことだと思う…。
預かった命を…どうか…大切に想って欲しい…。

 もしかすると…ラックを捨てたのは…あなたが生きていく上で…どうしようもない立場に追い込まれてのことだったのかもしれない…。
できれば…そうであって欲しいと願う…。

要らなくなったから…では…あまりにラックが可哀想だから…。


ラックは…祖母の月命日に拾われて…命日に旅立った…。
眼には見えない力が働いて…家族とラックを引合わせてくれたのだと…doveは信じている…。





完…。






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捨て犬ラックの物語…第十一話 「恩返し…?」

2007-11-07 17:06:37 | 捨て犬ラックの話
 親父が単身赴任から戻るのと入れ替わりに…doveは実家を出た…。
時には出張で実家の方へ帰ってくることもあったが…仕事を終えた後で実家へ戻り…朝早く実家を出て出張先へ出向く…というようなパターンだったので…ほとんどラックと顔を合わせることもできなくなってしまった…。

 doveが居なくなった後…ラックは妙に元気がなくなった…と親父もオカンも口々に言った…。
ラックは第一発見者である恩人の弟の方ではなくて…最初に御飯をくれたdoveを親だと思っていたようだ…。
蹲って溜息ばかりついていたそうである…。
ひょっとしたら…また…置いていかれたと思っていたのかもしれない…。

 親父が戻ってきたのでラックの散歩は再び親父の仕事になっていたのだが…慣れない単身赴任生活でどこか身体に無理が来ていたのか…親父は急に病を得て…手術の甲斐もなく…亡くなってしまった…。

 こんなに早く親父が逝ってしまうなどとは誰も予想していなかったから…子供たちはすでに全員が独立して実家を離れていて…オカンひとりでラックの世話をすることになってしまった…。

おとなしい犬ならともかく…年寄り犬とはなってもチョンチョコピーの治らないラックの散歩はかなり力の要る仕事である…。

 それまで乱暴犬ラックの引き綱を引いたことのないオカンだが…放っておくのも可哀想だし…吼えまくるようになったら近所に迷惑だから…と…引っ張られて転びそうになりながらも…始めのうちはなんとか散歩に連れて行った…。

 けれど…とうとう…腕力のないオカンでは…オカン自身が怪我をしてもいけないし…万が一逃がして他人に怪我をさせてもいけない…と思ったようで…実家から一番近い家に住んでいる上の弟に散歩を頼むことにした…。
毎日というわけにはいかなかったけれど…ラックはなんとか最低限の散歩と食事にはありつけることになった…。

 ラックは利口な犬で…少しは人の言葉を解したようだ…。
台風の夜にオカンが居間に毛布を敷き…言い聞かせた…。

ラックの場所はこの毛布の上だからね…。
ここから出たらいかんよ…。

 すると…そうしようと思えば部屋中暴れまわることもできたのに…ラックは一晩中…毛布の上でおとなしくしていた…。
毛布の外を歩き回ることもしなかった…。
代わりに何度も大きな溜息をついていたそうだ…。

 朝になって…掃き出し窓を開けると…閉所の嫌いなラックは我慢の限界だったらしく…一目散に飛び出したという…。
引き綱を持っていたオカンは引き摺られて…一緒に庭へ転げ落ちた…。

 実家の掃き出し窓の下には大きな踏み石がある…。
これにぶつかっていたら…オカンも大怪我をする虞があった…。
転げた先に踏み石がなくて本当に幸いだった…。

 親父亡き後は…ラックが用心棒を務めていた…。
外部の人間にはことごとく反応して吼えまくるラックは…両隣にとっても警戒信号の役割をしていたらしい…。
ラックが居なくなってすぐに…片側のお隣さんに空き巣が入ったという話を聞いた…。
ラックが居た時は安心だったけどねぇ…と両隣さんから言われたそうだ…。

乱暴で喧しく…チョンチョコピーだけど…ラックはちゃんと…dove家に恩を返していたのである…。




次回へ…。





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捨て犬ラックの物語…第十話 「絶句・・・・・!」

2007-11-02 17:37:47 | 捨て犬ラックの話
 推定年齢1歳で我が家に拾われてきたラックも…すでに壮齢…。
人間の寿命が80歳くらいだと仮定すると…ビーグルの寿命は12歳くらいだから…かなりのオジサンである…。

 ハチに刺されようと蛇に噛まれ(オカンの推理が正しければ…だが…。)ようと…一度は飢え死にしかけながらも…これまで目立った病気もせずに元気に過ごしてきたことは有り難いと思わねばなるまい…。

 この間に…上の弟・下の弟が相次いで所帯を持ち独立し…親父が単身赴任で関東に移り…ラックの世話はいつしか…doveとオカンの仕事になっていた…。
ふたりとも昼間は仕事で留守にしているので…帰宅して食事を終えてからラックの散歩に行くのだが…街灯の灯りだけの道を…連れ立って歩いた…。

 いい年をして毎晩のように母親と散歩する…などは…普通ならめったにないことかも知れない…。
doveが所帯を持ってからは…年に2~3度…下手をしたら一度も…会えなくなったことを考えれば…あれは…貴重な時間だったと思う…。
ラック…さまさま…かな…。
暗い林の中からは…四季折々の香りがした…。

 犬は走る動物である…という親父の散歩癖のお蔭で…ラックはおとなしくは歩かない…。
引き綱をぐいぐい引っ張って…何とか走ろうとする…。
到底…オカンの力では歯が立たない…

 doveが走ろうとしないので…首が絞まりそうなくらいピンと張った綱の向こうで…ラックの喉がヒイヒイと呼吸困難のような音を立てる…。
舌を出して…よだれを飛ばしながらも…ゆっくり歩こうとはしない…。

いい加減にしないと…窒息するぞ…。
毎晩…こんな状態なのに…少しは学習しろよ…。

 そんな散歩が続いた或る日…突然…道の真ん中で…ラックが動かなくなった…。
じっとへたり込んだまま…ビクともしない…。
息はしているのだが…心臓発作を起こしたようだ…。

 かつて…鼻黒がフィラリアにやられた時の症状に似ている…。
ラックもその経験からずっと予防投薬は受けていたが…赤ん坊の頃から予防しないとあまり効果がないのだそうだ…。
ラックの場合…成犬になってから拾った犬なので…うちに来る前は予防していたのかどうかは分からない…。

 しばらくすると…少しは症状が落ち着いたのか…ふらふらと立ち上がり…ゆっくり歩き始めたが…すぐにへたってしまった…。 
動けそうにないのでdoveが抱きかかえて…家へ連れ帰った…。

 すぐにかかりつけの犬猫医院に飛んでいったところ…やはりフィラリア…。
心臓に負担がかかるといけないので…カロリー過多になるような人間の食物をあまり食べさせないように…とのことだった…。
もう齢なので…カロリーを抑えたドッグフード…老犬用のダイエットフードを食べさせるように…と言われた…。

 まるで…中年のオジサンへの栄養指導そのもの…。
う~んなるほど…犬も人間も齢を取れば…同じことを言われるんだなぁ…。
その頃のdoveも間もなく中年…他人事ではないような…。

 病犬食…肉の缶詰…を獣医さんのところで購入し…それから毎日…缶詰と御飯を混ぜたものを食べさせた…。
在庫がなくなるとバイク通勤のdoveが仕事帰りに医院まで買いに行った…。
ラックは…というと…乾燥ドッグフードは嫌ったものの…獣医さんとこの缶詰は気に入ったらしくガツガツと食べた…。

 あっという間に回復して…ラックはいつものチョンチョコピ~犬に戻った…。
戻ったとは言っても…フィラリアという病気は…目には見えないが確実に進行する…。
薬で虫の増殖を防いでも…一旦入った虫を簡単に排除することはできない…。
運良く…全部殺せたとしてもあの嫌な虫の死骸が心臓に詰まったら…一巻の終わりなのだ…。

 けれど…病犬食はかなり高い…。
普通の市販のダイエット用の缶詰の倍くらいする…。
少し元気になった段階で…市販の缶詰も使うことにした…。
ラックとしては…獣医さんのところで購入する上品な匂いの高級缶詰の方が好みのようだったが…それでも安い缶詰も残さず食べた…。

 ラック本犬もこちらも…ダイエット食を使うことに慣れた頃のこと…。
当時…平日が休日であったdoveは…小屋の外に毛布を干しているラックの様子をぼんやりと眺めていたが…毛布の脇に…不審なものを見つけた…。

その不審なものは…これで二度目…。
まさか…とは…思っていたのだ…が…。

それは…死んだメジロの首と足…の潰れて干からびた残骸…。
前の時は…足だけが残してあった…。

カロリーオフの御飯となったラックは…せっせと狩猟に精を出し…自力で獲物を捕まえて栄養補給をしていたのだ…。

さすがは猟犬…!
あんたは…すごいっ…!

…って…感心している場合じゃないか…。

缶詰を買いに行ったついでに…獣医さんに相談…。

あかんわ…先生…。
あいつ…カロリーオフしたら…鳥捕まえて食べとるで…。

先生…しばし…絶句っ…!

その後…ラックの御飯が普通食に戻ったことは…言うまでもない…。





次回へ…。





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捨て犬ラックの物語…第九話 「イヌパンチッ!!」

2007-11-01 18:00:00 | 捨て犬ラックの話
 猫の特技にネコパンチ…というのがあるらしく…これがなかなか強力なんだそうだが…犬のパンチはどうなんだろう…?
それ以前に…犬はパンチ攻撃を…するんだろうか…?

 犬の場合はパンチを食らわすよりは…噛み付く方が得意かもしれない…。
何か動くものを捕まえる時に…前足で押さえる…という行動は見られるが…パンチして相手をノックアウトさせるようなところは…見たことがない…。
鼻黒のパンチは…イモムシにさえダメージを与えられなかったし…。

 その日も…家に居たのはラックとdoveだけだった…。
doveが何をしていたか…についての記憶はないが…おそらく何かの用事で二階から降りてきたところだったと思う…。

 暑過ぎず…寒過ぎず…ぽかぽか陽気のお昼頃…ラックはいつものように自分の毛布を干して…気持ち良さげにその上で寝ていた…。
…はずだったのだが…。

 いきなり…ギャインッ!…という悲鳴が聞こえた…。
何事かと思い…慌てて庭へ出てみると…こちらを見ながらヒ~ヒ~シュ~シュ~言っている…。
前足片方…お手の体勢のまま…。

(痛いよ~痛いよ~!)

あんまりチョンチョコピ~だから…こけて骨折でもしたか…?

近付くと訴えるようにヒ~ヒ~ピ~ピ~と鼻を摺り寄せてくる…。
相変わらずお手の体勢…。
doveに前足を見せようとするのか…懸命に差し出す…。

(ここ…doveちん…ここ痛いの~…!)

足がどうかしたには違いないが…?

 辺りを見回すと…毛布の傍に巨大なスズメバチ…。
すでにご臨終…。
噛まれた後はないから…思いっきり踏んだか…叩いたか…。
スズメバチはミツバチとは違って…刺しても自分が死ぬことはないので…そこに転がっているからには…ラックにやられたとしか思えない…。

(あいつがチクッとしたんだよ~!)

さて…どうするか…?
ハチの毒を解毒するには…朝顔の葉っぱの汁を使う…が…。

それは…祖母がやっていた治療法だった…。
けれど庭にはまだ…朝顔はなかった…。

ヨモギで…やるか…。

 そう考えて…ラックが届かないところに何本も出ているヨモギの葉をできるだけ摘み取り…汁を絞った…。
ラックの前足には毛が生えているので…一枚や二枚の絞り汁では役に立たない…。
前足全体が濡れるくらいの汁をかけてやった…。

 スズメバチの毒がどれほど危険か…などということは…まだ町の人間にはそれほど知られてない頃だから…ハチに2度刺されると命に関わる…程度の知識しかなかった…。
その時は…1度刺されただけでも死ぬことがある…なんて考えもせず…悠長な手当てをしたものだ…。
後から思うと…ぞっとする…。

 痛みが消えたわけではなかろうが…痛い前足に何か冷たいものをかけて貰い…頭を撫で撫でして貰って…少しは落ち着いたのか…ヒ~ヒ~…は止んだ…。
自分で前足を濡らしているヨモギ汁を舐め取り…続いて…よくよく前足を舐め…イヌ式治療を始めた…。

 その間にスズメバチの死骸を処分したが…そのでかさといったら…doveが生まれてからそれまで見たこともないような大きさだった…。
今の家に時々現れるスズメバチを見ても…あのスズメバチほど巨大ではない…。
森が近いので…住んでいるハチも町に居るものとはスケールが違うのだろう…。

 二日ほど…気分が良くないようだったが…ラックはまた…元気になった…。
なんでもなかったように毛布を振り回し…ガツガツと御飯を食べた…。
犬の持つ自然治癒能力とはすごいものだ…。
人間なら…病院送りだろうに…。

これに懲りて…ハチに手を出さないで居てくれると良いんだが…。
二度はないぞ…。

チョンチョコピーの悪戯好き…何にでも手(イヌは口…かな…?)…を出そうとするラックを眺めながら…心からそう願うdoveだった…。




注)アサガオは虫刺されの民間薬ですが…ヨモギは痛み止めや止血の民間薬です…。
調べてみると…ヨモギも虫刺されに効くことは効くらしいのですが…。 
メインの効能ではないのでしょうね…。


次回へ…。





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捨て犬ラックの物語…第八話 「あ~うめぇ…!」

2007-10-31 17:51:37 | 捨て犬ラックの話
 食の好みは人によって異なるが…犬によってもかなり違う…。
ことに人間と同じ食物を食べて育った犬には…犬の食性とはかなりかけ離れた好みが出てくる…。

 昔…TVで胡瓜の大好きな犬を見たことがあるが…犬はもとはと言えば肉食の動物である…。
それが胡瓜を一本なり…さも美味そうにポリポリと食べる姿に…正直…かなり驚いたものだった…。

 dove家へ来て初めて食べたジャガイモの煮っ転がしは…ラックにとって終生大好物のひとつになったが…もうひとつ…何故かコンニャクが大好き…。
コンニャクを見るとよこせと強請る…。 

 前の飼い主がダイエット中でコンニャクを頻繁に食べていたのではないか…と…名探偵オカンは推理した…。
そして自分が食べる時には…ラックにもおやつや御飯として与えていたのでは…。

なるほどね…。

 人間が少しずつ噛み切って食べるのとは違ってラックは丸飲み…大きいままで与えると喉につっかえるといけないので…小さく切って食べさせた…。
コンニャクをもらったラックはパクッ即ゴクン状態で…あ~うめぇ…という顔をする…。

変わった犬だ…。

 変わった…といえば…オカンがカレーを作り始めると…必ずラックが吠え出す…。
それが決まって要求の吼え方…。
まさか…とは思ったが…食べさせてみると…これがガツガツと食べる…。
犬には玉葱が良くない…中毒を起こす…なんてことはまったく世間では知られてない時のことだから…こちらも平気でカレーなんぞを食べさせてしまったのだが…。

 ラック用だから薄めはするが…少々辛めのカレーでもへっちゃら…。
食通りのいいこといいこと…。
米一粒…残さずきれいに平らげる…。

これも前の飼い主の影響か…。

 人間用の食物の味に慣れたラックは…ドッグフードの乾燥エサが大嫌い…。
鼻黒もそうだったが…全然食べない…。
美味しいと書いてあるこの乾燥ドッグフードは…どうして美味しいと分かるんだろう…?
誰か食べてみたのだろうか…?
飼料臭いし…鼻黒の口にもラックの口にも合わないのに…その人は普段…何食べてんだろ…?

犬の変わった食性は成犬になる前にどんなものを食べていたか…で決まっちゃうんだろうな…。
そんじゃ…その人の食性は…どんなんや…?

コンニャクとカレーライス…確かにうめぇ…わなぁ…。
この…コロコロした臭いビスケットよりはずっと…。

カレーの香りがするたびに…ラックは吼える…。
下手すると磨りガラスより上の透明なところまでピョンピョンと飛び上がって家の中を覗きながら…。

不思議な食性の…犬である…。





次回へ…。







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捨て犬ラックの物語…第七話 「がぶりっ!」

2007-10-27 16:27:16 | 捨て犬ラックの話
 鼻黒の時にもそうだったのだが、森が近いせいか、動物の血を餌にするダニがたくさん居て、ラックも年中…血で膨れ上がった大きなダニをぶら下げていた…。
家族が庭に出るたびに、ラックからダニを取り除いてやっていたが、一向に減らず、ダニ避けの首輪もあまり効果がないようだった…。

 ダニは皮膚に食い込むように食いついており、こんな奴を放っておいちゃ、ラックが可哀想だというので、家族がそれぞれ、せっせと、手が赤黒く染まるまでダニ取りをしたり、ブラシをかけてやった…。

 ダニを取る時にはラックもわりとおとなしくしている…。
やんちゃな犬だから…おとなしくしているのはあまり得意ではないのだが…。
構ってもらっているのが嬉しいようだ…。
誰かが庭に降りてくれば…触ってもらえると思って背中を向ける…。
いい子いい子も大好きなラック…。

 ところが…ラックが我が家の生活にも慣れた頃…下の弟がいつも通りにラックの背中からダニを取ってやっている最中に…突然…ラックに噛み付かれた…。
あま噛みではない…。
グルグルと喉を鳴らし…牙を剥き出し…本気で敵意を向けている…。
昔から下の弟は犬に甘いので…舐められていたのは確かだが…それにしても何のきっかけもない不意打ちの攻撃だった…。

 そのうちに…ラックの命の恩人である上の弟も噛み付かれ…あれほど犬好きで…伯父の飼っている人間嫌いの犬からも好かれる…犬受けの良い親父でさえも噛み付かれた…。
噛み付くとなかなか放そうとしないので…傷を受けたり…ズボンの裾に穴が開いたりした…。
何れも…ダニ取りやブラシ掛けの最中の出来事で…何気ない時に…不意に牙を剥き…眼を吊り上げて怒り狂う…。

 オカンの場合は…二重の鎖が棒ッ杭にグルグルに絡んでいたので直してやろうとした時…だった…。
力のないオカンは餌でつってラックを反対回りさせて鎖の絡みを解こうとしたようだが…それが不味かった…。
意地悪したと思われたのか…いきなり怒ったラックに襲われ…血が出るほど腕を噛まれた…。

 餌でつるのは…普通に考えても…さすがにどうかとは思うが…どっかちょっと抜けている人なので…馬の目の前にニンジンをぶら下げて走らせる…なんてギャグみたいなことを真剣にやってみたんだろう…。
鎖を解いてやりたい一心だったのだが…。

 オカンは…ダニ取りの最中やブラシ掛けの最中にも噛み付かれている…。
オカンも子供の時から何匹もの犬の中で育った人だから…犬には慣れているはずなのに…。

 doveの場合は…何故か…噛み付かれなかった…。
或る時…ダニ取りをしていると…急にグルグルと怒り出し…牙を剥き…手を噛もうと口をパクッとさせたが…牙を立てなかった…。
その際…doveは激しくラックを叱った…。

 今ではいけないこととされているが…悪さをしたらお尻を叩くのが…当時の子育ての常道…。
ラックのお尻を思いっきりビシビシッと叩いて…噛んではいけないと言い聞かせた…。
思わぬ反撃にラックは慌てて小屋に飛び込み…小屋の中から悪そうな顔をして覗いていた…。

 その後…doveに対しては…パクッ…もしなくなった…。
以来…一度も噛まれていない…。
他の家族が何度もやられているのに…。

 それは…doveが怒ったから…では…ないようだ…。
弟たちやオカンはともかく…親父も同じように怒ったはずだから…。
憶測に過ぎないが…最初に食べ物を与え…拾われて不安だった頃に最も長い時間を一緒に過ごしたdoveには…ラックなりに遠慮とそれなりの信頼があったものと思われる…。

 当時は…人を噛んだ犬は殺される運命にあった…。
犬は…一度でも人を噛むと噛み癖が付く…そう思われていて…ひどく危険視され…殺された…。
それを聞くたびに…可哀想で胸が痛んだ…。
犬が噛むに至った理由が…きっとあるはずだと…。

 ラックだってもしかしたら…すごく気紛れな飼い主から…可愛がってもらっている最中に…突然…意地悪や乱暴されるような目に遭ってきたのかも知れない…。
何度も酷い目に遭って…心底…人間を信用できなくなっていたのかも知れない…。

生まれた時から飼っているわけじゃないから…気心が知れないのはお互いさま…。
人間が戸惑いを感じているように…ラックだって不安なのだ…。

 拾った犬に幾度も噛みつかれながら…ラックは怖い犬だで逃がさんように気をつけないかん…などとのんびり構え…脱走できないように幾重にも手を打って…12年半も可愛がって育て続けたのは…考えようによっちゃぁ馬鹿なのかもしれないが…。 
 
 そのお蔭で…ラックの命が延びたことを思えば…それはそれで良いような気がする…。
一旦…ラックを飼うと決心したからには…何が起こっても責任は我が家にある…。
自分たちが噛まれている分にゃ…自分たちで何とでもできる…。
他人さまを噛んだら…さすがに助けられない…。

 だから…逃がさないように最大限…努力した…。
散歩の時に見た目に惹かれて近づいて来る人たちに対しては危険も知らせた…。

そうして…12年余…。
拾った犬だろうと…怖い犬だろうと…ちゃんと泥棒避けの役目をしていた…。

噛み付き犬ラックは…dove家の…家族である…。
 




次回へ…。






この物語を読んでくださる方が…捨て犬や捨てネコについて少しだけ…興味を持ってくだされば幸いです…。


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捨て犬ラックの物語…第六話 「心の傷」

2007-10-26 17:40:00 | 捨て犬ラックの話
 ラックの脱走回数を厳密に数えたことはないが、あの時はああだった…この時はこうだった…という記憶が家族のそれぞれに残っているから、何度も居なくなったことは間違いない…。

そうだ…。 こんなこともあった…。

 逃げ出したラックを探しに行った下の弟が…ラックを見つけて連れ帰ったのはいいが…ラックの全身がとんでもなく臭い…と嘆いた…。
どうやら…何処かで…全身に肥を塗りたくったらしい…。

森の中の開かれたところには幾つも畑がある…。
近くには牛舎もあるから…考えられないことではない…。
まったく…何をやってくれることやら…。

いくら犬でも外で洗うには寒過ぎる季節のこと…。
仕方がないので風呂場へ入れて、シャンプーでゴシゴシ洗った…。
最も…外に出せば…すぐに仰向けに転がって庭の土を身体に塗りたくるのだが…。

 或る時など、自分で帰ってきたのはいいが、両ほっぺたがおたふく状態…。
ずっと小屋に籠もったまま出てこない…。
理由は分からないが、そのまましばらくはいつもの元気がなかった…。

 ひょっとすると原因は…マムシ…だったかも知れない…。
今は開発されてしまったが、もともとdoveの実家の周辺はマムシの多いところで、興味津々何でも口に入れるビーグル種のラックにとって脱走は危険と隣り合わせ…。

 事実かどうかは定かではないが…犬がマムシに噛まれた時は…何日もじっとしていて自力で解毒するという話を聞いたことがある…。
その時には思い及ばなかったが、ラックの場合もそれだったのではないか…と、後になってから考えた…。

 それもこれも…脱走が家族内のできごとで済んだからよかったようなもので…脱走中に他人に怪我でも負わせていたら…大変なことになっていた…。
とにかく…dove家としては…そのままにはしておかれず…原因を突き止め…太い棒ッ杭を打ち込み…鎖を二重にし…どうでもラックの脱走を食い止めなければならなかった…。 

 

 犬は…人間が思っているより…はるかに豊かな感情を持つ動物…である…。
喜怒哀楽に富み…愛情深い…。
言い換えれば…人間の子供と同じで…傷付き易く癒され難い心…を持っている…。

 ラックが拾われた時に…見知らぬはずのdove家の面々に激しく身体を摺り寄せ…座っていたオカンの膝に顔をゴシゴシ擦り付けて喜んだ姿を…忘れることはできない…。
飼い主に裏切られて捨てられても…死ぬほど寒くて悲しくて腹を空かせて…そんな想いをしても…人間の傍に戻りたかったのだ…。

 ラックは我が家で12年半を生き…最後まで飢えることなく温かく過ごしたが…しかし…我が家に来るまでに味わった心身の飢えを…癒せたかどうか…は謎である…。

 親父が会社へ出かける時間が…ちょうどラックの朝御飯の時間だったのだが…我が家へ来た当初…言葉にできないラックの悲しみを表わしているような出来事が毎日続いた…。

 オカンが朝御飯をラックの前に置く頃に…親父の車が車庫から出る…。
ラックは御飯を食べずにいとも悲しげな声を出す…。
オカンが何度…おあがり…と言っても…食べない…。
ガツガツと大飯喰らいなラックが食べない…。
親父の車の音が完全に消えてしまうまで…鳴き続ける…。
完全に消えてしまうと…諦めて食べ始める…。

 もしかしたら…車で連れて来られたラックは森に繋がれ…最後の御飯を食べている間に置き去りにされたのではないか…。
オカンが…そう…推理した…。
親父が車で出て行く音がすると…また…置き去りにされるのではないかと…不安になるのかもしれない…。

何日も経って…朝出かけても夜必ず帰ってくることが分かってくると…安心したのか鳴かなくなった…。

 見た目が可愛いくてもラックは作り物ではない…。
ラックには…ちゃんと感情が存在する…。
作られた玩具でさえ…捨てられる時には嘆くかもしれない…。
けれど…ラックは…捨てられても…その意味が分からず…自分を裏切った飼い主をひたすら信じ…待っていた…。

あの時の喜び方が…その証…。

諦めることは…ないのだろう…。
忘れることも…ないのだろう…。

連れて来られた時に飢え切っていたせいなのかどうか…前の飼い主と拾ったdove家を混同しているようなところがある…。
家族構成が似ていたのかもしれない…。
もとの家に帰ってこられたと思い込んだのかも知れない…。

でも…それは…前の飼い主を忘れたことにはならない…。
極限状態に置かれたために…記憶がすりかわっているだけなのだ…。

ラックを見ていると…そう思う…。
悲しいくらい…そう思う…。




次回へ…。






この物語を読んでくださる方が…捨て犬や捨てネコについて少しだけ…興味を持ってくだされば幸いです…。


この物語を書く決心をさせてくれた記事です。

http://blog.goo.ne.jp/wildboar_36/e/a86629d45b6e4487bf2eecdc41ab92b0





捨て犬ラックの物語…第五話 「ゴンベが種まきゃ…。」

2007-10-23 14:56:00 | 捨て犬ラックの話
 何も障害物がなくても十分にこけやすい性質であるオカンだが…ラックが来てから余計にひどくなった…。
それも…勝手知ったる我が家の庭で…のことである…。

 原因はラックの習性…穴掘り…。
届く範囲内のあらゆる場所を掘り返す…。
庭は無惨にもぼこぼこ状態…。

強度の近眼で…そそっかしく…真っ直ぐに前を向いて進み…あんまり下を見ないオカン…。
格好の餌食である…。

 ラックはウサギ狩りなどに使われるビーグル種だから…穴掘り名人…。
穴を掘って寒さをしのいでいたおかげで…繋がれて動きの取れない寒い森の中でも…何とか生き延びた…。

 せっせと穴を掘り…土を飛ばし…掘った穴の匂いを嗅ぎ…ちょうどいい加減まで掘ると…御腹を乗っけて冷やす…。
暑い夏場は…そうやってあちこちに穴を掘り…そこにすっぽりと納まっていた…。

 穴を掘るのは得意だが…掘った穴はそのままなので…雨が降ると水が溜まってしまう…。
ラックに埋めとけ…と言ったところで…埋めるわけもないので…こちらが土を運んで均すしかない…。

 ぼこぼこ穴が増えてくると…親父がシャベルで穴を埋める…。
埋めるとすぐにまた…ラックが掘り返す…。
親父が埋める…。 ラックが掘る…。
そんなことの繰り返し…。

 笑っちゃいけないのだが…親父がせっせと穴を埋めているすぐ傍で…ラックがせっせと新しい穴を掘っている…。
まさに…ゴンベが種まきゃカラスがほじくる…である…。

僕…お父さんのお手伝いしてるんだよ…。

ラックからすれば…そんな感じ…。
だからとても嬉しそうに…多分…褒めてもらいたげに親父を見る…。
親父はいい子いい子しながら苦笑するしかない…。



 或る日…何気なく外を見ると…ラックが家の裏の空き地で遊んでいた…。
垣根の内側に居るはずのラックが…垣根の向こう側に居る…。

???・・・・・・・・・逃げたぁ~…!!

慌てて庭に出ると…遊んでもらえると思ったのか…ラックは喜んで戻って来た…。
垣根の下を潜り抜けて…。

 期待に背いちゃ悪いので…撫で撫でしながら引き摺っている鎖を確かめる…。
鎖は大丈夫…何処といって異常はない…。
輪っかに潜らせた留め金部分が…偶然…緩んではずれたのだろうか…。

まぁ…構造が単純だからなぁ…。

鼻黒の時には脱走なんてついぞ起きたことはなかったが…運動量の激しい犬だから…鎖もはずれやすいに違いない…。

 何日かすると…今度は庭から姿を消した…。
慌てて捜しに行くと…坂を下った大きな空き地に居た…。
毎日の散歩コースを辿っていたようだ…。

 何度目かには…確かなことは分からないが…夜中に逃げて朝方戻ってきたようで…鎖がはずれたまま庭に居た…。
この時は…誰もその現場を見ていなかったが…身体中に草や草の実などがくっついていた…。
dove家の庭には…ラックの穴掘りのせいで草が生えていない…。
出かけていたのは…まず…間違いないだろう…。

 脱走している最中に誰かに怪我でもさせたらいかん…というので…もう一本鎖を購入し二重にして繋ぎ…括りつけてある棒ッ杭も新しく背の高いものに変えた…。
散歩時の引き綱の付け替えが二度手間だが…事故防止を考えればそれも仕方がない…。

 ラックの動きを観察してみると…運動音痴の鼻黒とは異なって上下左右の動きが激しい…。
それに伴って鎖は張り詰めたり緩んだりを繰り返す…。

 何処か上の方に繋いである場合はいいが…ラックのように棒ッ杭に引っ掛けてあると…止めてある部分が地面と擦れ合う…。
止めになっているΩ型の金属がそのたびに位置を変え…留め金の先が輪に向けば…わりと簡単に抜けてしまう…。

さすがに故意にはずすことは難しいが…。

 何にしても…ラックはこの家を自分の家だとちゃんと認識しているようだ…。
成犬になるまでずっと他の家で暮らしていたにも関わらず…脱走して行方不明になることもなく…朝までには戻ってきたのだから…。

日がな一日ここに繋がれてちゃ…おまえも随分と退屈だろうから…好きなだけ穴でも掘っておくれ…。




次回へ…。



 



この物語を読んでくださる方が…捨て犬や捨てネコについて少しだけ…興味を持ってくだされば幸いです…。


この物語を書く決心をさせてくれた記事です。

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捨て犬ラックの物語…第四話 「ミニトマトの怪」

2007-10-22 17:41:17 | 捨て犬ラックの話
 子供の頃…トマトは丸ごと塩を振って食べるのが一番美味しかった…。
調理してあるトマトなどは…オカンの作る料理では…ついぞ見たことがないので…トマトは切るか齧るかして塩かマヨネーズで食べる野菜だとずっと思っていた…。

 市販のドレッシングが家庭に入ってくるのは…doveが高校生の頃だろうか…もう少し後だろうか…。
すでに…レストランなどでは使われていたが…。

 トマトといえば…ラックが来た頃にはまだ実の大きい品種が主流だったが…生野菜のサラダを好む人々が増えたせいか…手軽で可愛いミニトマトも一般家庭向けの食材として出回るようになっていた…。

 切る手間も省けて…見た目も綺麗だというので…うちでも栽培してみよう…と考え…何本か苗を入手した…。
ラックの小屋から少し離れたところに…手頃なスペースがあったので…そこを耕し…庭中から掘り集めたミミズを大量に放し…小さな畑を作った…。

 ラックは作業をしている間中…すぐ脇にいて…時々撫でてもらいながら…不思議そうな顔をしてこちら見ていた…。
鼻を鳴らし…お尻を人の背中に擦りつけ…時折…掘り返した土の匂いを嗅ぎ…。
少し撫でてもらうと鼻音はしばらく止む…。

doveちん…なにしてんの…? 僕…掘ってあげようか…? 
ねぇ~遊ぼうよ~…! あっ…そのミミズちょうだい…!

そんなことでも…言っていたんだろうか…。
少なくとも…ミミズには興味があるようだった…。



 土地が粘土質で痩せてはいるものの…思ったよりは順調に育ち…全体に丈は低いけれど幾つも花をつけ…可愛い実が生った…。
丸っこい緑の実…。
幾つか色付いてきたものもあって…一番大きなものは間もなく収穫できそうだった…。
 
ところが…。
翌朝…掃き出し窓からトマトを覗くと…あのトマトがない…。

げっ!
虫にやられたか…?

残念…とは思いつつ…次の実もあることだから…と諦めた…。

近く収穫できそうなトマトが幾つかあったので…一個ぐらいは虫にくれてやってもいいかな…なんて思っていた…。

風でそよそよトマトが揺れる…。
畑の傍に居るラックの大きな耳も…風にふわふわ揺れている…。

さらに翌日…一個ぐらいでは済まなかったことが判明した…。
また…ふたつほど…消えている…。
苗の根元を見ると…色付き始めた実がコロコロと落ちている…。

何なんだろう…?
虫が茎を食ったのか…?
実はそのままなのに…。

苗を調べても…それほど悪さをしそうな虫が見当たらない…。

手入れが悪くて…実の付け根が腐ったんだろうかなぁ…?

それからも…毎日のように実が消えた…。
当然…思うように収穫できない…。
手に入ったのは…ほんの五つほど…だ…。

これじゃ…サラダにもなりゃしないなぁ…。

実が落ちるわけが分からず…溜息つくばかりだった…。



 或る日…お日さまの光に誘われて…何気なく庭に眼をやった…。
緩やかな風に吹かれて…ラックが気持ち良さげに…トマト畑を見つめている…。
トマトはそよそよと風に揺れて…ラックの鼻先を掠める…。
ほんのり色付き始めた実がゆらゆら揺れる…。

クンクン…と匂いを嗅ぐラック…。

…と…突然…パクッ!

えっ…?

ブチッ!

えぇっ…?

ペッ!

えぇぇ~っ?

すべての謎は…ラックの口にあった…。

 真の理由は分からないけれど…ゆらゆら揺れるトマトを喰いちぎる…という行為は…ラックにとって面白い遊びだったのかも知れない…。
一度喰いちぎれば…味は分かるわけだから…自分の食べたいものじゃないことは知っているはず…。
それを何度も繰り返すのだから…遊んでいる…としか考えられない…。

自分でお気に入りの遊びを思いつき…毎日それを楽しむ…。

何か…おまえって…すごいな…。

口の先をもうひとつの実に近づけようとして…視線に気付き…きまり悪そうにこちらを見ているラック…。

悪戯なんかしてませんよ~…。

そう言いたげ…。


その年のミニトマトが数個を除いて…全滅したことは…言うまでもない…。




次回へ…。






この物語を読んでくださる方が…捨て犬や捨てネコについて少しだけ…興味を持ってくだされば幸いです…。


この物語を書く決心をさせてくれた記事です。

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