徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

釣果…ハリガネムシ…!

2006-10-31 16:00:00 | 生き物
 自分は釣りが好きだ…。 特に川が大好き…雑魚釣りだけどね…。
釣れても釣れなくても川の流れを眺めていると気分が良い…。
何時間でもOKよ…。

 自分の釣りのポリシーは釣った魚は食べること…。
食べられないもの以外は…。

 マスやアマゴ…岩魚は塩焼きに限る。
雑魚は腹を出して…一旦素焼きにして…甘露煮にする。
 買ったものとは一味違う自分流…これが最高…。
まあ…他人の口に合うかどうかは別として…。


 釣りが大好きだとは言っても…実は自分…邪道…外道…ど素人。
恥ずかしながら…未だに自分で竿を組んだことがないのだ…。

 それは…子供の頃から釣りに連れて行っているのに…なぜかオトンが自分には竿を組ませようとしなかったから…。
弟たちにはやらせたくせに…自分には絶対触らせなかった。

 オトンがこれと選んだ竿にきちんと錘や釣針もつけてセットしたものを渡す。
いつでもどこでも釣堀状態…なぜなんだぁ?

 大学生であっても社会人になっても…それは絶対変わらなかった。
ふたりで釣りに行ったのは自分が22~3くらいまでだったけどね…。

 じゃあ…他の事はどうかというと…別段…特別扱いされているわけでもない。
むしろ…普段は末の弟の方を可愛がっていて…親父が膝の上にのっけたりするのはその弟だけなのだ。

 オトンと自分は気の合わないところがおおいにあって…時にはぶつかることもないわけじゃなかったが…可愛がられていたのは確かだ…と思う。

 だから…まあ…これはこれで…愛情の変形だと考えることにしている…。
でも本当は…自分でやらせてこその愛情だと思うんだけどね…。

 今は釣堀にしか行かないから自分の竿はない…。
だから…ずっと組めないまま…つうか…組まないまま…だ。
 自分で竿買って…本でも何でも見て覚えりゃいいんだけど…やっぱり…気持ちが屈折してるんだろうね。
その気にもなれないから…。


 さて…そんなオトンと釣りに出掛けた高校1年か2年のときの話…。
高校の近くにまあまあ釣れそうな川があった…。
自分はこの川べりを友だちとよく歩いていたので…なかなか楽しめそうだとは思っていた。

 いまいち水が良くないので釣れても食べられないだろうが…それでも一度はここで釣ってみたいなぁ…。
なんて…わくわくしながら…それほどきれいとは言えない川を毎日のように見ていた…。

 自分が今まで川で釣ったのは…モロコ…ウグイ…オイカワ…アマゴ…イワナ。
それは清澄な水の流れる渓流でのことだ…。
 田んぼの用水路でモロコ釣りはやったことがあるけれど…。
この川じゃ…せいぜいモロコくらいかなぁ…。

 渓流なら川で餌も獲れるけれど…ここでは栗虫を使う。
ウジみたいなやつ…。

 アマゴやイワナはオニグモやコガネグモをエサにしても釣れるけど…クモが可哀想なので自分はやらない…。
オトンのお試し生餌のひとつだ。

 日が高いせいか…全然…釣れない…。
オトンにもあたりが来ない…。
もっと下流の深い方では釣り人が居たが…ここは山間じゃなくて平地の田んぼや畑の傍だから…ちょっと浅いのかも…。

 けど…モロコぐらいは居るはずなんだ…。
水深浅い用水路だって釣れるんだから…。

 突如…手応えあり…! 初のあたり…やったか!
重い…確かに食ってる…それもしっかり…。
喜び勇んで竿を上げる…。

なんじゃこりゃぁ…!

 最初は…廃棄物の固まりかと思った。
ぐちゃぐちゃに絡まった何本もの針金の塊が釣れたのだ…。
汚れた川だから…誰かが縺れてどうしようもなくなった針金を捨てたのか…と…。

その針金…針先にぶら下がりながら…何と動くではないか!
ぐにゃぐにゃと…。

なんじゃこりゃぁ…!

 それはあたかも黒く変色して巨大化した糸ミミズの塊…。
けど…それほど柔らかそうにも見えない…。

ハリガネムシだ…。

 いやいや…驚いたね…。
こいつが水生生物だとは知っていたけど…塊で存在するなんて…。
 蟷螂の腹の中に寄生する虫だ…。
蟷螂の中には集団で居るわけじゃないから…。

 こいつに触ると人間でも寄生される…なんて話があるから振り捨てた。
単なる噂らしいけどね…。
 人間が寄生されたのは偶然で…成虫になった虫は寄生しないんだって…。
けど…嫌じゃない…触るの…。
偶然でも寄生されちゃったら困るでしょ…。
素手だし…手袋でも持ってりゃ触ってみたかったけど…硬いかどうかを知りたいからね。

 動きからするとミミズみたいに柔らかい虫じゃなさそうだよ。
体表はクチクラだという話だから普通の昆虫と変わらないんだよね…きっと。
こんなもん身体の中に持ってて蟷螂は痛くないのかねぇ…。

釣果の方は残念ながらこいつだけ…どうやっても食えない代物…。
オトンの方もボウズだった。

 ボウズはボウズでいいじゃない…楽しんだんだから…さ。
なかなかお眼にかかれないよ…あんな生き物…。
 それに川の傍で一日過ごすと…気分すっきりするもん…。
これも釣りの効用…だ。


 去年…近くを通ったけど…川は土手も川底もコンクリートになっちゃって…川というよりはでかい用水路と成り果てていた。
これじゃ遊べないなぁ…。

あいつもとうとう…棲めなくなっちまったってわけだね…。

嗚呼…。



続・現世太極伝(第九十七話 眠れる業使い)

2006-10-30 22:24:00 | 夢の中のお話 『続・現世太極伝』
 庭園の芝生の上を小さな男の子が三人…転げ回って遊んでいる。
子犬のようにじゃれ合いながら…楽しそうに笑っている…。
吾蘭・来人・絢人の三人…元気いっぱい。
いつもは子安さまが付き添っているが…休日なので一族の子どもたちが総勢で面倒を看ている。

 中にはまだ自分がお兄さんやお姉さんたちに面倒を看られている幼稚園児も居るのだけれど…自分より年下の子たちの世話をすることは一族の子供の修練のひとつ。
 誰も何も言わなくても手の空いた時には進んで子守をする。
これは将来…一族を背負って立つ者として極めて重要な修練だから…誰からも文句は出ない。

 「子供というものは…何人居ても可愛いものだな…。 」

居間のガラス戸から外を覗いていた宗主は…楽しげにそう呟いた。
お伽さまも微笑みながら頷いた。

 「紫苑を手放した時の有がどれほど無念であったか…を思うと胸が痛みます。
吾蘭を木之内姓に…との宗主のお言葉はまさに救いでありましょう…。 」

 木之内吾蘭…か…。 
宗主は紫苑にそっくりの小さな男の子に眼をやった。
 幼いなりに懸命にふたりの弟を護ろうとしている…健気な吾蘭…。
本家の孫に相応しい器量…宗主は満足げに微笑んだ。

 「クルトは西沢姓だろうが…輝女史は…ケントをどうするつもりかな…? 
ケントは…太極の化身の血を引く子だ…。 僕とも一応は血族だが…。 」

そうですねぇ…。
お伽さまは…少しの間…考えた。

 「あの子が生まれた時にノエルがすぐに認知をしましたから…高木姓かと…。
島田姓にすることは…おそらく克彦さんが反対するでしょうし…ましてや…滝川姓にはならないと思いますが…。 」

 ふむ…恭介…か…。 できれば…あの男も僕の家族に入れたいものだが…。
ふ…っとお伽さまが笑った。

 「あれほどの逸材…滝川家が放しますまい…。 
家族は無理でしょうが…今はこの一族でも要人の地位にありますから…折を見て更に待遇を上げられては…? 」

そうだな…と宗主は頷いた。

 「お伽…出かけるのだろう…? 」

はい…とお伽さまは答えた。
今日は師匠衆の月例会ですので…。



 仲根が玄関のチャイムを鳴らすと…英武が顔を出した。
いつもは居ない顔が突然…眼の前に現れたので仲根は一瞬怯んだ。

 「あ…ごめんねぇ…。 驚かせちゃった…。 」

英武は機嫌よく笑いながらそう言った。
仲根は軽く会釈して居間の方へ向かった。

 テーブルで新聞を覗き込んでいる大男は…怜雄…。
検証会で遠巻きに見たとは言え…直で顔を合わせるのは初めてだった。

 「おい怜雄…ちょっと移動してくれ…。 料理が置けない…。 」

豚の角煮の大皿を運んできた滝川が声をかけた。 
お…済まん…。 怜雄はすぐに場所を空けた。

 キッチンへ入っていくと西沢がオーブンから香草焼きの鳥を出しているところだった。
傍で玲人がサラダボールの中身を混ぜ合わせていた。

 ノエルが揚げソバを大皿に盛ると亮が上に野菜や肉を炒め煮にした具をかけた。
山と盛った蒸しパンを英武が居間へと運んでいく…。

 仲根は何だか不思議な世界へ入り込んだような気がした。
ここは料理店の厨房か何か…で…周りに居るのは料理人やボーイ…そんな感じ…。

 「おっ…仲根くんいいところへ…。 その鍋のスープを運んでよ…。
鍋ごとで構わないからさ…。 」

西沢が丸っこい土鍋を指差した。

仲根が言われたとおりにスープを運ぶと…大方準備が整ったらしく…みんなテーブルの方へと集まった。

 報告があって来たんだけど…なんだか言い出しにくいなぁ…。
仲根は周りを見回した。

 そう…仲根は別に飯を食いに来たわけではなかった。
が…誰も飛び入りの仲根の存在をおかしいともなんとも思わないらしく…用件を訊こうともしない…。

 さっき…仕事先で別れたばかりの亮でさえ…まったく気にもかけていない…。
仲根が戸惑っていると…英武や怜雄が気を利かせて料理を皿に盛って渡した。

仲根くん…遠慮しないで沢山食べなよぉ…。

はぁ…有難うございます…頂きます…。 じゃなくて…あの…。

 「紫苑…仲根くん…何か言いたげ…。 」

さすがに…いつも西沢ペースに巻き込まれている被害者だけあって…玲人がようよう仲根の困り顔に気付いた。

 「あ…楽しくお食事中のところ申しわけないんですけど…報告に来たもんで…。
この間…紫苑さんから頼まれた件なんですけど…。 」

ああ…あれね…と紫苑は頷いた。

 「紫苑さん…磯見という名の若い能力者をご存知ですよね…。 
亮が家系図の中からその名前を見つけたんで…同一人物かどうか探ってみたんですが…。 」

磯見…! 

周り中から一斉に声が上がった。

 「高倉家の当主の子でした…。 実子らしいんですが…生まれてすぐに磯見家の養子になっています…。
預かっている添田は、その件についてはまったく知らないんじゃないかと…。 」

 どこかで…聞いたような話だね…。
西沢の笑顔が引きつった。

 「ここからが本題なんっすけど…磯見家は古くは業使いの家系なんです…。
継承者が居なくなって久しいもので…あまり知られていませんが…。 」

業使い…!

西沢家の面々の顔色が変わった。

 「業使いに襲われた…とお父さんは言っていたが…。 」

怜雄が思い出したように言った。

 「まさか…だって…僕は磯見に直接触れて読んだんだぜ…。
業を一度でも使ったことがあるなら…僕にだって分かるはずだよ…。 」

英武は訝しげに西沢を見た。

 「ごく稀に…眠っていたり…無意識の時にだけ…隠れた力が甦る能力者が居るらしいんだ…。
だけど…倉橋家の当主の話では…業使いは呪文や業そのものを知らなければ能力があっても使うことができないということだ…。 」

西沢は以前に久継から聞いた話をした。

 じゃあ…磯見には無理だよな…。 継承者が絶えた家系なんだから…。
それはそうだ…と皆は頷き合った。

 「三宅は…使えるよ…。 」

それを否定するようにノエルが言った。

 「あいつ…古文書読めるし…古い資料が残ってたから自分で勉強したんだ…。
磯見だってもしかしたら…そういうの読んでたかも知れないじゃん…。 」

そうだよな…と亮もそれに同意した。

 「自分にそういう能力があるとは知らない磯見には…力を使おうという意思はなかったのかもしれないけど…ひょっとしたら歴史オタクかなんかで…家の古文書を読んでたとか…ね。 
直行も…先輩が部室に残してった資料を嬉しそうに読んでたから…。 」

眠れる業使い…か…。

 「磯見かどうかは別として…やっかいだな…。 相手には意識がないんだ…。 
その業使い自身が武器や道具として使われているだけで…。 
でも…能力者の気配だけは感じたぜ…。 どちらの気配かは分からないが…。 」

攻撃を受けた状況を思い出しながら滝川が言った。

 「添田の眼が光っているのに…奴等は磯見を使うだろうか…? 」

玲人が首を傾げた。
エージェントの眼は…そう簡単に誤魔化せないぜ…。
誰かの力が働いていれば絶対気付く…。

 西沢の脳裏で…突如…何かが閃いた…。
ドクンっと心臓が高鳴った。

 「添田…まさか…。 」

西沢の胸に添田の言葉が甦った。
 
 『万が一…私が発症した場合には私の力を固く封じ込めて欲しいのです…。
・・・・・・私がどうにかなってしまった時にはおそらく…私の仲間たちよりもずっと手早く手際よくやっつけてくださるでしょう。
仲間内にも重々頼んではありますが…情において躊躇う者も居るでしょうから…。
・・・・・・能力者の私が狂い出したらとんでもないことになります。
被害ができるだけ他に及ばないようにご助力をお願いしたいのです…。 』

 あれは…潜在記憶の弊害を言っていたのではなかったのか…?
確かに発症と言っていたが…本当はもっと別のことを伝えたかったのか…?

 僕が添田と個人的な付き合いを避けたのは無意識だけど…僕の中でなにか本能的に危険を感じ取っていたんだろうか…?

 もし…もし…この閃きが正しければ…僕はほんと大間抜け…。 
何とかしてやらなきゃ…このままじゃ…添田が気の毒だ…。



 月例会の師匠衆から問い合わせが入ったのは…お伽さまが本家を出てから二時間ほど経ってのことだった…。
今日の会は場所が近いし…酒席がありませんから…と自分の車で出かけたのだが…20分もあれば到着するはずの場所に約束の時間が来ても一向に現れない。
 いつもは誰よりも早くから来て皆を待っているほどの方なのに…と師匠衆のひとりが心配そうに電話口で言った。

 本家は俄かに騒然となった。
事故にでも遭われたのでは…と家人が近隣を探したが見つからなかった。
時が時だけにお伽さまの身を案じた宗主は御使者を使って探させた。

 お伽さまの車は…月例会の前になど立ち寄るはずもない…少し離れた場所にある大型スーパーの駐車場に放置されてあり…お伽さまの姿はなかった。
滝川の時と同じようにフロントガラスが蜘蛛の巣になっていた…。
 
 お伽さまが誘拐された…という情報はすぐに全国の御使者に伝えられた。
エージェントも即座に動き…そして…あの組織も…。

産声を上げたばかりの連携組織の…これが初仕事となった…。







次回へ

宿題…住宅街でコオロギ探し…!

2006-10-29 14:54:04 | 生き物
 朝夕…ようやく秋めいてきたけど…今年は秋が遅いな…。
それでも…虫たちは時をよく知っていて…お盆を越す頃には鳴き始めたんだよね。
自然界の生き物は人間よりはるかに季節に敏感なんだ。
種の存続がかかってるからだろう…。  

 あれは子どもたちが小学校一年くらいだったと思う…。
間もなく日も落ちようか…という段になって…恐る恐る囁いた。

明日…コオロギ持ってくんだよね…。
宿題なんだけどぉ…。 

 コオロギぃ~! 何でもっと早く言わないんだ~! うえぇぇ~! 
今からじゃ…自然公園にもいけないぞ…!
まったくおまえたちはいつも直前になってからじゃないと言わないんだから! 

 コオロギというのは草のあるところに居る。
ここは住宅街…家には小さな庭があるとは言え…この庭でコオロギを見つけるのは狭いだけにかえって難しい。
夜になれば鳴き声だけは聞こえるんだが…。 

 というわけで…子どもふたりを従えて…外へ飛び出した。
近所の公園じゃ埒があかないし…多分…他の子どもたちがすでに分け入ったあとだろう…。
子どもたちはたも網と虫かごを持ってついて来た。

また…たも網…かよ。 

 そう…世の中の子ども向けの虫取りの本には…ほとんどの場合…虫かごとたも網が登場し…すべての虫が空を飛んでいるか…草の上に居るかのような挿絵が描かれている。
写真とかでコオロギが出てきてもあまり居場所全体の背景がないし…たまに居場所を図示してあっても普段よく子どもの眼につくのがバッタの方だから…混同してしまう…。 

 コオロギ取りをしたことのある人なら分かるだろうが…バッタや蟷螂ならともかく…コオロギや鈴虫の類は草の上なんかには居ない…。

 住宅街でこれらの虫が居るところとなれば…造成地の草の中…子どもの背丈近く草が生い茂るところ…。
その草を掻き分けた根元の土の上に潜んでいる。
頼りは鳴き声だが…草の中に侵入してきた人間が近付くと音を止める。

 たも網なんかじゃ…ぜぇったい無理! こんな背の高い草の根元になんか届きゃしないよ…。
よっぽどドジなコオロギが居れば別だけど…。 

コオロギ…居らんね…と見た目で子どもは判断する。

うふふん…居るぜぇ~…。 

草の根を掻き分けると…根っこの方で細かいのがぴょんぴょん!

ほら見ぃ!  

けど…観察用なら2センチ近いのが欲しいよなぁ…。

居た! 

おおっ! 

勿論…網なんぞ使わない…。 無駄っ!
手がある…手が…。

 地を這う虫を移動しながら捕まえる…獲りそこなってもコオロギが一度に飛ぶ距離は数メートルと短いから…眼さえ離さなければ十分追っかけても獲れる。

ゲットだぜ! 

次第に親の方が夢中になって…子どもはたも網振り回しながら別ごとを始める。
離れたところで遊んでいる。

いい大人がひとりで薄暗い中…草を掻き分けごそごそと…。
傍から見れば…屈んで頭だけ見えるその姿は…まさに変態以外の何者でもない…。

誰かさんと誰かさんが麦畑ぇ~!
…ならまだしも…変態…! 

ふと…顔をあげると…帰宅途中の近所の知り合いのお姑さんが怪訝そうにこちらを見ていた。 

まずい! 
こんばんわ~…!

どうなさったんですの…? 
引きつった不審顔でこちらを見る。

学校でコオロギ獲りの宿題が出まして…探しているとこなんです…。 

あら…それは大変ですこと…ほほほ…。

上品な笑いを残して知り合いのお姑さんは立ち去った…。
取り敢えず…ほっ!

こらぁ! おまえらもう少し真面目に頑張れ! お前らの宿題じゃないか! 

へぇ~い!

そんなこんなで暗くなる前に虫かごに数匹獲って泥にまみれて帰ってきた。

誰かに変態だと思われなかったかなぁ…。
町内の回覧板で回ったりして…。

造成地に不審者…とか…。 

溜息…。 

 だけど…この造成地がなくなったら…この宿題どうなるんだろう…?
それにこの頃じゃ本物の変態がウロウロしているし…危険だ…。
この地域は結構犯罪が多発している…。

 自分の子供の頃と違って…自然観察の宿題も不可能になりつつある。
デパートでしか本物を見られないって状況が現実にすぐ近くまで来ている。
宿題も金で買う時代…かぁ…。 

中三になった今…造成地は消えた…。
虫取りをする子どもの姿も…最早…見かけない…。 



あ…鳴き声って書いたけど…羽の音だからね…!





続・現世太極伝(第九十六話 悩める能力者)

2006-10-28 23:00:00 | 夢の中のお話 『続・現世太極伝』
 祥が執行部の依頼を引き受けたのはそれから間もなくだった。
執行部がそのまま理事に就くと言うので…それならば…と祥も西沢の家業を息子たちに任せて…まったく先の見えない連携組織の運営に乗り出した。

 個人的に家門同士の付き合いはあるとしても、すべての家門が連携するなど前例がなく前途は多難。
それでも祥の中には…何処かワクワクするような期待感があった。

 代表者の決まった組織は見違えるように活発に動き始めた。
それはまだ…試運転のようなものだったが…トップが居るのと居ないのとでは大違い…。

 しかし…若い頃から父親の片腕として西沢系列を動かしてきた祥にとって運営自体は御手の物としても…まったく畑違いの組織の中で万事に不慣れな能力者たちを動かす…となれば…ひとりでどうこうできることではない。
祥の手足となって現場を仕切る者が必要だ。

 執行部は名前の挙がっている候補の中から逸材と思われる数名を選び出した。
勿論…庭田智明の名前は筆頭にあったが…輝の兄…島田克彦の名前が挙がっていた。

 祥が少し残念に思うのは…紫苑や恭介が最初から除外されていること…ふたりは裁きの一族の特使と要人だから…お役目の兼任はできない。

 裁定人の宗主がそのまま理事のひとりとして残ったのは…組織が安定しないうちに大きな後ろ楯を失うことを怖れた執行部が…せめて軌道に乗るまで…と頼み込んだからだ…。
さすがの宗主もそれを振り切ってまで意志を押し通すわけにもいかなかった。

まあ…智明や克彦…であれば…次代を担うに相応しい人材ではあるが…。

選ばれた者たちに関する調査書類などを眺めながら…祥は頭の中で新しい組織図を組み立てていた。



 「やあ…遅くなってごめん…ごめん…! 」

 カフェ・バーのママに案内されて金井が西沢の席に現れた。
ガラスの壁で仕切られたコンパートメント…外部に音や会話が漏れないように工夫されている。
能力者が相手ならそれも意味のないことかも知れないが…少なくとも普通の人には十分の備え…。

 何…今来たところさ…。 西沢は軽く笑って答えた。
この前、偶然にも本家で出会ってから、お互い、会いたいと思いつつもなかなか予定が合わず、ようやく今日に漕ぎ着けた。

 あれやこれやお互いの仕事の近況なんかを報告し合った後…実はね…と金井が語りだした。

 「連携組織の中堅どころに選ばれたのは光栄なんだけれど…僕の仕事は何時から何時までって類のもんじゃないから…ちょっと困っているんだ。
下手すりゃ…何日も泊り込みってこともないわけじゃないから…ね…。

 お役目は…家門の大事…断るわけにはいかないし…かと言って仕事を辞めちまったら食っていけないし…それに…好きな仕事だから辞めたくないんだ…。
正直…途方に暮れてる…。 」

金井は大きな溜息を吐いた。

 そう…それは家門の命令でお役目を受けざるを得なかった能力者たちの共通した悩みだった。
西沢のように自分で時間を調整できる仕事をしている者はまだいいのだが…企業とか役所とか…どこかに勤めている者にとっては仕事を辞めろと言われているに等しい…。

 勿論…若手は就職という形で採用されているから問題ないとして…これまでに懸命に社会的地位と信頼を築いてきた中堅どころにとっては…冗談じゃない…というのが本音だ…。

 「まあ…給与の方はちゃんと保障されるだろうけれど…好きな仕事を失うのはつらいな…。
執行部は…仕事を辞めるように言ってきたのかい…? 」

西沢の問いに…いいや…と金井は首を振った。

 「それでも…責任者となれば…その場に詰めてなきゃいけないわけだろう…?
どうしたって両立は無理だよ…。 」

ふうん…その辺りを執行部がどう考えているか…だな…。
西沢は御使者やエージェントの場合を思い浮かべた…。
 
 専任の御使者やエージェントはともかく…生業を持っている者は西沢と同じで命令書や依頼書によって動く…。
命令や依頼の内容も生業を利用できるものであることが多い。
西沢の場合は時間の調整が利く…ということでその時その時で内容は区々だが…。

 しかし…金井たちのように責任者として…となると担当地域全般をみなければならないから…片手間というわけにはいかない…。
だからと言って…これまで積み重ねてきたキャリアを捨てることなど絶対に納得できまい。
滅私だの奉公だのという時代ではないのだから…。

祥は…どうするだろう…?

 「とにかく…慌てて辞めることはないと思うよ…。 しばらく様子を見た方がいい…。
まだ…試験段階だし…執行部自体が手探り状態なんだから…。 」

そうだね…と金井は頷いた。

 「添田なんかは記者を続けながらお役目も果たしている…。
役付きだから結構ハードだとは言っていたけど…。 」

 添田…か…そうだな…時間的にも体力的にも大変だろうとは思うなぁ…。
西沢はエージェントとしてこの地域を担当している添田の顔を思い浮かべた。

 「添田は生真面目だからなぁ…。 あまり…愚痴も聞いたことがない…。
無愛想なやつだけど…気持ちの温かい男だよ。
だから…磯見の面倒も親身になって看てるんだ…。 」

僕と添田はもと同級生なんだよ…と金井が言った。

 「添田の母親は内室方の一族とはまったく交流のない家門の出身で…父親と一緒になったのも偶然だったということだ。
磯見は…それ以上に遠い縁で…母方の妹の嫁ぎ先に繋がるらしい。

 添田自身も磯見の家庭のことなんかはよく知らないみたいで…叔母さんから頼まれて…下宿させたのが始まりのようだけど…。

 磯見もあんな状態になるまでは本当に良いやつだったんだ…。
明るくて素直で…やっとリハビリも終わって…仕事にも復帰しているよ…。
 事件のことはまるっきり覚えていない…。 
きみが随分心配してくれたことは話してあるんだ…。 すごく喜んでたよ。 」

 磯見かぁ…でも…助かってよかったよな…。
あれから一度も会ってないけど…よろしく言ってよ…。

 伝えるよ…。 そのうちまた飲み会でもしよう…。
みんな…紫苑に会いたがってるぜ…。
今日飲みに行くって話したらすげぇ羨ましげだった…と金井は愉快そうに笑った。



 う~ん…とさっきからパソコンの前で仲根が唸っている…。
眉を顰めて…真剣に画面を睨んでいる。
様子が気になって周りの連中がちらちら覗き見る…。

 今度は何事だ…? 亮は背後に回って画面を覗いた。
家系図…? へえ~…変わったもん見てるね…。
さては…とうとう結婚する気になったか…?

 「お相手の家柄の調査ですか…? 」

おお…っとばかりにみんな色めき立つ。

 お相手…誰よ…?
そう言いながらも画面から眼を離さない…。

 「花木先生の…。 それ…結婚の家系調査でしょ…? 」

へっ…?
仲根が振り返って亮の顔を見た。

 「違ぁ~う! そんな浮いた話じゃないの! 
紫苑さんからの頼まれごとだ! 」

執行部の面々のできるだけ主になる家系から離れたところまでの繋がりを調べてるんだけどさ…。

なぁんだ…と言わんばかりに周囲はそれぞれの仕事に戻った。

 「そんなデータ入ってましたっけ…? 」

入れたのよ…まだ最近だけどね…。 各家門から申告して貰った家系図を…。
仲根は次のデータを開けた。

 「巨大な組織になってるとこは繋がり見るだけでも大仕事…っと…末端までなかなか辿り着かなくて…。」

あっ…ちょっと待って!
突然…亮が画面の一点を見つめて叫んだ。

 「磯見家…ってあの磯見のことかな…? 」

ええっ…何の話…?
さらに画面を覗き込む亮に仲根は怪訝そうに訊いた。

 「潜在記憶に操られてヤッチャマに絡んで撃たれた人が居るんですよ…。
紫苑の知り合いに…。 
幸い命に別状はなかったんですけどね…。  」

 仲根は急いで家門の名前を再確認した。
高倉家…か…。 



お帰り…若…。 慣れないとこで働くのは大変だっただろ…?

 久々に実家に戻ったノエルに店の人たちが言った。
ノエルは病人が出て手の足りなくなった知り合いの店を手伝いに行っていることになっていた。

 「俺は言われたとおりに動くだけだからね…。 店を仕切るのは別の人だから…それほどのことはないけどさ…。 
ただ治ったって言っても…どうも調子がいまいちのようだから…また近いうちに行くかも知れないよ。 」

何も知らない店の人たちに怪しまれないように伏線を張った。

へぇ…何の病気に罹ったんだろうねぇ…気の毒だねぇ…。

いやぁ…詳しいことは…俺もねぇ…訊けないじゃん…どんな病気だ…なんてさぁ。

そりゃぁ…そうだ…訊けんわねぇ…。

 これで…たびたび居なくなっても怪しまれない…。
学生だった時と違って…やっぱり…それなりに気を使う…。 
何しろ…この人たちとはずっと一緒に働いていくんだから…。

 心配なのは…奴等が何時…何処で…どう動くか…?
そして…標的にしようとしている相手は本当は誰なのか…?

 だって…紫苑さんはこの国の最強の能力者のひとりだもん…。
正面切って的にするほど…奴等も馬鹿じゃないと思うよ…。

 敵は搦め手から攻めてくる…じわじわと…。 それも…なぜか…西沢の周辺を狙って来る…。 
そのことに…何か意味があるのだろうか…? まるで…西沢をわざと怒らせているかのようだ…。

 奴等は…ひょっとしたら…何かを待っているのでは…?
いったい…何を…?

 そう考えるとノエルは無性に不安になってきた…。
奴等が待っているもの…それが途轍もなく恐ろしいもののように思えた…。
それはまったく…ノエルの想像の域を超えないというのに…柄にもなく身震いした…。

馬鹿げているとは思いつつも…。








次回へ

ザリガニ…ひえぇぇ~っ!

2006-10-27 20:23:19 | 生き物
 水をかえた観察用の小さな水槽を子どもたちが玄関に置いたまま…何か他ごとをしている。 
きちんとふたがついているから逃げ出す心配もない…が、玄関じゃ邪魔だからさっさと二階の部屋へ運んで欲しい…。 

 ザリガニの置き場はめだかの水槽の脇…。
エサは鰹節とか雑魚とか…。 時々めだかが昇天すると…そのままエサになる。
ザリガニは人工的なものより死んだめだかの方を好んだ…。 

 捕まえてからもう何日も経つけれど…三匹は元気!
虫かご兼用の水槽ではちょっと狭いかも…。
押し合い圧し合いで気の毒そう…二匹にしとけばよかった…。 

何やかや遊びが終わったらしく…やっといつもの場所へ戻した。

 中に緑っぽくてピンクがかったカッコいいのが居て…それが子どもたちのいっとうお気に入りだった…。
緑っぽく見えるのは藻が背中にくっついているせいもある…が…。 


 自分は毎朝…5時頃起きる…。
5時と言っても夏場ならもう明るい…。 

 生き物が居ると何となく気になって起きるとすぐ覗きに行く。
その日も何気なく水槽を覗いた。

おわっ! 出し入れ用のふた…開けっ放しじゃん…! 

 中を覗くと一匹の上にもう一匹が乗っかっている…ふたぎりぎり…。
何だ…簡単に脱走できそうじゃないか…。
まったく…開けっ放しにするなんて…。 

 ん…? ん…ん…ん…?
一匹…足りん…! あいつが居ねぇぇぇ~っ! 

何処だ…何処だ…?
周りを探したが何処にも居ない…。 

いかん…朝の忙しい時にザリガニ探しちゃおれん…!

 しかし…脱走したザリガニを放ったまま…今夜寝るのも嫌なので…後から部屋中を探し回った。

このまま寝たら…夜中にはさまれたりして…。 
そんなことを思いながら…。

居らん…何処にも居らん…。
気持ちが焦る…。
子どもたちが散らかしたごみ溜めのような部屋を探しまくった。

居らぁぁぁ~ん…っ!  

その夜は仕方なく…襖を閉めて寝た…。
寝てるうちに顔の上でも這われちゃ困る…。 

結局…それから二~三日たっても見つからなかった…。

甥っ子が以前に逃がして何ヶ月かあとに義妹が掃除をしたら干物になっていた…という話しを聞いていたので…干物になったピンクと緑のあいつが眼に浮かんだ。

 しばらくして…野菜を持ち込んだ玄関が土だらけになったので、箒で掃いていたら靴入れの向こうから埃にまみれたあいつが出てきた…。 

 勿論…死んでいる…。
が…問題はそこじゃない…。

二階から脱走したザリガニが…何故…ここに居るんだぁ? 

 夜中のうちに開けっ放しのふたから…二匹のザリガニの上に登って…部屋をでて…階段を降りて…なおかつ…短いながら廊下を這って…玄関へ逃げたとでも…?

うっそぉ~! 有り得ん! ぜぇったい…有り得ん! 

もしかしたら…水かえて玄関に置いてあった時に…すでに逃げ出していたとか…?

でも…でも…自分…その時…三匹居たのを確認してるよぉ~! 



ねぇ…あなた…どう…思います…? 


dove的…ザリガニ釣り…!

2006-10-26 16:57:52 | 生き物
 近所の自然公園では子どもが自然と触れ合えるようになっている。
浅い池なども作られてあって自由に遊んでも構わない。
大人用には釣堀なんかも併設されている。 

 学校から引き取ったザリガニが三回目の脱皮に失敗して死んでしまって大泣きした子どもたちを連れてそこへ行ったのは…小学校三年生くらいの頃か…。

 池でザリガニを捕まえたい…という子どもたちの希望に…捕まえたら戻すんだぞ…と約束をしてザリガニ釣りを教えることにした。 

子どもたちはたもで捕まえると思ったらしいが濁った池ではザリガニなど何処にいるのか見えやしない…。

 たも網を池に突っ込んでも成果なし…。
捕まんない…と不満顔…。 

そんなもん突っ込むより…釣った方が早いぞ…。

 竿もエサもないのに…という子どもたち…。 
ああ…今は学校でも幼稚園でも買った道具やエサで釣ることしか教えないんだ…。

 そんなもん要らん…。
そこに枝がころがっとる…それで十分。 タコ糸も落ちとるが…。
タコ糸がなければ…つるになった草の茎なんかを使えばいいんだ…。

 枝にタコ糸をつけるだろ…。 
たもでちょっと落ち葉の溜まってるあたりをすくえば…水えびが獲れる。

 その水えびを生きたままタコ糸で縛る…。 ぎゅっとやったらいかんぞ…。
見とれ…小エビが泳げるように軽く…。

 これを池にポチャン!
と…見る間に1匹…どうね! 上手いだろ! 次々…ゲット! 
ケースの中はうじゃうじゃ…。

おおっ! 子どもたち大喜び…。 

 水えび…死んどったらいかんの?
死んどっても悪かないけど…動いた方がよく釣れるんだ…。

 子どもたちが自分で釣り始めた。
何匹か釣ったが…さっきほどではないので不思議顔…。

年季が違わぁ…。 

 まあ…そんなこんなで20匹ほどをあっという間に釣り上げた…。
そこまでくるとさすがに子どもは飽きてくる。

そろそろ…終わりにしよう…。 ザリガニ…池に戻したり…。

なあ…持って帰ったらいかん…?

前のを死なしてべそかいた方の子が訊いた。
そう言うと思っとった…。

2~3匹な…良いの選んで他を帰したり…。

子どもたちは嬉しそうに色の綺麗な三匹を選んだ。 

 子どもたちよ…ザリガニ釣ったこと…大人になっても覚えておきなよ…。
いつかおまえたちが親になって…子どもたちに訊かれた時に…竿もエサも現地調達できるんだってこと…教えてやりな…。
たこ糸なければ…つる茎…使えば良いんだってこと…。

自然の中じゃ…何を使ったって遊べるんだってことを…。 




























続・現世太極伝(第九十五話 兄弟喧嘩)

2006-10-25 22:26:00 | 夢の中のお話 『続・現世太極伝』
 西沢から依頼を受けた仲根は国内に存在する業使いの動静を探っていた。
しかし…これと言って目立った動きをしている者はなく…HISTORIANと関わっているような者も見当たらなかった。

 ただ…仲根が調べられる範囲は家門に属する業使いに限られており…居所も分からないフリーの能力者に関しては御使者の情報網だけでは捉え切れなかった。
エージェントや滝川の情報網を使って調べても見たが…誤差数人と言うところでたいして違いはなかった。

 「所在を確認できた業使いについては…すべて調べました…。
けれど…以前に紫苑さんが調べた時とほとんど変わらない状況だと思われます…。
族長会議の成果で家門同士の付き合いも増えたので…少しは何か分かるかと期待していたんですが…。 」

残念そうに仲根は報告した。

 「有難う…そうしてみると…恭介や養父を襲ったのは国内の業使いではないかもしれないね…。
あのふたりが未然に防げないほどの力の持ち主なら…この国の者であればたとえフリーの業使いだとしても誰にも知られていないわけがないからね…。

 ただ少し気になるのは…業使いなのに…他人からは業使いだと思われていない者も居るかも知れないってことなんだ…。 」
 
西沢は…久継の言葉を思い出していた。

 『御使者…業使いの力量は気配では分かりません。
まるで何の力も持っていないような弱々しい者が、実は超大物だったりすることもあります。
どうか…そのことだけは胸に留め置いてください…。 』

 もし…そいつが倉橋久継の言っていたように普段は何も力を持っていないように見えるとしたら…誰も気付かなくても当たり前だし…。

 もう一度…整理して考えよう…。
僕等の周辺で…それらしい者が居ないかどうか…。

 「どうして…周辺なんですか…? 何か見落としていることでも…? 」

仲根が怪訝そうに西沢を見た。

 「それはね…新しい組織の代表に推されている者を知っていたからだ…。
選ばれた執行部のメンバーだけの極秘情報をどうやって手に入れたか…。
 千里眼…などと言うなよ…。 
執行部はちゃんとそれに対する対処をしているはずだから…。 」

 そうかぁ…と仲根は納得した。
よっぽど近しい関係でもなければ…執行部のメンバーにさえ近付けないもんなぁ。

 「執行部の顔ぶれは…うちの宗主と滝川家の族長…工藤…大西…藤井…高倉…比嘉…山本…堤…長谷…西沢…ですね…。
あれ…庭田は…入っていないんだ…提唱者なのに…。 」

不思議ですねぇ…と仲根は首を傾げた。
 
 「庭田は立場が特殊だからね…他の家門との繋がりがあまりないから…。
仲間はずれにされているわけじゃないけど…他の族長への遠慮もあってね…。 」

 庭田家もメンバーに推挙されなかったわけではなかった…。
麗香が生きていれば…躊躇うことなくメンバーのひとりとなっていただろう…。

 けれども…智明が望むのは…華々しい表舞台ではなくて…縁の下の力持ち…。
亀の歩みとはいえ、族長会議がここまで来れたのは、会議を開催する前に智明が族長たちを説得して歩いたという下地があればこそだ。

 そのことについては…智明はひと言も語らない…。
麗香の遺志が大勢の仲間に引き継がれていくのを温かく見守ろうとしている。

 「仲根くん…宗主と滝川家…西沢家はこちらで分かるから別として…他の族長にどこか…或いは…誰か…と気になる繋がりがないかどうか調べてくれない…?

 HISTORIAN関係じゃなくても構わないから…。
業使いがどうの…は一先ず置いといて…親戚関係とか…知人関係とかさ…。 」

 何か思い当たることでもあるのか…西沢は思案顔で頼んだ。
仲根は機嫌良く…お易い御用で…などと言いながら急ぎ職場へ戻って行った…。



 玄関の鍵を開けるのは何日ぶりだろう…。
それほど日数が経っているわけでもないのに…随分留守にしていた気がする…。
思ったより修練が早く終わってくれて助かった。

 部屋の中はしんとしたまま…西沢の気配も滝川の気配も無い…。
ノエルは居間に荷物を降ろすと西沢の仕事部屋を覗いてみた…。
誰も居ない…。
寝室にも…子ども部屋にも…。

 それでも…ポットの電源は入っているし…炊飯ジャーの予約タイマーがかかっている…。
きっと…仕事か…買い物…だよ…。 公園へ写生に行ってるのかも知れないし…。
そうと分かっていても少し心細かった…。

 足音…紫苑さんだ…。 鍵の音…開いている扉に戸惑う気配…。
ノエルは玄関へ飛んで行った。

 「ノエル…。 」

紫苑さん…! 紫苑さん…ただいま!
差し出された西沢の腕の中へノエルは飛び込んだ。

 「どうしたの…? 」

 そう言いながらも…西沢は満面の笑みを湛えた。
久しぶりに交わすキス…お帰り…ノエル…僕の奥さん…。

 「もう大丈夫だって言われたから…。 宗主のお許しが出たから…。 」

そうか…と言っただけで西沢は何も訊かなかった。
ただ…抱きしめた…。

 「戻れ…って言わないでね…。 ここに居たい…。 」

 宗主の許可…の意味するところを…敢えて訊く必要も無かった。
短い間に…ノエルがどれほど頑張ったか…を…。
ここに帰ってくるために…西沢の傍で…西沢と共に戦うために…。

 柔らかなノエルの髪…しなやかな肢体…ひとつの身体に同時に存在するふたつの性…西沢の五感を擽るすべてが…そこにはある…。
満たすほどに満たされるのは…お互いの身の内に共鳴し合うものがあるから…。

 自虐に走るほど認めたくない自分の中の女性を西沢のためには何の抵抗もなく曝け出すのは…西沢に対する絶対的な信頼と愛情の証…。
他の者に対してなら後には引かない捨てられない意地も誇りも…他愛もなく愛撫に溶けていく…。

 アランがね…弟たちの面倒を看ててくれるって…。
あの子…たった二歳なのに…僕の言ってることが理解できるんだよ…。

 時折…お母さん…の顔が覗く…。
西沢はただ…微笑む…。 

 ややこしいノエル…男だったり…女だったり…お母さんだったり…。
西沢は否定しない…どんなノエルであっても…ノエルはノエル…。
それを…呼び覚ましてしまったのは…西沢自身だから…。

久々の充足…ノエルはまどろむ西沢の腕から離れた。

 でも…紫苑さんは…きっと…他で事足りてるね…。
相手はいくらでも居るもの…。
ま…いいか…浮気癖は…お互いさまだから…。

ノエルはそのまま…浴室へ向かおうとした。

 「お帰り…ノエル。 のっけから…色っぽいお姿を拝しちゃったよ…。 」

クスクス笑いながら滝川がノエルの行こうとする先に立っていた…。

先生…ただいま…!

嬉しそうに滝川の首に飛びついた。

 おいおい…子どもみたいに…。
滝川はそっとノエルを抱きしめた…。
恋人のようにキスを交わした。

 「きっと…すぐに帰ってくるだろうと思ってたよ…。
随分頑張ったね…。 予想より…ずっと早かった…。 」

ひと言も話していないのにそう言われて…驚いたようにノエルは滝川を見つめた。

 「分かるよ…きみが以前よりずっと強くなったこと…。 
紫苑も気付いているはずだ…。 」

 西沢の方にちらっと眼をやりながら滝川は言った。 
西沢はすでに起き上がってソファにもたれかかり…こちらを見ていた。

 歓迎するよ…ノエル…きみはもう立派な戦力…。
そう言われてノエルはちょっと頬染めた。



 何事もなく…穏やかに過ぎていく時間…時が止まったような本家での暮らし…。
輝は遊んでいる子どもたちを見ながらほっと溜息をついていた。

 アランがブロックで何かを組み立てている…。
それは…どこか…城のような…神殿のようなものにも見える…。
細かい所まで巧みに組み立てられている。

二歳児が作ったにしてはよくできているわ…。

 輝がそう思った時…突然…来人がそれを叩き壊し始めた。
怒った吾蘭が来人を突き倒す…何を思ったか来人は吾蘭に飛び掛り噛み付いた。

 まさか…と輝は思った。 目の前の光景が信じられなかった。
来人はまだ…一歳よ…。 僅か一歳の子が…こんな反撃の仕方をするなんて…。

輝が戸惑っている間に子安さまが飛んで来た。

 「クルト…あなたがいましたことは良いことですか…?
お兄さまがせっかくお作りになられたものをいきなり壊すなんて…。
 クルト…自分の作ったものが壊されたらどんな気持ちになりますか…? 
その上に噛み付くなど以ての外です…。 」

来人は俯いて唇をへのじに曲げた。

 「アラン…あなたはクルトより身体が大きいのです…。
壊されたからと言って力任せに突き倒すのは良いことではありません…。
クルトは小さいのですから…やってはいけないことだと教えてあげましょうね。」

吾蘭は素直にこっくりと頷いた。

 「さあ…クルト…どうしました…? あなたは…良いことをしたのですか…?」

子安さまの言葉が理解できているのかいないのか…来人は眉を顰めていた。
 
 「では…これからはクルトが作ったものを全部壊しましょう…。
クルトは壊されるのが好きなのですね…? 」

クルトはいやいやをした。

 「ならば…どうしたら良いでしょう…。 
悪いことをしてしまった時には…クルトはどうしますか…?
悪いことをされた人はどうして欲しいと思いますか…? 」

 来人は吾蘭に向かってご免なさい…というように小さなお辞儀をした。
吾蘭はにこにこして来人の頭を撫で撫でした…。

 よくできた…と言うよりはでき過ぎた子だわ…。 まるで大人みたい…。
輝は吾蘭のそういうところにも疑問を持たずにはいられなかった。

 考えてみれば…子安さまの行動も…一歳や二歳の子どもに対する叱り方とは思えないほど…。
あの子たちによく理解できたわね…。

 世の中には謝って済まないこともある…それも何れ…教えておかなくては…。
子安さまの内心の声が…輝を更に驚かせた。

 無理だわ…こんな幼い子に…。
裁きの一族は…みんな…こういう育て方をしているのかしら…。

 輝は西沢の顔を思い浮かべた。
普段は…出鱈目なことも平気でするはちゃめちゃな男なのに…時として豹変する。
誤解のないように言っておけば…悪い意味ではなく…故事の如くに…である。

 もともとは恐ろしく厳しい男なのではないか…と感じることもある。
西沢とは長い付き合いだが…輝が西沢の真の姿を見たことは…まだ…一度もなかった…。






次回へ

珍…ポータビリティ…!

2006-10-24 23:07:00 | オカン
 さて…始まったね…ポータビリティ…。 
少し前からいろいろ宣伝合戦で喧しい状態だったけれど…自分は変える気がないのでまったく興味が湧かなかった…。 

 だって…携帯の番号はそのままでも他の手続きが面倒でしょ…。
何だかんだ言って料金も取られるし…。
未だアナログ人間だから…携帯で音楽は聴かないし…カメラ機能もめったに使わないし…細かい字…苦手だからゲームもしない…。 

 ネットサーファインもショッピングもパソコンで事足りるし…画面大きくて見やすいし…使い慣れたパソコンの方がずっと好きなんだよ…。 

まあ…電話機能とメール機能さえあれば文句はないんだ…全然…。

 それに自分…一旦ここと決めると拘っちゃう性質なんで…。
だからずっと…○○○ダケ…だけだ…。 

 自分のオカンはサルと言われるくらいメカが苦手だし、視力も良くないからメールもゲームもしない。
 今まではごちゃごちゃ機能の付いた携帯を使っていたんだが…この際…ということで携帯変えた…と新しい携帯を使って知らせが入った。

勿論…ポータビリティがどうのこうのではなく…。

 「今変えると安いんだって言うから…。 あう…で変えたんだけど…。 
音…悪いかねぇ…?」

あう…? それは…ひょっとしてa○のことかなぁ…? 
まあ…ちょっと聴きづらいかな…。

 「一番安いやつ…。 機能の全然付いていないの…。 ボタン押すだけの…。」

ああ…老人向けの…ね。

 「安くて…簡単で…え~ねぇ…と思ったんだけど…。 」

まあ…そうだろうね…。 
電話かけるだけの機能しかついとらんのだから…何も間違いようがない…。 

 「大失敗じゃわ…! 今から変えたらお金がかかるし…。 」

何で…? 簡単でいいじゃないか…。 なんたって…安いし…。 

 「これには画面がついとらんの…。 」

画面…? 画面が必要か…? 写真もメールもゲームもしないのに…? 

 「画面がないもんで…かけとる番号が見えんのだわ…。 
かけたとこ…間違えとっても…番号がぜ~んぜん確認できんで分からんの…! 
電話した相手にあんた誰…とは訊けんし…。 

 世の中怖いから…妙なところへかかったら…困る…。
かけるたびに滅茶苦茶神経使わんならんの…。 ボタン押すのも一苦労…。

 何度も番号を押しなおさんとならん。
私は何処へかけているんでしょう…ってなもんで…。 」

それは…かけられた方も…困ると思うけどな…。 
確かに…分からんところへかけて詐欺に引っかかったりしたら怖いね…。
十分…気をつけなさいよ…オカン…。 

 なるほど…使い勝手はいろいろだね…。
年取ってるからって老人用の携帯が使い易いわけでもないんだな…。 

 まあ…安物買いの銭失いってよく言うじゃないの…。
値段につられて馬鹿を見たってことだ…オカン諦めな…。
金より安全だよ…。 

世界で一番簡単な携帯は…世界で一番難しい携帯だった…わけだ…。 







 

 








とんでもないラーメンの思い出…!

2006-10-23 16:05:50 | ひとりごと
 あれは…10歳頃のことだったろうか…。 
はっきりは覚えていないが…小学生だったことは間違いない…。
 自分と兄弟たちは夏休みなど長期の休みになると田舎の叔母のところへ何日も泊りがけで遊びに行っていた。 

 いとこたち…自分と兄弟たち…二家で子ども総勢8名…時には三家で10名…。
壮絶である…。 

 後の2名は別として…先の8名は揃いも揃ってよく食べる…揃いも揃ってじっとなんかしていない…。
たもを片手にバケツを抱え…田んぼや畑を駆け巡り…バケツいっぱいのカエルやザリガニをかついで…泥や肥やで真っ黒になって帰って来る…。 

 世話をする方も大変だが…オカンと似たもの同士のオバハンは万事大雑把…。
てきと~な御飯を作り…てきと~に並べる。
子どもたちもそれをてきと~に食べる。 

 今と違って手をかけられていない子どもたちは…何も考えることなく与えられたものをがつがつ食べる…。 

 食べ物の選り好みなど言ってたら米の飯さえ食べられなくなるような状況で…オカズ争奪戦が始まる…。
さすがにいとこ同士ではやらないが兄弟同士なら遠慮もない…。 

 もともと我が家では…好き嫌いなど言うのは尤も卑しいことだと教えられ…少しでも文句を言えば…米一粒でさえ貰えないという育ち方をしているから…好きも嫌いもあるわけもなく…出されたものは全部平らげる…。

ところが…その我々兄弟をして箸のまったく進まないものがここに存在した…。 


それは…三色ラーメン…! 


なんじゃそれ…と思われる方も多いことだろう。
蕎麦屋へ行けば…茶蕎麦…梅蕎麦…更科蕎麦…で三色蕎麦…。

違~う!
そんな上等なもんじゃねぇ~! 

味噌…塩…醤油で三色…。
いいんじゃない…いろいろ楽しめて…。

いろいろじゃねぇ~! 

味噌…醤油…塩…全部なの!
全部おなじ鍋ん中へ放り込むの!
ごっちゃごちゃに…!

それはもう…それはもう…凄絶な…お味…。 

オバハン…頼むわ…。 






続・現世太極伝(第九十四話 宗主の思惑)

2006-10-22 18:15:00 | 夢の中のお話 『続・現世太極伝』
 月明かりに照らされて秋の薔薇が咲き乱れる様子を…智明はひとり…ぼんやりと眺めていた。
大きく開かれた部屋の窓を通して…風が香りを運んでくる。
 この館には四季折々に咲く薔薇が植えられてあって、年間を通じて花を楽しむことができる。
薔薇だけではなく、手入れの行き届いた庭にはいつも何かしら花が咲いていた。

 麗香がこよなく愛したこの部屋の窓から眺められる風景も…今は智明のものとなっている。
ようよう形見分けも終わり…相続の手続きも終わり…部屋を片付け…麗香の想い出だけを残した。

 お告げ師の仕事もお伽さまのお蔭で何とか麗香の名を汚すこともなく…順調…。
端は戸惑っていた顧客たちも…智明の持つ独特の雰囲気に惹かれてか…次第に馴染み…それまでと変わらずに通ってくるようになっていた。

 ねえ…お姉ちゃま…お姉ちゃまなら誰を選ぶ…?
バラバラなものをひとつに纏め上げることは容易じゃない…。
それだけの力量を持つとなれば…既にどっかのトップになってるはずだわねぇ…。

 何れにせよ…お姉ちゃまの提唱した連携組織がようやく実現したのよ。
せっかく産声を上げたんだから…上手く育ってくれるといいわねぇ…。

 相変わらず…麗香の前ではスミレになってしまう…。
多分…何年経っても…それだけは変わらないんだろう…。

 窓を開け放しておくには…少し風が冷た過ぎる…。
大きく息をした後で…お休み…と呟きながら庭に面した窓を閉じた…。



 ノエルの修練に宗主やお伽さまと交代で付き合ってくれていた北殿が、ようよう満足そうに頷いた。

 「私が教えてあげられる力については…もう…ほとんど大丈夫だわね。
攻撃も防御もまずまずだわ…。
ただ…あなたはかなりのおっちょこちょいだから…十分気をつけるのよ…。

 今現在起こっている状態を映像化して見せることは私にも出来るけれど…過去の映像を再現して大勢の人に見せるなんてことは出来ない…。

 この能力に関しては…三人とも不得手なの…。
宗主のお祖父さまが生きていらっしゃれば…何とかなったんでしょうけれど…。
悪いけど自分でコントロールできるように努力してね…。

 怪我の治療に関してはここまで…。
さらに高度なことは滝川先生から教えて貰ってもいいけれど…多分…能力的にそこまではいけないと思うわ…。 」

 宗主の許可が下りれば…紫苑の許に帰れるわよ…。
女性の方の能力については…すぐには必要ないから…また今度ね…。
北殿はそう言って微笑んだ。

 北殿のOKが出て…ノエルは少しばかりほっとした。
ノエルは系統的に北殿の家系の主流だから…北殿は殊に厳しかった。
 やっと…帰れる…。 紫苑さんに会える…。
まだ…それほど本家に居るわけではないのに…やたら懐かしく感じられる…。

でも…紫苑さんのことだから…帰ったら…浮気相手が増えてたりして…。

 部屋に戻ると吾蘭と来人が飛んできた…。
いつものように…ノエルの疲れた手足を撫で撫でするために…。

 「アラン…頼みがあるんだけど聞いてくれる…? 」

ノエルがそう言うと吾蘭は真剣な眼をしてノエルを見つめた。

 「アランとクルトのお父さんや滝川先生たちはね…。 
みんなを護るために悪い人たちをやっつけようと頑張ってる…。

 お父さんたちと一緒に戦えるように…ノエルは訓練をしてたんだけど…やっと宗主さまのお許しが出て…お父さんのお手伝いができることになったんだ…。

 ノエルは…お手伝いに行くけど…アランたちは危ないからまだしばらく…ここに居なきゃいけないんだ…。 」

吾蘭はチラッと来人や絢人を見た。

 「アランたちは…お留守番…? 」

不安げに訊ねる…。

 「そう…。 でも…輝さんや子安さまが一緒に居てくれる…護ってくれるよ。
そこで…アランにはお願いしたいことがあるんだ…アランはお兄ちゃんだから…。
ここでお父さんのお手伝いをしてくれないかな…。

 クルトとケント…ふたりの弟を慰めてあげて…。 きっと寂しがるから…。
アランも寂しいかもしれないけれど…お家に帰れる時が来るまで待っていて…。
 そうしたら…お父さんも先生もノエルも頑張れる…アランがここで弟たちを看ながら待っててくれるんだから…。
それが…アランにできるお父さんのお手伝いなんだ…。 」

 吾蘭はじっと考えている…。 理解しろ…と言う方が無理なんだろう…。
だって…吾蘭はまだ二歳を過ぎたばかり…。

 「解った…。 アラン…お手伝いする…。 」

 大きく頷きながら吾蘭は言った。
優しく微笑みながらノエルは吾蘭を抱きしめてやった。
手を伸ばしてきた来人も…そして…僕も…と駆け寄ってきた絢人も…。

 「仲良く…待っていて…迎えに来るまで…。 」

 そう言ってノエルは三人の息子たちに代わる代わる頬ずりした。
くすぐったさに肩を竦めながらも小さな息子たちは嬉しそうに声をあげて笑った。



 自社ビルの正面玄関を出て迎えの車に乗り込もうとしたところで、誰かがじっと自分を見つめているのに祥は気付いた。
少し前に滝川が運転中に襲われた話を聞いていたが…なるほど…と納得した。

 この視線の主ならば…場合によっては…寸前まで気付かれることなく行動できるだろう…。
悪意も敵意も感じさせず…ただの通りすがりのように近付いて…瞬時に動く…。
 運転中ではあるし…余所事に気を取らでもしていたら…攻撃されるまで分からないかも知れない…。
慎重派の滝川にしては珍しいことだが…。

 「どう…出てくるか…。 」

車の後部座席に乗り込みながら祥は思った。

 どうやら…敵はその場に居るわけではないようで…視線はずっと祥の行方を追っている。
これは…業使いだな…。 そう感じた…。
 業使いならば…寸前まで気配を感じられないのも無理はない…。
攻撃を受けた後なら、こちらも意識を集中するので、それなりに力さえあればキャッチできるかもしれないが…。

 祥の車の運転手は護衛を兼ねた選りすぐりの能力者だが…業使いの気配は特殊なので…その気配に触れてみた経験がなければ瞬時には捉えられない…。

 ここからふたつ目の交差点を左折すれば自宅へ向かう道…信号で停止していた祥の車の方へ対向車線から大型トラックが信号の変わり目に強引に右折。
周りの車が一斉にクラクションを鳴らした。
 このあたりは高速のインターチェンジが近い関係で頻繁に大型車が通る。
これもそこから下ってきたトラックだろう…。

 思う間に…祥の車目掛けて突進してきた。
祥は咄嗟に運転手と自分の周りに強力な障壁を張った。
同時に運転手がトラックを止めようとした。

 トラックは祥の車のフロント部分を捥ぎ取るように吹っ飛ばして横転した。
運転手の力で方向が逸れて直撃だけは免れたが…その衝撃で車は路側帯を飛び越えて歩道の植え込みへと乗り上げた。
障壁に護られた座席部分は壊れず…乗り上げた際に受けた軽い打撲程度で…ふたりとも自力で車から外へ出た。

 「御大…大丈夫ですか…? お怪我は…? 」

運転手が急いで祥の具合を訊ねた。

 「おお…大丈夫だ…。 きみは…? 」

平気です…と答えながらもちょっと首の辺りを気にしているようだった。

 失敗だったな…と祥は少しばかり反省した。
業使いの動きは捉え難い…。 
相手の業に先んじて封じておくべきだった…と…。



 飯島病院の特別室…この数年…西沢家はこの部屋の常連さん…。
ほとんど毎年のように…誰かしら…ここに世話になっている…。

 祥は齢が齢だから…一応…大事を取って事故後の精密検査の為に入院しているのだが…取り立てて悪いところがあるはずもなく…結果を聞いたら即日退院しようと考えていた。

心配なのは運転手の方で…少し鞭打ち気味らしい…と院長から聞いた。

 やはり…失敗だったな…と反省しきり…。
祥の力なら…トラックくらいもう少し穏やかに止められたかもしれない…。
障壁を張るより…トラックを吹っ飛ばした方が良かったか…。

 部屋に近付いてくる足音で…紫苑だ…と気付いた怜雄が扉を開けた途端に…西沢が血相変えて飛び込んで来た。

 「お父さん…大丈夫ですか…? 大事ありませんか…? 」

 西沢は飛びつかんばかりに祥の傍らへ駆け寄った。
祥は嬉しそうに頷いた。

 「紫苑…誰が知らせたんだね…? 心配するから黙ってろと言っておいたのに…。」

西沢は心配そうに養父…祥の顔を見つめた。

 「お母さんから…。 お母さんもひどく心配していましたよ…。
申しわけありません…。 僕のせいですね…。 お父さんをこんな眼に遭わせてしまった…。 」

 取り乱した養母から知らせが入ったのはつい先程のことだった。
滅多に外出できない病身の養母美郷にとっては…自分の代わりに西沢を見舞わせることが祥への思い遣りなのだろう。

 「それは違うよ…紫苑…。 おまえのせいではない…。
実はな…内々の話だが…新しい組織の責任者に…との打診が来ていたんだ…。
もう…この齢なのでな…。 断ろう…と考えていた矢先のことだった…。

 奴等がどうやってそのことを知ったのかは分からんが…そのせいだろう…。
要らぬ心配をかけてしまったな…。 」

 西沢の手を取って祥は笑顔でそう言った。
可愛い紫苑…何も心配することはないのだよ…。
おまえは…おまえの思うように動けばいい…。

 「お父さんが…責任者に…? 」

 西沢は少なからず驚いた。 確かに…西沢本家は裁きの一族と同族ではない。
西沢本家と西沢の実家木之内家とが同族で…養子に入った西沢が裁きの一族の主流の血を引いているからその部分において関わりがあるだけで…。

 養子とは言っても西沢は西沢本家の跡取りではないし、裁きの一族はこの養子縁組を認めていないので、裁きの一族においては西沢は未だに木之内紫苑のままだ。
 それでも他の家門に対しては、西沢を養子にしているというだけで十分過ぎるほどの権勢を誇ることができた。

 それから考えれば…同族ではない祥が選ばれても不思議はない…。
有力な家門の長であり、本人の能力も優れている。
 少々政略家ではあるが…悪い人間ではなく…むしろ組織の上に立つ者はそのくらいの切れ者でなければものにはならないだろう。

 ただ…祥はすでに60歳を越している。
至って元気ではあるが…新しい組織を率いるとなれば…責任も仕事もハード…。
西沢本家の本職は怜雄や英武に任せておけばいいとしても…相当にきついのではないだろうか…。

西沢は宗主の考えを量りかねた。

 「なあに…私を選んだと言うよりは…私をトップに据えておいて…実際には若手を動かそうと考えているのだろう…。
私を飾りにしておけば…後は誰が動こうと文句は出ないだろうからね…。

 おそらく…庭田智明あたりを組織の要に…と宗主は考えておられるのだろう。
庭田は名門ではあるが…他の家門に顔が利かないから…私にそのあたりを介添えさせるおつもりなのだろうな…。 」

 祥はカラカラと笑った。
それも…面白い…。 

 敵に脅されて…怯えて引っ込んだとあっては西沢本家の長の名が泣く…。
押しも押されぬ組織の要を…この西沢祥が育ててご覧に入れようかな…。

なあ…紫苑…。

面白そうな遊びを見つけた少年のように…祥は…殊更…楽しげに笑った…。








 
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