スペースノイズ

α宇宙域「地球」からの素粒子ストリングス変調波ノイズを受信!彼らの歴史、科学、娯楽、秘密など全てが含まれていた。

ウクライナ危機PARTⅧ パスパルティザッツヤ(ロシア人になるか、それとも強制移住か) ヘルソン市

2022-05-01 16:26:09 | 軍事
●頑強なウクライナの町 ヘルソン

2022年4月25日 ヘルソン市議会がロシア軍に占拠された。イーホル・コリハイエフ市長はロシア軍から一方的に解任された。ロシアの狙いはロシア軍の監視・占領下で行われる「住民投票」による「ヘルソン人民共和国」の独立宣言である。

ヘルソンはロシアの次の軍事目標であるオデーサやモルドバへの侵攻に欠かせない補給兵站都市として、またクリミヤを「ヘルソン人民共和国」に併合するための都市として、さらに不足する兵士の供給都市としての価値があり、マリウポリのように焼野原にするわけにはいかない。

だが市民や市・州議会の激しい反対デモにより、4月27日に予定されていた「住民投票」が延期されている。

日経新聞2022.4.27


ロシアから一方的に解任されたコリハイエフ市長は、はやい段階からロシア侵攻を受けてその暴挙を非難し、いかなる侵略者にもヘルソンは屈しない決意を持っていた。そして第二次世界大戦時にナチス占領からの「ヘルソン解放記念日」である2022年3月13日に
ヘルソン市は常に頑強なウクライナの町
と題してSNSに発信した。

UKRINFORM 2022.3.13(ウクライナのマルチメディア報道プラットフォーム)


手を焼いたロシアは、FSBやロシア軍による強制圧力でまずヘルソンの中枢、市長、知事、州議会議員を親ロシア派の人間に入れ替えることにした。
親ロシア派議員で新ヘルソン市長のキリロ・ストレモウソウらが実行支配する「ヘルソン人民共和国」政権は、「許可のない集会に対する制裁と制限」についての文書が発行されており、反対デモを弾圧するための一方的な公的根拠を流布させている。



●プーチンのウクライナ人奴隷化計画小説「паспортизация(パスパルティザッツヤ)」

Passportization>Wiki:パスポータイゼーション

ウクライナなどの他国民にロシアのパスポートを与えてロシア市民として扱うこと。
他国で圧政に苦しむムロシア人を保護・解放するためにというロシア侵攻の理由付けに利用される。
2014年のクリミア侵攻の以前からFSBを中心にクリミヤの親ロシア系ウクライナ人に発行していた。
また2019年7月にはウクライナ東部のドネツク、ルガンスクの両州の住民に対してもパスポート発給を始めていた。

(日経新聞2019.7.18)


この方法はウクライナだけでなく、ジョージア、モルドバその他でも行われていた、あるいはこれからも他国で行われるかもしれないロシアによる侵略行為の一環である。


<ヘルソン脱出>

集団住宅 ヘルソン市。
隣人のミコラ・プリシェフがあわてた様子でスラバの部屋に入ってきた。
「おい、市議会がロシアに占拠されたぞ!」
「そんな話はTVではやっていないぞ」おっとりした口調でスラバが答えた。
「当たり前だ。TVも既に占拠されていてロシア寄りのフェイク・ニュースだらけだ。本当のことを知りたいなら、ラジオやネット配信のススピーリネ(ウクライナの公共放送、日本のNHKに該当)を視聴しろ」
そうしようかとスラバはまだ落ち着いた様子だった。いら立つミコラが訴えるように言った。
「そんなのんきなことを言っている場合じゃない!俺はこれからヘルソンを出る。車にはまだ乗れるので、一緒に行こう!」
「行くって、どこへ?」
「とりあえず北東のクリビーリフを目指す。ススピーリネの放送ではまだロシアに占領されていなくて、多くのヘルソン脱出者が殺到しているようだ」
「クリビーリフといえばゼレンスキー大統領の故郷だな。遠いな。車で3時間はかかるだろ」
「車は途中までしか使えない。既にロシアの検問所があっちこっちにできているそうだ。検問所を避け徒歩で行くしかない。ウクライナ軍も脱出に手を貸してくれている様子だ。荷物は徒歩での脱出を考えて最小限の手荷物だけだ。とにかく急げ!」
スラバはミコラの急な脱出話に戸惑った。家も家財もすべてを捨てて、行ったこともないクリビーリフへ行こうという。糖尿病の持病を持つ妻アナスタシャも行きたくないと反対するだろう。息子のユーリイも仕事を捨てて無職になってしまう。独り身のミコラのように自由に動ける者とは状況があまりにも違いすぎる。
「急には無理だ、ミコラ。申し出には感謝するが、すぐに結論は出せない。家族とも相談して、もう少し様子を見たい」
「ブチャの虐殺を前にも話しただろう。TVしか見ないあんたは半信半疑だったが。助かってもプーチンの奴隷にされるだけだ」それでもスラバは決心がつかない様子だった。ミコラは説得をあきらめた。
「仕方がない。俺はもう行くよ。俺の部屋の鍵を渡す。自由に使ってくれ。元気でな」
「あんたも気を付けて」2人はハグをして別れた。

<パスパルティザッツヤ=Passportization>

ヘルソン市役所内。
長い事務机が5台並べられていた。各机には分厚い数冊のバインダーファイルとパソコンが載っていてロシア人とウクライナ人の事務職員がペアで椅子に座っている。各机の前には5列のヘルソン市民たちが長蛇を成していた。四隅には銃を持ったロシア兵が監視していた。
「はい、次」受付を終了し事務机の前に座っていた老婆が椅子を立った。受付を担当していたロシア人が列に向かって言った。
列に並んでいたスラバ一家3人が事務机の前に進み出て簡素なパイプ椅子に腰かけた。
「名前は?」ロシア人の問いに、スラバ・クリヴォフ、妻のアナスタシャ、息子のユーリイと答えた。
ロシア人は隣のウクライナ人事務職員に目で促した。彼女はパソコンを操作した後、バインダーファイルの束と格闘し該当するページを見つけロシア人の前に差し出した。ロシア人はそのページを黙読した。そのあと3枚の書類をスラバの前に差し出した。
「そこにサインしなさい」書類はロシア語で書かれていた。同じキリル文字で書かれているがウクライナ語と若干の違いがある。
スラバは55歳。1991年のウクライナ独立までのソ連邦時代をロシア語で過ごさざるを得ず、独立後は公用語となったウクライナ語に慣れてきた。23歳の息子は最初からウクライナ語教育を受けていたので、ロシア語、ポーランド語も読み書きできる。
書類を読んだスラバがロシア人に訊いた。「ロシアのパスポートを発給してもらえるんですか?」ロシア人がダーと答えた。
「貧乏なのでロシアに旅行する機会は今後ともないと思いますので、あまり必要とは思えないのですが」スラバはロシアの企みが分からないので、警戒しながら注意深くサインを拒否しようとした。
「ヘルソン人民共和国で自由に暮らすにはこのパスポートが必要です。身分証明書ですから常に携帯するように。あなたの今の立場は外国人です。今後は共和国の行政サービスを受けられなくなりますよ。きつい言い方をすると、あなたは共和国の資産である集団住宅に不法に許可なく住んでいることになる」
「そんなバカな!」ロシア人の顔に不快感があらわになったのを見て取ったスラバは、声を荒げてしまったことに後悔して謝った。「すみません。動揺してしまいました。乱暴な言葉を使ったことを謝罪します」ロシア人は表情を和らげた。
スラバは妻と息子と小声で話し合い、3人ともにサインすることにした。

<徴兵義務>

サインが終了し、3人が椅子から立ち上がり帰ろうとした。ロシア人が言った。
「あなたと息子さんはあちらの部屋に行ってください。奥さんは帰ってもいいです」
不審がるスラバと息子のユーリイは指示された小部屋に入った。事務机が1台と私服と軍服のロシア人2人が椅子に座っていた。ロシア軍兵士が1人、小部屋のドアにいた。
促された2人は机の前のパイプ椅子に座った。
軍服を着たロシア人が2枚の書類を2人の前に差し出して言った。
「あなたたちはこれから軍務についてもらいます。そのための宣誓書です」
「ロシア軍に参加しろというのですか!」予想もしない展開に驚いた2人が同時に問い返した。
「すぐに戦闘に参加するわけではない」軍服が平然と答えた。「軍職も幅広い。軍勤務中の態度で戦場勤務になるものもいる。ロシアへの愛国心が評価基準となって決められる」脅しだった。
「息子さん、ユーリイ君だったね。23歳、IT会社勤務。ウクライナ国立工科大学、情報学およびコンピュター工学部卒。立派な履歴と学歴じゃないか」私服が懐柔するような口調で褒め始めた。目つきが鋭く嫌な雰囲気が漂う男だ。FSB(ロシア連邦保安庁)かもしれないとユーリイは感じた。
「今ここで私が断言できる立場ではないが、ユーリイ君の能力ならロシア対外情報庁(SVR)勤務が有力勤務地となると思う。兵士として戦場に出ることはないだろう」私服は目を通していた書類を机上に置いた。おそらくスラバとユーリイの経歴が書かれた書類だろう。ロシア人2人はサインを促すような表情で沈黙した。
スラバとユーリイは互いに目を合わせたが何もせずにいた。2人の沈黙を破るように私服が言った。
「君たちは先ほどロシア国籍を取得する書類にサインした。ロシア連邦法を順守すると誓ったのだ。この宣誓書にサインをしないなら、ロシア連邦法によって処罰されることになる」最後通牒だ。
「どうなるのですか?」不安と恐怖を押し殺してスラバが訊いた。
「君たちはサハリンやシベリアに行ったことは?」薄ら笑い浮かべながら私服が訊いてきた。2人は黙ったままだ。
「ロシアは今、ウクライナのネオナチ勢力との戦いに全力をあげている。愛国心のあるロシア人ならこの正義の闘いに微力でも奉仕しなければならない。傍観は許されない」ロシア僻地での強制移住と強制労働をほのめかしているのだ。

スラバはヘルソン脱出を決意したミコラが正しかったことを実感した。そしてその言葉を思い出した。「プーチンの奴隷にされる」

<フィルターキャンプ>

ヘルソン市庁舎 食堂、午後10時。
アレクサンドル・ゴロノフは今日の疲れるパスパルティザッツヤ勤務の監督を終了して部下と一緒にネミロフ(ウォッカ)を飲んでいた。ヘルソン市庁舎の諸部署に置いてあったウクライナ産の酒を一方的に接収したものだ。ゴロノフはFSBの軍事動員課からヘルソンへ派遣された監督官だった。酔っぱらった部下が威勢のいい口調でゴロノフに訊ねた。
「パスポートを発給したウクライナ野郎はほとんどが反抗的でした。ゴロノフ主任、なぜそんな連中に甘い顔をするんですか?さっさと強制移住させればいいのに。疲れるだけですよ」
別の部下も同調して言った。「そうですよ。反抗的な奴らは面従腹背でいずれ反旗を翻しますよ。そんな奴らは強制移住させ、本当にロシアに忠誠心を持つ人間にだけパスポートを発給すべきだと私は思います。そうすれば安定的なヘルソン統治ができますよ。間違いなく」
ゴロノフは部下たちの愚痴を笑いながら受け流していた。しかしゴロノフも相当酔っていた。部下が知らない情報をゴロノフは知っていた。迷いがあったが、酔いが優越感を後押しした。
「お前たちは知らないと思うが、フィルターキャンプを知っているか?」部下たちは誰も知らなかった。
「マリウポリ、ハリコフなどの都市から連行したウクライナ人が送られるところだ。そこで思想信条をフィルターにかけるんだ。親ロシア派の人間かどうかを判別する。当然反ロシア的な奴らはシベリアなどへ強制移住させる。ところがチェチェンの連中やフィルターキャンプの意味を理解していない部署の者に選別を任せたら、奴ら反ロシアのウクライナ市民を平気で殺している」

(読売新聞 2022.5.4)


そこでゴロノフが一息ついた。また少し迷いがでた。これ以上話していいかどうか。だが部下たちはゴロノフの話の続きを待っている。仕方がない、教えてやろう。ネミロフはもう一杯煽って言った。

「実は親ロシアに転ぶウクライナ人が少なかったのだ。上の連中が当初予想して見積もっていた数をかなり下回っているのだ」部下たちにも意外な話だった。今回の作戦はウクライナのネオナチ化を防ぐ軍事作戦で、多くのウクライナ人から解放作戦を喜んで歓迎されると思い込んでいたのだ。
「ヘルソンにきて分かったのだが、当初のやり方で反抗的な連中を全員強制移住させて、フィルターキャンプで選別された親ロシア派住民をヘルソン市民として移住させたら、どうなるか。スカスカの過疎都市になることが分かったんだ」
部下に知らせてはいけないことだった。まずい。念押しをしておかないと。
「このことはここだけの話だ。お前たちの毎日の大量パスポート発給の苦労がわかっているので事情を説明した。終わりの見えない退屈な繰り返し作業だが大事な仕事だと分かってもらいたい。わかったな」部下たちは生返事を返すだけだった。

部下たちもウクライナが頑強に抵抗することが不思議だったが、その理由がわかり始めた。





最新の画像もっと見る