静寂 2006-06-14 01:11:58 | よむ 作曲家が自ら没にした旋律は静寂の美しさを越えることが出来なかったものである、と芥川也寸志は『音楽の基礎』(岩波新書)の中で述べています。 「休止はある場合、最強音にもまさる強烈な効果を発揮する。」(P2 6行)
夢見ぬ心 2006-03-12 16:32:57 | よむ 北村薫はアンドラージの『集団』という詩を引いて、そこに登場するリリーという一人の女性を語っています。 「リリーは、きっと恐ろしく、ものの見えている女性なのでしょう。理想というものの、もろさ、あるいは極論するなら、うさん臭さを知っている。だから孤独なのです。リリーは、その認識によって、すでに生きながら《自殺し》ているのでしょう。」 夢見る心の強さにも憧れますが、夢見ぬ心の荒涼も愛しいものです。 それにしても、 淡々と事実だけをならべているかのようなアンドラージの詩から、このようにリリーの精神を描き出す北村薫さんに畏敬の念を覚えます。 『詩歌の待ち伏せ Ⅰ』(北村薫著・文春文庫)
俺は馬鹿になった・・ビートたけし 2006-03-08 03:08:30 | よむ 一度は手元にあった詩集。 お引越しやらのどさくさの中にまぎれてしまって、 今はもうわたしのもとにはないのです。 本屋さんに行って探したけど、在庫がありません。 ざんねん。 たけしさんの言葉の中に、ふと、あなたがみつかる。 そんな本だったので、もう一度、手元に欲しいのです。
あいまいに只ほほ笑み 2005-12-04 15:06:35 | よむ 『田辺元・野上弥生子往復書簡』(岩波書店)を遅々としたペースながら読み進めている。野上夫人として弥生子を奥様と呼び続け、田辺元を学問的師と仰ぎ先生と呼び続けるふたりの手紙は、遠い国への距離感すら薄くなるようなメール慣れした現在からすると、一瞬、違和感を覚えるほどの敬語と定型文が交わされて行き、徒に距離を縮めることはない。この抑制された言葉と、元は元の、弥生子は弥生子の暮らしを守るふたりのきびしい距離感の中に、ほとばしるほどにお互いを思い遣る心があふれていることに、感銘を受ける。 さびしさは腸を喰ふ腹の虫 命吸ひとり絶やさんとする 死につつ生くるまことの道はわをも殺す 死なねば生くる道なかりけり 死は苦し生は楽しとわかちかぬる 不思議の境オルフェウスの道 君に依りて慰めらるるわが心 君去りまさばいかにせんとする 田辺 元 それでも先生の親愛と友情-こんな言葉を御許し下さいますならば、それを頼りに今後も正しい、まつすぐな、同時に自由でゆたかな人生の路を生きつづけたく存じます。どうぞお導き下さいませ。これまで世の人が私を幸福だとおっしゃる時、私はあいまいに只ほほ笑み、いかに孤独に淋しく生きたかを心におもふのでしたが、今はもし同じ言葉をきいたら、まつすぐに肯定したいと存じます。 野上弥生子
しゃこ貝の豆腐よう 2005-12-02 16:11:58 | よむ 琉球料理の山本彩香さん・しゃこ貝の豆腐よう。 一度はお店を訪れてみたい、と念願はいまだかなわないままですが、 三越で沖縄展が開催され、そこに出店されていました。 沖縄料理の味はどうしてこんなにやさしいのでしょう。 wrote12.04
ミッシャ・マイスキー「わが真実」 2005-11-19 23:21:18 | よむ わたしがとりわけチェロの音を好きなのは、初めて聴いたチェロのCDがマイスキーの演奏だったからなのだと思います。幸運な出会いでした。マイスキーのCDが少しずつわたしの手元に増えていくにつれて、他のチェリストへの興味もほんの少し広がっていき、そこで改めて、マイスキーの音の独自さに惹かれていきました。 『ミシャ・マイスキー「わが真実」』(伊熊よし子著・小学館) まるで言葉で音楽を奏でているかのような美しい印象を受けましたが、それがマイスキーという演奏家名が形づくるイメージと寸分違わないのです。欲をいえば、少しこのイメージが裏切られる部分があってもさらに本の奥行きが増したのではないかと思います。音楽人物辞典としてもわたしにとっては貴重な一冊となりました。 『大人の友情』(河合隼雄著・朝日新聞社) 著者の易しいことばでの語り口に数年前まではどことなく居心地の落ち着かない気持ちにさせられたのですが、このごろはこの独特の”平易な言葉の凄み”のようなものを納得できるようになりました。ちょうど映画『ヴェニスの商人』を観たばかりでしたので、アントニオとバサーニオの男の友情が男と女の関係に影を落とす可能性に言及した部分は興味深かったです。異なる展開となるものの小林秀雄と中原中也とその恋人の心の綾をひも解いた白洲正子の視点も紹介されていましたが、これも面白く、中也の恋人を奪う小林秀雄の行為は実は中原中也に同一視した極みとしての事、と捉えると、中也に自己を奪われたという側面も見えるので、軸のブレない小林秀雄というわたしの勝手なイメージが少し変わりました。 「この恋を爆発する炎の強さよりも、永続する深く輝く関係へと導いていったことに心を打たれるのである。夫婦であれ、恋人であれ、それが永続するためには友情を支えとするものであるし、その背後に何らかの断念の構図があると思う。」 『田辺元・野上弥生子往復書簡』を取り上げたところでの著者はこのような言葉で結んでいました。あの分厚い本、一度手にして読みきらないままでしたが、「断念の構図」をバックボーンにした関係の美しさに触れたくなったので、もう一度読んでみようと思います。
”A Widow for One Year” 2005-10-23 22:40:29 | よむ 『ドア・イン・ザ・フロア』が公開されています。 図書館から原作を借りてきているものの、観る前に読むか、あとにするか 迷っていました。だから、読んでもわからない、いえ、たぶん読めない原書を読んでみることにしました。 英文解釈の試験では、指導してくださる先生が唖然を通り越して呆然としてしまうほど、原文とはかけはなれた日本語文を、それも巧妙(笑)なほど辻褄のあった文章が創作される(本人は必死で訳しているのですが)ことがあります。「創作の、いや、妄想の試験ではありません」と何度笑われたことか。 というわけで、この本もなんだか濃い霧の中を歩いているかのように読み進めているのですが、二重のびっくり箱を開けるような楽しみが待っています。 たどたどしくかろうじて拾えていると思いたい物語の場面状況が映画ではどう展開されるのか。映画化されるのは小説全編の1/3ほどらしいので、映画を観た後、訳本を読んで全体を味わいたいと思うのかどうか。 ~辞書の電池切れに少しほっとしながら・・・~
ぐれる・・・陸沈・・・まっすぐな没落 2005-08-28 00:19:00 | よむ ここで中島義道を読む。 自分が感じたことをそのまま正確に語ると人々の怒りを買い、 反社会的なことになってしまう作者のひとりごと。 オモシロ本ではないけど、思わず随所で声を上げて笑えます。 語り口は平易、その実、厳しい哲学の道案内書。 ただ、 それを「ほんとうの問い」と言うことだって わたしにはあまり美しいことのようには思えないんだけど。
DANCEのないネズミ 2005-07-05 02:27:21 | よむ ”DANCE”ですってよ~おくさん! 肌の張りを保つたんぱく質の遺伝子”DANCE”が発見されたんですって。 老化による肌のたるみもDANCEが関係している。 ”かもしれない”ということで研究がすすめられるらしい。 それにしても、 DANCEのないネズミを人工的に作って研究されたのだそうです。 すんごい。
松平盟子 2005-07-04 01:18:34 | よむ ・。 口移されしぬるきワインがひたひたとわれを隈なく発光させる 白ワインはあるかなきかの薄みどりあるかなきかは幸福に似る ロゼ・シャンパンさやさやさやと発泡す生まれる星と死ぬ星の音 松平 盟子 ・。 ◇初めてドンペリをいただく。 ・。 泳ぎ来てプールサイドをつかまえたる輝く腕に思想などいらぬ 松平 盟子 ・。 ◇今年初めて泳ぐ。 ・。 夕立の簡潔の意思ながめおり混沌のわれのまなこ二つが ようやくに飼いならしたる”悲と哀”が”火と愛”に音かようことあわれ 激痛がわれのこころに巣喰う日は黒水仙のしずかに揺れて 松平 盟子 ・。 ◇部屋の整理をしていたら「松平盟子」の歌集が数冊出てきた。 こころが閉じているとことばが出てこなくなる。 こころ開いてもこの美しい表現はできないけど、 今日は盟子さんの言葉をかりて。