朱建栄氏、失踪から3カ月、在日中国人識者に動揺
朱建栄・東洋学園大教授
日中関係や中国政治について日本のメディアで積極的に発言していた東洋学園大教授の中国人学者、朱建栄氏(56)が中国で消息を絶ってほぼ3カ月がたった。7月に情報漏洩(ろうえい)の疑いで上海市内で拘束され、浙江省で取り調べを受けたことが確認された後の動静は不明だ。日中両国で名の通った著名学者であるだけに、在日中国人識者の間には動揺が広がっている。(原川貴郎)
「中国の立場をあれだけ分かりやすく日本語で語れる人はいない。朱氏がいないのは、中国にとっても、日中関係にとっても大きなマイナスではないか」
朱氏と交友のある中国人学者は18日、都内で産経新聞の取材にこう訴えた。朱氏は上海での会議に出席するため7月17日に訪中したが、東洋学園大広報室によると、現在も安否確認が取れていないという。
この学者は、朱氏の一件が明るみに出て以降、「在日中国人識者は怖がって、ぴりぴりしている」と説明する。情報漏洩の容疑には、著書や日本のメディア関係者に送ったメールで、未発表の資料や非公開の外交文書を引用していたことなどが含まれているとされるが、そもそも何が国家秘密や機密にあたるのかなどの基準が明確でないからだ。 このため、それまで積極的に中国政治や日中関係について発信していたツイッターの更新をやめた在日中国人の知人もいるという。さらに、この学者は「中国への里帰りを控える人もいる。今後、日本国籍を取得しようとする中国人が増えるのではないか」とも語った。
「日本では入手できない中国の内部資料を使う人もいたが、後になって国家機密だったと指摘されかねない。これからは公開資料だけで研究するしかない」
関東の大学で教える中国人研究者の一人は、中国の政治・外交分野などの研究への影響を語る。
朱氏は9月28日に東京大学で開かれたシンポジウム「第3回東アジア共同体フォーラム」に討論者として出席する予定だった。参加者によると、朱氏不在の中、会場からは、「中国人の先生方に、朱先生の救出のために動いてもらいたい」との発言があったが、中国人研究者から特に反応はなかったという。
中国人ジャーナリストは「中国人研究者も朱氏のことを心配している。でも、目立った動きをすると、自分も同じ目に遭うかもしれないから、声を上げられないのだ」と解説している。