具体化しない海保・海自の連携
日本の国の守りの脆弱(ぜいじゃく)性が浮かび上がってきた。200隻を超える中国漁船団によるサンゴ密漁に対し、日本がなすすべもなかったからである。
脆(もろ)さとは何か。小笠原周辺海域が防衛力の空白地域であるうえ、尖閣諸島の領海警備に全力を挙げている海上保安庁の手が回らなかったことをさす。
対応が困難ならば、自衛隊の出番になるが、自衛隊を使うどころか、連携・協力すら具体化しなかった。日本が国の総力を結集できていないところに問題の根源がある。
◆侵害を許してしまった
日本の排他的経済水域(EEZ)の3割を占めるこの海域は海上自衛隊の哨戒対象になっていない。自衛隊基地はあるが、救難や飛行機支援が任務だ。本土から約1千キロ離れた海域が侵害されるとは想定していないからだ。海域を守る小笠原海上保安署が監視取締艇(5トン)1隻なのも無理はない。
中国漁船団が確認された9月中旬以降、巡視船が違法操業を現認して逮捕したが、領海外に漁船を追い出すのが精いっぱいだった。11月下旬、巡視船が増派され、領海内の夜間操業などを積極的に摘発する方針に切り替えた。漁船団の姿は見えなくなったが、2カ月以上、領海やEEZ内のかけがえのない海洋資源の奪取を許してしまった
こうした事態に警戒・監視を含め、海洋の治安維持にもっともパワーを持っている海自との連携・協力を求める声が出るのは自然だった。小笠原村の森下一男村長らは11月14日、安倍晋三首相宛ての要望書に「防衛省等各機関の連携による警戒監視の強化」を盛り込んだ。
少し前には自民党の外交、国防などの4部会が「小笠原諸島周辺の警戒監視体制の脆弱性は従来から指摘されている」としたうえで「取締体制を増強するとともに大型船舶が入港可能な港湾の整備や飛行場の設置、レーダーの配備、十分な人員の常駐など、海上保安庁、水産庁、警察、自衛隊の基盤の整備ならびに装備を充実し、万全な警戒監視体制の構築を政府に求める」決議を採択した。
◆自衛隊を使えないとは
しかし、サンゴ問題に対する政府の実務責任者が集まる関係省庁の局長会合は10月31日に開かれたが、参加したのは内閣官房、外務省、海保、水産庁の4省庁だけだった。防衛省・自衛隊には声がかからなかった。
この背景には、省庁の縦割り意識と自らの権益を守ることへのこだわりが見え隠れする。
警察(海保は海洋警察)と自衛隊は平成12年、「警察力が不足する場合には治安を侵害する勢力の装備、行動態様などに応じて自衛隊と警察の任務を分担する」協定を締結した。だが、分担の線引きはあいまいだ。自らの組織では対処できないと認めることが組織の否定につながりかねないから、協力を躊躇(ちゅうちょ)するのである