いま国際社会が直面しているのは世界史上初めて出現した異質の大国、中国の脅威である。大陸国家でありながら海洋大国を目指し、共産党一党支配の社会主義国でありながら都合のよい形で資本主義をとり入れた。
軍事、経済両分野で世界第2の大国となり、力で現状変更を迫り、膨張を続ける中国の前で、「繁栄し平和で安定した中国の台頭を歓迎する」というオバマ米大統領の言葉ほどむなしいものはない。侵略を続ける中国と後退姿勢を強めるアメリカの2大国が引き起こす世界史的な変化の中で、日本はどのような国になるのかを決するのが、今月14日の衆院選挙の真の意味であろう。
国際情勢の地殻変動の中で日本は確実に生き残り、繁栄を維持していかなければならない。そのためには戦後約70年間、当然の条件だと見なしてきた国際社会の価値観や体制がどう変化しているか、その現実を認識することが欠かせない。2020年までの第2列島線の確立を掲げ、アメリカに新型大国関係を迫り、太平洋分割論や核心的利益の相互尊重を主張する中国がわが国の領土領海をうかがう中、アメリカの民主、共和両党が構成する「米中経済安全保障調査委員会」は11月20日、「明らかに習近平主席には高いレベルの緊張を引き起こす意思がある」と年次報告書で断じた。中国の大幅な海軍力増強で2020年までにはアメリカの対中抑止力、とりわけ日本に対する抑止力は低下するとの分析は、日本に突きつけられた戦後初めての最も深刻な危機と考えるべきだ。中国の脅威は経済金融分野にもおよび、到底一筋縄ではいかない。今年7月のBRICS開発銀行、11月のアジアインフラ投資銀行(AIIB)、シルクロード経済ベルト基金、韓国、豪州との自由貿易協定(FTA)の実現に加えてアジア太平洋自由貿易協定まで提言した。
東南アジア諸国連合全10カ国を包み込み、アジア太平洋からユーラシア大陸の西まで、国際通貨基金、世界銀行、アジア開発銀行に対抗する形で中国主導の国際金融制度を打ち立て、日米主導の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)をも凌駕(りょうが)する意気込みが伝わってくる。4兆ドル近い外貨準備を背景にした中国の金融、経済力にアジア諸国は屈服しつつも、中国の軍事力を恐れる余り、諸国は安全保障面での庇護(ひご)をアメリカに求めている。
だが、肝心のオバマ氏が中国に位負けしている。11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で訪れた北京で「太平洋は米中2つの大国を受けいれる十分な広さがある」との表現で新型大国関係を求めた習主席に「同意する」と述べ、実質的に中国の要望を受け入れたのだ。
アメリカの後退が生み出した政治的、軍事的空白に、間髪を入れず侵出してくる異質の価値観の中国やロシアとどう向き合うのか。日米関係を重要な外交の基軸としながらも、あらゆる面で日本自身の力を強化しなければならない。その第一歩が14日の衆院選挙における選択である。
そう思って読めば、民主党の公約は論外だ。外交・防衛に関して民主党は「他国に脅威を与えるような軍事大国とならない」と公約し、安倍晋三政権による集団的自衛権の限定的行使容認の閣議決定を撤回すると明記した。
他国に脅威を与えているのは中国であろう。アジアのおよそ全ての国々はそう実感している。だからこそ対中抑止力の構築で日本への期待が高まるのだ。フィリピン、ベトナムへの海上警察能力向上のための支援やオーストラリアとの新型潜水艦の共同開発がどれほど歓迎されているかを、民主党は正視すべきだ。民主主義、自由、国際法を基本としてアジアの平和維持に貢献する力を各国は日本に求めている。そのような目的に資する行動を、憲法・法律上可能にしていくことが日本の責務である。民主党はしかし、日本国民や日本国の危機に対処するための集団的自衛権の行使さえ「歯止めなき武力行使拡大」であり、「それに不安が募っている」と書いている。日米関係では、沖縄などの負担軽減に全力をあげるとの公約を掲げながら、先の沖縄県知事選、その前の名護市長選で自主投票を決めた。自主投票は政党としての責任放棄である。「日米同盟の深化」も公約したが、首長選挙での自主投票自体、日米同盟の最重要懸案事項である「普天間問題」の解決放棄に等しい。憲法については「未来志向の憲法を構想する」と発表したが、これでは改正か否かもわからない。国の根幹に関わる重要な問題について浮遊するその姿は、鳩山由紀夫、菅直人両氏の時代の民主党に逆戻りしたかのようだ。折しも台湾では統一地方選で、中国におもねる姿勢の国民党が大敗した。台湾の人々が中国への警戒心を鮮明にしたのだ。どの国も中国に向き合う方策を必死で模索しているのである。日本もいま、中国の脅威に心して向き合わなければならない。なんとしてでもアベノミクスを成功させ、民主主義国として国防力の強化をはかることだ。
経済政策の効果は一定のタイムラグを置いて浸透する。その時間のズレを冷静に考慮したいものだ。一方、自国を守る力を強化するには最終的に憲法改正が必要である。幸いにも衆院憲法審査会では共産党を除く与野党7党が緊急事態に対処する規定を憲法に盛り込むことに前向きの意見を出した。各党の一致点を見いだし、憲法改正議論を進め得るか。それがこの選挙のもうひとつの争点である。