小説の感想です。
『僕たちの終末』(機本伸司著、角川春樹事務所)
2050年。太陽が極大期に入り、太陽フレアが地球を襲うようになる。すぐに終末を迎えるわけではないが、この状態がもっと進めば地球は滅亡するしかない。半信半疑な人やシェルターの製作・受注にかかる人がいる中、ある日、妙なサイトが立ち上がる。
「宇宙船を作りませんか?」
このまま地球にいたところで太陽の活動次第で人類は滅亡していまう。だったら恒星間航行可能な宇宙船を作って、別天地を求めようではありませんか。
この絵空事とも取れる企画に、瀬河那由の父親恒夫は興味を示す。現実的な那由がスタッフ募集に応募してサイト管理人がどんな人物か見極めようとしたところ、現れたのは天文学者の神崎正だった。正は志はあるが実現力はまるでなく、見切り発車でホームページを立ち上げたようだった。正、那由、そして人材派遣会社経営の恒夫。彼らの力で宇宙船はできるのか?
というような話。
独特なとぼけた感じの味があって面白かったです。
宇宙船を作ろうとするにあたり、資金集めから材料調達、受注業者や乗組員などなど、現実的な苦労を重ねながら折衝していく描写が八割がたを占めていた、かな。
色々つっこみどころはありましたが、恒星間航行船って、仮に理論上できるとしても、しがらみがたくさんあるんですね・・・。しかもお金がかかる。当たり前ですが、具体的な数字として考えたことなどないですから(笑)。本当に軽く一国家を養う以上のお金がかかるんですね。月や火星に行くのとは訳が違います。
宇宙モノのSFというと、恒星間航行船は大前提で、舞台を宇宙に移してはいるものの本質的には戦記ものだったり、異星人との交流やら攻防やらだったりするもののほうが多いですが、これはもうちょっと現実に近い話。夢だけじゃあ飛べないんだよ、という、ちょっと悲しい現実ではありますが、お金を出して組合員になれば、ごく低確率ではあるけれど宇宙船に乗れるというあたり、なんかあってもおかしくないような気がしました。
まあ、実際太陽系を出られるような船をつくるには、地球がもっと文明的に成熟しないと無理なようですね・・・。
ちなみにメインキャラの神埼正のヘタレぶりがすごかったです(笑)。理系でちょっとオタク気味。いい年なのにやたら小心者。そのキャラクター設定はよかったですが、大会社の御曹司で、実家を嫌って飛び出しているという、「美味しんぼ」の海原雄山と山岡さんみたいな設定が今ひとつ活かしきれていなかったのが気になりました。消化しきれなかったのかな。
もうひとりのメインキャラ、那由が高校を中退した理由である「友達にひどい裏切りをされた」という設定も、詳細不明のまま終わったし。
もうちょっとキャラクター描写を掘り下げるか、徹底して省くかのどちらかにしたほうがよかったかもしれません。
でも面白かったです(どっちだよ)。