大規模停電など千葉県を中心に大きな被害を出した台風15号。房総半島中央部を走る小湊(こみなと)鉄道(同県市原市)は倒木や土砂崩れで、信号や踏切に電力を送るケーブルが断線し、全線運休になった。新たなケーブルを届け、復旧を後押ししたのは、北神急行電鉄(神戸市北区)。支援のきっかけは2年前、ローカル線の鉄道マン同士のふとした出会いだった。(村上晃宏)
「大変です。電線がずたずたで…。高圧電線用ケーブルは余っていませんか」
今月12日、北神急行電鉄営業・事業企画推進課長の青木武司さん(50)に突然かかってきた電話。切迫した声の相手は、ただ一度、会ったことのある小湊鉄道運輸課の荒井康伸さん(40)だった。
2017年1月、青木さんが東京出張に行った際、興味で乗った小湊鉄道。北神急行のフェイスブックやツイッターに載せるため、運転士入りの写真を撮り、掲載許可を求めた。その運転士が荒井さんだった。
「乗客を増やす手段ってどんなことしてますか?」「うちはキャラクターを作りました。お互い大変ですね」。同じローカル鉄道の悩みを笑いながら打ち明け、意気投合した2人は連絡先を交換した。
その荒井さんからのSOSだった。台風が上陸した今月9日に全線で運休。復旧には高圧電線用ケーブルが必要だったが在庫はなく、近辺の協力会社に問い合わせてもなかったり、納期が1カ月後だったりした。「一日も早く運転を再開したい」。思いを受け止めた青木さんはすぐに動いた。
ケーブルは北神急行にも在庫がなかったため、親会社の阪急電鉄に協力を仰いだ。阪急の担当者は取引先の住電商事(大阪市)を紹介。小湊鉄道が17日に発注依頼し、24日に納品という素早い対応につながった。
小湊鉄道は断線した電線をつなぎ合わせる応急処置で、21日にとりあえずの全線復旧を果たした。今後、納品された新品のケーブルに交換し、万全の態勢を取る。
「ケーブルをつなぎ合わすだけでは、すぐにまた断線する恐れがある。新品があると心強い」と荒井さん。「2年前の出会いがこんな形で発展するなんて。奇跡」と感謝する。
青木さんは「『助ける』という使命感が、まるでラグビーのようにパスがつながり、良い結果に結びついた」と笑顔で話した。