「この2つの数値は糖尿病を診断する上で大切な検査ですが、大きな問題点もあります。それは、食後の血糖値が急激に変動する血糖値スパイクの存在を把握できないことです」。東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科教授の西村理明さんはそう話します。
血糖値スパイクとは、食後に血糖値が急激に上昇し、また下がること。「実は、糖尿病の診断基準では、空腹時血糖値だけでなく、食後高血糖も重要視しています。HbA1cや空腹時血糖値が正常でも、食後高血糖が複数回認められれば、それだけで糖尿病と診断されるのです[注1]」(西村さん)。
なぜ、血糖値の急変動は問題になるのでしょうか。「食事のたびに血糖値が急上昇して再び下がるのを繰り返すのは、言い換えると、血液が急激に濃くなったり、薄くなったりを繰り返すということです。濃度の変動の激しい血液が流れると、血管の内側が傷つきやすくなるのです」と西村さんは説明します。
血管の内側が傷つくと、そこに悪玉コレステロールが入り込み、プラークという塊になります。これがつぶれて血管内に流れ出すと心筋梗塞や脳梗塞、もろくなった血管が裂けて出血した場合は脳出血や大動脈瘤破裂を引き起こします。「血糖値スパイクは、このように死をもたらす怖い病態であるのに、空腹時血糖値やHbA1cだけでは見過ごされてしまうのです」(西村さん)。