児童養護施設には、様々な事情の子どもがやってくる。
何も知らない人から見ると、別に自然な光景かもしれない。
Aくんは、いわゆる色んな場所をたらい回しにされた末にやってきたコだ。
その経過の中で何度も大人を信じようとしてきたんだろう。
でも色んな事情あって、そこが安心出来る居場所にはならなかった。
そしてボクが働く施設に。
大人は信じられない。
大人は裏切るもの。
大人には叱られる。
大人は見捨てる。
大人は気持ちを分かってくれない。
大人なんて、大人なんて、大人なんて。
そんなイメージを持った彼にとって、ボクもまたそんな「大人」の一人だったんだろう。
出会った頃の彼はボクと目を合わせるコトはなかった。
ボクに甘えるコトはなかった。
「死ね」
「殺す」
何度そう叫ばれたコトだろう。
名前を呼ばれるコトだってない。
彼にとってのボクは、今まで助けてくれなかった「大人」の一人だったんだろう。
そんなコに対しては、無理に距離を縮めないようにしている。
理不尽な暴言を浴びせられてもグッと堪えるようにしている。
そこでキレたら今まで出会ってきた「大人」と同じになるから。
とにかく気長にブレない存在で居続ける。
と書けば何だかボクがスゴい人に思えるけどそんなコトはない。
こちらがどう思っていようが、どう丁寧に関わろうが、それはボクのエゴだったり自己満足だったってコトもあるだろう。
結果として、ボクが彼の望まない「大人」だった時もいくらだってあっただろう。
そんなボクみたいな完璧ではない「大人」達が知恵を絞り合って、彼みたいなコ達を支えながら生活を共にするのが児童養護施設だ。
Aくんと出会って数年経ったある日、体調を崩した彼を連れてとある病院に行った。
先に靴を脱いで、下駄箱からスリッパを取った彼。
そしたら手に取ったスリッパを「はい」とボクの足元に置いてくれたのである。
ありがとう。
そう言ってボクはスリッパを履いた。
何も知らない人から見ると、別に自然な光景かもしれない。
特別な反応をしちゃいけないので、サラッと口にしたけれど、内心は心躍りまくったボク。
うぉー!
ありがとよー!
心から嬉しい瞬間だった。
人の優しさを素直に受け止められず、人に優しくなんて出来ず、対人トラブルが絶えないAくん。
そういう自然な優しさを出すAくんの姿を見たコトがなかった。
少なくともボクに対してそんな行動をしたコトはなかった。
だからこそ嬉しかった。
そして最近、時々、本当に時々だけど、ボクを名前で呼ぶコトがある。
みんぺーちゃん。
そんな時も特別な反応はしない様にしているけれど、実は内心嬉しく思っている。
おっ!
名前で呼んでくれた!
嬉しいなぁ。
どんなコも本当は優しい。
本当は素直な面を持っている。
本当は「大人」に優しくされたいし、必要とされたいし、感謝されたい。
頼りたい、甘えたい、褒められたい。
そんな本当の姿をどうやって出させてあげられるか。
幸せになって良いんだよって伝えてあげられるか。
きっとそんな仕事なんだと思う。
ボクは児童養護施設の職員だ。
傷ついた子ども達を受け止めて支える最後の砦で働いている。
そんな誇りを忘れない様にしたい。
心身共に余裕を失いがちな今だからこそそんなコトを思う。
穏やかで「当たり前」の日々が早く戻って来ますように。
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