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『吉本隆明「心的現象論」の読み方』 その2

2013-07-01 21:00:45 | Weblog

 甘樫の丘から飛鳥時代を眺める。

 

 『吉本隆明「心的現象論」の読み方』(宇田亮一著 文芸社 2011年刊) その2            

 北大前の古書店、南陽堂と弘南堂で吉本の著作を探してみたが、店主曰く、吉本の本は、値段はそれほどつかないけれど入荷したら直ぐ売れてしまうよ、と。『心的現象論』は、1971年に出版された『序説』に続いて、『心的現象論本論』が2008年に文化科学高等研究院から刊行されている。価格は、普及版で8,000円+税と少々高い。吉本全集40巻を晶文社が来年の春から刊行するという。

 著者は、「その1」で示した吉本の「心の見取り図」を使って、心の不調、対人関係の不調が分析する。

 ①個人幻想の不調は、自己肯定感の低下となって表れる。病名では、うつ病(貧困妄想、罷業妄想、心気妄想)で、「過去の未完了」過去という時制に釘付けにされる。自殺

 ②対幻想の不調は、空虚さ、不信感、怯えとなって表れる。病名は、解離性障害(自分自身の人格の多重化)で、「現在への没入」現在だけに停滞し、息苦しさを体験する。ストーカー、性的逸脱、DV、児童虐待、怨恨殺人

 ③共同幻想の不調は、孤立感、妄想、幻覚となって表れる。病名としては、統合失調症(自分自身の行動が第3者の意志に操られていると感じる作為体験、自分の心の中が周囲の人たちに読まれていると感じる思考察知)で、「未来の不安の先取り」明日を確実に安心できるものとして受け取りたいと感じる。いじめ、ひきこもり、カルト、自閉症、ADHD

 著者によれば社会事象も心的現象論を使いことにより読み解くことができるという。

 育児は対幻想そのものであり、児童虐待は母親(養育者)自身の安心感、安堵感の低さが引き金になる。子どもに接するうえで大切なことは、母親自身がどういう状態(to be)が重要である。しかし、育児の専門家は、何をすべきか(to do)を強調しがちである。

 ひきこもりは、共同幻想の不調であり、集団の共同規範に関わりたくない生き方であるが、集団の中で安心して過ごすことのできる体験を学ぶことが必要である。

 うつ病も、本来は自己幻想の不調であるが、現在では、個々人が自分自身の中で忠実に振舞おうとするが、共同幻想の構造の強さと重層性と関連を持つ。

 このように『心的現象論』によって、精神や対人関係の不調を解明することができるというのが、宇田氏が吉本の中に発見したものである。本書は、『読み方』ではなく、ひとつの完結した書物である。

 

 

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