※「芸術の役割は見えるものを表現することではなく、見えないものを見えるようにすることである」(パウル・クレー)
▼27日は東京国立近代美術館の「パウル・クレー展:終わらないアトリエ」に出かけた。学校はすでに夏休みに入り、クレーに興味のある一般の大人(日本人に人気がある)、家族連れ(夫婦・親子など)、先生の引率による中高生(修学旅行で来ているのだろうか?)、美術を志す画学生などで賑わう。それでも、土日ほどの混雑ではない。
▼クレーが画家として活躍した時代は、古典派や新印象派等の時代とは異なり、すでに世の中に写真機という文明の利器が登場していた。クレー自身、「アトリエ写真」という形で製作のプロセスを写真で記録に残すのに大いに活用している。ただし、写真の登場によって絵画に革命的な変化が起きたのは確かだろう。それまでの肖像画や風景画等を見れば分かるが、それまでの絵画には外部から見たままに写実的し記録するという役割もあった。絵画で描かれたものが「似ている・似ていない」という言い方はこうして生まれたのではないか。しかし、写真の登場によってそういう絵画の役割は劇的な変化を遂げることになる。単に視覚的に記録するだけなら、写真に勝るものはない。
▼だから、写真の登場によって、絵画は写実的な描写をするという役割から解放されたというか、永久に客観的に記録するという役割を失った。そのことによって絵画は新たな存在理由が求められることとなり、以後画家たちは内的必然による絵画表現の探求に乗り出す。たとえば、ピカソも完成された古典主義的技法からの脱却に新たな画家のあり方を求めたし、一時期同じバウハウスで仲間として過ごしたカンジンスキーの具象から抽象への試みも、このクレーの新たな線描と油彩の試みからのコラージュ的手法による解体や再構成の試みなども、そういう絵画表現活動に向けられた新たな返答の模索であったのではないか、と勝手に思っている。
▼今回のパウル・クレー展は、ところどころに実際に彼が活動したアトリエの写真を何枚か配し、4つの製作プロセスと特別クラスとで5部門に分け、良くも悪くも教化的な視点を強く打ち出した夏休み向けの企画となっていた。そのため、アトリエにカメラの視点を置き、その製作の現場に立ち会うという試みはある程度成功していると言える。しかし、逆にそのために彼の絵画の創造の秘密に深く分け入るというよりは、何となくその入り口で終わってしまったのではないかという感想も否定できない。
▼しかし、それでも彼自身が描いた素描をもとに新たに黒い描線を転写し、彩色していくという手法の説明はクレーの絵画制作の手法の一端をリアルに語る。彼の素描はそれ自体で完成品だ。線描に一筆書きの手法が巧みに取り入れられているのも注目だ。それ以降の製作プロセスの解説もコラージュ&コンポジション的手法の展開のバリエーションを上手く説明しているが、語りに落ちる趣も拭えない。もっと自由に作品そのものに語らせてはどうか。一枚の紙の裏表に別の作品が描かれていることの説明にしても、むしろ常識的な視点を当ててみることも必要だったのでは?画家の場合には彼に限らず習作としてはあり得ることだし、中にはそのまま独自の作品に展開していったものもあったろうくらいに。クレーの神聖化作業かなとも思え気になった。
▼クレーの作品には様々な音楽性がある。それは彼の線描にも色彩にも感じられる。様々な楽器が鳴り響き、交響的な音の重なり合いもある。彼の両親は音楽家であったようだし、クレー自身、自分でもバイオリンを演奏したようだし、バッハやモーツアルトを愛して止まなかったという。ポリフォニー、フーガ…多彩な音の響きがそこにある。しかし、なぜか会場で私が合うかもしれないと思ったのはエリック・サティの音楽であった。いや、近現代の音楽の中にはもっと相応しい曲があるかもしれない。もしかしたら、彼の絵画をイメージして描かれた作品などもあったりして。会場の売店で、「キミもクレーになれる」という子ども向けの塗り絵が売られていた。「おもしろいな!」と思った。会場でも子どもたちがクレーの作品を謎解きのように楽しんでいる光景もあった。そういう遊戯性も彼の重要な持ち味だろう。
▼さて、こういう絵画の鑑賞がどう子ども達の絵画に活かされるか。児戯的なことからはじめて見たい。
▼ちなみに、晩年のクレーに「死と火」という作品がある。あたかも原子力発電所を扱う人間の未来を予告するかのように。
■参考
◆東京国立近代美術館:「パウル・クレー:終わらないアトリエ」
◆パウル・クレー
◆クレーの画像
◆日本パウル・クレー協会
◆パウル・クレー
◆パウル・クレー
◆よく分かるパウル・クレー、音楽を描いた画家 :日本経済新聞
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