▼教育バウチャーの実現の見通しは決してが明るい訳ではない。民主党の若手・福島 伸享と自民党の文教族・下村博文が途中から研修会に顔を出した。日本の教育に教育バウチャーを導入するという考えはもともと自民党政権のときからアメリカの影響を受けて始まったものだが、今は民主党政権の天下、だから立場としてはオブザーバーに近かろう。以前、まだクラーク国際高等部がサポート校であったとき、理事長の大橋博氏が文科省と話したいことがあるのでツテはないかと当時サポート校等を集めて「実践報告会&進路相談会」等を実施していた私たち教育ネットワーク・ニコラに相談されたことがあった。その時、こちらは単なる媒介者として下村博文氏と会うことに便宜を図ってやったことがあった。下村博文氏は代議士になる前、博文ゼミという学習塾を経営し、同時に東京共育学園というサポート校も立ち上げた時であった。その時、若手の文教族として彼は振舞っていた。大橋博氏を中心とするクラーク国際のグループが内閣府お墨付きの日本教育支援財団なる組織体を作り全国展開を始めたのはその後である。
▼とにかくそういうこともあって、下村博文氏は自民党文教族の中ではこういう不登校関係の教育問題に関しては一等理解のある存在ではあった。しかし、その下村博文氏をもってしても、「教育バウチャーの趣旨は賛成であり、日本はその方向で変わらねばとは思うが、実現は難しい」と公の場で弱音を吐いた。ここは教育バウチャーぶち上げの席だからもっとパフォーマンスを効かせてもいいのではと思ったが、一瞬場が白けるほどの真面目さで応えた。ああ、それほどまでに見透しは暗いのかと思ったことであった。
▼何故ダメなのか。彼の言い訳によるとこうだ。元々は自民党が推し進めようとしたものだが、今は野党。今民主党の中枢にいるのは輿石さんを始めとする日教組の連中である。彼等は学校に競争原理を持ち込む教育バウチャーを絶対認めようとはしないだろう。一方では教育バウチャーが日本の教育に変革をもたらす優れた可能性を認めながら、一方では実現は限りなく遠い状況をも率直に語った。いいか悪いか、可能性があったかどうかは別にして、自民党政権時代の文教政策の選択肢の一つに教育バウチャーがあったのは確かであろう。
▼会の進行を流れに沿って少し整理すると、「教育バウチャー研修会」の前半は政策研究大学院大学教授・福井秀夫氏の「教育バウチャーは学習者の満足度を高め社会を豊かにする」という基調講演で、極めて優れた示唆に富む講演であった。が、繰り返しになるが、彼が話した学術的な論考が如何に優れたものであろうと、株式会社立の学校推進を目論む話の展開を期待してやって来た大部分の参加者にとって、それはあくまでも前座であり余興であるに過ぎなかった。
後半は、パネルディスカッション。東京国際大学人間社会学部教授・田部井淳氏、NPO法人ブレーンヒューマニティ理事長・能島祐介氏、株式会社パソナ常務執行役員・檜木俊秀氏、読売新聞・中西茂氏という面々。司会は新しい学校の会理事長・日野公三氏という形で進行した。
▼その詳細をここで紹介するゆとりはないが、聞くべき点はいくつかあった。例えば、関西学院大学が母体のブレーンヒューマニティの「学校外教育バウチャーの実践」。東日本で被災した子ども達のために民間から資金を募り教育を支援する試みである。檜木氏は〈産業構造が変化しているのに教育は何も変わっていない。教育を変えるには政治の力がいる。文科省が大反対だった株式会社立の学校が入れるようになったのも政治の力。そのためには政治家にも分かる分かりやすい論理が必要だ。言いたいことはA4一枚にまとめること。〉読売新聞の中西氏は現在北海道勤務だが今回駆り出されたのは今まで「教育ルネサンス」を担当していたからだろう。〈今回会場にいるのはみな供給者側の人。保護者サイドの人はいない、教委サイドの人もいない〉と鋭い指摘。〈日本には寄付文化がない。だから、バウチャーも難しい。新聞は読者に分かる言葉で書く。〉など。
▼教育バウチャーの研修会としては今回が2回目。さて、3回目はあるのか、下村博文氏の言葉からして、それは分からないとしか言えまい。しかし、この会が今後どうなろうと、今回参加して様々なことが見られたのは収穫であった。場合によっては、教育バウチャーに関して今後さらに株式会社立の学校群の側からの攻勢があるかも知れない。しかし、それは学者が構想するものはもちろん、保護者や子どもが望む教育の形とは似て非なるものになるのではないだろうか。
蛇足だが、一方に教育バウチャー制度を推し進めようとするグループがあるならば、もう一方にはフリースクールそのものを学校として認可せよという動きもある。全国フリースクールのネットを形成するグループである。機会があればそちらも取材して報告したい。
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