▼教育行政の行った「不登校理解」の実績はどこに
学校には「不登校理解」のための様々な研修があるそうな。でも、実際に学校を離れた子ども達のために、不登校生がいなくなった学校で、どんな不登校理解が出来るというのだろうか。私達が不登校の子ども達のための本格的な活動をはじめて15年になるが、「不登校理解のため」と称して、この15年の間に一体どれだけの教育公費という名の税金が教育行政の側に注ぎ込まれただろうか。そして、一体どんな成果を上げただろうか。
埼玉県の「不登校対策事業」の作成に民間のフリースクールからはじめて参加してその叩き台を作り上げたり、不登校生のための「スーパーサマースクール事業」の設立に参画した者の立場からもそんな思いが拭い去れない。
もし、それだけの不登校対策費が実際に不登校になった子ども本人やその親御さんや我々フリースクールのような不登校生を支援する現場で有効に使われていたなら、今よりは不登校の人数はずっと減り、不登校というものの理解ももっと進んでいたのではないかと思え残念でならない。
▼新聞記者の「高校無償化」の取材
そういうこともあってか、今は総選挙の真っ最中、それぞれの政党のマニフェストや今までの実績等が主要な争点となっている。だが、ここでも「言うは易く行なうは難し」で、その言葉の中身を検証してみなければならない。そういうこともあってか、ある新聞記者が電話をかけてきて、「高校無償化」についてフリースクールの意見を聞きたいとのことであった。電話で長話もなんだから…とよければ取材に来てもらうことにした。
▼実際の新聞の記事の作られ方
世の人々は新聞に対して大いなる幻想を持っていらっしゃる。専門家(あるいはそのレベルの人)が取材し専門的な視点から記事を書いているのだろうと。ああ、本当にそうならいいですねえ。でも、実際は、記者といえども(いや、記者だからか)なんにも知らない。特に教育関係は昨日まで警察回りをしていたような記者さんが「今度、教育担当になりまして…」などと言ってやっている。
私も10年近く教育雑誌の編集&発行を行って、何人かのそういう記者さんたちを身近に見知っている。現場での出来事や問題がどういうフィルターを経た後、どういう記事になっていくのかも。「そんなに教育に疎い人たちが実際に新聞の記事を書いているの?」というのが率直な感想だ。これでは現場から記事を掘り起こすなんて無理な話。せいぜい役人の大本営発表を垂れ流すことくらいしか出来ないだろう。
▼編集方針に適ったものだけが記事になる
我々専門雑誌などの場合と違って(同じ場合もあるが)、新聞には既に出来上がっている枠(編集方針)がある。世の人々よ、驚くなかれ、多くの新聞記事は現場から吸い上げられ記事化されるのではなく、その新聞の編集方針に沿う形で記事が創作され、その出汁(ダシ)として現場での出来事が利用されるのである。だから、新聞の取材とは言っても、既に出来上がっている記事の味付けに現場での実際の材料が欲しいだけである。だから、もし、こちらの答弁がその新聞の趣旨に合わないものであれば一行も載らないこともあるし、よければ尾ヒレがついて報道されることもある。素材はあってもどう味付けし料理するかはその新聞社の方針一つである。(これは新聞に限らずマスコミの常套手段である)
▼「高校無償化」はどれだけメリットがあるか
さて、実際に来られたある新聞の記者さんは、大学を出てまだ間もないのではないかというように若い。だから、ここはどういうフリースクールかという多少の下調べはしてきたようだが、専門的なことになるとまるで何も知らない。正直言って親御さんほどの問題意識もない。
そういう若い記者さんが「高校無償化」についてどう思うか、実際にフリースクールに通っている高校生はそのメリットをどう感じているのか…と聞いて来た。高校にはいろいろなタイプがあり、それによってメリットの多少がある。しかし、うちで扱うような通信制や高認レベルの高校生にはあまり喧伝されるほどのメリットはない、というのが実際のところだ。
▼義務教育の完全徹底を─高校無償化の前にやるべきこと
しかし、こちらで話したかったのはそういうことではない。「子ども手当」にせよ「高校無償化」にせよ、現実に経済格差で苦しんでいる人がいる以上、基本的には賛成であると。が、「その前にまずやるべきことがあるのを忘れてはいませんか」と。義務教育は無償と言いながら、不登校の子ども達は教育公費を受けられず教育棄民の状態にある。これをまず何とかするのが先ではないか。そうでなければ、また<それ、やりました>と公務員の免罪符の言葉を増やすだけに終わってしまう。バラマキではなく、必要とされる人に確実に届く税金の使い方をして欲しい。
その他、使い走りの取材に来たような若い記者には、すべてが初めて聞くような事柄であったようで、教育を考える様々な情報を彼の時間の許す限り話した。が、果たして「高校無償化」の話を含め、その新聞の記事に使える情報はあったであろうか。恐らく、何も記事には使われないだろう─そう思った次第である。
「教育が問題だ」─とマスコミも言うけれども、今のマスコミはぶら下がり報道とか記者クラブからの報道はするが、一体どれだけ現実を腑分けした報道をしているであろうか。現場に生きる人間にはそう感じられて仕方がない。
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