・天皇陛下在位六十年の行事のニュースをテレビで見ていて、
これは私のかねての持論であるが、
早いこと天皇さんも、京都か奈良へお移りになり、
山紫水明の地で、政治に関係なくのんびり、
ご一族水入らずで過ごされたらよいのに、
とつくづく思う。
京都には二条城もあるし、京都御所もある。
いずれご即位のご大典は京都で行われるのであるから、
そのまま、東京にはお戻りにはならず、
こちらで過ごされたほうがよい。
文化的渉外係というお立場であれば、
京都においでになるほうが、
国賓の接待という点からも好都合ではなかろうか。
武力で王座を勝ち取った外国の王家と違って、
日本の皇室は平和の象徴であったのだから、
きな臭いところはお避けるになり、
もっぱら和を以て貴しとなす、という風情で、
ご先祖の地、奈良、飛鳥あたりに、
新宮殿を運んでこられるのもいいと思う。
京都が狭いというなら、大阪でもよい。
大阪人は官憲(おかみ)はきらいだが、
その血の中にはご畿内の民の誇りが脈打っていることとて、
天皇さんは好きである。
そら、大事にしまっせ。
しかし大阪人のクセとして、
おせっかい焼きのところもある。
来られるとなると、
さぞうるさいことであろうと思われる。
大阪の熊さん八っつぁんが、皇居へ電話したり、
出かけていったりして、雲の上人を悩ませることであろう。
「え~~、これはワテが釣ってきた鮎だんね。
お一つでっけど、どうぞ、天皇はん、上がっとくれやす」
「あの~~、今月、うめだ花月おもろおまっさかい、
ワイ、ご案内しま。
いやいや、吉本かて、あんた、感激しまんがな。
そら、タダにしよりまっせ。
いきまひょいな。
根つめて、そんな仕事しはらんかてよろし。
たまに漫才聞いてわっと笑っとくなはれ」
「こんばんは。
天神祭だっしょって、どうぞお出ましを。
何やったら、お囃子舟に乗りはったらいかがでおます。
ミナミやキタの綺麗どころ揃えとりま」
などと、さぞうるさい親切を押し付けることであろうが、
上方人は皇室好きなのであるから、
怒ることも出来ない。
しかし、こううるさくてはかなわぬと、
またお引っ越しなさるかもしれない。
大阪には人形浄瑠璃や歌舞伎オーケストラも宝塚もあって、
けっこう、お楽しみになれるんですがねえ。
日本舞踊を内親王さまがお習いになるにしても、
お師匠さんは多い、
おさらい会は国立文楽劇場をお使いになればよい、
何より、大阪はうどんがおいしいのだ。
大阪へお移りになったほうが、
肩はこらずに長生きがお出来になれるというもの。
それで思い出したが、
明治三十年頃、大阪の西、九条新道に、
よくはやった、絹川といううどん屋があった。
この絹川の主人が、
「われこそは南朝の正統で、護良(もりなが)親王の後裔なり」
と言い出した。
とうとうそこから半丁ばかり先のお寺の庫裡を借り受け、
紫の幕を張りめぐらし、
菊の定紋打った高張を立てたそうである。
こういう世話万端は、
絹川うどん店の主人一人ではやれない。
町内の世話係のおっさん連があつまり、
はじめは半信半疑であったが、
そのうち何しろ皇室好きのこととて、
「せっかく、あない、いうてはるのに、
知らん顔も出来まへんやろ」
「ひょっとしたらホンマかも知れへんし、
その時に、お前らは薄情な奴や、いわれたら、
浪速っ子の名にかかわるで」
「あとで返してもらえるやろさかい、
ここは立て替えときまひょか」
などと応分の志を出しあって、
絹川うどんを持ち上げたそうである。
その後日談ははっきりしないのだが、
何でもいよいよ上京して皇族になるというふれこみで、
大阪を旅立った。
その頃には、皇室好きの浪花っ子にあと押しされて、
絹川うどんも羽振りよく、上京の行列には、
くるまが何百台と続いたそうだ。
ところが上京後、
ひと月たってもふた月たっても音沙汰なく、
どうなったのやらさっぱりわからない。
そうこうしているうち、
うどん屋の絹川も代変りして、
いつとなく噂は立ち消えになったという。
人の噂によると絹川うどんは、
南朝の証拠の金の茶釜を伝えていたというが、
東京で茶釜を見せてもアカンかったそうである。
「大阪もよろしいが、
いっそ、神戸あたりにおいでになるほうが、
ええかもしれまへん」
カモカのおっちゃんはいう。
「神戸はパーティ好きやし、陽気やし」
「でも伝統のない町やから、
皇室の伝統と相容れないかもしれない」
と私。
「なにいうてはりますねん、
明治維新のときも、京都から東京みたいな、
伝統のないトコへ引っ越ししはってんから、
どうということ、あらへん。
伝統持ってどこへでも行けはるのやから」
・・・というて、やっぱり、
これが岡山や信州や、というと馴染みないし、
関西がよろしいように思いますなあ。
東海村からも離れて・・・
いや、待てよ、関西の方が若狭の原発銀座に近いか」
皇室にシェルターはあるのであろうか。
もしお引っ越しとなれば、シェルターつき、となり、
これは厄介。
神戸の山はもろい。