武本比登志の端布画布(はぎれキャンヴァス)

ポルトガルに住んで感じた事などを文章にしています。

086. 今夜はおでん -Oden-

2018-12-16 | 独言(ひとりごと)

 きょう、我が家は「おでん」だそうだ。

 おでんと言えば、先日インターネットで「父子草」という日本映画を観た。木下恵介の脚本で渥美清主演の古い白黒映画だ。
 戦争が終りシベリア抑留からようやく帰還したら、すでに戦死したものとし英霊として奉られ、妻と子供は弟の家族になっていた。故郷には帰る場所もなく飯場を渡り歩くハッパ現場の土木作業員、渥美清。危険な現場だから多少賃金は高く、羽振りが良い?
 そしてガード下で屋台のおでん屋を営む女将に扮する淡路恵子。それと親の反対を押し切って故郷から出てきて東大受験を目指す浪人生。屋台のおでん屋を舞台に3人の物語。

 例の寅さんシリーズが始まる前年の作。この映画が下敷きになったのではないか?と思える心温まる泣かせる内容だった。そして立派な反戦映画だ。なかなか昔の日本映画も良いもんだ。

 僕の子供の頃はあまり家でおでんを食べた記憶がない。最近知ったのだが親父がおでんを好きではなかったのだ。ちくわやはんぺんなど練り物、それに揚げには触手が動かないのだそうだ。或いは、親父は愛媛県新居浜市出身だ。あのあたりは特にちくわやはんぺんなど練り物の旨いところだ。
 親父は「大阪の練り物なんか不味くて食えるか!」と思っているのかも知れない。そのせいだろうと思うがお袋はおでんを作らなかったのだろう。

 記憶にあるのはロールキャベツ、シチュー、グラタン、ムニエルなど洋風のものが多い。或いは又、親父は明治生まれの西洋かぶれ人間だったのかもしれない。

 友達の家に行くとよくおでんや煮つけなどの日本的な料理が多かったので、多少の違いを子供心に感じていた。誕生日に母はデコレーションケーキなども手作りしてくれていた。現代の様には材料が揃わない時代。生クリームを手に入れるのに苦労していたのを覚えている。

 子供の頃の僕にとっておでんはお祭りの縁日で買い食いするか、浜寺の水練学校の帰り、海の家で食べるのがイメージとしてあった。海で泳いだ後はかき氷やスイカなどより案外と温かいうどんやおでんが旨い。

 桑津神社の昼間の縁日で親友とゴボ天を買ったことを今でも鮮明に覚えている。
 「おっちゃんゴボ天ちょうだい」
 「アンチャン、ゴボ天今入れたばっかりや~、未だ煮えてへんわ~」
 「それでもええからちょうだい」と言って買い喰いしたヤンチャ坊主だった。
 そのゴボ天の味はいつまでも忘れられない。確かに味は浸みこんでは居なかったが、ゴボ天の油がまだ抜けていなくてゴボウにも歯ごたえが残り、子供心にそれはそれで格別旨かった。確か、おでんが一つ5円か10円の時代だ。
 その頃、大阪ではおでんのことを関東煮(カントダキ)と言って多少濃いい味付けで甘辛かった。
 1つずつ串に刺してあって、縁日でも歩きながら食べるおやつにちょうど良かった。

 僕は親父同様、絵を描くからか親父に似ているとよく言われるが、違うところも沢山ある。煙草を吸わないこと、酒に弱いこと、それに練り物が嫌いでないことなどが挙げられる。
 親父は100歳になろうとする今でもチェーンスモーカーだし、若い頃は浴びるほど呑んだ。

 最近、寒い季節になるとMUZは家でおでんをよく作る。
 ポルトガルに来て、最初の頃は何でも手作りに挑戦していたから、大量に買った鯵などをすり潰して魚団子なども作っていて、それをおでんに入れたりもした。
 最近はリスボンの中華食品に行けばおおよその材料は何でも手に入る。魚の練り物を丸めた「魚丸」それに「揚げ」これは日本の物とは少し形が違い、4センチ角のサイコロ型でおでんにはもってこいの形。そして田舎豆腐。
 それにメルカドで調達できるだいこん、じゃがいも、蕪、ゆで卵。そして日本から持参するコンニャク芋の粉末から手作りするコンニャクが入る。残念ながらゴボ天はないけれど、もう立派な?おでんである。カツオだしがよく効いた淡味のおでんだ。それに練りがらしをたっぷりつけて…。

 おでんにまつわるはなしはこれでおしまい。

 1年ほど前だったか、文章においても、人生においても信頼しているある女史から「武本さんもこの頃、昔のことを書くようになったね~。もう歳な証拠やね~。」などと言われてしまった。今回も性懲りもなく昔のことを書いてしまった。VIT

 

(この文は2010年11月号『ポルトガルの画帖』の中の『端布れキャンバスVITの独り言』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルの画帖』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)

 

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