武本比登志の端布画布(はぎれキャンヴァス)

ポルトガルに住んで感じた事などを文章にしています。

083. ル・ブルトン展 -Constant Le Breton-

2018-12-13 | 独言(ひとりごと)

 知人から「今、グルベンキャンで、何だかどこかで観た事があるような絵ばかり描く画家の展覧会をやっていますよ」と教えて頂いた。「しかも美術館本館ではなく別館の地下の判りにくいところで」と。

 教えて頂いた次の日、日曜日に早速、グルベンキャンに出掛けた。
 久しぶりに美術館に行くのも悪くない。とちょうど思っていたところだ。
 連日、40度近くになる猛暑で家にいても暑いし、ビーチは人で溢れているだろうし、露店市も暑すぎて熱中症になっても大変。

 日曜日はリスボンの美術館はどこも無料である。しかしその別館の特別展は平日でもいつでも無料だとのことであった。


01.
 グルベンキャン美術館の敷地はリスボンの中心地にあるにも関わらず、広く、うっそうと茂った珍しい木々と池と小川などの公園になっていて、遊歩道とベンチが整備され、ところどころに彫刻などが配置され、野外音楽堂まである広大な場所である。
 休日にはリスボン市民の憩いの場ともなっていて、乳母車を押し散歩を楽しむ家族。木陰で本を読む人。芝生に寝転がり昼寝する人。お弁当を広げるカップル。


02.
 そんな中に美術館本館とは別に現代美術館の建物、そしてコンサートホールの建物などがある。グルベンキャン・シンフォニーはポルトガルでは一番権威のある交響楽団でもある。


03.
 美術館本館の受付に<Le Breton>というポスターが張ってあったので「このブルトン展はどこでやっていますか」と聞くとコンサートホールの方角を指差して「あっちです」と言うので行ってみた。
 途中の池ではカルガモの雛たちが観光客の関心を一心に集めていた。
 コンサートホールのあたりには標識や看板、ポスターなどがないので判りにくい。
 一階では別の展覧会が行われていて、その入り口に居た係りの人に聞いてみると「もう1階下です。」階段を下りるとスポットライトに照らし出された「LE BRETON」の文字があった。


04.
 あまり知らなかったが、今までもフランスの美術館で必ず観ている画家である。でも今までに買った美術館カタログを繰ってみたがあいにく出てこない。
 インターネットで調べると、英語版が出てきた。自動翻訳をし自分なりの解釈も加えてみたので、下記は間違った箇所もあるかも知れない。

ンスタント・ル・ブルトン Constant Le Breton(1895〜1985)

 コンスタント・ル・ブルトンは1895年3月11日、メーヌ・エ・ロワール県サンジェルマン・デ・プレでロワール漁師の家に生れる。ナントの美術学校に入学するが、1915年ダーダネルス海峡戦争に動員されて、学業は中断。
 休戦後パリに定住。書籍の挿絵木版画が評判になり、生活は安定する。
 その後、アンドレ・ドランとスゴンザックとの3人で友好を結ぶ。パリ独立展に出品。
 作風はコロー、シャルダン、マネ、ブーダンなどの影響を受けつつも当時台頭していたフォービズムの手法で描いたアトリエ室内風景、人物画、静物画、木立の風景、田園風景、河舟、海水浴場、パリの風景などどれも誠実で的確な描写力で評判を呼ぶ。アトリエ風景の自画像の中にフェルメールの作品写真とマチスと思われる裸婦などが一緒に描かれているのも興味深い。
 肖像画も評判になり、フランスの舞台俳優シャルル・デュラン、スウェーデン出身のハリウッドスター、イングリッド・バーグマン、イギリスのベアトリス王女など多くの有名人から制作依頼を受けた。
 フランスをはじめ米国、カナダ、イギリス、スイス、ドイツ、ギリシャなど多くの個人コレクションが残されている。
 1985年2月パリで死去。享年90歳。
 僕は昨年、アンドレ・ドランの足跡を訪ねる旅をしたばかりなのでいっそう興味のある展覧会である。多目的に使われるのであろう。こじんまりとした会場に、テーマ別に67点の作品が展示されていて、見応えのある展覧会であった。

 なるほど「シャボン玉を吹く少年」などはマネと同じ題材だ。
 でもマネの描く少年はいかにも育ちが良さそうなのに対し、ル・ブルトンの少年はワルガキ風なのが可笑しい。
 静物画の目線はシャルダンのそれとそっくりだがフォービズム風である。
 並木道の風景はコローと言うより、ピサロやシスレーの捉え方に似ている。と言うことはピサロやシスレーもコローの影響を受けていると言うことに気付く。
 海水浴風景を描くこと自体異例だが、ブーダンを意識していることは否めない。

 知人が言っていた「どこかで観た様な絵ばかり」と言うのは当っている。
 器用すぎるきらいがあるのかも知れないが、上記の誠実で的確な描写力という文言がうなずける。
 でも一口でフォーブ「野獣派」と片付けるがその河は一つではなく、幾つもの流れからなっていたのが伺われる。


05.
 帰りにはカタログも買った。なかなかまとめては観ることが出来ない興味深い展覧会であった。


06.
 昨年観た「ファンタン・ラトゥール展」といい、このル・ブルトンといい、グルベンキャンはなかなか渋い展覧会を催る。観覧者が少ないのが勿体ない。

 庭園を一回りして、ついでに現代美術館も観ることにした。
 常設展示とは別に、ポルトガルの女流現代作家、コラージュを駆使した、ポップアート的な膨大な作品群、アナ・ヴィディガウ<ANA VIDIGAL>の個展が行われていた。


07.
 ル・ブルトンに比べると大勢の観覧者がいたし、昼時はもう少し過ぎていたが、現代美術館のレストランには長い行列が出来ていた。
VIT

 

(この文は2010年8月号『ポルトガルの画帖』の中の『端布れキャンバスVITの独り言』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルの画帖』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)

 

 

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