心のままに・・・

実体験をもとに小説仕立てでお話を書いています。
時々ひとりごとも…

星屑の涙・・・23

2014-01-22 10:03:53 | 星屑の涙

「真理子お疲れさま」

イチロ兄に声をかけられて思わず涙が出そうになった

「おいおい、どうした?今日は調子が悪かったようだけど

そんなに落ち込まなくてもいいじゃないか」

あまりにも調子が悪かった私を励まそうとして

おどけた顔で私をのぞきこんできた

何も知らないおにいちゃまは、「このあと家で飲まないか?」

と誘ってきた

家に行くのは久しぶりだったので少し戸惑ったが

総太郎おにいちゃまも、佐藤さんも一緒だと聞いて

楽しそうだと心が動いた

「お兄ちゃまありがとう、私そんなにひどい顔をしていたかしら?」

と、気を使わせまいと笑顔を作り少し無理に笑った

「ひどく疲れた様子だったからね、無理につき会わせちゃったのかなとちょっと思っただけさ」

「ごめんなさい、自分が情けなくてちょっと落ち込んでただけ

もう大丈夫よ、久しぶりにお邪魔させていただくわ」

とうなずいた




イチロ兄の奥さま“志穂さん”は、突然の訪問にも嫌な顔せず

とても美味しいお酒のあてを出してくれた

見習いたいお料理の数々に感心していた

私は、じっとしていることができずキッチンへと入った

「まぁまぁ、真理子さん!いいのよ、座ってらして

私こういうもの作るのが好きなのよ

どうぞ気になさらないで、ゆっくりなさってね」と美しい顔で微笑んだ

小柄でかわいらしいという印象、

それでいてその身体からは想像できない程の根性の持ち主だ

総一郎、総太郎兄弟の母・・・叔母である八重さんに長男の嫁として

しっかりと仕えているのだから、あの気の強い叔母に・・・

想像しただけで恐ろしい・・・親戚の中で一番苦手な人だった


そう言われてしまっては、うろつくのも逆に失礼だと思い

「ではお言葉に甘えて・・・ごめんなさい、何かあれば声をかけてくださいね」

と、言って席に着いた


イチロ兄には聞きたいことがあったのだが、どう切り出そうか思案していた

ひと回りほど違う男性とは縁があるのかもしれない

達也もこの三人の人たちと同世代

バブルの頃の武勇伝を語るときの目はいつになく輝いていた

バブル・・・勿論私も知っているがまだ学生だった

周りの男の子達は、高収入のバイトに明け暮れ

普通なら、到底手のでないようなアクセサリーをプレゼントしてくれたものだった

当然私は亮介からもらったものしか身に付けなかったが

そのバブルと言う華やかな時代

私は何より大切だった人を失った悲しみで

周りの事などどうでもよかった



そんな時、ふと佐藤さんが興味深い話をしだしたのだった

「なぁ、そう言えば どうして今日は小西来なかったんだ?

もとはといえばこのコンペって アイツが言いだしっぺだろ?

アイツ・・・今日みたいな場は、自分の独壇場になるからって

嬉しそうに、毎年かかさず来てただろう」

「ああ、何でも旦那がどうのこうのと言って先週断りの電話をしてきたんだよ

で、ゴルフのできる子ってことで真理子に声をかけたんだが・・・」


私は“ふぅぅぅんなるほどそういうことか・・・”と思って少し気分を損ねたが

そんなことは顔には出さず慎重に話を聞いていた。


「でもさ、僕は真理子との方が絶対楽しくて良かったよ あの人ちょっと苦手なんだよな」

と、同組だった総太郎おにいちゃまがそう言ったとき

佐藤さんも横で大きくうなずいて、「アイツとじゃ楽しめないよな、人のボールは探さないし

人をキャディ扱いしやがる

自分のことだけはちゃんと見てて欲しいってタイプで・・・」

と、ため息をついたのだった



“それはまぁいいじゃないか、それよりも・・・”と言いながらイチロ兄が口を開いた



そういや、小西のやつ“自分の代わりの子は見つかったのか?”って

聞いてきたんで、“真理子を誘った”って言ったら なぜか機嫌が悪くなってさ

きっと可愛い真理子に嫉妬したんだろうな

それともう一つ・・・

その次の日だったか・・・欠席だって言ってたはずの三宅が来るって言い出して

ビックリしたよ

「三宅って方はどの方?」私の問いには、総太郎おにいちゃまが答えてくれた

「三宅は僕たちの後ろの組にいて、真理子覚えてないかな?

ちょっと目付きの鋭い奴だよ、体格は大柄じゃないけどカチッとした感じで・・・」

私は首をかしげて思い出すふりをしていたけれど

それが、あの時ぶつかった男性だと言うことにすぐ気がついた

「そういや、アイツ今何やってんだ?」

佐藤さんの問に総太郎おにいちゃまは続けた

「あぁ今は、探偵みたいなことやってるらしいよ

浮気調査とか、人探しとか・・・ちょっとヤバイことにも手出してるみたいで心配だな

以前のアイツとはちょっと違うって言うのか

顔つきも、変わった感じだよな」


私はその話を聞いて怖くなってきた、寒くないはずなのに寒気がしていた


“探偵?なにそれ、なんでそんな人がお兄ちゃま達と知り合いなんだろう?”

疑問が多すぎて頭がパニック寸前だった


「おい?真理子?大丈夫か?酔うほど飲んだっけかな?」

私の顔色が変わっていたのかもしれない心配そうなイチロ兄の言葉に

私は、なんとか「ううん大丈夫、探偵なんて・・・そんなのテレビの中だけかと思っていたのに

少し怖いなって思っただけ」と答えた


大丈夫だよ、元々は僕の同僚なんだよ、組織に支配されるのは嫌だとかなんとかいって

二年ほど前退職したんだ、ヤバいといってもちゃんと心得ているはずだし

怖がらなくてもいいよ

もとはとっても気の優しい良いやつなんだから

そんなことで、私は自分から聞かずともあの男性の素性を知ることとなったのだった




星屑の涙・・・22

2014-01-18 19:08:31 | 星屑の涙

お昼の休憩時間に若い女の子が私の席に挨拶に来た

二人は、イチロ兄の会社の子たちで会議の時に何度か会ったことがある

一人はこの日コースデビューだったそうで、浮かない顔をして

「私にはまだ早かった、同組の方に迷惑ばかりかけている」と肩を落としていた

もう一人は小さいころからゴルフに携わっていたらしく堂々としている

それでいてその腕前を決してひけらかすこともなくニコニコと楽しそうだった

「真理子さん今度は女子だけで来ましょうね!!」と次の誘いを受けていた時だった



まただ・・・誰かにじっと見られているような気配・・・



その日私は幾度となく同じような感覚に襲われた

なんとなく誰かに見られているような、そんな気配を何度か感じていた

周りを見渡したがこれと言って不審な人はいない

今日のコンペのメンバーは、この二人の女の子と同組の方以外はほとんど初対面の方ばかり

朝バタバタとイチロ兄から紹介を受けたがはっきり言ってほとんど覚えていなかった

改めてメンバーを見渡す、やはり見たことのない人ばかりだ


はっ!とした


初対面の人ばかりだと思っていたが、ひとりだけどこかで会ったことのある

そんな気がする人がいた

イチロ兄の同級生?・・・いや、違う

でも確かにどこかで会ったような・・・?

後でイチロ兄に聞いてみようと思い化粧直しに洗面所へと席を立った

私は本当に人の顔が覚えられない

“ここに千秋でもいればな・・・”

彼女は一度会ったら忘れないと自慢するほど人の顔や乗っている車など特徴を覚えるのが得意だった

そんなことを考えていた時思い出したのだった

“そうだ、あの時の男性(ひと)だ・・・”

以前千秋と一緒にカフェに行った時千秋がこちらをじっと見ている人がいると言ったあの人だ

“どういうこと・・・??”

今日のコンペに来ているということは、イチロ兄と何らかの接点のある人ということになる

朝の紹介の時の様子を思いだそうとするが、やはり全く分からない

“誰だっけ・・・??”

ぼんやり考えながら化粧室を出たところで誰かとぶつかった

「キャッ!」 「おっと・・失礼!」 同時に声をあげ相手を見て驚いた

そう・・・その誰だかわからない、その男性(ひと)だったのだ

私はあまりの驚きに呆然としていたのだがその相手はすぐさま

「君は・・・真理子さんだね、今日の調子はどうですか?」

と、当たり障りのないことを聞いて来た

私はとっさに上手く答えられず 「あ、久しぶりなのでいまひとつです・・」と

なんとも間抜けな答えをしたのだった

その男性は 「そうですか、どうぞ楽しんでくださいね」と笑顔で言いながら去って行った



その時はっきりと感じた

そう・・・その人に一瞬じっと見られた時に感じた気配は、

その日朝から何度か感じていた気配そのものだったのだ


後続組なんだから見られていても仕方ないかとも思ったが、

得体のしれないその男性の事が気になって

午後のスコアは散々なものだった









星屑の涙・・・21

2013-10-30 08:49:06 | 星屑の涙

達也とはあの日から少し距離を置いていた


どんなことがあっても季節は確実に進む・・・


やっと朝夕が過ごしやすくなったころ、久しぶりにイチロおにいちゃまから連絡が入った


「やぁ真理子元気かい?」


「ええ、おかげさまで相変わらずの毎日だわ」


「そうか、じゃあ退屈してるって事だね」


「まぁ、失礼ね でもあながち間違いではないけれど…」


「ははは、すまんすまん


 あのな真理子来週の土曜は何か予定があるかい?」


「そうね、残念ながら何も予定は入ってないわ」


「おっそうか、じゃあ丸一日空けといてくれ 気晴らしに身体動かそうよ、いいだろ?」


「イチロおにいちゃまのお誘いとあらば仕方ないわね


 久しぶりにレンジにも行っておくわ、格好の悪いところは見せられませんからね」


イチロ兄からの電話はゴルフコンペへの誘いだった


少し前まで私も熱心にラウンドを楽しんでいたけれど


そう言えば・・・今年は初めてかもしれない


久しぶりのラウンドにすこしだけ気分が上がった


何を着て行こうか・・・長らくショッピングへも行ってない


ゴルフをきっかけに久しぶりに散財するのも悪くない・・・考えると楽しくなってきた








「やぁ真理子ちゃん久しぶりだね、僕のこと覚えてる?」


コンペ当日の朝、そう言ってにこやかに声をかけてきた男性に一瞬戸惑ったが


私が人の顔を覚えられないことをイチロ兄からでも聞いていたのだろう


少しひきつった私の作り笑いを見て


「その顔は・・・全く覚えてないって顔だな・・・いやぁ~まいったな~」


「すいません・・・」と恐縮しながらも私は思いだしていた。


「今日は同じ組なんだよ、真理子ちゃん中々の腕前だそうだねお手柔らかによろしくね」


「いえ、そんなこと・・・こちらこそよろしくお願いしますね、佐藤さん!」


そう言って笑った私を見て小さく驚いたその人は、足取りも軽やかにロッカールームへと消えていった


そう・・・その人はあの時一緒に飲んだイチロ兄の同級生の佐藤さん


確か職業は、お堅いお仕事だったはず


仕事中はいつも難しい顔をしているとイチロ兄が笑っていたが、奥さまの不倫騒動で


今はお一人のはずだけど、なかなかセンスのいい着こなしだった


佐藤さんを見送っているところへイチロ兄がやって来て


「真理子おはよう! 今日はありがとう うちの女の子が楽しみにしていたよ


真理子のファンは女の子もいるんだな真理子が来ると話したら喜んでいたよ」


「まぁそうなの? それは光栄なことだわ、人にはよく思われるに越したことはないもの


今日は楽しくなりそうね、イチロおにいちゃま・・・こちらこそ誘ってくれてありがとう」


コンペは4組という小さなものでイチロ兄の周りにいるゴルフ好きが集まったものだった


仕事とはあまり関係のない人ばかりだということなので


見たこともない人が何人かいたが、わたしの組は先程の佐藤さんと佐藤さんの職場の方


そして、これまた佐藤さんの後輩となるらしい総太郎おにいちゃまの4人だった


総太郎おにいちゃまというのは、もちろん私のいとこである


イチロ兄とは少しタイプが違う・・・


スマートに見えるが筋肉質な綺麗な体つきだ


これは昔から今も仕事に役立っているであろう武術のお陰だろう


ゴルフ自体はそれほど得意ではないらしかったが、なかなか器用な人だった


私たちの会社とは全く違う職種への就職を希望し


かなりデキる人で通っているらしいということをその日面白おかしく佐藤さんから聞かされた


私は久しぶりに緑の中をのびのびと楽しく過ごすことが出来た



星屑の涙・・・20

2013-10-28 10:15:01 | 星屑の涙


イタッ・・・


たいして飲んでいないはずなのに、目覚めは最悪・・・・頭が痛かった


「あ・・・起きたね、よく眠れたか? うなされていたようだったが・・・」


「え? あら・・・あなた泊まって行ったの?」


「何言ってるんだよ、帰るのが億劫だからって言ったら 勝手になさい」 って言ったじゃないか


そういいながら達也は少しだけばつの悪そうな顔で笑うと


「そうだ・・・昨夜は指一本触れてないからな」 と自慢げな顔つきになった


「ばか・・・」


「あのさ・・・・昨夜のことだけど、気にしなくていいからな


でも、もしも・・・もしも身に危険を感じたりしたらすぐ連絡してくれ・・・な?」


「ええ・・・わかったわ、でも私こう言えて結構強いのよ」


「そう言うところが危ないんだよ・・・まぁ・・滅多なことはないと思うが念の為だよ」


「でさ・・・こんなこと聞くと気分を悪くするかもだけど・・・」


「何よ? もしかして昨夜はおとなしくしたんだから・・・ってこと?」


「いやぁ・・違うよ・・・オレそんな・・・おまえさんの身体だけって考えてないよ


そうじゃなくてさ・・・」


「じゃぁなんなのよ? ブツブツ言ってないで言いなさいよ」


「あはは・・・いつもの真理子に戻ったな


あのさ、昨夜何度か男の名前呼んでたぜ・・・残念ながらオレの名前ではなかったが・・・」


「え・・・・そうなの? で、はっきり聞いたの? 名前・・・」


「ああ・・・りょうすけ・・・ってね それって、昔の男かな・・・・?今でも好きなのかい?」


「ええ・・・・好きよ、今でも・・・これからも・・・彼以上に好きになる人はこれまでも、この先もないと思うわ」


「やけにはっきり言うなぁ・・・ってことは、そいつには勝ち目がないってことか ははは・・・」


「そうね・・・でも勝つも負けるもないわよ、もうこの世にはいない人だから


私の心の中だけに一生い続けるでしょうね」


「え・・・・? 死んだのか?」


「そうよ・・・もうずいぶん前の話だわ」


「そうか・・・」


そう言って達也は俯き長い間黙っていた。


私も不思議な気分だった、いままで付き合った男に亮介の話をしたことはなかった


話すきっかけもなかったし、話そうと思ったこともなった


自分の心の中にだけひっそりと閉じ込めておくつもりだったのに・・・








星屑の涙・・・19

2013-10-26 09:08:08 | 星屑の涙


「今の何? ね、達也今の人知ってる人?」


動揺していないといえば嘘になるが、その時の私は意外に落ち着いていた


どちらかというと達也の方が焦っていた


「お前こそ知らないのか? あんな若いヤツ・・・オレには心当たりが・・・


 あっ!アイツか・・・」


達也の思いついたことと私の想像はたぶん同じだろう


「美咲のヤツの仕業に違いない・・・ちっくしょう! やりやがったな」


それにしても今の人、私には見覚えのない人だった


恥ずかしいけれど、正直私は人の顔があまりよく覚えられない


それでも最近会った人の中にはさっきの青年はいない


たとえば・・・昼間千秋と一緒だった時、隣りの席にいた男性とも明らか違う


なぜなら年恰好が全く別だからだ 今の男はまだ20代くらいだろう


さすがにそれくらいの違いはわかるが・・・・それにしても、もし美咲が頼んだとして


今ここに私たちがいるということがわかるだろうか?つけられた・・・?いつから・・・?


そもそも今日、達也に会う予定はなかった


夕方電話があったから今こうしてここにいるのに・・・


達也は黙ったまま苦虫を噛みつぶしたような顔でこぶしを握りしめている







「なぁ、真理子今夜はもう送って行くよ


もしかしたらさっきのヤツがウロウロしているかもしれない


もしもお前さんに危害を加えようなどと考えていたりしたら、ヤバいからな」


「いやぁねぇ・・・それは考えすぎなんじゃない? たとえこれが奥さんの仕業だとしても


手を出したら犯罪だわ・・・さすがにそこまでする必要があるのかしら?


こう言っちゃ悪いけれどあちらも好きになさっているのでしょう?


少し勝手すぎるような気もするわ・・・」


「まぁな・・・でもあいつは自分が一番だと思っている


こちらの気持ちがいつも自分にだけ向いていないと気が済まない


オレだけじゃないぜ? 娘が友達と仲良くしているだけでその子にやき持ち焼くくらいなんだ


相手が女の子でもだぜ?


あぁ・・・そうか、女だからか・・・ふむ・・なるほど・・・」


達也は一人で何かを納得したような素振りをして頷いていた


私は昼間のことを達也に話そうかとも思ったが、どうでもいい事だと思いなおした。


「しばらく会わない方がいいんじゃないかしら? 刺激しすぎるとまずいんじゃない?


あちらの出方を見てから動く方が賢明よ


まぁどちらにしても世間さまから見たら私たちのやっていることは


決して認められることではないのだから


これがきっかけでダメになったとしてもそれはそれで仕方のないことだわ」


それは本心だった


素直になれる相手だと思ってはみたが、やはりいけないことをしているのだ


亮介が見たら悲しむだろう・・・今このまま別れた方がお互いの為かもしれない


「嫌だ・・・オレは嫌だからな・・・アイツとは別れ・・・」


「ダメよ! それ以上言わないで頂戴! それ以上言うと・・・」


「おいっ!真理子!どうした? おまえ・・・泣いているのか?」


自分でもわからなかった


男の前で泣くなんて、しかも好きになってもどうしようない相手なのに・・・


「とにかく送って行くよ」


達也は黙って私の肩にそっと手を置きタクシーを拾うと一緒に乗り込んだ