玉米の奥地に一人の旅の坊さんが入ってきた。もう日が暮れてしまったので、今夜はここあたりに
泊めてもらおうと、あちこちの家に頼んでみた。しかし、どこの家でも泊めてくれようとしなかった。
がっかりして、山道を入っていくと、1軒の荒れ果てた小屋を見つけた。小屋の中にはひとりの娘がいて
父親らしい病人を看病していた。病人がいては気の毒だと思ったが、
「もしもし、旅の僧ですが、宿がなくてこまっています。邪魔にならないようにしますから、
小屋のすみっこにでも、泊めてもらえませんかな」と頼んでみた。娘は少しの間考えるようにしていたが
「この通りの小屋で、布団どころか食べ物もないのですけれど、それでもよろしかったら、
どうぞ泊まって行ってください」といってくれた。
「いやいや、そんな心配はいりません。ただ夜つゆさえ しのげればいいのですから」
坊さんは、気持ち良く泊めてもらうことになった。翌朝何度も礼を言って、小屋をでようとすると
「こんなものでも良かったら、どうぞ食べていってください」
娘は、きれいに盛った山菜を差し出した。「ほほう。これはおいしいものだ。何というものかな」
「はい。これはワラビと言って、一晩あく抜きして食べるものです」
「娘さん、私をそのワラビの生えている所に 連れて行ってくれないかな」
しばらく娘の顔を見ていた坊さんは言った。娘は裏山に案内して行った。
そこには、山一面に、ワラビが生えていた。
「ここに生えているのがワラビです。ここらの山は、どこへ行ってもいっぱいありますよ」
と、娘はいった。坊さんは1本のワラビを採ると、何やらお祈りしていたが
「娘さん、この山に生えるワラビは、あくぬきしなくても食べられるようにしてやりましょう。
それから、きょうのワラビを寝ている病人にも食べさせてみなさい。きっといいことがありますよ」
と言うと、サッサと山を下りて行った。
娘は、またワラビをいっぱい摘んで帰り、あくぬきしょうと思ったが、ふと、さっきの坊さんの言葉を思い出し
お湯を通したままのワラビを食べてみた。すると、不思議なことに苦みがなくなっている。
おどろいた娘は、さっそく寝たっきりの父にも 一口食べさせてみると 今まで死にかけていた病人が
夢から覚めたようにお気あがった。不思議な出来事に娘は泣いて喜んだ。
村人たちはこのことを伝え聞き 誰いうともなくこの土地を、善徳ということになった。
―由利郡東由利町に伝わる伝説―
今年も寒風山に ワラビ採りに行こう! まちどおしいなぁ・・・
あく抜きしなくても食べられるワラビ あったらいいね。
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