むかし、大阪に鴻池(こうのいけ)という商人がいた。心の優しい人で、良く人々の
面倒を見ていた。また、七面様を信仰して、朝も夜もお祈りをかかさなかった。
ある夜、鴻池は夢を見た。美しい少女が現れて
「わたしの正体を見せてあげましょう。どうか水をいっぱいください」
鴻池が床の間の生け花から水を汲んで差し出すと、少女はそれをさっと自分の
体にふりかけた。すると少女はたちまち美しい女竜になり、
「あなたの信仰心が嬉しくて、私は、神体を見せてしまいました。どうか、このあとは
生きている間、私につかえると約束してください。そうすれば、あなたは いつまでも
心も体も健やかで 何度も危険な目に遭っても それを乗り越えることが
出来るでしょう
さぁ、あなたに、羽後の国阿仁の庄(阿仁町)萱草の宝を差し上げますから
これから、出かけなさい」
女竜はそういったかと思うと、雲とともに身延の七面山に飛び去った。
鴻池は迷った。七日目になってとうとう決心して 阿仁の庄を探して旅に出た。
いく日も、いく日も山を登り、谷を渡って ようやく萱草にたどりついたが
疲れ果てて 今にも倒れそうだった。
小さな川に出た鴻池は、清く澄んだ水を両手ですくって飲み、冷たい水に
疲れた足をひたした。そのとき、急にあたりが暗くなり サラサラという妙な
音がした。ふと、顔をあげると、自分のすぐそばに、直径1メートル以上もある
大蛇がいるではないか。鴻池は夢中で逃げた。サラサラと大蛇の追ってくる音を
聞きながら、必死で逃げた。疲れきっていた鴻池は、大きな岩の前に倒れたまま
気を失ってしまった。
長い時間たって正気に帰った鴻池は、辺りを見回した。
いま、自分が逃げてきた岩に、はっきりと大蛇の体をこすったあとが残っていた。
また、木という木には、何百、何千匹のヘビがぶら下がっていた。
彼はあまりの恐ろしさに、生きた心地もなく、再び逃げ出した。
そして、山の上の小さな沼のほとりで、ついに気を失ってしまった。
どのくらい時間がたったろうか。鴻池は、顔に落ちかかるしずくの冷たさに 目を覚ました。
しずくは鉱石のつゆであった。かれは、夢に現れた少女のことから今までのことを
じっと考え込み それから歩き出した。
やがて、かれは夢に見た場所とそっくりのところに出た。
そこで、彼の見たものはキラキラと黄金色に光る岩だった。佐山鉱山は、こうして開かれた。
鴻池は、いよいよ信仰心が深くなり、大蛇の消えた大岩の洞穴の前に
神社を建てた。萱草七面様である。ご神体は女竜である。
その後、夜になると風が吹き荒れ。山を崩し岩を飛ばして、火を噴きながら
萱草と露熊の間を飛ぶ 男竜を見たといううわさが広がった。
露草七面様として、この男竜を祭ると 山は静まったという。
北秋田 阿仁町に伝わる伝説 阿仁の七面さまのお祭りは 有名です。
敷地のルドベキアが、雑草にも負けず花盛りです。