むかし、貧乏者の 子だくさんの夫婦がいたんだと。
あんまり、子どもばかり多くて 暮らしが なんとも容易でねがったものな。
そこで、3番目息子の仁助は、「おら一人でもいねば、なんぼか暮らしも楽になるべ」と
誰にもいわねで 家を出たっけど。 ずんずん山道を歩いて行くと 蛇が1匹
だれかに切られて苦しんでいたど。そこで、仁助は持っていた薬こを つけてやった。
したば、なんと傷はすぐに治って 蛇はするするとやぶの中に 逃げていった。
もうしばらく歩いて行ったば、アブが飛んで来て 仁助の顔に止まって
血を吸い始めたと。仁助は「アブも腹へらしているべな」と 黙って
血を吸わせてやった。
そうして さらにどんどん歩いていくうちに とうとう道に迷ってしまったものな。
「なんと・困ったど。なんとすべぇ」と思っていると、足元にさっき助けたヘビが
出て来て 仁助の前をスルスルと 進んでいくんだと。
そこで、ヘビの行く方さ ついていったんだと。しばらくすると
とある村に出たものな。村ではたくさん人が集まっていて ガヤガヤと
立て札を見ていた。なにかと思って仁助も見てみると、「娘一人さ 婿8人」と
書いてある 婿探しの立て札であった。「おらもひとつ試してみるべ」と思った
仁助は、すぐそこの家に行ってみたわけだ。
すると山の大きな 林に連れて行かれ「この林の中に杉が 何本あるか当ててみれ。
きっぱり当てれば、婿にしよう」と 言われたっけど。
「こんな大きな林だば、なんとして数えるってか・・・」仁助が困っていると
アブが飛んで来て耳元で「千本」ってしゃべっていったど。
そこで 仁助も「千本」って言ったわけだ。 したば、「なんとよく当てたこと。
今まで、何人も 何人も来たって、誰も当てられねがった。なんと!たいした頭の
良いことだで。すぐに婿に来てけれ。」とたいした喜びようであった。
この家の娘こは、たいした美人であったし、じぇんこ(銭)も くさるだけ
いっぺあったと。ヘビとアブに親切にしたおかげで、貧乏人の仁助が
長者になったという話。 とっぴんぱらりのぷう・・・『阿仁地方に伝わる民話』
コメント欄とじています