貧乏石好き

つれづれなるままに石をめぐりてよしなきことを

国産鉱物は意外と多彩

2023-07-13 21:16:28 | 国産鉱物

怒濤のヤフオク国産鉱物祭りもそろそろ終わりとなりまして。
いやあ、安いもんでついポチッとして、後でクレカの精算額を見て卒倒するというお馬鹿をやっておりました。(少しは反省しなさい)
ネットショップなんかに比べると手続きが面倒臭いのですけど、まあそれなりに楽しませていただきました。

しかし国産鉱物というのはやはりディープな世界ですな。
産地がどうたらというのもあるし、聞いたこともない希少鉱物のルーペサイズが出ていたり。皆さんよく知っているものだ、よく見分けられるものだ、と感心しきり。ちょっと無精なあちきでは付いていけない。
オープンオークションだからアヤシイものも多いのかと思ったら、それほどでもない。皆さんけっこう良心的。もちろんほとんどが目視鑑別だから、絶対正しいかどうかは不明。高価なものならやはりちゃんとした石屋さんで買うべきでしょうね。

     *     *     *

どうも完全に誤解していたところがありまして。
「珍しい石は地中の奥深いところから出る」
そんなふうに思っておりました。そして、
「日本は大陸ではなく『奥深く』がないから珍しい石は出ない」
と漠然とイメージしていました。「資源小国」とか言われますしね。
ところがどっこい。
「珍しい石は地中の奥深くではできない」
のですね。ダイヤモンドは別として。
奥深くというのは、地殻。そこでは、玄武岩や安山岩が主体。そこからバラエティに富んだ石が生まれるには、マグマの上昇や水の作用がなければならない。
つまり、美しい石、面白い石が出るのは、むしろ地表に近い部分。ペグマタイト、スカルン、熱水鉱脈は皆、「奥深く」ではない。
おまけに、ある種の元素は造岩鉱物から弾かれる傾向がある。特に希土類元素、ウラン、トリウム、リチウム、ベリリウム、セシウム、ニオブ、タンタル、フッ素などは、玄武岩や安山岩を構成する造岩鉱物からは排除される。だから地表の方に多く分布する。
日本列島は、付加帯・変動帯で、大陸の確固とした玄武岩・安山岩の岩塊とは異なる。そこには、海洋プレートの表層とか、堆積岩とか、火山噴出鉱物とかがごちゃごちゃに溜まっている。それがプレート沈み込みの熱やマグマや水によって再編成される。
だから、返って多彩な鉱物が生まれる。スケールは小さいにしても。日本で初めて発見された鉱物もけっこうある。いやこちらを見るとけっこうなんてものじゃない。とんでもなくある。
昔は金も出たし銀も出た。日本産の銀が世界を動かしていたなんて本もあるようです。輝安鉱やトパーズなんかもいいのが出たとか。
ふうんと思いましたね。
案外その気になればまだけっこうな鉱物が出てくるのかも。

しかし、地味ーな母岩に目を凝らさなければ見えない結晶が付いている標本というのは、さすがにちょっと食傷気味。

これはブラウン鉱。長崎県戸根鉱山産。



見た目は黒ずんだ石。拡大すれば結晶が見えるし、光の具合で小さな光点が輝くのですけど、鑑賞用とは言い難い。


これはかの有名な田口鉱山のパイロクスマンガン石。大きい結晶は買えないので、こういう細粒になってしまう。


もいっちょ。輝水鉛鉱、モリブデナイト。栃木県鹿沼市大久保大鷲鉱山。



さすがに毎日眺めるものではないですね。

さあて、次はどういう方向に行くかな。(もうそろそろやめとけ)


日光市文挟の弗素燐灰石【追記あり】

2023-07-12 20:43:44 | 国産鉱物

国産鉱物をちょっと漁るようになって、いくつもの有名産地があることを知りました。田上山とか布賀とか。ふうんと感心しましたねえ。
だからといって、産地にこだわって何かを漁ろうというようなマニアックな境地には入っていない。荒川鉱山の緑水晶が気に入ったからといって、じゃあ荒川鉱山の他のものも集めようか、というふうにはならない。まだ新米ですし。
けど、これは産地で買った。
日光市文挾町、文挟クレー鉱山の弗素燐灰石。フローアパタイトね。

文挟というのは、母方の祖先がいた土地のすぐ近くだから。
日光と宇都宮の中間、旧今市市で、特に何もない所。山深いわけでもない。
クレー鉱山というのはカオリンなどの粘土鉱物を産出する鉱山らしい。関東平野の根本のあたりだから、昔は海だったということかな。そんなものがあるとは知らなかった。

アパタイトというと、澄み通った淡い青が美しい石。あちきも小さいのは持ってる。
けどこれは無色透明。
劈開面は少しマットっぽくなっていて、そうでない断面はガラス状。ちらりと虹も出る。

面白くはないだろうと思ったら、そうでもない。水晶でもトパーズでも長石でもない、独特の質感。
他の人が見たらつまらない石かもしれないけれど、あちきには妙に心惹かれる石です。

【追記】この石、UVライトでとんでもなく美しい、藤色と青の中間のような色を発光するのです。けれどカメラを通すとただのブルーになってしまう。写真でお見せできないのは残念。同じ石をお持ちの方はぜひ試してみてください。


路傍の名もなき花のような

2023-07-09 13:25:17 | 国産鉱物

(また気取ったタイトルをつけおって)

ヤフオクを見ていると、日本各地の水晶が出ていて、しかもお安いのでついポチっとしてしまいます。
海を渡って来る水晶のような立派さ、派手さはないけれど、どれも個性的で、なかなかの美しさを持っている。

宮崎県延岡市の山入り水晶と煙水晶。

山入りはちょっとガタガタだけどそれが返って光を乱反射させて綺麗。
煙水晶はごく薄い色。この色合いは素晴らしくて見惚れる。ちいちゃくてかわいいし。
大きい方が25ミリくらい。


奈良県吉野郡天川村大塔宮鉱山産の紫水晶。なぜか3点、まるで三尊像のように出品されていて、惹かれた。

ご本尊は蝕像かと思ったけど、どうもクラスターの成り損ないみたいな感じ。でも形が面白いし藤色も味わいがある。
脇侍はちびいけどいい色してる。形もきりっとしている。
大塔宮は後醍醐天皇の長子。最初の討幕反乱に敗れてここにかくまわれたらしい。後醍醐天皇の最初の二人の子供は優秀だったのだけど、後が…… 阿野廉子がねえ……(いいんだよ余計な話は) 南無ー。


佐嚢の紫水晶。

これは商品写真を見て、何か心が惹かれて、ポチったもの。白い玉髄の隙間に、淡い小さなクラスターが顔を覗かせる。一種の「かぐや姫水晶」とも言えるか。
兵庫県朝来市佐嚢の神子畑(みこばた)は、かつて隣町にあった錫の優良鉱山・明延鉱山とともに非鉄金属を産出し、また後には明延鉱山の選鉱施設が建設され、規模・産出量ともに「東洋一」と謳われた。もう上ものは壊されたけど遺構はずいぶん立派なものらしい。全然知らなかったし、実は関東人なので朝来市が読めなかった。
しかし紫水晶は別に有名鉱山とは関係ないかも。

どの水晶も立派さも派手さもない。むしろ「何だよこれ」と言われそう。
でもね、その慎ましさと繊細な色が、いたく心を打つのです。
まさに路傍の小さく名もなき花のよう。
わが身と重なるのかな。(君はもう花じゃなくて枯れススキだろw)
どれもいとおしい。


三吉野鉱山産デクロワゾー石

2023-07-07 20:08:12 | 国産鉱物

けっこうレアストーン。そんなのが「国産鉱物」として出ていた。
え? そんなん出るの? しかも安い。で、ポチッとしてしまいました。福岡県遠賀郡岡垣町三吉野鉱山産とある。
で、包みを開けたら、「あれ? ないじゃん」。そこらへんに転がっていそうな石。

しかしようく目を凝らしてみると、ありますねえ、小さな赤い点々が。





デクロイザイト、デクロワザイト。Descloizite。(Pb,Zn)2(OH)VO4。バナジン酸鉱物。
オリーブ銅鉱(Olivenite Cu2(AsO4)(OH) と同形。ええ? 全然組成違うじゃん。
名前はフランスの鉱物学者デクロワゾー(Alfred Des Cloizeaux, 1817-1897)より。
鉛鉱床の酸化帯に産する。二次鉱物というか、水成鉱物ですな。

バナジン酸鉱物というのは珍しい。ウィキにはデクロワ君を含めて5つ。他の4つは、
・褐鉛鉱(バナディナイト) Pb5(VO4)3Cl
・カルノー石(カルノタイト) K2(UO2)2(VO4)2・3H2O
・東京石(トーキョーアイト) Ba2(Mn3+,Fe3+)(VO4)2(OH)(東京都白丸鉱山で発見、2003年承認)
・ウェークフィールド石(ウェークフィールダイト)(Ce,Y,La,Nd)VO4 (ネオジムウェークフィールド石 Nd(VO4)は高知県香美市物部町有瀬で2011年発見。)

これが本当にデクロイザイトなのか、科学的分析をしているわけではないので、確実には言えません。国産鉱物あるある。でもたぶんそうでしょう。
「本鉱」が肉眼ではきついというのも、国産鉱物あるある。「観賞石」ではないですわな。
ううむ。「赤矢印」の世界にはあまり踏み込みたくはないです。


法花寺の木下雲母

2023-07-05 21:09:14 | 国産鉱物

雲母の世界はカオスなので踏み入りたくなかったのですが、これはちょっと名前が縁あるものだったので購入。
ちなみに木下は古い日本の姓です。どうも京都先住民カモ氏の「木ノ下(このもと)神事」とか日吉社の「樹下(じゅげ)神事」と関係しているのではないかと妄想しているのだけどよくわからん。藤吉郎なんて謎の出自の英雄もいるし。まあ余計な話。

どどーんと重い石が到着。
薄ピンクと藍鼠色の混ざった不思議な色合い。
京都府法花寺産。土地勘がないのでわからないけど、京都というより奈良に近い感じ。浄瑠璃寺もそう遠くない。
さあてどれが木下石だ?

木下雲母、キノシタライト(Kinoshitalite)は、1973年に岩手県野田玉川鉱山で発見された日本産新鉱物。名前は九州大学の鉱物学者木下亀城から。
組成は (Ba,K)(Mg,Mn,Al)3Si2Al2O10(OH)2。
金雲母(フロゴパイト、KMg3AlSi3O10(OH)2)のカリウムがバリウムに置き換わったもの。テフロ石(Tephroite、マンガン橄欖石。Mn2SiO4)の中にあることが必須条件とのこと。

京都府レッドデータブック2015「法花寺野のマンガン鉱物」には次のようにある。
《本鉱床は堆積岩中の層状マンガン鉱床が花崗岩類の貫入により接触変成作用を受けた結果、……バラ輝石、テフロ石(マンガンかんらん石)などのマンガン珪酸塩が増加したものである。……古くからマンガン鉱山として開発されてきたが、1972年頃から採石場になっている。……主要なマンガン鉱床は千枚珪岩中の石英脈付近に見られ、……園石、アレガニー石、マンガン透輝石、マンガン角閃石、含マンガン金雲母、パイロファン石、木下石などの多種類のマンガン鉱物が認められた。……最も多量に産するバラ輝石は美しいピンク色の粗粒の結晶質塊である。……
木下石は……テフロ石あるいは園石中に径1mm、ときに1cmの淡黄色板状結晶で……金雲母に類似しているが、黄色味が強い。金雲母はバラ輝石にともなうが、木下石はテフロ石にともなう。》

やれやれ。ややこしい。基本的にはスカルン鉱物なのですね。しかしこういうふうになるともうペグマタイトとほとんど変わらん。

確かに黒っぽいテフロ石の中に、きらきらと輝く雲母らしき鉱物がある。これかあ。




たくさんあるけど写真にはなかなか写らない。
ロードナイトの中にも輝く雲母はあって、そちらは金雲母なのでしょう。
どう違うかと言われても、うーむ、わからない。黄色みが強いと言われれば確かにそうかも。
けど、藍鼠の橄欖石に抱かれて輝く雲母の光点は、なかなかゴージャスです。