「資本主義を進化させよう by デビッド・ジェームズ・ブルナー」
(東京大学政策ビジョン研究センター コラム 2010年1月6日)
このコラムは、hamachanこと濱口桂一郎さんのEU労働法政策日記帳(1月10日付)で紹介されていたものですが、一読の価値ありです。
グローバル化が進んだ現代の国際社会の重要な課題の一つに「投機的短期資金をいかにコントロールするか」があります。金融市場が(過度に)自由化されてしまった現代世界では、莫大な投機的資金がボロ儲けを求めて世界を駆け巡り、各地でバブルを発生させては破裂させ、経済・社会に深刻な影響を及ぼしています。
ポイントは、いかに「良い金融」を育てて伸ばし、「悪い金融」を抑えるか、だと言われています。「良い金融」とは、ちゃんとリスクを取って管理し、企業の活動を支援して育てる金融で、「悪い金融」とは、リスクを増幅させて他者に押しつけ、自らの利潤だけを増幅しようとする金融だと理解できるでしょうか。投機的短期資金は、典型的な「悪い金融」であるわけですね。以前のエントリーで取り上げた「トービン税」も、この投機的短期資金をコントロールすることを目指したものです。
さて、このコラムでブルナーさんは、「資本主義にはまだ可能性がある」と述べた上で、
「21世紀(これから)の資本主義は、「ナレッジエコノミー」であって、規模よりもイノベーション、工場と機械より知識と想像力が重要である」
と主張しています。これは、日本の成長戦略と、今後の教育&職業訓練制度(人づくり)のあり方にとって大事なポイントですね。さらにブルナーさんは、この変化に合わせて「経済制度も進化する必要がある」と述べつつ、
(1)企業と社会の長期的な発展を妨害する短期志向の投機家の力を抑えて、新しい産業を育てる必要があること;
(2)よりバランスの取れている企業の評価基準を導入する必要があること
を訴えています。そして特に最初の点について「短期志向の株主は企業の発展に貢献をしない」として、「投機家が企業の経営を狂わせないように......短期志向の株主と長期志向の株主を区別する必要がある」ことを強調しています。
面白いのは、その具体案ですね。「配当権と発言権を株式の保有期間につなげ」て、「株式を3年間持っていないと配当がもらえない、5年間持っていないと株主総会で投票できない」とする制度を提案しています。これって、現実的に可能なのでしょうか? 新自由主義者からは「そんなことしたら誰も投資なんかしなくなる!」と攻撃されるのでしょうね(笑)。
しかし大事なのは、いかにして「悪い金融」を排除し、ナレッジエコノミー時代に相応しい企業を育ててくれる「良い金融」を伸ばすかということですから、それで「悪い金融」が市場から退出してくれるのであれば、それはまさに望むところでしょうね。