白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

5子局&棋聖戦封じ手予想

2017年02月08日 23時59分59秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日、第41期棋聖戦第3局の1日目が行われました。
黒番の井山裕太棋聖が積極的に仕掛け、河野臨挑戦者も正面から受けて立つという展開でした。



(封じ手予想)
左下の戦いでは、黒△のハネ2つがポイントです。
「両バネ1手延び」という、格言にもある手筋で黒が攻め合い勝ちになりました。
しかし、石を取ったからといっても形勢が良くなるとは限らないのが囲碁です。
勝負はこれからでしょう。

封じ手時点での焦点は、右下の競り合いです。
黒A、もしくは黒B、白A、黒Cの切断を実現させたい所です。
そこで、封じ手はそれらを狙うための準備として、黒1を予想します。
井山棋聖がこの手を選んだかどうかは分かりませんが、いずれにしても明日は激しい戦いの予感がします。


さて、本日は5子局を題材にします。
テーマは本手です。



1図(テーマ図)
白△と打った場面です。
中央の黒に傷がありますが、どう守りますか?





2図(正解)
黒1と、素直に繋ぐのが本手です。
黒△との連携も良く、しっかりした形ができます。





3図(失敗1)
問題にすると、多くの方は前図を示されるでしょう。
しかし、実戦では黒1のようなウソ手を打ってしまう方が多いのです。
これはAとBの2つの傷が残り、本物の形ではありません。

何故黒1のような手を打ってしまうかといえば、今すぐ白Aや白Bと打つ手が成立しないからです。
しかし、ウソ手を打つと、今は大丈夫でも後で困る可能性が高いのです。





4図(失敗2)
後に、薄みを睨んで白1と踏み込んで来られました。
黒2と反撃しましたが、白3の切りが成立します。
もし黒△に石があれば、黒Aとシチョウに取って何でもありませんが・・・。





5図(失敗3)
白4の切りが入り、黒△が宙に浮いてしまいます。
置き碁の黒としては、嫌な展開でしょう。

置き碁で黒がウソ手を打つと、大抵白に咎められて痛い目に遭います。
石を置いていても酷い目に遭ってしまうという方は、自分がウソ手を打っていないかどうか、確認してみると良いでしょう。

先日の対局

2017年02月07日 23時59分59秒 | 対局
皆様こんばんは。
本日は横浜の宇宙棋院で開講されている、級位者教室の担当回でした。
当初は4、5人で始めた教室も、今では10人ぐらい増えて賑やかになって来ました。
今年は20人超え目指して頑張ります。

さて、本日は先日の対局を振り返ります。
と言っても、1か月近く前になりますが・・・。





1図(テーマ図)
松原大成六段との対局で、私の黒番です。
黒1の開きに対して渋く白2と詰め、上辺の黒にプレッシャーをかけて来ました。
ここで私は、どう打ったでしょうか?
色々な守り方が考えられますが、中央の白には黒Aから分断して攻める狙いがあり、それを消したくないと思っていました。





2図(変化図)
例えばこのように打ち方でも、上辺の黒を守る事はできます。
しかし、これで大きな黒地を確保できる訳でもありませんし、白2に石が来ると黒Aの狙いも決行し辛くなります。
これは消極的かと思いました。





3図(実戦)
そこで、実戦は黒1と工夫してみました。
間接的に上辺の黒に援軍を送りつつ、黒△と呼応して下辺の模様を広げています。
また、黒Aで左上の白地を減らす狙いも持っています。
気分だけなら、「耳赤の一手」?(レベルが全く違いますが・・・)

以前はこのようなはっきりしない手は打たなかったのですが、最近は打ちたい手を打つように心がけています。
トッププロでもない私が、勝つ事だけ考えていても仕方ありません。
個性を前面に出して行きたいと思っています。





4図(変化図)
白1と隙間を出て来ても、黒2とかわして大した事はないと判断しました。
黒△との連携も良いですし、黒Aの狙いもますます厳しくなって来ます。
黒〇は既に用済みで、取られても構いません。





5図(実戦)
実戦は黒Aを利かされる事を防いで白1でした。
ここで黒2と、外ノゾキ!
以前ご紹介した手と似ていますね。

しかし、その手を認めた訳ではありません。
この場合、既に白△によって左上はがっちり守られており、黒Bなどと入って行く余地はありません。
他の可能性が少ない以上、黒2を利かしてしまっても惜しくないと判断しました。

Masterが打った外ノゾキに関しては、張栩九段は違和感を感じていないようでしたね(週刊碁の連載参照)。
張栩九段の碁は棋士の中でも異質です。
Masterに近いと言われれば、確かにそうかもしれないと感じます。

全体としては外ノゾキに賛成しない棋士が多いと思いますし、私も同様です。
私は今の所、早い段階での外ノゾキは、「最善ではないがMasterが勝つためには有効」なのではないかと考えています。
ただ、あの手が出て来るのは47局目と57局目なので・・・語る機会は相当先になりそうですね。





6図(実戦)
黒2までと下辺の黒模様を広げ、白3の侵入を誘って黒10と反撃する作戦です。
上手く行っているかどうかは分かりませんが、この構図で勝負してみようと思いました。
この後色々あって形勢は苦しくなりましたが、最後に残ったのは幸運でした。

Master対棋士 第14局&女流棋聖戦結果

2017年02月06日 23時59分59秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
第20期ドコモ杯女流棋聖戦第3局は謝依旻女流棋聖牛栄子初段を破り、タイトルを防衛しました。
ハラハラドキドキの内容でしたが、最後に踏ん張れたのは経験の差でしょうか。
牛初段は勝利目前まで来ていましたが、残念でしたね。

なお、この対局は幽玄の間にて中継されました。
解説者としては力不足の面もありましたが、両者の溌溂とした戦いは私自身も楽しませて頂きました。

さて、本日はMasterの棋譜をご紹介します。
相手は嚴在明三段(中国)です。



1図(実戦)
Masterの黒番です。
左上黒1はお馴染みのカケですね。
そして左辺の戦いの中、黒11は手筋です。
この手で黒Aは白Bと飛ばれ、左上の黒が弱くなっていけません。





2図(実戦)
白1以下黒△の石を抜かれましたが、1子取るのに6手かけた格好ですし、欠け眼です。
形が良くないので黒が十分と見ています。
まあ、このあたりまでは驚きはありません。





3図(実戦)
しかし、黒1、3にはビックリ!
黒1と打った以上、白2には黒Aと伸びるのが自然な一手に見えます。





4図(実戦)
白1とハネられ、黒2と引くのではつらい形です。
一方白5までとなると白は好形ですから、こういう打ち方は黒が良くないとされています。

しかし、それはあくまで部分的な話という事でしょう。
先手を取って黒6と、深々と踏み込みました。
Masterの中では、ここに回る事が最優先だったのですね。





5図(実戦)
手順が進み、黒△までとなりました。
いつの間にか、明らかに黒地が多い局面になっています。
こうして見ると、中央の白もあまり働きそうにないですね。





6図(変化図)
3図黒1で、単に本図黒1と打てば白2でしょう。
4図と比べ、下辺の黒が手薄な事が感じられると思います。
この状況では、黒Aまで行くのは危険でしょう。

部分的に悪い打ち方でも、全局的には良い手になる事もあります。
それを示す好例でしたね。

全局的な判断というのは、人間の苦手な部分です。
部分的な石の形のパターンはある程度限られており、経験的に判断する事ができます。
しかし、同じ局面というのは中々現れませんから、経験として蓄積する事が難しいのです。
何千万局、何億局と経験できるAIには、とても敵わない部分ですね。

明日は女流棋聖戦&先日のポカ

2017年02月05日 23時59分59秒 | 対局
皆様こんばんは。
明日は第20期ドコモ杯女流棋聖戦、最終第3局が行われます。
女流囲碁界の第一人者、謝依旻女流棋聖と新星・牛栄子初段の戦い、最後に笑うのはどちらでしょうか?
明日2/5(月)10時30分頃対局開始です。
幽玄の間で中継されますので、ぜひご覧ください。
なお、幽玄の間解説は私が担当します。

時々幽玄の間での解説を担当する事がありますが、今までは日本棋院の棋士控室で行って来ました。
近くに棋士がいれば、意見を聞く事ができるからです。
しかし、最近ようやく分かって来た事があります。
それは、早碁はスピードが何より大事という事です。

1手30秒の早碁では、局面はどんどん進みます。
じっくり考えていては、図が全く出せなくなってしまいます。
いかに素早く多くの図を出して行くか、スピード勝負なのです。

そのスピードを実現するためには、何を置いても入力速度です。
そこで、今回は使い慣れた自宅のパソコンを使って解説したいと思います。
前回よりレベルの高い解説ができるよう、頑張ります。

そんな訳で、本日は明日に備えて早く寝なければいけません。
今回は手抜き短い内容になります。



1図(テーマ図)
先日の鈴木嘉倫七段との対局です。
白△と打たれた所ですが、次に黒A、白B、黒Cと打ってほぼ終わりです。
悪くても黒1目半、最後の手止まりを打てれば2目半勝てる碁です。

しかし、勝ちを目前にすると心に隙ができるものです。
ここで迷わず打ってれば良いものを、「本当に勝っているのか?」「本当にその手順で良いのか?」などと疑心暗鬼が生まれました。
秒読み時計の50秒の音声を聞きながら、つい確かめる時間が欲しくなってしまいました。





2図(実戦)
実戦は、時間繋ぎのつもりで黒1へ打ちました。
しかし、自分の打った手を見て愕然。
一体、どこに打っているのか!?

この瞬間、時間が止まったように感じました。
自分も、相手も、近くで観戦していた棋士も・・・。

人間はポカをするものです。
棋士でも当たりをうっかりするなどの初歩的なミスを犯す事がありますが、それはある程度理解できます。
しかし、この手は一体何でしょうか?
プロは着手を決める際、まず石の形で判断しますが、黒1のような手は思い付かないのです。
従って間違えようがない所で、当たりをうっかりするよりもあり得ないミスなのです。

あえて理屈を付けるとすれば、頭の中で白△の石がAにずれてしまった可能性が考えられます。
人間の脳は複雑で、何が起きてもおかしくないという事でしょうか・・・。





3図(実戦)
当然ながら白1と繋がれ、黒石が当たりになります。
先手を取って白3、5のヨセに回られてしまいました。





4図(実戦)
時間繋ぎであればせめて黒1に打つ所で、白2の受けとなります。
それから黒3、5のヨセに回っていれば問題ありません。
2図は黒3で△に打った図と同じであり、これは明らかなパスです。
2目損の結果になり、顔面蒼白に・・・。

しかし、結果は黒半目勝ちでした。
元々2目半勝てる碁だったのです。
棋士人生始まって以来の酷いポカでしたが、運が良かったですね。

プロでもこんなポカをするのですから、アマの皆様はどんなポカをしても恥ずかしくありません。
大きなポカで碁を落としても、落ち込む必要は無いのです。

Master対棋士 第13局

2017年02月04日 23時59分59秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
4日連続でMasterの棋譜紹介をします。
どうも最近は余裕が無くていけませんね。



1図(実戦)
黒は王昊洋六段(中国)です。
白1から5の押さえ込みはMaster得意の打ち方ですね。
きつい手ですが、この場合は違和感がありません。
第4局とは違って黒Aなどに石が無く、白は目一杯に戦っても良い状況と感じます。





2図(実戦)
この碁で最も印象的だったのは、黒1に対する白2です。
この手では白A~Cのいずれかがよく打たれるのですが、白2は見た事がありません。
一見すると黒1に対して響かない手なのですが、次に白Dなどから中央を広げる手を見ているのでしょう。
部分より大局を重視した打ち方だと思います。





3図(実戦)
黒1から下辺に踏み込みました。
あまり見ない打ち方ですが、下辺を荒らす事が大きいと見た実戦的な作戦です。
しかし、ここで白6と動いたのは、いかにもタイミングが良さそうに見えました。





4図(実戦)
左下隅を捨て石にして、外側に白石を増やしました。
そして白1、3の手筋で、黒を閉じ込めにかかります。





5図(実戦)
下辺を先手で止め、白△に回りました。
中央の白模様が大きく、黒△も立ち枯れです。
また、こうなってみると、黒〇も何だか変な所にある印象です。
どうやら白に打ち回されてしまったようです。





6図(実戦)
黒1と2線を渡りましたが、白2から圧迫して十分と見ています。
そして、特筆すべきは白10です。
この手は周辺の薄みを守ったものですが、あまりにも堅過ぎるように見えます。
恐らく、このぐらいで十分勝てるという、店仕舞いの打ち方でしょう。





7図(実戦)
黒1に対して、白2から地を稼ぎに行ったのも、私には気が付かない手です。
中央の白模様が消えるので、損をしているように見えます。
しかし、中央を囲いに行くよりも、この方がミスが出難いと見ているのでしょうね。
事実これで白が優勢であり、50手後には黒が投了に追い込まれる事になりました。

一般的に棋士は地にからい傾向が強く、ぼんやりした手は「甘い」「ぬるい」などと敬遠されがちです。
しかし、Masterはそういった手で棋士に勝っている現実があります。
今後、棋士の常識も変わって行くかもしれませんね。