白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

Master対棋士 第15局

2017年02月13日 23時59分59秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
最近、雑誌「囲碁研究」誌上で連載を持っています。
11月~2月までの「配石を生かす布石の方向」講座が終わり、3月からは新たに「半年で強くなる
囲碁上達の絶対法則
」講座が始まります。
構成担当の永代和盛とは20年近い付き合いでして、お互いに言いたいことを言いながら作っています(笑)。
良い講座になると思いますので、ぜひ囲碁研究をご購読ください。

さて、本日はMasterと朴廷桓九段の対局をご紹介します。
朴廷桓九段は、韓国ナンバーワンの棋士です。
前回まではおそらく様子見でしたが、この第15局から人間側のレベルが急激に上がります。
世界のトップ棋士が、寄ってたかってMasterの首を取りに行く構図です。



1図(実戦)
朴九段の黒番です。
ここまで、第2局と同一の進行です。
という事は・・・。





2図(実戦)
やっぱり出ました、白1の肩ツキ!
第2局とは違い、朴九段は黒2の這いを選びましたが、同じように白3と飛びました。
黒4に対して白5が、白1と関連する手筋です。
よくある手筋ですが、プロの碁ではこんなに早い段階で見られる事は稀です。





3図(変化図)
黒1、3と分断したくなりますが、白4の二段バネがまた手筋で、隅に食い込みながら治まってしまう狙いです。
黒A、白B、黒Cに対しては白Dの切りがあり、黒2子を切り離す事ができます。
白△が働いていますね。





4図(実戦)
そこで黒1と受けるぐらいですが、白2と全体を繋げて軽やかな打ち回しです。
黒3と大場に先行されましたが、白4から8とさらに手をかけ、しっかりとした形を作りました。
一見すると白の足が遅いようですが、黒△が弱くなったため・・・。





5図(実戦)
黒1と一本切りましたが、黒3の守りが必要になりました。
そして白4のコスミツケから6の詰めが絶好点、黒△の腰高を咎めて根拠を脅かしています。
こうなってみると、決して白が遅れていない事が分かります。

ポイントは左上の黒です。
この黒が内側に籠った形になっており、今後戦いなどに役立つ可能性が低いのです。
Masterはこの点を重視しているのでしょう。





6図(実戦)
黒1、5は意欲的な作戦です。
左辺を最大限に盛り上げ、白の動きを催促しました。
勿論、白Aのシチョウが成立しない事を見越しています。





7図(変化図)
黒は白1の動き出しを待っているのでしょう。
黒6までとなると左辺の白が攻撃目標になりますし、上辺の白も薄くなってきます。
黒Aが厳しい狙いです。





8図(実戦)
しかし、実戦は何と白1の肩ツキから白3!
何とも軽やかな打ち方で、Masterの真骨頂といった印象です。
黒石の多い所では無理をしないという打ち方は理に適っていますし、また筋も良いです。
黒Aには白Bと出られて困るからです。
以下黒C、白D、黒E、白Fとなって、左辺がボロボロになってしまいます。





9図(実戦)
そこで黒1と方向転換しましたが、ここで白2と打った手も柔軟です。
白△の石には拘らず、左右の黒を大きく分断しようというのです。





10図(実戦)
その後、黒は左辺を連絡しましたが、できた黒地は全部で20目程度です。
黒△を切り離した上、白△の絶好点にも回っては、明らかに白が打ち回しました。
白優勢でしょう。
最後は黒時間切れ負けでしたが、既に勝機は無くなっていました。

第16局、17局は連笑七段、第18、19局は柯潔九段、第20局は朴廷桓九段・・・というように、今後登場する棋士の大半は世界のトップクラスです。
人間側も様々な工夫を凝らして対抗しましたが、結果はご存知の通りです。

指導碁活用法

2017年02月12日 23時59分59秒 | 仕事・指導碁・講座
皆様こんばんは。
本日はアマの皆様が指導碁を受ける事によって、何故上達に結び付くのか?
また、どういう所に気を付けると良いのか?
といった事についてお話ししたいと思います。



1図(テーマ図)
実際の指導対局を使ってご説明しましょう。
9子局で黒番ですが、次にどのあたりに打ちますか?
碁盤の右半分に絞ってお考えください。





2図(実戦)
実戦は黒1でした。
この手は黒△が弱いので、補強するために打たれた手です。
他にもA~Cなどありますが、大体同じ点数と言って良いでしょう。
これを、例えば2桁級の方が打たれたのであれば、文句無しに合格です。

この手は重要な2つの考え方のうち、1つを実現できているので50点です。
しかし、黒の方は初、二段であり、50点で満足していては先へ進めないのです。





3図(正解)
白△は弱い石なので、この石を攻めながら右辺星の黒を補強する、黒1が正解です。
具体的な位置は黒1に限りませんが、白を攻めるという発想を持つ事が大切です。

実はこの黒の方、白△は厚みだと思っていました。
しかし、著書でも書きましたが、高い位置に石があるからといって厚みとは限りません。
この白は眼が無く、しかも包囲されると死ぬ可能性が出て来ますから、弱い石なのです。
指摘するとすぐに納得して頂けましたが、こういう思い込みというのは、中々自分では気付けないものです。

碁が強くなるには、結局の所自分で努力して頂くよりありません。
しかし、間違った努力をしていると、いくら時間をかけても伸びないという事も起こり得ます。
そうならないために、気付きの機会を提供するのが、我々の指導碁における役割だと思っています。





4図(変化図)
右辺に割って入られても、黒△が立派に守りの役目を果たしていますから、恐れる事はありません。
一例として黒6までとなると、右上の白は命の心配をしなければならなくなります。





5図(変化図)
死なないよう、白1、3のように頭を下げてくれれば万々歳です。
白が2線を這っている間に、外側の黒がどんどん固まって行きます。
黒△も輝きを失っておらず、下辺一帯の黒模様が巨大になった事が感じられると思います。
2図と比べてみてください。

今自分に足りないのはどんな所なのか、それを正しく知る事で上達のスピードは飛躍的に上がります。
伸び悩んでいる方は、そこを確認して頂くと良いでしょう。

今週の対局・その3

2017年02月11日 23時59分59秒 | 対局
皆様こんばんは。
本日は武蔵小杉の永代塾囲碁サロンにて指導碁を行いました。
お越し頂いた方々、ありがとうございました。

さて、本日は昨日の続きです。
手所ばかりなので、難解な内容かもしれません。
プロがどういう凌ぎ方をするのか、雰囲気を感じ取って頂ければ十分です。



1図(テーマ図)
私が白番でどこに打ったかという問題でしたね。
白AかBは後で選ぶべきと判断しました。
という訳で、先に下辺の薄みを衝く事にしましたが・・・。





2図(変化図1)
まず「ケイマにツケ越し」の白1、3が目に付きます。
しかし、黒4となると下辺に弱点が残りません。
白Aの狙いはありますが、自分にもBと出られる弱点があります。
あまり上手く行きそうにないと判断しました。





3図(変化図2)
昨日も出て来た、白1、3も狙い筋です。
白5の後、黒Aに白Bで居直る作戦ですが、難解です。
黒2では他の応手も考えられますし、これで行けるという確信が持てず、廃案にしました。





4図(実戦)
実戦は白1のツケから3の二段バネでした。
白3でAと引くのでは、黒3と受けられて下辺に何も残りません。
二段バネによって、下辺に傷を残す狙いです。





5図(実戦)
黒1、3を待って、白4のハネ、白6のツケコシを決行しました。
△の3か所に傷を作った事がポイントです。
これらの傷を利用して、凌ぎを図る作戦です。





6図(実戦)
黒1は△の弱点に対処したものですが、これを待って白2と、上部の弱点を衝くタイミングです。
次に黒Aと切ると、白Bで両当たりですから・・・。





7図(実戦)
黒1と切りましたが、白2と繋ぎ、段々形ができてきました。
次に黒Aと打ちたい所ですが・・・。





8図(変化図3)
黒1には白2から団子にして、白6と出れば逆に黒が取られます。





9図(実戦)
そこで止むを得ず黒1と当てましたが、白2、4と石が外回りになり、凌ぎが見えて来ました。
ただし、A~Cなど狙われていて、全部助けられるかどうか?
頑張り切れるなら勝負を決められますが、全部取られるリスクもあります。
既に時間を使い果たし、残り1分で決断しなければいけません。





10図(実戦)
実戦は尻尾を捨てて脱出しました。
黒6と切らせましたが、白も黒△を切り離せたので、中央に白地ができそうです。
収支は明らかに白が儲けており、これで優勢という判断には間違いないでしょう。

しかし、残念ながらここから勝ち切る事はできませんでした。
この直後に出た酷い悪手を皮切りに、延々と悪手を打ち続けたのです。
悪手が悪手を呼ぶとはよく言いますが、その典型でした。
勝負に勝つには、安定した精神も必要なのです。

今週の対局・その2

2017年02月10日 23時59分59秒 | 対局
皆様こんばんは。
明日は午後1時から、武蔵小杉の永代塾囲碁サロンにて指導碁を行います。
ご都合の良い方は、ぜひお越しください。
棋譜をその場でお渡しするサービスも行っています。

さて、本日は昨日の続きです。
面白い手所が生じたので、ご紹介しましょう。



1図(テーマ図)
白△と下がって、黒に手を渡した場面です。
この手によって左上を確定地にしつつ、ここを強化する事によって下辺の白大石に援軍を送っています。
また、左下の黒模様に侵入する際の足掛かりにもなります。

さて、このまま放置すると、左下の黒模様をガラガラに荒らされてしまうでしょう。
黒は何か守るべきですが、黒Aのような手なら白BやCから削って白十分です。
できれば黒地を広げつつ守りたい所です。
どう来るかと思っていたら・・・。





2図(実戦)
黒1と、目一杯に広げられたのは予想外でした。
形勢がやや苦しいと判断したようで、必死の頑張りです。
これで頑張り切られると、前図とはコミ分ぐらい違って来そうです。
すると形勢ははっきり黒良しになりますから、白2から手にするしかありません。
お互いに必死の読み合いが始まりました。





3図(変化図)
黒1と押さえて来れば、白2からコウの形で粘る予定です。
相手の地模様の中でとりあえずコウを作るというのは、よくあるテクニックです。
白4の後黒Aと取ってコウですが、仮に負けても構いません、
コウ立てで他に2手打てれば、十分採算は合います。





4図(続・変化図)
黒は途中で一手一手コウを取りますが、その過程は本図では省略しています。
ともかくこの部分に関しては、白8までとなっては、とても白を丸取りする事はできません。
白AやBを見られています。





5図(実戦)
ですから、黒は違う方法で来るだろうと思っていました。
しかし、長考の後に選んで来た黒1、3は想定外。
自分の石を裂かれ形にする危険な手に見えますが、強引に白の眼形を奪っています。





6図(変化図)
ここで、白1と繋ぐような手は考えませんでした。
黒石ばかりの場所で、あまりにも策の無い打ち方です。
一生懸命眼を作るのではなく、黒の弱点を衝かなければ凌ぎの道は見えません。





7図(白の選択)
ここで私も長考。
残り1時間近くあった持ち時間を、全て使い切る覚悟で読みに没頭しました。
時間を節約しても、ここで負けが決まってしまっては意味がありません。

白AやBで黒△を狙う手、白C~Eと、黒〇の連携の薄さを衝く手が考えられます。
これらを組み合わせて、どう手にするかを考えなければいけません。
私はどう打ったでしょうか?
初手は白A~Eのどれかですから、勘でも当たるかもしれません(笑)。

続きは次回です。
ただ負けて終わりではつらいですから、ブログのネタとして有効活用します。
転んでもただでは起きない精神は、勝負の世界で生きる者には重要です。

棋聖戦結果&本日の手合

2017年02月09日 20時36分44秒 | 対局
皆様こんばんは。
本日は第41期棋聖戦第3局の2日目が行われました。
封じ手予想は、見事に外れましたね。
封じ手は一見すると俗筋であり、考えもしませんでした。
棋聖戦の対局者は、あらゆる手を読まなければいけないのですね。

結果は井山裕太棋聖の黒番1目半勝ちとなりました。
途中は河野臨挑戦者の形勢が良かったようですから、残念な敗戦でしたね。

本日は私も手合がありました。
結果は堀本満成四段に敗れ、連勝ストップとなりました。
途中で明らかに形勢で良くなったのですが、時間に追われてボロボロに・・・。
このあたりが私のダメな所ですね。



1図(テーマ図)
私の白番です。
長考して白1と割り込みました。
主に考えていた事は・・・。





2図(変化図)
黒1、3に白4と切ってどうなるか、という事です。





3図(変化図)
黒1~7まで必然です。
特に黒5は、攻め合いの手数を延ばす手筋です。
5子同士の攻め合いですが、このままでは白が勝てないので・・・。





4図(変化図)
まず白1、3と、手数を延ばす工作をします。
黒は外側を受けていると攻め合いに負けるので、黒4などとダメを詰めに行かなければいけません。
そこで白5から、黒の傷を追及して・・・。





5図(変化図)
こうなればコウ争いで、これは白良しか・・・。
あるいはどこかで白Aから手数を延ばし、隅との攻め合いに勝ちに行くコースか・・・。

などなど、無駄に色々な図を考えてしまいました。
2図以降は直感的に黒が無理であり、選んで来る筈が無かったのですが・・・。





6図(実戦)
何故か、黒2、4とあっさり対応して来る事を考えていませんでした。
当然の手なのですが・・・。





7図(実戦)
白5までと平和に分かれました。
隅の白地は大きいですが、黒Aの嫌味が残っており、形勢は良い勝負です。
ノータイムで打てる所で、時間を無駄にしてしまいました。
今思えば、ここでの時間の浪費が後の悲劇に繋がっています。

プロ同士の対局では、3時間の持ち時間は油断するとすぐ無くなります。
時間も勝負のうちなのです。