白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

指導碁の意義

2017年07月26日 23時29分57秒 | 囲碁について(文章中心)
皆様こんばんは。
第41回高校選手権個人戦は、男子の部が栗田佳樹さん(港北・神奈川)、女子の部は岩井温子さん(洛北・京都)がそれぞれ優勝しました。
おめでとうございます。
両者共に安定感のある内容で、実力の高さを感じました。

さて、本日私は有楽町囲碁センターで指導碁を行いました。
お越し頂いた方々、ありがとうございました。
今回はいつもと趣向を変えて、指導碁の意義についてお話ししましょう。
過去にも似たようなことをお話ししている気もしますが、重要なことなので・・・。

指導碁は、基本的には文字通り指導を目的としています。
ですから、単に自分より強い人に打って貰うだけなら指導碁とは呼べません。
対局を通して、その人が上達するために役立つ、適切なアドバイスを差し上げなければいけません。
局後の手直しの時間は対局時間に比べれば非常に短いですが、この時間が非常に重要なのです。

手直しはプロ同士の局後検討とは全く違うものです。
例えばプロ同士であれば、ある場面で勝つためにはどうすれば良かったか、といったことを議論することはよくあります。
しかし、手直しにおいては、敗着探しや勝ち筋探しにはあまり意味がありません。
同じ局面は二度と現れないからです。

では何を重視するかといえば、それはその人の進むべき道を示して差し上げることです。
実際に対局することにより、指導者は生徒さんがどういう分野が得意で、どういう分野が苦手なのかを知ることができます。
その上で、生徒さんが何をすれば強くなれるのかをお伝えするのです。

例えば、指導碁で大きなミスを10回した方がいらっしゃったとします。
それらを1つ1つ指摘して、正しい打ち方を示したとしても、そこで終わってしまっては意味がありません。
どうしてミスしてしまうのか、またどうすればミスしなくなるのかをお伝えする方が遥かに重要です。

ほとんどの方には、ミスのパターンがあります。
10回ミスをする方も、そのうち5回ぐらいは同じパターンのミスだったりします。
具体的に例を挙げれば、「石の強弱を意識していない」「相手の地にヤキモチを焼く」などがありますね。
ということは、そこを改善することができれば、1局に出るミスの数を大きく減らすことも可能です。
そのために対局の際の考え方や、あるいは基礎力の向上が必要であれば何をやれば良いのか、といったことをお伝えします。

棋力は指導者が引っ張り上げられるものではなく、結局は本人の意識や努力次第です。
しかし、正しい努力や、正しい碁の考え方をするかどうかで、上達スピードは何倍も変わってきます。
指導碁を受ける際にはそういったことも意識して頂くと、より効果が得やすくなるでしょう。

碁聖戦結果&高校選手権・団体戦

2017年07月25日 20時13分31秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
今日は行きつけの居酒屋さんがランチ営業を始めたとのことで、早速お邪魔して来ました。
看板メニューの海鮮丼680円を頂き、大満足です。
こういう時は写真を載せるものでしょうが・・・半分ぐらい食べてから気付きました。
大岡山駅東口を出て目の前の「ちか松」、おすすめです。

ちなみに、ここのマスターとは碁会所で知り合いましたが、後に同じ中学校の出身だと発覚。
1学年100人ちょっとの小さな学校なのですが、縁というのはあるものです。
私が囲碁をやっていて良かったことは何かと問われれば、まず最初に「人との縁」を挙げたいですね。


さて、本日は囲碁界ニュースです。
まず、第42期碁聖戦第3局は井山裕太碁聖が勝ち、6連覇を決めました。
山下敬吾九段という恐るべき相手を挑戦者に迎えながら、ほとんど付け入る隙を与えなかったと思います。
井山碁聖の強さ、充実を示したシリーズでした。

また、第41回高校選手権は、男子団体が春日部高等学校(埼玉)対洛南高等学校(京都)、女子団体が白百合学園高等学校(東京)対栃木女子高等学校(栃木)の決勝戦となりました。
それぞれの主将戦は幽玄の間で中継されましたが、その中で私の印象に残った場面をご紹介しましょう。



1図(春日部-洛南主将戦1)
洛南主将の今分選手、白△と凄い所にツケ!
右辺を睨んだ手なのでしょうが、気迫を感じる一手です。
善悪は別として、こういう手は見ていて楽しいですね。





2図(春日部-洛南主将戦2)
今分選手が積極的に動き回っている印象ですが、林選手も離されずついて行っています。
そして白△と切った場面ですが、ここは白にとっても怖い場面だったでしょうね。
黒Aの大コウを狙って行ったらどうなるのか、見てみたかった気もします。

結果は白の逃げ切りとなりましたが、そこは団体戦です。
副将と三将が勝ち、春日部高等学校の優勝となりました。





3図(白百合-栃木女子主将戦1)
女子の方も、男子に負けず劣らず、素晴らしい気合を見せていましたね。
黒△にはビックリです。
普通なら黒Aなどで捨てることを考えますが、塊を全て担ぎ出しました。
白百合の水口選手、一歩も譲らないという気迫を見せています。





4図(白百合-栃木女子主将戦2)
白1、3と攻められていかにも苦しそうですが、堂々と逃げ出して何も困りませんよ、と主張しています。
この気迫が栃木女子の毛塚選手にプレッシャーを与えたのでしょうか?
右下の戦いでミスが出て、分からなくなって行きましたね。
最後は黒が接戦を半目勝ちで制し、チームも3勝となって白百合学園の優勝となりました。

私は高校まで毎回全国大会に出場していましたが、団体戦に出られる選手をいつも羨ましく思っていました。
結果に満足している選手もいれば悔しい思いをした選手もいるでしょうが、きっと良い思い出になるでしょう。

マネ碁再び

2017年07月24日 23時59分59秒 | AI囲碁全般
皆様こんばんは。
本日、第41回文部科学大臣杯全国高校囲碁選手権大会開幕しました。
例年通りなら、決勝戦は幽玄の間でも中継があるでしょう。
良い戦いを期待しています。

さて、本日は幽玄の間で行われている、DeepZenGoと若手棋士の対局をご紹介します。
対局者は芝野虎丸三段(白番)です。



1図(テーマ図)
出ました、マネ碁です!
以前ご紹介した碁と全く同じですね。
となれば、やはり次の黒の一手は・・・。





2図(実戦)
黒1の天元打ち!
これ以上なく分かり易いマネ碁封じをして来ました。
白2に通常の黒Aではなく黒3を選んだのも、マネ碁封じの一環でしょうか?
白4に黒5と挟み、完全にマネ碁を離れました。

ただ、黒1に打ってしまった手が黒の負担になるであろうということは、以前お話しした通りです。
前回はそれでも勝ってしまいましたが、果たして今回は?





3図(実戦)
白1に黒2から出切り、戦いになりました。
この時黒△の位置が何とも言えませんね。
ちょっと遠すぎますが、黒の援軍になっていることは間違いありません。
これはこれで良い勝負でしょうか。

この後右下が複雑な形になりましたが、明らかにDeepZenGoは正しく読めていませんでしたね。
それが原因と思われる自滅の道を突き進み、結果は白中押し勝ちとなりました。
結局、この段階での天元打ちのハンデがどれほどなのかは、よく分からないままでした。

ところで、天元打ちと言えば有名な一局があります。





4図(安井算哲-本因坊道策)
二世安井算哲(渋川春海)が本因坊道策に初手天元で挑んだ対局です。
しかし、天元の石が働かない展開に導かれ、黒完敗でした。
天元打ちは高い技量が必要とされるだけでなく、作戦の幅が狭くなってしまう点も成功率が低い原因ですね。

ちなみに、渋川春海は天地明察の主人公ですが・・・。
史実においては、道策のライバルとは言い難いですね。

書評・第7回 名人

2017年07月23日 23時59分59秒 | 書評
皆様こんばんは。
本日は横浜の宇宙棋院で行われた、女流親善囲碁大会で指導碁を行いました。
大会には大勢参加されていましたが、全体的に和やかな雰囲気でしたね。
私も楽しく対局させて頂きました。

さて、本日は囲碁史に残る名作、「名人」をご紹介します。
本書は文豪・川端康成氏による「名人引退碁」の観戦記をまとめたものです。
「名人引退碁」は家元制での最後の名人、本因坊であった本因坊秀哉名人の最後の勝負碁でした。
対局相手を務めたのは木谷実七段ですが、本書では何故か大竹七段とされています。
木谷七段が自分の名を残すことに、複雑な想いがあったのでしょうか。

本書には碁の解説はほとんどありません。
まさしく観戦記であり、両者の息遣い、交わした言葉などといった、対局の雰囲気を伝えることに専念しているように思えます。
読者は実際に盤際で観戦しているかのような錯覚を覚えるでしょう。

この対局はタイトルを争うようなものではありません。
しかし、旧時代の覇者が新時代の開拓者に道を譲るための一局であり、重要な儀式でした。
この対局に懸ける両者の想いも特別であり、本書ではそれがひしひしと伝わってきます。

なお、この時名人は65歳、木谷七段は30歳でした。
しかも木谷七段がコミ無しの黒です。
手合割通りとはいえ、木谷七段の有利は明らかですね。
私が儀式と表現する意味もご理解頂けるでしょう。

「5目でございますか。」
「ええ、5目・・・・・・・。」
この余韻のある終局シーンは印象的ですね。
一つの歴史が終わりを告げた瞬間でした。

名人引退碁という唯一の対局で、川端康成氏が観戦記を執筆されたのは囲碁界にとって素晴らしいことでしたね。
囲碁ファンなら一度は読んでおきたい作品です。

Master対棋士 第51局

2017年07月22日 21時59分15秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
本日はMasterと周俊勲九段の対局をご紹介します。
周九段は、台湾のプロ組織所属の棋士としては唯一の世界チャンピオン経験者です。



1図(テーマ図)
周九段の黒番です。
黒11までの異様な進行・・・これは明らかにマネ碁です。
マネ碁については、以前も触れましたね。
黒番のマネ碁としては、有名な1局があります。





2図(実戦)
呉清源三段木谷実四段に黒番で挑んだ1局です(段位は当時)。
来日間もない呉三段も木谷四段の力量は知っていて、どうやって勝つかを考えた結果マネ碁を採用したそうです。
これはコミ無しの碁であり、真似をし続ければ天元の石の分だけ黒が有利という訳ですね。

マネ碁は卑怯な戦法とみられており、対局中にも批判の声は多かったようです。
そのためかどうかは分かりませんが、呉三段が途中でマネ碁をやめ、結果は木谷四段の白番3目勝ちとなりました。





3図(実戦)
さて、実戦に戻りましょう。
同じマネ碁とはいえ、本局は黒がコミ6目半を出さなければならないので、黒△の石にそれ以上の価値が無ければ勝てません。

しかし、白1、黒2となった場面を見てみましょう。
黒△の石は地や模様を作る役に立っておらず、戦いに参加しそうもありません。
白が展開を巧妙にコントロールし、黒△の価値を下げて優位を確立しています。
この後白Aの利かしに対し、マネ碁を止めて黒Bと反撃したのは、無理を承知の勝負手ですが・・・。





4図(実戦)
結果は黒がばらばらになり、かえって差が開くことになりました。

51局目ともなると、Masterの強さは分かっており、本局は実験のために打たれたと考えられます。
恐らく、周九段は白番でマネ碁をする予定だったのではないかと思います。
結果は黒番になりましたが、それはそれで面白いと思ってマネ碁に踏み切ったのではないでしょうか(笑)。

コミのある碁での黒番マネ碁が不利であることは、全棋士が認識しています。
勝てないのは分かっていて、Masterがどう対応して来るかを見たかったのでしょうね。
見せたかった、と言っても良いかもしれません。
本局は対AIならでは対局でした。